世間一般から見れば、私は場末の雀荘で下働きをしているだけだ。
 今のように「フリーター」という言葉がまだ無かったので、肩身の狭い立場ということになる。


 しかし、旧友の言葉は私の中にあった“劣等感”を“覚悟“”へと変化させた。

 麻雀をやって認められるためには人一倍勤勉に働かなくてはならない。
 そして、この道を選んだからには卓上で一歩も退くまい……。

 
 この覚悟のおかげで、私は仕事面でも先輩たちに認められるようになっていった。
 やはり働くのならば思いきり頑張った方が気持ち良い。

 麻雀に関しても同じだ。
 いや、同等以上と言えるだろう。

 私の牌に対する想いはますます濃くなり、深みへとハマって行った。
 

 ある日、私と打ちたいと言う一人の客がフラリとやって来た。
 アラキ、と名乗る表情の少ない男で、私の噂を聞いてきたらしい。

 私は近隣の麻雀業界ではちょっとした存在になっていたので、対戦を求める客がよく来ていた。
 アマチュアの腕試し、同業の者、そして本職の者。


 アラキが先に卓に着き、私は後ろで観戦をしていた。
 最初の半荘のオーラス、親番の手牌だ。

[親番 5巡目 ドラ 三筒 ]


一萬一萬六萬七萬二筒三索五索赤六索六索六索七索八索九索   ツモ  七筒


 早いイーシャンテンの手である。
 何を切るかな……?


 私は目を細めてこれから対戦する男の選択を待った。
 するとアラキはノータイムで 一萬 を抜いた。


 なるほど……。


 カン 四索 がダイレクトに埋まるケースは少ない。
 それよりも567の三色と、ドラの受け入れを残した懐の深い打ち方だ。

 仮に裏目の 四索 を引いても楽しみは残る。

 実戦では 三筒六筒八筒 といった牌がくっ付いた方がアガリは多いだろう。


 するとアラキはすぐにドラを引き入れ、流れるようなツモで鮮やかにアガリを決めた。



 五萬六萬七萬二筒三筒五索赤六索六索六索七索七索八索九索   リーチ ツモ  一筒



 
ちますか――」



 こういった瞬間が一番たまらない。
 ひりひりとした恐怖感、自分でも抑えきれない興奮。

 
 私は静かに対面の席に腰を下ろした。










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*当物語はフィクションです