病院どたばた録

2006年08月22日

1本じゃ足りません2

 車は混んでいた。

 屋上しか空いてないと誘導された道筋では、坂道停車軽トラオババが「めやぐだぁ、下がってぇ」と叫んでいた。なんなんだ。狭い道で後続の車はあきらかにむっとしている。
 おかげで10分もロス。

 ドアを開けるともわっとしたので思わず閉めなおす。『おーいお茶』をぐいっと飲み干した。

「よーし。」

 もう一回ドアを開け、今度は勢いよくエレベーターまでずんずん進む。それに乗ってしまえば・・・と思ったけれど、エレベーターは2階から下へ向かうところだった。
 ぼくも、むっとする。


 玄関を入るともわっとぬるい風が顔にかかってきた。扇風機が忙しく首をまわしている。
 「君じゃないほうがいいんだけどな」と言ったって向こうも「これが限界なんです」という顔をしている。

 となりで「今日はお休み」と済ましているお前。今日は働けよ!


 玄関付近とは違って採血のところなら涼しいだろう、と思っていたぼくがバカだった。
 そこはいつもより人が多く、フォルダを使って扇いでいる人もちらほら。人の熱気が充満している。

「ここ、だめだ。逃げよう。」 

「したばって下だっきゃ暑くていられねぇよ」 

 渋るTさんを誘って逃げた。あのイスにぎゅうぎゅう座っているのが耐えられなかったのだ。

 今日の採血は70人待ちである。

  
 地下は少しひんやりしていた。

「ほらあ、ここのほうがいいって。」

「じゃあ、水分補給するか。大ちゃん、何がいい?」 

 清流七茶がよかったんだけど、そこの販売機からは消えてなくなっていたのでウーロン茶にする。あざーっす。

 ひゃっこいペットボトルをオデコにあてるとジュッっと湯気が上がった・・・というのはウソ。でも、気持ちいい。
 ちょっと回復して外への扉を開けたぼく。
 と、太陽が直に笑っている。はぁぁ。

「・・・やっぱ、まいね」

「んだべさー。じゃああっちさ行ぐべ」

「?」 

 Tさんと向かったのはもう一つの出入り口。なるほどね。
 そこはぼくがこの病院に最初にやってきたときに入ったところだ。冬場はよく使うのでもちろん知っている。でも、第一会場より多少はマシだけど、やっぱり汗がだらだら。
 暑がりというより寒がりなTさんですら「あじいあじい」と言ってるんだから相当暑い。 


「大ちゃんは、これからまだ嫌な汗かぐのになぁ」

 そうなのだ。

 あの暑さの中に飛び込むと思うと、もう今から具合が悪くなる。


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2006年07月19日

今日はにっこり5

 話のつづきである。


 診察室の前まで来ると、ふいに前回の記憶がよみがえった。

 おそるおそる入ると、ぼくの持っていた開いたままの本を見て主治医のT先生が「なに読んでいるの?」と聞いてきた。いつ読んでるんだというぐらい本に詳しい先生で、その話を聞くのは好きなのだが、いまはそれよりも知りたいことがあった。
 それとも、悪い知らせなので遠まわしに核心に迫るつもりなのか。本のあちこちを見ていてなかなか本題に入らない。

「あの、検査のほうは・・・」 

「え? あぁ、なんにも悪いところなかったよ。異常なしでした」 

 心配するぼくをよそにT先生はカルテに目を移しつつ、けろっとして話した。

「あ、そうですか・・・よかった」

 実は前回、肝機能の高さを指摘されていた。
 輸血を多くしていたので「ウイルス性の肝炎かも」と言われたのだ。同じ病棟に肝臓の病の人たちも入院していたので、肝臓と聞けば串刺しのイメージがあった。“肝生検”の文字が頭いっぱいをぐるぐる走り回っていた。
 人一倍怖がりのくせに、そういう言葉だと一度聞いただけで忘れないのが不思議だ。

「ドキドキしてたでしょ?」

「先生のせいで2週間寝不足です。ご飯もノドを通らなくて・・・」

「あ、じゃあこの調子でいこっか!」

「えっ、いや、あの・・・うそです」

 ともあれ、問題なしと聞いて安心した。
 前回の外来の不安と疲れは吹き飛んで星になった。


 診察室をあとにして採血に行く。

 嫌な採血ではあったが、検査結果が問題ないというので気持ちは軽やかだった・・・っと、へらへらしてるからどこかのオバちゃんのカバンのヒモにつまづきそうになった。っとっとっと。

