一言に雀荘と言っても、そこに屯する人種は様々だ。
 
 ビジネス街の貸卓店には近隣のネクタイ族が、駅前のテンゴの店であればそこに似つかわしい若者が集まるだろう。


 ここのサロン麻雀のような鉄火場に集まる人間といえば、小金の自由が利く自営業者や水商売の類の人間、腕に覚えのある勤め人、麻雀に傾倒しすぎた学生、そして腹を空かせた麻雀打ち……。


 別に相手の素性は何だって構わない。
 ルールに則り、牌を自摸って捨てるという行為に変わりはないのだから。

 私は鉄火場で卓に着いたら、まず全員の手つきと同時に相手の風貌を窺うようにしている。


 肌蹴たシャツの隙間、身体の特定部分の欠損。
 そして目尻に傷があるかどうか、拳ダコの有無。
 
 次いで、財布のブランド、腕時計……。


 相手の素性や懐中の太さを、まず計る。
 


「モシモシ――。飲みにいらっしゃってるんですか、直ぐフロアに顔を出します」


 私の上家の黒服が電話でそう答える。
 どうやら水商売、そして立場のある人間のようだ。

 ゲン爺が、いつも大変ですね、といった愛想の表情を黒服に向ける。

 彼はこの店に何度か足を運んでおり、常連と呼べる人間だ。
 遊戯は宵の口の時間帯が多いので、彼の仕切る酒場もこの界隈なのではないだろうか。
 

 キチンとした身だしなみ、落ち着いた物腰。
 この辺りで商売をしているのならば、オーナーの知り合いかもしれないし、飲みに来る客を探しに来ているのかもしれない。

 それならば、汚い遊び方はしないだろう。
 麻雀でこの客から多少は“抜いて”も良いだろう。

 電話一本でこんなことを推測する。


 麻雀とは、イメージも含めた認識の戦争である。
 相手が今どういう状況で打っており、どのような人間なのかを把握したい。


 ある日、私とゲン爺の同卓での出来事。

 私の下家には品の良いサラリーマンが座っている。
 歳の頃でいえば四十半ばぐらいであろうか。

 厚みと重さがある装甲されたアタッシュケース、一見してブランド物と判る糊の利いたスーツ。そして、柔らかな口調。
 確か来店は3度目のはずだ。


 “まともな企業の役職、もしくは中堅社員”

 というのが私の彼に対する印象だった。


 一方、上家は見るからに体裁の崩れたフーテン男。

 競輪新聞を尻ポケットに突っ込み、いつもダルダルのTシャツ一枚でいる御仁だ。
 だが、物腰は低く、半荘中も周囲に気を使うかのようにいつも軽口を叩いている。


 丁寧な口調や周囲に迎合する愛想は、まるで苦難の連続であった彼の半生がそうさせているかのように思えた。


 そんな面子で始まった半荘に、些細な出来事が起こった。





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*当物語はフィクションです