俺が、悪い。
 

 だが、自堕落な生活を送る彼らが何故ここまで真剣になるのだろう?

 確かにトータルで店の売上向上に繋がれば自分の収入もアップするかもしれない。
 しかし、それは微々たるものだろう。

 そんな瑣末な理由ではなさそうだ。


 おそらく、みんな麻雀の“尊厳”を守りたいのだ。

 私もこの世界に入って薄々気付き始めたが、どうやら麻雀は神聖なゲームであるべきだ。
 誰であろうと、牌を冒涜するような行為は許されない……。


 それと、メンバー業としての“誇り”。

 将来性も保険もない仕事だが、麻雀だけは綺麗に打とうというのだろう。
 一人の打ち手として紳士に振る舞い、お客に気持ち良く遊んでもらえるよう卓回しを行う。

 この辺の意識は全員が共通している。

 吹き溜まりの中にある唯一の矜持、か。


 俺も出来たらそんなメンバーになりたい……。
 まずは、明日、頭を下げて謝ろう。



 翌朝、私は緊張しながら出勤をした。

 店に着いて時計を見ると、いつもより30分も早く着いていた。
 早番はまだ誰も来ていない。


 (何と言って謝ろうか……。それに、まだ怒っているかもしれない……)


 どことなく居場所がなく、珈琲を飲みながら気を揉んでいると夜番の元銀行員・反町が話しかけて来てくれた。


「あれ、今日はまた一段と早いね。どうかした?」

「いえ、ちょっと。関根さんに話があって……」


 反町の態度はいつもと変わらない。どうやら事の顛末は早番から聞いていないようだ。


「あの、主任や関根さんたち、怒っていませんでしたか?」

「いや、俺が交代した時はそんな事はなかったよ」


 反町が私の顎の絆創膏を一瞥し、それには触れずに答えた。


 まだ、来ないのか……。
 時計の針を見ると9時50分。あと10分で始業なので、そろそろ来るだろう。

 一分一秒が長く感じる。
 私は冷えきった珈琲をごくりと飲み干した。


 卓に入ろうとするも空きはなく、遂に10時を迎えてしまった。
 まだ、来ない。


 そしてそのまま11時が過ぎ、12時を迎えた。
 居残り残業の反町がレジに座りながら大きなあくびをしている。


 まさか、私に腹を立てて仕事をボイコットしたのでは……。

「あの、反町さん本当に何も聞いていませんか?」


 そう言いかけた瞬間に店の扉がバーンと空き、男が三人倒れるように入ってきた。



 安岡主任、佐々木、そして関根さん。


「昨日はすみませんでした!」


 そう言って駆け寄ったが、どうも三人の様子がおかしい。
 全員が苦悶の表情を浮かべながらフラフラしているではないか。


 二日酔い……?
 それで二時間も遅れたのか?

 反町が広げていた新聞をたたみ、三人に声をかける。


「ようやく来たか。飲み過ぎですよ。俺、二時間残業したから、夜は二時間遅刻して来ますからね」

 そう言って、私にウィンクをして帰っていった。
 

 私は自分から謝ると決めていたので、まず関根のところへ向かった。


「関根さん、これからは一切無駄口を利かないので……」


 関根が私の台詞を手を振って遮る。 

「吉田君、今それどころじゃないから」

「え?」

 私としてはずいぶん悩み、神妙な気持ちで謝罪しているのだが……。


「そういうのよりも、今は二日酔いが……」

 そう言ってトイレに駆け込む関根。
 私は佐々木の様子を伺った。


「センパイ、あの……」

「お前、空気読めよ。ちょっと、今、すごく大変なんだ。後で俺が適当に関根さんに謝っておくからよ」

 そういってヘバってしまった佐々木。
 主任の安岡に至ってはバックヤードで倒れこんでいる。


 肩すかしを食らった私は思わず唖然とした。
 いったい何時まで飲んでいたのか。

 彼らが潰れてしまったら一番若い私一人で仕事をすることになる。
 昨日、あれほど熱く語っていた仕事への意識は何だったのか。


「しょーもない人たちだな……」


 私は一人で笑い、この吹き溜まりの先輩達に初めて愛着のような感情を抱いた。





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*当物語はフィクションです