「すいません、すいません」

 ふと目を向けた
視線の先にはさっき会った気気鵑。「ぷっ」と笑って去っていった。見られた。カー・・・(赤面)。

 自分の番号が近づくにつれて手のひらにも汗が。

 合流したTさんたちと採血室の知っている看護師さんのことで「うまいよなぁ」「美人だなぁ」「当たるといいなぁ」と話していたら、遠くから「おいでおいで」とうわさの本人に呼ばれた。お、やったね!
 採血室にはこの前まで一内にいたSさんもいた。応援かな。マスクかけてメガネしてたら誰だかわかんない。Sバァさん(笑)。

 話をしながらだったので針の恐怖からうまく関心をそらせて無事終了。

「病棟に行かないの?」

「これから行ってくるよ」

 そう答えて向かう足どりは、明らかに自分から「行こう!」というものだった。



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2006年07月18日

待ち時間の過ごし方4

 同じ再来日でも隔週のズレや、時間のズレ、2週間と1ヶ月おきのズレがあって、なかなか顔を合わせない人は多い。
 
 Yさんが入院の時期に入ったので、いつもの外来組はTさんだけになった。
 
 先に診察に呼ばれたTさんが行ってしまうと手持ち無沙汰に。とりあえずテレビを見たり、ヒマつぶしのためにポケットに忍ばせていた本をパラパラめくるが、内容がまったく入ってこない。最近、どうも集中して本を読む気になれない。暑さで頭がトロけているのかも。
 
 流れに乗って歩いてる人を意味もなく追ってみたりする。今週は混むと聞いていたけれど、それほどでもない。

 天井に扇風機があって、忙しく首をまわしていた。

 知ってる人がいないと待ち時間も長い・・・ような感じがしたけれど、落ち着きなくキョロキョロしてると誰かはいるもんだ。


 以前、同じ部屋に入院していた人が歩いてきた。

「しばらくー。誰か探してたのが?」

「え、うん。誰か知ってる人いないかと思って」

 バカ丸出しである。あー苦笑されている。
 

 看護師の気気鵑鮓つけたので声をかける。そんなに探さなくても正面にいるのに。

「大きすぎて見えなかった」

 最後の入院で担当してもらった気気鵑呂い弔發海鵑閉柑劼澄

 はっきり喋る人だ。

「少し痩せたでしょ」

 でも、顔には(まったく思ってません!)と大きく描かれていた。

 正直な人だ。

 そういえば、何かを見つけたとか言ってたような気がしたが、なんのことだったんだろう・・・。

 
 話をしていると、ちょうど診察に呼ばれる。開いたままの本を持っていつもの診察室を目指した。



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2006年07月04日

胃によくない一日1

 2週間ぶりの外来。

 今日は少し疲れた。

 ため息をついて歩いていた人。
 辛い治療を終えて病棟に帰ってきた人。
 会えなかったけど、順調に回復してくれればいいなぁという人。
 落ち着きなく飛び回っている人。
 そんな人に少し憤り、イライラを募らせている人。
 共感する人。 
 歓迎してくれる人。
 ツンケンしている人。
 今も治療を頑張っている人。
 必死に看病している人。
 久しぶりに再会した人。
 そろそろ次の入院予定がある人。
 
