その男はゲン、と名乗った。
 本名は知らないが、客は“ゲンさん”や“ゲン爺”なんて呼び方をしていた。


 皺くちゃの顔に骨と皮だけ残ったのような痩躯で、歳は七十にも八十にも見える。
 こんな家で猫の相手でもしている方が似合う爺さんが、打ち盛りの連中を相手に渡り合おうというのだ。


 ゲン爺はいつもニコニコとした愛想笑いを絶やさず、遅々としながらも丁寧に仕事をこなす。
 卓内での精算や点棒の受け渡しにもミスはない。
 
 ただし、ドリンクの注文や出前の類はいけない。
 たいがいが隣の卓へ、それも注文と違ったものを運んでしまうのだ。


 メンバーの仕事というのはただ麻雀を打つだけではない。
 ゲン爺は客と客のクッション役にもなっていた。


「爺さん、そんなところを鳴かすなよ」

「そうだ、そうだ、何年麻雀を打ってるんだ」

「はいはい、アタシャ耳が遠いから皆さんの野次が聞こえなくてねぇ」


 私は始め60歳も年上の同僚に面を食らったが、オーナーも中々の人を連れてきてくれたなと思った。

 客に揶揄されながらも和やかな雰囲気を周囲に振りまくゲン爺の存在は欠かせなかったし、そんな彼を私も好きだった。
 

 但し、この男。
 ただの好々爺ではない。
 

 客の目を誤魔化すように打ってはいるが、化け物のように麻雀が強いのだ。


 他の客はゲン爺を軽視していたが、私は彼の雀力に一目を置いていた。
 まず、放銃をしない。ニコニコしながら徹底的にオリて、牌を絞る。


 そして、よくそれで勝てるなと思うほど手数が少ないのだが、攻めにかかったときの精度は唯一無二なのである。


 ゲン爺が一つ二つ強い牌を振ってきたら、それは間違いなくテンパイ。
 それも和了れる見込みが大きいテンパイなので、私はそれだけで手牌を迂回させていた。


 そんなある日、私はゲン爺の意外な一面を垣間見ることとなった。






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*当物語はフィクションです