プロ雀士吉田光太の横向き激闘記

最高位戦日本プロ麻雀協会 吉田光太のblog。

雀豪列伝

暴走族の男(掘 -第12話-  雀豪列伝[1]

同僚の鬼塚が不穏な仕掛けを入れていた。

(南3局 南家 ドラ 四萬:麻雀王国


裏:麻雀王国裏:麻雀王国裏:麻雀王国裏:麻雀王国  五索横:麻雀王国六索:麻雀王国七索:麻雀王国  白:麻雀王国白:麻雀王国白横:麻雀王国  北:麻雀王国北:麻雀王国北横:麻雀王国


 捨て牌

 一索:麻雀王国一筒:麻雀王国二索:麻雀王国八筒:麻雀王国東:麻雀王国二萬:麻雀王国


 オタ風の 北:麻雀王国 をイチ鳴きし、すぐに場に出た 白:麻雀王国 をポン。

 そして 五索:麻雀王国 をやや躊躇しながらチーして、 手出し 二萬:麻雀王国 とした所だ。


 ソーズの一色には少し見えない。
 オタ風からポンということは、すぐに鳴けた 白:麻雀王国 の他に役牌をトイツか暗刻で持っていそうだ。


 場には ダブ 南:麻雀王国發:麻雀王国中:麻雀王国 、いずれも顔を見せていない。



 私は役牌を掴まされており、大した手でもないので受けに回っていた。


 一萬:麻雀王国一萬:麻雀王国三萬:麻雀王国六萬:麻雀王国二筒:麻雀王国四筒:麻雀王国六索:麻雀王国九筒:麻雀王国九筒:麻雀王国東:麻雀王国南:麻雀王国西:麻雀王国中:麻雀王国



 親と西家が徐々に押してきている。
 むしろ終盤に向けて二人の安全牌を貯め込みたい。


 
 南家の鬼塚は所謂“チーマー”と呼ばれる不良で、金髪をオールバックにしている。
 顎にヒゲも蓄えており凶暴な風貌だ。

 
 私と同じ歳で、学校は離れていたが、かなりのワルで有名だった。
 高校を中退して、チームに入ったようだ。

 私が入店した一ヶ月ほど後に彼もここで働き始めた。


 私のマークはまだ麻雀歴の浅い鬼塚の仕掛けよりも、親と西家に注がれていた。


 すると、二萬:麻雀王国 の手出し以降、ツモ切りを続けていた鬼塚が手中からドラの 四萬:麻雀王国 を切ってきた。


 
裏:麻雀王国裏:麻雀王国裏:麻雀王国裏:麻雀王国  五索横:麻雀王国六索:麻雀王国七索:麻雀王国  白:麻雀王国白:麻雀王国白横:麻雀王国  北:麻雀王国北:麻雀王国北横:麻雀王国


 捨て牌

 一索:麻雀王国一筒:麻雀王国二索:麻雀王国八筒:麻雀王国東:麻雀王国二萬:麻雀王国
 七筒:麻雀王国二索:麻雀王国三萬:麻雀王国四萬:麻雀王国



 注意力が散漫だった私は、将来親に危なくなりそうな 九索:麻雀王国 を切った。


 すると、鬼塚がバタッと手を倒した。


 九索:麻雀王国中:麻雀王国中:麻雀王国中:麻雀王国   ロン 九索:麻雀王国      五索横:麻雀王国六索:麻雀王国七索:麻雀王国  白:麻雀王国白:麻雀王国白横:麻雀王国  北:麻雀王国北:麻雀王国北横:麻雀王国



 あ、イケねっ――!