 みんな何気なく接してはいるけれど、笑って話してはいるけれど、それぞれ抱えている事情はあるわけで。

 ぼく自身もそう・・・。

 今日はみんな疲れたような顔をしていた。無理に笑っていたような気がした。沈黙を作らないために話題を探していた気がした。
 
 いや、それとも自分がそう思いたかっただけなのかも知れないなぁ。

「(・・・)、だんだんそうなっていくんだよ。そんなもんだよ」

 なんのことを指しているかは書かない。
 でも、一緒にいた人が話したその言葉が、何とはなしにいつもと違う雰囲気を感じていたぼくには印象的だった。


>バトンだいぶ溜まってきたけど、というわけなので、明日まとめてやります。


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2006年06月20日

並んでくださいね2

 診察が終わり、いやな採血へ。

 前回と変わらず、今日もとても混んでいる。

 (チッ・・・)と内心で思いつつも、いつものようにフォルダを採血受付のテーブルへと置くのはいつもの通り。
 
 ぼくの通っている大学病院では、とりあえずフォルダを置いておけばそこの人が受付をしてくれ、フォルダと番号の書いた紙をくれる。待っている間は近くのイスにでも座っていれば「オサナイさーん」と呼ばれるので「はーい」と返事をして受け取ればいい。別に返事をしろっていうわけではないけれど、以前「はーい」と手を挙げて受け取っている可愛いおばあちゃんを見たから返事ぐらいはしてみたい。
 で、あとはテレビ画面の番号を見て自分の順番になったら血を抜かれに行く、とこうなっているのである。
 
 何度も何度もしている光景だ。慣れっこである。

 ところが、今日はフォルダを置いて空いてる後ろのイスへ向かおうとすると、やたら人がぼくを見るのである。

(ん!?)

 一番近くにいてジロジロ見るおじさんに、負けずに「こっち見るな光線」を出すが、よく見ると採血待ち人のかなりがこっちを見ているではないか。みんな手持ち無沙汰で新たにやってくる人の姿形言動行動を興味深そうに見ている・・・ように見える。

(ん、なんだなんだ)

 「こっち見るな光線」もこれでは歯が立たない。
 ここに至ってぼくは何かとんでもないことをしているのでは、と思えてきた。

(慣れているからって、フォルダを放り投げたように見えたかなぁ)

(いやいや、顔になんか付いてるとか・・・)

(ズボンのチャック開けっ放し!?)

 そうなると、どーでもいいことまで考えてしまう。肝っ玉が小さいのだ。


「オサナイさーん」

 イスに座るか座らないかで、いつものように呼ばれた。でも呼ばれるのが少し早い気がする・・・。

「オサナイさーん、オサナイダイセーさーん」

「あっ、ハイハイ」

 採血待ち人の注目を気にして、あたふたしながら受付の人のところへ行く。

「はい」

「あ、オサナイさん?えと、すいませんけれど、並んでいただけますか?」

「は?」

「こちら、順番に受付をしていますので、並んでいただけると・・・」

「ああ、はいはい。そうでしたね、はは・・・」
 
 ぜんぜん「そうでしたね」ではないのだが、横入りをして注意された人のようになってしまったぼくは照れ隠しでそう答えた。
 

 結論を言えば、なんのことはない。ここのシステムが変わったということらしいのだ。
 受付の人に「前と変わりましたよね、ハハ・・・」と聞くと、同姓同名の人や名前の聞き間違いなどを防ぐためにそうなったということを教えてくれた。
 そうとは知らず、フォルダを置いて俺は慣れているんだ風な態度をしていたぼくは、採血待ち人たちから見たら「なんだ、常識知らねぇ若げ者だな」と思われていたに違いない。


 余計な汗をかき、遅れてやってきたYさんにそのことを話し、笑われる待ち時間。
 
 すると、フォルダをポンとテーブルに置いて去っていく人が一人。

「××さーん」 

 恐縮しきっているその人を見て「順番守るなんて今どき小学生でも知ってるよねー」とYさんにヒソヒソ話したぼくは、いつの間にか周りの人たちの仲間入りをしていた。



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2006年06月09日

鍋のおじちゃんの死1

 鍋のおじちゃん。

 母が勝手に付け、そう呼んでいた名だ。

「ほら、鍋のおじちゃんの差し入れだよ」

 長く寝たきりであったころは、なんで病院に鍋・・・と思いながら、この人は何者なのか・・・と思いながら、でもこの味で元気をもらった。
 
 その、鍋のおじちゃんが亡くなったということを聞いた。


 
 歩けるまでに回復してからも、一度退院して再び入院したときも、仲の良かった人がある程度入院してきたとなれば、ときどき鍋をもって差し入れに来てくれた。ぼくは喜び飛んで参加していたものだ。

