2007年09月13日

はじめに

SAZABY SAZABY

妹礼儀、かねて病気療養中の処、薬石効なく
2006年11月30日 午前6時39分永眠致しました。
早速皆様にお知らせ申し上げるべき処でございましたが、
御通知が遅れました事をこの場を借りて深くお詫び申し上げます。
葬儀、及び告別式はキリスト教式で12月1日滞りなく相済ませました。
ここに生前のご厚誼を深謝し衷心より御礼申し上げます。

最後まで非常に多くの方々のご支援を頂きました事に
心から深く感謝いたします。ありがとうございました。


このサイトは彼女のBlogから繋がった多くの支援者の皆様のご協力により、
生前のAYAの想いや軌跡等、
および残された文章を僭越ながら綴らせて頂いております。
よって若干プライバシーに関わる内容も一部御座いますが何卒御了承ください。
なおサイトのタイトル名は『SAZABY SAZABY』から、
愛しのサザビー・特設サイト『GOOD LUCK』に変更されました。
これからも今まで同様、宜しくお願い致します。


2007年 1月22日

執事 Y


※このサイトは「GOOD LUCK」携帯用サイトになっております。
記事の閲覧は続きからリンク先へ進んでください。

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2006年11月17日

家 族 の 絆

昨晩ついに私の身体がいうことを聞かなくなった
それでも娘たちに逢いたい気持ちは変わらなくって・・・
看護士さんに頼んで兄に電話をしてもらいました


明日、2人を病院に連れてきてくれるって!


ときめいたよ〜
まるで恋人に逢える気持ちになれた
愛しい2人に逢えるんだ
今日まで生き延びて本当に良かったYo!
痛かったけど我慢したかいがあるってことだね

身体は熱っぽいけど、息苦しさはあまりなくって
これなら何とか持ち堪えられそうです

神様、あと1日でいいからさ
せめて明日、あの子達を抱きしめることができるその瞬間まで・・・
どうぞ生かしてください


生  か  し  て  

あ  と  1  日  で  い  い  か  ら  さ






×月×日 ×曜日

当日の午後、寝たきりで動けなくなった私を兄は訪問してくれました。
でも・・・でもね、
そこに私の愛しい娘たちの姿はなかったの。


動 物 は 病 院 に 入 れ な い ん だ っ て ・ ・ ・


兄は病院の受付で必死に話をしてくれたらしいのだけれど、
勿論、そんな特例は認められるはずも無く・・・あっさりと却下されたそう。

まぁ・・・当たり前の事なんだけど、ね・・・

2人の娘達は病院の駐車場の車の中にいるのに
こんなに近くに来ているのに・・・


マ マ は も う 独 り で 身 体 を 起 こ す こ と も で き な い


兄のせいではないけれど、私は会話もする気力がなくなっていました。
だって、そのために今日も1日頑張って生きたのに・・・
面会も出来ないなんて、ね。


私は担当医のN先生に病院の駐車場まで外出させてもらえるように頼み込んだの。
でもいつもは優しいN先生もこれには首を縦に振らなかった。

あはは・・・
私って、もうそんなにどうしようもない状態なんだ(汗


兄は私に娘達の日常を話してくれました。
本来それは聞きたくてしょうがなかったことなのに、
今はそんな気分になれなかった。

だってこんなにすぐそばにいるのに・・・
2人をひと目見ることすら許されないなんて!


先生、今、外に出られるんなら・・・
私、そこで死んじゃっても本望だからさ


私 の 願 い を 叶 え て あ げ よ う よ ! !


兄が病室の窓を開けてくれました。
静かな私の部屋に涼しい外気がなだれ込んできます。


『ここからやったら二人が見えるかもしれへん』


けれど、私の病室は7階です。
仮に地上を覗き込むことが出来ても、彼女達は私を発見できないでしょう。

『それじゃ、あまり意味はないのよ・・・』

私は兄に苦笑しながら軽く首を横に動かしました。
彼女達に逢いたいのは私のためじゃないんです・・・
あのコ達にママは元気だって伝えたかったからなんです。

もし自分だけで良いのなら携帯を使ったテレビ電話でも十分なんです。
でも、そうではない・・・


私 は あ の コ 達 を 抱 き し め て あ げ た か っ た の だ か ら




そこへ看護士さんが入ってきた。
どうやら面会時間も終了ということらしい・・・
あまり長時間の面会が許されていない私には仕方の無いことだけれど
ちょっとぐらいイイじゃない?私、もう時間がないんだよ・・・

不機嫌になった私の前で兄は看護士さんに会釈をすると、
そのまま何も言わずに病室の外へ姿を消しました。


釣れないなぁ・・・お兄ちゃんも


今日は娘達二人に逢えるって期待していた分、
その夢が叶わなかった分だけ余計に疲れがでた感じです。
でも夢や希望って所詮そんなものなのかもしれない。
簡単には叶わないだろうし、
手が届きかけた瞬間に指先から滑り落ちるもの・・・
今の私の娘達を抱きしめたいという夢は普通は決して難しいことではないけれど
自分の現状に置いては厳しい目標であるには変わりない。


私はふて腐れ気味のままベッドに仰向けに転がっていました。
見つめる天井に向かって自分の存在意義を問いただします・・・


私 っ て 、 な ん の た め に 生 き て い る ん だ ろ う ?


