インドのモディ首相が、中国との国境紛争地域で、45年ぶりに死者を出す軍隊同士の衝突があった件で、現地のラダック地方を電撃訪問し、演説をしました。いつもの礼服ではなく、完全に軍の統合司令官モードで、迷彩服に身を包み、軍帽をかぶっての登場です。

その演説の内容が、なかなか深い内容なので、引用してみたいと思います。

「弱き者は絶対に平和を作れない。勇敢さが平和の必須条件だ」

「領土拡張主義の時代は終わった。今は経済発展の時代だ」

「諸君らの示した勇敢さは、インド全土で語り継がれるだろう」

インドと中国の国境紛争は、管理された紛争と言われて、正式に解決していないのですが、紳士協定で仮の国境線を引いて、この付近での本格的な軍事衝突をしない事で合意しています。その為、今回の軍隊同士の衝突も、武器を一切使用する事なく、素手・棍棒・投石で戦うという有史以前の原始的な戦いになりました。それでも、死者が出ているので、激しい衝突だったようです。

要約した演説の中で、「勇敢さ」という事が強調されています。これは、戦争を恐れるなと言ってるわけではなく、脅しや恫喝に屈して筋を曲げる事が無い覚悟を示せという意味の勇敢です。中国外交の本筋は、脅しと恫喝です。これに屈して譲歩すると、次々に条件を拡大して、相手から最大の譲歩を引き出すのが手です。なので、どんな形でも、譲歩しない事を示す必要があるのです。ある意味、中国は話し合いの通じる相手ではないので、日和らないところを見せないと、つけいれられるという事です。逆に言えば、強い意思さえ見せれば、口程には中国は動けないという事です。これは、東欧・ドイツ・アフリカなど、頻繁に中国から圧力を受けている国向けのメッセージです。そして、中国が何を約束しても、決意の見えない外交で交わされた約束は、破られると覚悟しろという事です。

「領土拡張主義は終わった」という言葉は、あきらかに中国向けです。力を背景にした恫喝で、国際ルールも無視し、自分達の独善的な正義で領土を拡張する時代は終わったと釘を刺しています。モンゴル・チベット地方の支配や、南沙諸島における軍事基地の建設など、望まれてもいない統治をゴリ押しする中国に対する牽制です。

「今は経済発展の時代だ」という言葉は、自国へ向けた言葉です。国内にもカーストなど様々な問題をかかえるインドですが、そういう障害を乗り越えて、インドは経済発展を目指す事を決意しているとアピールしています。

恐らく、今後の対中包囲網の中で、軍事力を伴った中心的な役割を担うのは、同程度の人口と国土を持つインドになります。アメリカもインドとの国交を重視するでしょうし、資本投下も行うでしょう。そして、中国とは違って、富の分配が国民に行き渡り、国民全体の生活水準が上がる可能性があります。すると、市場としても中国より有望という事になります。中国は、共産党幹部が、富の独占に貪欲に動いているのと、そもそも序列が幅を効かす中で、ワイロの横行が盛んになってしまったので、人口の割に購買力というのは、大した事はありません。まぁ、富豪が数千万人単位でいるので、それなりに物が売れますが、市場というのは、参加者の平均所得が上がらないと、健全に発展しません。それが、見えてきてしまったのが中国であり、共産党による不公正と規制も激しいので、資本の流出が始まっています。

この演説の中で素晴らしいのは、「中国には覚悟を見せないと外交は成立しない」と言っている点です。とにかく、何か揉め事が起きると、中国は高所目線で脅してきます。それにいちいち日和っているようでは、中国相手に平和も守れませんよと言っています。逆に、脅しが通用しないとなると、中国は思いの他、戦争にまで踏み込もうとしません。特に今は、全方位で紛争を起こしているので、実際に戦争にする事ができないのは、中国の方です。どんな武器を持っていても、周囲全部を敵にまわして戦闘を継続する事は不可能です。

実際に脅威に目に見える形で晒されている国では、モディ首相を独裁者とかヒットラーのようなとか揶揄する声は聞こえないようです。日本では、良く出てきますけどね。