「今日はなんの鍋なの?」

 そう聞くぼくに、決まって

「ヤミ鍋だ」

と、話す鍋のおじちゃん。

「先生、カエルやネズミのダシでねぇべな〜?」

 鍋のおじちゃんの職業を知っているぼくらはそう冗談をしながら笑った。鍋のおじちゃんはぼくらと同じ患者であり、そして先生でもあった。

「毎日、味気ないものばかり食べてるんだから、ときどきは上手いもの食べねばな」

「大、まだ残ってるぞ。もっと食え」

 顔をくしゃくしゃにして笑う鍋のおじちゃんの顔が思い浮かぶ。



 最後の入院では、入退院の期間が合わずに知り合いがあまりいない期間があった。さらにゴールデンウィークにも関わらず、血液のデータが低く病院に居残り。
 このとき、少し前に入院してきていた鍋のおじちゃんが、話し相手になってくれた。

「退院すればもう入院しなくていいんだから、いくらでも自由だろ。あとで来たくても来れないんだからいいじゃないか」

「まあ、確かにね・・・」

 居残りで不満タラタラなぼくに、そう話した鍋のおじちゃん。



「調子、どうだ?」 

「少し熱あってな。脾臓も腫れてきてるし食欲がない・・・」 

 ある日のことだ。
 なんとか元気を出してもらおうと、これなら食べられるはずとゼリーをもって部屋に遊びに行ったぼくに、

「相変わらず元気だなぁ」

と、笑顔で話してくれた鍋のおじちゃん。でも、何気なく交わす会話の中で見せたその姿は、今までに見せたことのない苦しそうな顔だった。


 
 退院前の日。個室にいた鍋のおじちゃんのところへKさん、Y君と3人で会いに行った。ぼくが知っている鍋のおじちゃんとはまったく違う、痩せて小さい姿がそこにはあった。
 
「もうすぐ、大部屋に移るんだから。そしたら車椅子でタバコに連れて行くよ。ワァは車椅子の免許持ってるから大丈夫」 
 
そう励ますKさんの言葉に笑顔で返してくれた鍋のおじちゃん。

「大ちゃん、明日退院だよ」

「そうか・・・」

 Kさんがぼくのことを話してくれたが、ぼく自身は何も話せなかった。笑顔でいるのが精一杯だった。 
 
 思えばこのときが鍋のおじちゃんに会った最期であった。

 
 
 退院の日は「帰る前に会っていったら?」と看護師さんに言われるものの、前の日にあったばかりだ。だから「外来ですぐにまた来るから、そのときは会いに来るよ」と行かなかった。
 ぼくが会ったからといってどうにかなるものではないけれど、あのとき会いに行けばよかった、もっと話をしたかった、と後悔だけが残る。
 
 今、亡くなったとは聞いたものの、にわかには信じられない。
 
 でも、時が経つにつれ、こんなこともあった、あんな話もした、と尽きることのない思い出が次々に出てくる。
 
 また一人、ぼくの寝たきり時代を知っている人、励ましてくれた人がいなくなってしまった現実を突きつけられる。



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2006年06月06日

血液患者ご一行様4

 外来に行ってきた。

 病院に入る前から「おろ〜、めんずらしなぁ!」と声をかけられ、血液患者G同窓会。最近は化学療法患者、消化管患者も加わり一内患者同窓会になりつつある。
 
 60代のじぃを筆頭にゾロゾロ病棟へ押しかける外来組。「元気でらな?」と各部屋を訪問。それぞれに知り合いがいるので、だいたい全部の部屋をまわる。裏総回診。

 病棟で「がはは」と笑ったあとに入院組を伴い、わっせわっせと地下の同窓会会場へ向かう一行。
 男、女、年寄り、働き盛り、若い人、私服、作業服、病院着、坊主頭、坊主頭、坊主頭・・・。ほかから見れば少し・・・もとい、かなり目立つ。
 だから、少し離れた後ろをあさっての方向を見ながら歩いたりする。 

 ホントは患者でも見舞い客でも、迷わない限りいるはずのない秘密の場所が青空同窓会会場だ。
 ここにいると、掃除だか警備のおじさんが「なんだ、なんだ」といった具合で凝視してくることがある。自分でもそう思うのだからかなり怪しい集団に映ったに違いない。
 こういうとき、一見しただけだとその筋の怖い人のような、損な顔をしている人がたくさんいる血液患者Gはいい。「なに見てんだ!」というような視線を軽くちらっと投げかけるだけで、大抵は「わし、関係ないもんね」といなくなる。「けっ」とやり過ごしたあとのみんなはかっこいい。
 でも、そのときぼくは集団の中心に隠れてたりする。