子供達を悲しませて
家族に迷惑をかけて
頑張れば頑張るほど・・・

その見えない溝は大きく広がっていくような気がします。






その時でした!


『 き ゃ ん き ゃ ん き ゃ ん ! 』


廊下側のほうであのコの鳴き声が聞えたのです!
それは一時も忘れることのなかったサザビーの声。


幻 聴 ・ ・ ・ ?


ここに来るわけない娘の声が聞えるなんて、
私の耳もついにボケてきてしまったのかもしれません。


『 き ゃ ん ! 』


ふたたび大きな遠吠えが聞えました。
それは幻聴なんかではなくて、間違いなく現実の・・・

彼 女 の 声 !


う ・ ・ ・ そ ・ ・ ・ ?


病室の扉の向う側から聞えたその声は私に力を与えてくれました。
あれほど上体をおこせなかったはずなのに、私は自らの意思で身体を起こしたのです。

サ・・ザ・・・・ビ・・ー・・・・

幻聴なんかじゃなくって、そこに彼女はいる?



ガ ラ ガ ラ ・ ・ ・ !



突然、目の前の病室のドアが大きく開いたかと思うと
そこには息を切らした兄がララとサザビーを抱いたまま立っていました。


『 連 れ て き た で 〜 ! 』


兄は勝ち誇ったようにそう言いながら私のベッドに歩み寄って・・・
ララとサザビーは私に抱きついてきました。

う、そ・・・?
なん・・・で?
どう・・・して?


兄は軽く笑うと親指を立てて上に向けました。
私も驚きながら、顔から笑みがこぼれます・・・

理由なんか、もうどうでもイイんです。
ただ、こうして彼女達に逢えることができるのなら
なんだってイイんです。


『 ご め ん ね 、 ラ ラ 、 サ ザ ビ ー ! 』


私は愛しい娘達を思いっきり抱きしめました。

ララは『ゴロゴロ』と喉を鳴らして、
サザビーは『きゃん!』と鳴きます。

それは決して忘れることのなかった懐かしい彼女の達の温もり・・・
私は嬉しくて嬉しくて、心の中で叫びました。


わ た し 、 生 き て る よ 〜 ! !


沢山の涙がパジャマと彼女達を濡らします・・・
けれどそれは決して悲しい涙なんかじゃなくって、嬉し涙だったのです。


感動するって凄いこと・・・
だって私の身体が、もう一度こうして動けちゃうんだから・・・
家族や愛情って本当に凄い!



その時、私の視界に兄の背後に立つ看護士さんの姿が映りました。

あ・・・・
や、やば・・・


私は慌ててララとサザビーをベッドに隠そうとします(汗)。
兄はそれを見て言いました。

『なにやっとんねん?』

私は兄に目配せをして後ろを振り返るように指を指すと
彼は後ろを振り返り・・・


呑気に看護士さんにお辞儀をしたのです!?


あっけに取られる私・・・
看護士さんも兄に会釈をしてそのまま私の方へ!!


『あ、あ、あの・・・』


看護士さんは兄の横に来て言いました。

『可愛いいワンちゃんたちね、でもあまり鳴かせないように気をつけてね!』

彼女はそう言うと私のベッドの布団から頭だけを出したサザビーを見つめます。


『 ど 、 ど う い う こ と ? ? 』


兄がポツリと言いました。

『N先生がな、許してくれたんよ!特別や、言うてな』








彼は一度私の部屋を出て駐車場に戻ったそうです。
ところがララとサザビーを見ているうちに
どうしても私に娘達を合わせたくなって・・・

彼女達を抱いたまま、走って病院に舞い戻ったそう。

ところが受付で看護士さんや警備員に止められて
モメにモメてしまったそうです・・・(当たり前だ!)