 私は鬼塚はマンズがシャンポンや上に変化したものだと思い込み、単騎の変化を忘れていた。
 全くの甘い一打である。



 客をご案内し、卓を抜けると鬼塚が喋りかけてきた。




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暴走族の男(掘 -第11話-  雀豪列伝[1]

 朝方まで遊び回った私はその日の夜番のために、泥のように眠った。

 昼過ぎに目を覚ますと、携帯の着信ランプが光を帯びている。


 着信の履歴は昨夜会ったばかりの美女・リサ。
 それと、カジノのディーラーであるカザマからだった。
 

 昨日の今日で電話を寄越してきたということは、二人とも冷やかしではないようだ。


 私はすぐに電話を折り返さず、目覚めの珈琲を一杯飲んだ。
 カザマの夕べの言葉が頭をよぎる。


「お互いもうカタギの道って訳じゃないんだ。一緒に楽しく稼ごうぜ」


 もっともな言い分だ。
 誘ってくれたのは嬉しいし、私はリサにもカザマにも人間的に好意を持った。
 

 だが、テーブルの上に置いた携帯を俯瞰しながら考えた。


 金は――、使ってしまえば無くなる。
 女への渇きも、満たされればそれまでだ。


 だが、麻雀への“熱”はずっと変わらない気がする……。


 
 カンチャンやペンチャン、欲しかった牌から埋まっていくアノ感覚。
 どれだけ負けていても、次の半荘へ向けて点棒を揃えていると湧いてくる勇気。



 夜の街に一歩を踏み出すのが怖かった、というのも本音だ。

 だが、この半年間、狂ったように時間を麻雀に捧げた。
 私はこの先も麻雀だけをやった方が良い気がした。
 

 
 私は二人に連絡をしなかった。
 店にももう二度と行かないと決めた。


 その二週間後――、カザマの店に手入れが入ったと人づてに聞いた。






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暴走族の男(掘 -第10話-  雀豪列伝[1]

「条件があってな……。」

 カザマが私にカジノのディーラーになるための素質を語りだす。


「まず、博打に長けていることだな。客の心理や、店の売り上げも考えなきゃならん。そして、夜の時間に動ける奴だ」


 カザマがニヤリと口の端を上げて笑いかける。



「僕は別に、博打は得意じゃないですよ」

 私は一線を引きながら話を聞いた。


「そうかな? ずいぶん高いマンション麻雀で打ち子をやっていたそうじゃないか。それに、夜に時間も体も空いているんだろう?」


 確かに私は週に3日しか働いていない。
 だが、それは残りの4日間を麻雀に費やすためだ。


 必ず毎日毎日、寝ずにひたすらフリーかセットで打ち続ける。
 もう楽しいとか、麻雀が打ちたいといった感覚はない。

 しかし、他人から見たら遊んでいるのと一緒に見えるのだろう。
 

 カザマも最初は未経験で入り、講習を何度も受けてディーラーになれたのだという。



「吉田クンだったら飲み込みが早そうだし、客受けも良さそうだ。すぐにカードを配れるようになるぜ」

 カザマは上機嫌で続ける。


「それに、お互いもうカタギの道って訳じゃないんだ。一緒に楽しく稼ごうぜ。俺は先月フルで出勤して給料が50万円だったよ」


 50万円……! 主任の安岡の給料より多いのではないだろうか。
 
  

「いや、カザマさん大学は? 国立の三年か四年生でしょ」


「ああ、こっちで稼げるからもう辞めちまったよ。俺さ、ローンでスポーツカーを買ったから、今度見てくれよ」



 私といくつも違わないのに、羽振りの良い話だ。

 確かに、学校へ行ったり、就職をしたりという一般のレールからは外れてしまっている。
 どうせ稼ぐなら効率が良い方を選ぶべきだ……。



「な! 今度、電話をするから考えておいてくれよ。あ、番号」


 今日はよく携帯の番号を聞かれる日だ。



 夜の街――。
 そこは18歳の私にとって誘惑の坩堝だった。



 

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暴走族の男(掘 -第9話-  雀豪列伝[1]