 そこでみんなと「あんでもない、こんでもない」と笑い、次の日程を告げたあと帰るのがいつものコースだ。

 これも治療、治療(笑)。


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2006年05月25日

“だらんこ”思い出話3

 必要があって、入院のときの荷物をごちゃごちゃやってたら透明な袋に入った“だらんこ”が出てきた。

「ん?」

 袋は錠剤を半分だけもらったときなどに入れてきたもので、密閉できるやつ。それがパンパンになっている。
 少し得した気になって手にとってみると、100円や10円や5円や1円や1円や1円・・・。1円ばかりが目立つ。中にはゲームのコインも何枚か入っていた。

「あ!」

 そうだ。思い出した。これは入院中に某T先生がくれていたものを貯めてたものなのだった。
 この先生はギャグのつもりなのか、おまじないのつもりなのか、回診にやってくるたびに「1円を数枚」とか「5円と10円」といった具合に、ぼくにくれていたのだ。

「水虫大丈夫か?」(水虫じゃないって!)
「熱があるって?これ貼っておけば治るよ」(治るか!)
「あ、寝てていいよ。」(足の指の間に5円挟んでいくし・・・)
「今日は日本のお金じゃないよ」(ゲームのコインだろ!)

 一応その道では「Professor」の肩書きを持っているエライ先生。だから入院当初からよく知っている笑いの血液グループの先生とはいえ、冗談なのか本気なのか分からない部分もあって戸惑うのだ。
 おそらく、そういうぼくの表情を見てさらに楽しんでいたに違いない。

 
 退院が近くなったある日。
 ときどきやって来てはくれる“だらんこ”だったが、いつか返さなければ、と使わないで袋に入れてとっておいていた。小額とはいえお金だったし、「もらっちゃえ」となれない性格なのである。
 すると、先生はこういった。

「それは君にあげたんじゃない。お母さんに花でも好きだったものでも買って、きちんと(仏壇に)あげなさい」

 そうだ。そういえば、うちの母が病院に来ていたときもよく叱られたものだ。 

「親孝行してるか。ちゃんと言うこと聞かないとダメだぞ」

 ほかの先生たちはそういうことは言わないし、この先生ならではの重みのある言葉だった。
 母が亡くなって、周りの人は気にしてかそのことを口に出さないようにしてくれていた中、そのことを人前で平然と話すのもこの先生だけであった。ぼく自身は母のことを話してもらうことで、いまでも一緒にいるような気がして嬉しかった。
 その先生が半分冗談かも知れないけれど、そう言ってくれた。

「でも、先生、5円とか1円ばかりですよ」

 照れくさいとか恥ずかしいとは少し違う気持ちで、そのときはそう話して終わったのだが、それから退院の後片付けやなんかですっかりこの袋の存在を忘れていた。

 
 袋の中を数えてみると530円あった。それにゲームで使うコインが数枚。

 せっかくだから、母の好きだったマイルドセブンでも買って(仏壇に)あげようかな。



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2006年05月22日

ある朝の電話4

 田植えの季節。

 我が家の隣にある田んぼにはまだ稲は植えられていないが、水が張ってあるので心なしか涼しい気がする。
 今朝も鳥が2羽、エサを求めてやってきた。

 そんな様子を見ながら麦茶片手に本を読む(糖分は控えているので)。心が和む。

「今日も来たかい」

 やさしい気持ちになれる(もともとかなり優しいけれど)。

 鳥を見ながらしばし、ぼーっとする。

・・・と、ここまでは良かったのだが、プルルルルという電話の音が静寂をやぶり、ぼくを現実の世界へと引き戻した。

 それは大学病院の整形外科からのものだった。


 整形外科からの電話は朝ごはんを食べ終わって一息つくかつかないか、そう、「病院にいたらあと少しで回診かなぁ」という時間にきた。

「あの、弘前大学付属病院の整形外科ですが、あの、大生さんは・・・あの・・・」

 妙にぎこちない感じ。入院の電話をくれるS医師の「ああ、大生さん?どうも。」という、会ったこともないのにやけに馴れ馴れしい態度とは違う。
 病院から電話・・・。
 しかも、少し違和感があって受診した整形からの電話。やっぱり異常があったのか。
 
