「ねぇ、センパイ――」


「なんだよ、後輩」


 深夜の店内で、最近よく来るようになった年配のアオキという客のことについて、尋ねてみた。


「言い辛いンですけど……。2卓で打っているアオキさんって、なぜカツラをしているのでしょうね?」



 見て判る他人の容姿を指摘するのは、とても失礼なことだ。
 
 
 歳をとれば禿げるのは普通だし、カツラを付ける人だって居るだろう。
 だから勿論そういう人には指摘をしないし、頭髪に関する話もしない。


 だが、アオキという客は店に入って麻雀を打ち始めると、長めの髪のカツラを取り外し、サイドテーブルに置いておくのだ。
 そして、帰りもそのままカツラを付けずに手に持って帰る。



 人前で付けないのならば、何のためのカツラだろう……?
 アオキはかなり年配なので、女性と遊びまわっている風にも見えない。


 あともう一つ、凄く気になるのが……。


 アオキは皺くちゃの顔をしているのだが、瞳の黒目の色が異様に薄いのである。
 初回来店時にオシボリを差し出した私に会釈をしてくれた際、私は思わずマジマジと目を見てしまった。



「ああ、あの人か……」


 いつものように茶化してくるかと思ったが、佐々木が割と真面目な顔で灰を灰皿に落とす。



「オマエ、“にんぷだし”って知ってる?」


「に、にんぷ、だし??」


「そう、人夫出しな。日雇いの力仕事なんかを斡旋する手配師のこと」


 初めて聞く言葉だ。この男は社会の裏事情に本当に詳しい。


「早朝、駅や公園でその日の労働者を募って、そのままトラックに積んで行くんだ。まぁ、仕事にあぶれてる者や、ホームレスの人が職を求めに集まるわけだ」


 なるほど、人夫出しのことは判った。
 だが、カツラとどういう関係があるのだろう。


「手配師から仕事を貰えるのはごく一部でな。当然、若くて力のありそうな奴をピックアップして連れて行っちまう訳だ。アオキさんも仕事が欲しいんだろう。それで少しでも若く見えるために、カツラをしてんだよ」


 そのために、カツラを……。
 あくまでも想像だが、食事すら満足に取れずに、瞳にも精気がないのかもしれない。


 その日暮らしの生活……。
 私が打つ相手は、そういう世界の住人も居るのか。



「オメェはよ、そういった人たちの日銭を暴力的な麻雀で毎日奪ってるんだ。いつでも真剣にやれよ」


 
 私は思わず神妙な面持ちとなった。
 確かにその通りだ。


 厳しい持ち金で勝負している人も居る。
 だが、そういった大人たちは私に麻雀で裸に剥かれても、嫌みの一つすら言ってきたことがない。

 これが、麻雀。
 そして、打ち手同士の矜持――。



 私が佐々木の厳しい言葉を噛み締めていると、主任の安岡が卓から抜けてきた。

 185cmに90kgの屈強な体格。
 浅黒く焼けた肌に、ソフトなパンチパーマ。


 この辺りでは誰もが恐れをなす最強の打ち手の一人だ。
 その、歴戦の猛者が言ってきた。



「おい、吉田。いや、吉田くん。一生の頼みだから、明日、キャバクラに付き合ってくれよ」



 安岡が言い出した。





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*当物語はフィクションです