「この前は、珍しく勝たせてもらったな」

 カザマがグラスを磨きながら微笑する。


<南3局 東家 ドラ 二索:麻雀王国


 六索:麻雀王国五萬:麻雀王国北:麻雀王国南:麻雀王国八萬:麻雀王国七索:麻雀王国
 白:麻雀王国五索:麻雀王国四筒:麻雀王国發:麻雀王国五筒横:麻雀王国  リーチ



 私が局落としの仕掛けを入れて、手牌を短くしていた。
 すると、ラス目の彼からリーチが入る。


 私は安全牌に窮していた。
 候補としてはスジの 二筒:麻雀王国 か、 七筒:麻雀王国 ……。


 変則的な捨て牌なので、下の三色をケアして私は 七筒:麻雀王国 の方をソロリと河へ置いた。



「ロン――」
 
 
 
 
一筒:麻雀王国一筒:麻雀王国一筒:麻雀王国三筒:麻雀王国四筒:麻雀王国五筒赤:麻雀王国六筒:麻雀王国八筒:麻雀王国八筒:麻雀王国八筒:麻雀王国中:麻雀王国中:麻雀王国中:麻雀王国




 二筒:麻雀王国三筒:麻雀王国六筒:麻雀王国七筒:麻雀王国 待ちの四面張。


 四筒:麻雀王国 のスジも、 五筒:麻雀王国 のスジも通さないダブル引っ掛けの待ちだ。



 バーカウンターで、カザマと向かい合いながら私が呟く。



「あのリーチは、待ちが芸術的すぎるでしょ」


 私は苦笑いをして、そこから彼に連勝されたことを思い出した。



「アライさんも、よく遊びに来るんですか?」


 私は、いつの間にか安岡と肩を並べてバカラに興じているアライを指差した。


「ああ、そうだな。しょっちゅう来るよ。まあ、彼の場合は半分仕事も兼ねてるんだろう」


 仕事も? 私は首を傾げた。


「個人のブローカーだからな。こういった場や飲み屋なんかで顔を広げて、中古車の依頼を受けるんだ。そして、客の注文に合った車をオークションで仕入れて来るんだとさ」


 はあー、なるほど。世の中には私の知らないことばかりだ。
 確かにアライは雀荘の上客でもあるので、私も中古車を探すことがあったら、彼に相談をするだろう。


「それはそうと……。吉田君、カジノの仕事とか興味ないか? 今、ここでスタッフを探しているんだよ」


 私の興味はバカラよりもカザマの話に注がれ始めていた。


  



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暴走族の男(掘 -第8話-  雀豪列伝[1]

 
 私は安岡に連れられてカジノへ来た。

 広い店内に二台大きなテーブルがあり、客とディーラーが勝負をしている。


 すると、雀荘で見たことがある人間が二人いた。

 
 ようっ、と言って私たちに笑顔を向けるアライという男。
 左利きで鮮やかな麻雀を打つ、ウチの店でも勝ち頭の客だ。

 確か、中古車のブローカーをやっているはずだ。


 そして、もう一人はバーカウンターの中で働いているカザマという青年。

 隣町の国立大学生のはずだが、どうやらここでバイトをしているようだ。
 カザマはサーファー風の茶髪で、確かに学生にしてはトッポイところがある。



「バカラをやろう。こっちがミニマムだ」


 ミニマム、おそらくレートのことだろう。
 安い方ということか。


「バカラ、っていうのはイタリア語で“ゼロ”を意味するんだ。まあ、日本でいうオイチョカブみたいなものだ。プレイヤーとバンカー、三枚のトランプの目の強い方を当てるんだ。」 


