イギリスのEU離脱が正式に手続きされ、欧州議会のイギリスにとっての最終参加日に、ブレグジット推進派で鳴らしたファラージ氏が、嫌味たっぷりの置きセリフを吐いて演説をし、議長から注意を勧告され、マイクのスイッチを切られそうになるという展開がありました。

「このままでは、ヨーロッパは民族同士の怨嗟で滅んでしまう。地域全体を包括する組織が必要だ。経済的にも統合するのが望ましい」そうした危機感と理想とグローバリズムの象徴として誕生したEUは、出資金額でEU内でドイツに継いで2位のイギリスが離脱した事で、始まって以来の危機に直面しています。

EUの問題点は、構成国家から広く人材を集める為に、選挙による民意の反映ではなく、資格審査による議員の採用を進めた点にあります。これは、EU発足の動機からすると、いかし方がなかったのですが、結局は選挙で選ばれないエリートが、頭ごなしに物事の良し悪しを決めて、強い拘束力で構成国家に強要するという統治の方法が、最終的に分裂を招いたと言えます。かといって、各国の思惑を代表する選挙で選抜された人間で欧州議会を構成しても、そもそも議論の場に立つ事すら難しかったでしょう。国境が地図上の線でしかない多民族・他国家で構成される欧州の苦悩が、ここにあります。

移民の流入による国家のアイデンティティーの崩壊・加えて福祉費用の増大による財政の破綻・歴史的経緯を無視したポリティカル・コレクトネスを判断基準にした各種法律の制定と遵守の押し付け・地域性を無視した一律の規則の設定。こうした事は、ストレスとして実際の生活で履行を強要される一般国民の間で燻り、ついにイギリスはEUと決別する道を選びました。今となっては、国民投票でEUに所属していながら、自国通貨のポンドを手放さなかった事が離脱への道を開きました。既にユーロを採用して、自国の通貨発行権を放棄してしまった他の構成国は、そう簡単にはいきません。まぁ、ちょっとやそっとで仲間割れができないようにするという目的が通貨統合にあったので、EUまとめて一蓮托生なのは狙い通りでもあるのですが。ディフォルトが本気で懸念されているスペインやイタリアやギリシャあたりがEUを抜けるのは、さんざんに揉めたイギリスと比べても難しいのです。

EU離脱と言うと、すぐに関税やら物流やらの経済問題が取り沙汰されますが、恐らくもっとも深いのは、イギリスという国家のアイデンティティーの消失問題です。現在、アメリカで進行している、白人が人種としてマイノリティーに陥る事が予測されるという同じ問題が、イギリスでも進行しています。ポリティカル・コレクトネスの勢いが強く、ある意味宗教のような強制力を持った結果、警察が移民の犯罪を取り締まらない等(何でも差別という万能な言葉を持ち出されて、批判に晒されるため)の逆差別が発生する事態にもなっています。生活環境を整えられない経済的に貧しい白人少女を狙った集団暴行や恐喝といった事件に、警察が動かず、後にケンブリッジ大学を卒業して、社会的な位置を確保して初めて、少女時代に起きた移民による暴行を告白した女性もいます。こうした移民のギャング団は、組織的に白人少女を脅して売春等の行為をさせ、上前をハネていました。もし、自分たちがマイノリティーに転落したら、政治に参加する権利も、先祖から引き継いだ文化も、何もかも失うかも知れないという危機意識が根底にはあると思われます。

ファラージ氏の演説の内容を抜粋します。
「実際に今、歴史的争いが繰り広げられている。ヨーロッパやアメリカなど欧米の全土で。これは、世界主義と大衆主義の争いだ。あなたがたは大衆主義を毛嫌いしているかも知れないが、おかしな話をしよう。大衆主義はすごく人気が高まっている。それに素晴らしい恩恵もある。もう(EUに対して)財政貢献をしなくてよいし、欧州司法裁判所も関係ない。共通漁業政策もなければ、見下した態度で話をされる事もない。いじめられる事もなくなり、ヒー・フェルホフスタット(ベルギーの元首相。欧州議会に活動の場を変え、イギリスのブレグジット問題の欧州議会側の交渉担当)も関係ない。つまり言う事なしだ。我々がいなくなって皆さんは寂しいでしょうが、私達の国旗の使用を禁止したいだろうけど、さよならを言う為に振ろう。(ここで、イギリス代表団の全員がイギリス国旗の手旗を準備)将来、主権国として、あなた方と連携する事を楽しみに・・・。(代表団が立ち上がって、手旗を満面の笑顔で振りまくる。欧州議会の議長がブチ切れて、止めないとマイクを切るぞと警告)

相手を怒らそうと思っているとしか思えない態度ですが、それだけEU離脱派にとって、EU統治が引き起こした問題を苦々しく思っていたという事でしょう。大きな理想を掲げて、そして地域紛争の絶えない地域が平和な世界を作ろうと大同団結して作ったEUでしたが、結果として思想に振り回される政治的な混乱と移民の流入による国家破綻の恐怖、ユーロという通貨統合で利益を得たドイツなどと、一方的に援助されるしかないポーランドなどの東欧諸国との経済格差。様々な問題を抱えて、組織内のナンバー2の離脱という結末を迎えました。

非常に大雑把に言ってしまえば、思想が平和をもたらすというポリティカル・コレクトネスの綻びの始まりです。旧ソ連邦の崩壊でも、共産思想という社会実験が人間の手に余るものであった事が実証されましたが、同じような事がポリティカル・コレクトネスでも起きています。思想的に良いことでも、実現に自国の経済や社会が崩壊してしまっては、意味が無いのです。それは不幸の連鎖に過ぎません。盲目的なグローバル主義の果には、不幸な結末しか無いと、私は考えています。