看護士『困ります、病院内に動物の持ち込みは禁止されているんです』

兄『わかっとるがな、そやけどほんのちょっとでええんや、お願いしますわ!』

警備員『ダメだといったらダメなんです。これは規則なんだから!!』


病院の正門玄関の入り口での押し問答・・・
その喧騒を偶然通りかかったN先生が見つけて、
私の看護士さんと一緒に間にはいってくれたのだそう。

N先生『お、お兄さん、なにやってんですか?』

兄『そやから動物はあかん言われたって、こいつらは妹にとって家族やから・・・』

看護士『でもお兄さん、これは規則です。なんと言われたって無理なんです』

N先生『動物は病室への入室を許可できないんですよ』

警備員『わかったら、君も2匹を連れて早く病院を出て!』


それを聞いた兄は吠えるサザビーを抱いたまま言ったそうです。


兄『2匹やのうて妹には家族やから2人なんや、
世の中には色んな人がおんねん、人間だけが家族って思わんといてや・・・』



彼はそのまま先生たちに背を向けて

兄『無理やって、ララ、サザビー、諦めるしかないようやのう・・・』

そう言って娘達をなだめながら病院を外に出ようとしました。
その時・・・



N先生『お兄さん、ちょっと・・・』



N先生が兄を呼び止めました。
兄は先生の方を振り向くと、彼はこう尋ねたのだそうです。

N先生『その子達の名前は・・・なんて言うのですか?』



ラ  ラ  と  サ  ザ  ビ  ー  


その名前を聞いたN先生は何かを思い出したのかもしれません。
ううん、ひょっとしたら覚えていてくれたのかもしれません。

けれど決断するまで、そう時間がかかることはありませんでした。



N先生『もう面会時間も終了間際ですから、あまり時間はありませんが・・・』



ビックリする兄・・・
いや、そこにいた看護士さんも警備のおじさんだって、それは驚いたことでしょう。
私だって後から聞いてビックリしたのですから・・・


看護士『N先生、病院内にペットの持ち込みは禁止されてます』

警備員『先生、これは規則ですから、ここを通すわけには・・・』



兄は後にこの時のN先生の言葉を私にそっと伝えてくれました。
その時ね、ちょっとだけ・・・N先生が格好良くみえたんです。


N先生『ララとサザビーはペットじゃなくって家族なんだよ

    Aさんの娘さん達なんだ・・・通してあげなさい!』













消灯時間が近づく頃、兄は2人を連れて帰りました。
私はとっても名残り惜しかったけれど、それでも心の中は満たされていました。


私は皆が帰った後の病室でN先生と看護士さんに深く謝罪をしました。
いくら何でもこれはやりすぎです・・・(汗)
けれど2人は苦笑しながら窓際に私を連れて行ってくれたのです。
すると、そこには・・・
地上で2人を抱いたまま歩く米粒のような兄が、
こちらを見上げながら大きく手を振っていたのです。
私は半ば呆れ顔でポツリと言いました。

『バッカだなあ・・・
お兄ちゃん、こんなことしちゃって・・・』


するとN先生が下にいる兄の方を向いて軽く手を振りながら言いました。


N先生『 そ れ は 家 族 だ か ら で し ょ 』


突然耳に入ってきたN先生の言葉に、私は何かを感じました。
それは私が病気になって周りとの溝が広がったように思ってたことを否定する言葉・・・

子供達を悲しませて
家族に迷惑をかけて
頑張れば頑張るほど・・・

その見えない溝は大きく広がっていくのではなく、

愛しい人達の為に生きようとすればするほど、
その絆は深く強いものに変わっていくということ




まだまだ私は生きられます・・・

そんな風に感じさせてくれるのも、
きっと家族や周りの応援してくれる皆さんのおかげなんです。


愛 し い 人 達 よ 、 あ り が と う 

  
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2006年10月25日

奇 跡 の 扉 ( 後 編 )

神様は時として残酷です
ここまでして私に選択を迫ってくる・・・

それは愛しい子供達の中から、自分が今一番
一緒に居てあげたい子供を選ぶということ!
どのコも変わらないぐらい愛していても、
自分にその答えを問わなければならないんです

仮に誰かを選んでも、そのあとでかならず葛藤する・・・
結局、これは答えなんて出せない問題なんです




『マリア、マリアは何で生き返る願いを祈らなかったの?』


彼女は娘に向かってポツリと言いました。
マリアはザクレロを抱きかかえながらこう言います。


『マリアはね、ママが大好きだよ、でもずっとママのそばにいると
 ママが疲れちゃうから、しばらくママをお休みさせてあげたかったんだ』



彼女は静かに娘の手をとって、ギュッと抱きしめました。


『ママがマリアのこと、嫌いなわけないじゃない。
 ずっと、ずっと謝りたかったんだよ。
 海でね、マリアと別れてしまった後も、
 毎日毎日マリアに謝っていたんだから・・・

 ごめんなさいって・・・』



彼女はそう言って大粒の涙をポロポロとこぼしました。
マリアはそれを見て笑顔になって彼女に抱きつきます。


『マリアのこと、嫌いじゃなかったんだぁ・・・☆』


そんな風に思われていたなんて、彼女としてはとてもショックだったのですが、
それもこれも、きっと自身が大人に成長していなかった証なのでしょう。
恐らく母親として未熟だったのかもしれません・・・