 私は安岡の説明を聞きながら賭けチップに手を下した。


 戦術やセオリーが判らないので、適当に流して張る。
 どうせ考えたところで丁半博打。確率は二分の一なのだ。


 安岡はどちらが勝ったか、出目のシートに毎回記録している。
 確率の偏りや、勝負所の波を読んでいるのだろう。



 そんな安岡が連続してバンカーで当てだして、目の前のチップがガシッ、ガシッと増えていく。

 その波に飲まれるように、私の二つ隣の中国人の客がアツくなり始めた。
 一気になくなったチップを補填するために、大声で中国語をまくし立てる。


 ここかな……。
 私はそう読んで、中国人の張りと全て逆の方にチップを置いた。
 
 バカラは素人だが、勝負事は毎日やっている。



 私の手元のチップが1.5倍ぐらいに増えた。

 だが、全く気が乗らない。
 チップが減るのも面白くないし、増えてもあまりアツくなれなかった。


 私は安岡を残して席を立ち、バーカウンターで飲み物を貰った。
 こういう所は食事も煙草も無料のようだ。



 すると、カザマが親しみを込めて喋りかけてきた。






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暴走族の男(掘 -第7話-  雀豪列伝[1]

 夜、20時。
 私は安岡を迎えに寮へ向かった。
 
 部屋に着いてノックをするもなかなか返事はなく、安岡はまだ眠っていたようだ。
 シャワーを浴びるから待っていてくれという。


 夜番が飲みに行くときは、いつもこんな具合だ。


 身だしなみをバッチリ決めた安岡の後に従って、街に繰り出す。
 すると、一軒の小料理屋の前で立ち止まった。


「おし、ここで飲んでいくぞ」

「あれ? キャバクラへ行くんじゃないんですか?」


 首を傾げる私に安岡が渋い表情をする。


「いきなりキャバクラへ行って飲む奴がいるかよ。あそこはメシも無いし、まずは居酒屋で勢いをつけてから行くんだよ」


 初めてのことだらけ、というのは新鮮だ。
 
 小料理屋は安岡の顔馴染みの店らしく、カウンター席で大将と談笑をしながら飲んだ。


「よし、行くぞ!」


 安岡がしこたまビールを飲み、充電完了といった様子で店を出る。


 キャバクラのエレベーターで安岡が言ってきた。

「いいか、会計はいくらでもお前は5000円だけ払ってくれれば良いからな」



 エレベーターを降りると、ラウンジという言葉が似あうような上品な店だった。


 安岡の隣に目当ての嬢がすぐやってきた。
 そして、こんなことを言う。


「いま、ちょうどNO.1の子が空いたから、お兄さんの方につけてあげる」



 NO.1という嬢が私の隣に来た。
 一見して驚いたのは、その若さである。


 細身で、ラフな格好。確かに色白で綺麗な子だ。
 そして何よりも圧倒的に若い。


 NO1.というから、私は派手なドレスを着たお姉さんが来るものだと思っていた。


 お嬢は私の隣へドスンっと座った。
 かなり飲んでいるようだ。


「ようやく抜けられたー。すごく飲まされちゃって。私、リサって言います」


 私が曖昧に頷くと、リサが顔を寄せて聞いてきた。


「お兄さん、幾つ? お父さんと来たの?」


 私は違う、上司に連れて来られた。
 歳は、たぶん君と同じぐらいだ、と答えた。


「そっか、そっか。じゃあ、リサと同じ18歳ぐらいだね」


 そう明るく返してくる。
 なるほど、おそらくポップな感じとその若さで店の人気者なのだろう。


 年齢が近いという親近感から、私は気を使わずに話すことが出来た。
 安岡の視線を忘れ、会話を楽しむ。


 しかし、リサはだいぶ酔いが回ってきたようだ。



「ねぇ、連絡先を教えてよ」


「良いけど、俺もう来ないから無駄になるよ」


 リサが口を尖らせながら聞いてくる。


「どうしてもう来ないのー」


「金が無い」


「じゃあ、お店じゃなくて外で遊べば良いじゃん。同じ歳なんだし」


 酩酊状態のリサが絡んできた。


「お金が無いなら、私がアナタの時間にお金を払うから遊ぼうよ」