 どきどきどき。

 ノミの心臓のごとき私の心はすでに脈拍100を超えていた。「なにをそのぐらい、どんと構えろ」とTさんならこう言うだろう。「その大っきい体で」Kさんもそう言うはずだ。でもぼくは小心者なのだ。

「はい、そうですが・・・」

「あ、あの、先日受診していただいたのですが・・・あの・・・」
 
「はい(なんなんだよ・・・)」
 
「あの、やはり先生が一度来ていただきたいということなのですが・・・あの、来週あたりいかがですか?」

「らいしゅうぅ?」

「え、あ、あの、この間、診れなかったもので、一応、その前の診察で気になったところの経過もあるので・・・」

「(金曜に退院したばかりだろ。おいおい。)で、何か異常とかあったんですかね。病気が悪くなってるとか?」

「あ、いや、そういうことではないと思うんですけど、あの・・・」
 
「じゃあ、どういうことで?」
 
「いえ、ですから、あの、担当の先生が学会でいらっしゃらなかったものですから、一度、診たいと・・・」
 
 この言葉を聞いて、とたんにぼくの態度は大きくなる。


「それは、退院前に、という約束で行ったのに先生がいなかったわけですよね。で、そのときは一応卒業前に、ということでの受診だったわけですよ。だからくど、こちらからくどくど、何にも変化がなければくどくどく、改めて行くこともいらないのではないかと思うのですがくどくどくどくど・・・」

「あハイ、ですがハイハイ、やはり半年に一回くらいはハイハイハイ、経過も診ないといけないそうなのでハイハイハイハイ・・・」

 足の調子が少し良くない、というのは確かである。でも、先生が勝手に学会に行ったんじゃないか。しかも、以前「MRI入れるかな、ぐふふ」といったあの医者だ。
 行くのがやぶさかなのではなく、その医者の顔を思い浮かべるとイラっときて、つい何の関係のない人に文句を言う。
 すでに『純情きらり』は終わった。お昼の再放送まで待たなければならない・・・。


「で、半年後というと?」

「あ、11月でいかがと思うんですが」

「いいですよ。じゃあ、その月のいつでもいいですね。水曜日ですか?行きます。じゃ・・・」

「あ、あの、いつでもはいいのですが、あの、何週目になさいますか。予約をしますので・・・」

「え、半年先でしょ。今から予約ですか?都合のいい日は分かりませんよ」

「あ、あの、そうですよね・・・」

 当たり前だ。半年先の11月の水曜日午後、いつヒマかなんて分かるわけがない。
 でも、なんだか電話口の女の人が、「MRIね、ぐふふ」という医者に、一連の無茶を言われている気がして気の毒になった。

「じゃあ、1日でいいですよ。11月の1日」

「それでいいですか?はい、わかりました。じゃあ、そのように予約します」

「でも都合が悪くなるかも知れませんよ。そしたら変えていいですよね?」

「はい、そのときは別の週に変更いたしますので。あ、あの、水曜日は午後1時30分からですがよろしいですか?」

「いいですよ」

「はい、ありがとうございます。それでは、失礼します。」

 別に礼を言われる覚えはないのだが、これで一仕事終えた、という声に聞こえ思わず苦笑する。
 
 さてと。

 受話器を置き、窓から隣の田んぼを見るが、すでに仕事へ出かけたのか鳥の姿はもうなかった。


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2006年05月19日

退院報告5

 というわけで、退院してきました。

 今回は最初の計画でいくと最後の入院。だから、これで一応は卒業ということになります。


《2004年(H16)1月15日(木)〜2006年(H18)5月19日(金)》
 
長期入院6ヶ月。
 強化維持療法の入院2ヶ月×5。
 転院3回 
 手術1回 
 マルク8回
 ズイチュウ5回
 採血191回

  
 どーだ、どーだ!!!

 ・・・・・。

 あれ?
 しょうがないから自分で自分を褒めます。

「採血嫌いの人がよくぞここまで。うぅ・・・。エライ!!!」
 
 ・・・・・。

 ・・・う゛ぉっほん。ん゛ー。ということで、今後は採血をしながら外来に通い、完治を目指したいと思います。

 入院の思い出を振り返るのは明日以降にする、ということでまずは報告まで。



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