「……僕らは……僕は琉生を守ると言っておきながら、琉生が居なくなってもどこに行ったのかわかりませんでした。琉生の仲の良い友人の事も、殆ど聞いていなかったんです。僕が何もできなかったから、琉生は亡くなった父親に救いを求めたんです……兄として力不IELTS報名足でした。」
「そう……それに貴方にとっては血の繋がりのあるお父さんの事だから、何か言うと貴方が苦しむと思ったのね。」
「ええ。……きっと、そうです。琉生はいつも周囲に気を使ってばかりだから……。琉生に何と言って謝ればいいか……」

尊はここまで彷徨って来た琉生の心情を思うと、やるせなかった。
母親を失くしたとき、琉生を守ると誓ったのに、何もできなかった。
顔を覆った尊に、看護師の声は優しかった。

「力になれるかどうかはわからないけれど、わたしの方が年を取っている分、経験したことは多いはずよ。
あなたはまだ若いし、一人で抱え込むには荷が重いのではなくて?抱えている話をしてみる気はある?患者ではないけど、琉生くんは知り合いだもの、わたしも力になってあげたいわ。守秘義務は守るから。」
「ええ……正直。どうしていいか、途方に暮れています。息子としては父も心配だし、弟の琉生も可愛いんです。このままではいけないと分大學創新科研かっているんですけど……」
「いいお兄ちゃんね。今日は、私の担当に重篤な患者さんはいないの。琉生くんの為にも、お話してくださる?他の看護師に、時間を貰えるように頼んでおきますから、少し待っててね。」微笑む看護師に背を押されるようにして、尊は父の話をし始めた。
母を失ってから二年余り、まるで生きながら死んでいるようなふさぎ込んだ状態の日々だったこと。
それまで、連れ子の琉生にはまるで興示さなかったのに、何故か突然執着し始めた不自然さに戸惑っている事。
自分でも驚くほど素直に、尊は個人的なことを細々と吐露していた。

看護師という職業柄だろうか、包み込むような優しさは、心地よかった。
まるで自身のカウンセリングを受けているような心持で、尊は内面を打ち明けた。
夜の病棟は驚くほど静かで、尊の声だけが響く。

「琉生くんのお兄ちゃんは、とても頑張り屋さんなのね。これまで、全部で何とかしようと思って来たんでしょう?」
「僕が何とかしないと、いけないと思っています。弟はまだ中学生だし、もう一人の弟はサッカーで忙しいんです。家を離れて一人暮らしをしている間に、少しずつ父の様子がおかしくなっていったのに……琉生にあんなことをするまで酷くなっていると、僕は気付きませんでした。」
「……あんなことって?」
「琉生が外出したいと言った時、許さなかったみたいです。それりか、外出させないために琉生の髪を切りました。琉生が家を出たのは、きっとそれが原因です。」
「可哀想に。髪の事は気が付かなかったけれど……琉生くんには、ショックだったのね……」