「金が無いってのは、ここで遊ぶ金がないってだけだ」


 じゃあ、大丈夫だね、と言いリサが携帯電話を取り出した。
 まぁ、営業だろうなと思いつつ、私たちは電話番号を交換した。



 そして時間が来たようで、安岡に促されて席を立つ。



「吉田、付き合ってくれてありがとうな」


 安岡がエレベーターの中で言ってきた。


「いえ、いつもお世話になっていますから」


 キャバクラに抵抗はあったし、もう来ることはないが、安岡の役に立つならそれで良かった。
 今日は安岡と遊んだと思えば、それはそれで楽しい。


 私のそんな想いを知ってか知らずか、安岡が切り出してきた。


「もう一軒――、次はトランプ捲りに付き合ってくれ」





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暴走族の男(掘 -第6話-  雀豪列伝[1]

「キャバクラへは行きません!」


 私は安岡の頼みを無下に断った。


「ナゼ?」


「行きたくないし、興味がないからです」


「そこを何とか頼むよ、吉田」


 安岡が手を願い事のようにかざして頼み込んでくる。


 18歳の私と、40代の安岡。
 普段、良くしてもらっているので、こうなるとキツい。


「関根さんか、反町さんと行けば良いじゃないですか。自分みたいなガキにはまだ早いですよ」


 そう答えたが、関根と反町はニヤニヤして私と安岡のやり取りを面白がって見ている。


「コイツらはなぁ、昨日つき合ってもらったんだ……」


「き、昨日……!? どうしてそんなに行きたいんですか?」


「狙っている子が居るからに決まってんだろ!」


 安岡がまた弱い表情で頼み込んで来る。
 いつも卓上で見せる暴君のような威厳はどこへ行ったのか。


「いやいや、でも高そうだし。嫌ですよ」


「お前、店に入ってから女と遊んだか? 毎日毎日、麻雀ばかりじゃ体に悪いぞ」


 
 言われてみれば、この半年ほど女と会っていない。 
 というよりも、女と会話をした記憶がない。

 毎日、家と雀荘の往復だけだ。
 ましてや、夜番の私が女と接する機会など皆無だ。


「でも、なんか嫌なものは嫌なのでお断りします! すみません」


「判った、判ったよ、吉田。じゃあ、こうしよう」


 何が判ったのか判らないが、安岡の力説は続く。
 “力説”とは、本当にこういうものなんだと思った。


「次、ツー欠けのあそこの卓だ。1半荘の着順勝負で頼む」


「仕事中にサシ馬っすか……」


「あれ、なんだ? 吉田は真剣勝負の申し出を断る男だったかな?」




 勝負は途中まで私の圧勝だった。
 しかし、オーラスの安岡の親番。

 4000オール。4100オールと強引にツモられてマクられてしまった。


三萬:麻雀王国四萬:麻雀王国五萬赤:麻雀王国一筒:麻雀王国二筒:麻雀王国三筒:麻雀王国三筒:麻雀王国三筒:麻雀王国七筒:麻雀王国八筒:麻雀王国九筒:麻雀王国中:麻雀王国中:麻雀王国   リーチ・ツモ 中:麻雀王国





「じゃ、夜の20時に寮に起こしに来てくれ!」


 安岡は飛び切りの笑顔を私に向けて、帰宅していった。






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暴走族の男(掘 -第5話-  雀豪列伝[1]

「ねぇ、センパイ――」


「なんだよ、後輩」


 深夜の店内で、最近よく来るようになった年配のアオキという客のことについて、尋ねてみた。


「言い辛いンですけど……。2卓で打っているアオキさんって、なぜカツラをしているのでしょうね?」



 見て判る他人の容姿を指摘するのは、とても失礼なことだ。
 
 
 歳をとれば禿げるのは普通だし、カツラを付ける人だって居るだろう。
 だから勿論そういう人には指摘をしないし、頭髪に関する話もしない。


 だが、アオキという客は店に入って麻雀を打ち始めると、長めの髪のカツラを取り外し、サイドテーブルに置いておくのだ。
 そして、帰りもそのままカツラを付けずに手に持って帰る。



 人前で付けないのならば、何のためのカツラだろう……?
 アオキはかなり年配なので、女性と遊びまわっている風にも見えない。


 あともう一つ、凄く気になるのが……。


 アオキは皺くちゃの顔をしているのだが、瞳の黒目の色が異様に薄いのである。
 初回来店時にオシボリを差し出した私に会釈をしてくれた際、私は思わずマジマジと目を見てしまった。



「ああ、あの人か……」


 いつものように茶化してくるかと思ったが、佐々木が割と真面目な顔で灰を灰皿に落とす。



「オマエ、“にんぷだし”って知ってる?」


「に、にんぷ、だし??」


「そう、人夫出しな。日雇いの力仕事なんかを斡旋する手配師のこと」


 初めて聞く言葉だ。この男は社会の裏事情に本当に詳しい。


「早朝、駅や公園でその日の労働者を募って、そのままトラックに積んで行くんだ。まぁ、仕事にあぶれてる者や、ホームレスの人が職を求めに集まるわけだ」


 なるほど、人夫出しのことは判った。
 だが、カツラとどういう関係があるのだろう。


「手配師から仕事を貰えるのはごく一部でな。当然、若くて力のありそうな奴をピックアップして連れて行っちまう訳だ。アオキさんも仕事が欲しいんだろう。それで少しでも若く見えるために、カツラをしてんだよ」


 そのために、カツラを……。
 あくまでも想像だが、食事すら満足に取れずに、瞳にも精気がないのかもしれない。


 その日暮らしの生活……。
 私が打つ相手は、そういう世界の住人も居るのか。



「オメェはよ、そういった人たちの日銭を暴力的な麻雀で毎日奪ってるんだ。いつでも真剣にやれよ」


 
 私は思わず神妙な面持ちとなった。
 確かにその通りだ。


 厳しい持ち金で勝負している人も居る。
 だが、そういった大人たちは私に麻雀で裸に剥かれても、嫌みの一つすら言ってきたことがない。

 これが、麻雀。
 そして、打ち手同士の矜持――。



 私が佐々木の厳しい言葉を噛み締めていると、主任の安岡が卓から抜けてきた。

 185cmに90kgの屈強な体格。
 浅黒く焼けた肌に、ソフトなパンチパーマ。


 この辺りでは誰もが恐れをなす最強の打ち手の一人だ。
 その、歴戦の猛者が言ってきた。



「おい、吉田。いや、吉田くん。一生の頼みだから、明日、キャバクラに付き合ってくれよ」



 安岡が言い出した。





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暴走族の男(掘 -第4話-  雀豪列伝[1]

「ねぇ、センパイ――」


「なんだよ、後輩」


 先刻のことなど無かったかのように、佐々木はカウンターに肘をついてセッターを吸っている。


「昼番の反町さんはナンで12時出勤なんですか?」


 私は勤務時間のことについて尋ねた。


 夜番は22時-10時の12時間勤務。
 したがって、引継ぎの昼番は朝10時に来るのが麻雀店の鉄則だ。

 だが、反町が遅出のため私はいつも14時間勤務だ。


 暴走族の特攻隊長だった佐々木に聞いてみる。
 

 別に長時間勤務が嫌な訳ではない。
 どうせ仕事の前後も客打ちをするので、何時間でも構わない。


「反町さんはモーニングを取りに行くからな」


 お馴染みの行事のように、私が尋ねる。


「モーニング……。喫茶店……」


 佐々木がいつものように今世紀で、一番つまらんといった顔で白ける。 
 

「吉田クン、スロットって知ってる?」


 馬鹿にした表情で尋ねる。


「スロットぐらいやったことありますよ!」

 
 そう答える私に佐々木が欠伸をしながら返す。


「パチンコ屋はね、朝イチ10時の集客のために一島に何台か最初からボーナスを入れているんだよ」

 佐々木が、僕ちゃんにも判るかなーといった口調になる。



「えっ、お座りボーナスが? それなら勝ちが確定じゃないですか」


「だけど、景品交換所は11時からなの」


 なるほど、最初にボーナスを引いても1時間はメダルを“流せない”のか。
 それでも十分なアドバンテージにはなるだろう。


 私の甘い考えを見透かしたように佐々木が続ける。


「んで、モーニングが入ってる台は得てして設定が悪いんだよ。だからそのままトントン拍子ってわけにはいかねーの」 


 なるほど。
 だが、地道に毎日通えばちょっとした小遣い稼ぎにはなるだろう。

 ギャンブルの世界は本当によく考えられている。


 そのせいで、私は毎日2時間残業をしていたのか。

 私は反町に今度食事をねだることを決めていた。





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暴走族の男(掘 -第3話- 雀豪列伝[1]

<南一局 9巡目 親番 ドラ 七筒:麻雀王国

九萬:麻雀王国三筒:麻雀王国三筒:麻雀王国三筒:麻雀王国七筒:麻雀王国七筒:麻雀王国二索:麻雀王国二索:麻雀王国二索:麻雀王国三索:麻雀王国三索:麻雀王国四索:麻雀王国四索:麻雀王国   ツモ 七筒:麻雀王国



 暗刻になるのが判っていた 九萬:麻雀王国 を三枚河に捨てた私の次のツモ牌は 七筒:麻雀王国 だった。



 四暗刻の聴牌だ。

 二索:麻雀王国 三索:麻雀王国 四索:麻雀王国 五索:麻雀王国 待ちの変則四面張。



 私は静かに唾を飲み込んだ。


 三索:麻雀王国四索:麻雀王国 なら出ても24000点だ。


 両脇の二人はもうオリている。
 私はトップ目の南家からの直撃狙いでダマテンを選択した。


 最初のドラ表示牌の3900点カンチャン待ちから大きな変貌を遂げた。
 

 俺は現役の打ち手だ。
 生きた牌で麻雀を打っている。


 こいつはきっと流れを呼び込むアガリになるだろう。
 南家よ、トップ目のオタ風ポンで地獄を見ることになったな。


 そう確信していた矢先、オリていたと思われた西家が 一筒:麻雀王国 を暗カンし、リーチと来た。

 しかも、新ドラが 一筒:麻雀王国 になった。


「え……?」


 と、オリれる訳もない私が一発で持ってきた 五筒:麻雀王国 を河に放るとロンだと言う。



 五萬:麻雀王国五萬赤:麻雀王国五萬:麻雀王国六萬:麻雀王国七萬:麻雀王国八萬:麻雀王国二筒:麻雀王国二筒:麻雀王国五筒:麻雀王国五筒赤:麻雀王国   リーチ ロン 五筒:麻雀王国        裏:麻雀王国一筒:麻雀王国一筒:麻雀王国裏:麻雀王国
 
 
 

 裏ドラも暗刻で乗ったようで西家が指を折っている。

 私は西家の申告を半分も聞かずに、箱割れラストのコールをした。


 こういう事もよくあるものだ。


 席を立った私が口を開く前に、後ろで見ていた佐々木が目で頷いた。 


 待ち席の客をすみやかにご案内する必要があるし、メンバーがアガれなかった手をひけらかす訳にはいかない。

 そして苦笑いをするでもなく、目でのみ頷くという事は……


 やはり 二索:麻雀王国 は南家にアタリだったのだろう。


 
 私たちはいつしかそんな信頼関係も築き始めていた。





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プロフィール


吉田光太

吉田光太

最高位戦日本プロ麻雀協会


池袋「麻雀ひろばキングダム」
に居ます
ホームページ
https://www.mahjong-kingdom.com/



<獲得タイトル>

第1期オータムチャンピオンシップ 優勝

第7回 野口恭一郎賞 受賞


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