マリアは懐かしい夏の海の香りがしました。
彼女はそんなマリアの耳元で小さく呟きます。


『もしママが家族みんなと一緒に暮らしたいって祈ったら、
 あの子達も大丈夫なんじゃないかな・・・』



扉の向うでこちらに来れない2人を見つめながら、
彼女がそう言うとマリアは首を横に振りました。


『ママ、それは一緒には暮らせるかもしれないけれど・・・
 ひょっとしたら皆、こっちの世界に来ちゃうのかもしれないよ』



娘の言葉に彼女は扉の向うの2人を見つめました。
確かにそうです・・・
自分が生き返らないで彼女達と一緒に暮らすという願い事は
彼女達が他界してこちらに来なければ叶わないはずです・・・



無 理 だ ・ ・ ・ 


私が生き返る願いを祈らなくちゃ、もうあの2人には逢えないんだ




たった一枚の『奇跡の扉』、
その扉の向うで手を伸ばす位置まで来ている彼女達・・・
けれどその温もりは感じることが出来なくて、
改めて彼女は自分の置かれた立場を深く感じました。


『ママ、行って来なよ』


マリアが彼女に言いました。


『大丈夫、またこうやって何年か待ってるからさ』


彼女はそれを聞きながらゆっくり立ち上がると、
マリアとザク、ググじいさんに向かってコクリと頷きます。


『お別れ・・・してくる』


マリアは驚いた表情をして・・・
ザクとググじいさんが彼女を見上げました。
彼女はクルリと扉の方向に向きを変えて歩き出します。


『ママ!ダメだよ、生き返って!!
 あの子達のそばに居てあげてっっ!』



大きな声でマリアが叫びました。
けれど彼女はそのまま扉まで歩くと、
残された向こう側の2人の娘たちの前で立ち止まり・・・
視線の高さが合うようにしゃがみ込みました。
そしてスッと彼女達の方に手を差し出します。
しかしその手は透明な冷たいガラスのような壁に遮られました。


こうなっているんだね・・・


2人の娘たちも必死でこちらに来ようとしますが、
彼女と同じ様に壁に遮られてしまいます。


『2人とも、よく聞いて・・・ね』


彼女がポツリと呟きます。
もがくように壁にぶつかる2人はピタッと動くのをやめました。


『残念だけど、ママはもうそっちに戻れないの。
 そして2人も、こっちの世界に来るにはまだ早すぎるの。
 だから今は離れ離れになっちゃうかもしれないけれど、
 またきっと逢えるからその時まで良い子にしているのよ』



彼女の話に耳を傾ける娘達はジッとして、
そして時折ブルブルっと体を震わせました。


『2人がこっちの世界に来れた時、ママがかならず迎えに来るから・・・
 大丈夫、その時はこの扉がもう一度現れて、今度は絶対に渡って来れるから、
 ママ、ちゃんと祈るから・・・』



マリアとザク、ググじいさんがこちらにやってきます。
残された向こう側の2人は何とも悲しそうな表情をしました。


『だいじょうぶ・・・
 絶対にまた一緒に暮らせるから』



私は涙で前が見えなくなりました。
けれどそのまま言葉を続けます・・・


『ララ・・・
 ララはママのウチに来れて幸せだったかな?
 ほんのちょっとした行き違いでウチの子になったのだけれど
 ママは今、その偶然にとっても感謝しています。
 いつも綺麗で美しかったララ、
 これからも素敵な女性でいてください』



ララと呼ばれた白いチンチラは『にゃ〜』と私を見上げて鳴きました。


『サザビー・・・
 びっこはママがメイドで幸せだったかな?
 あなたとは一番短い期間しか一緒に居られなかったけれど
 ママに沢山の思い出を作ってくれて感謝しています。
 いつも気が強くって甘えん坊なのに、
 ママを守ってくれて本当にありがとう』



サザビーと呼ばれた白茶のパピヨンは『きゃん!』と私を見上げて鳴きました。


『この子達が・・・私の妹なんだね』

マリアが私の隣にしゃがみます。

『こんにちわ、ララ、サザビー、
 私がお姉ちゃんのマリアだよ、はじめまして!』


ララとサザビーは彼女をじっと見つめます。

『一緒に暮らせるまで、ここで待ってるからね。
 ママのことは心配しないでいいよ、
 マリアがちゃ〜んと守るからさ!』


扉の向うの2人は初めて見るマリアを見つめたまま表情を変えませんでしたが・・・
ララは軽く2度、3度、その長い尻尾を左右に振って喉を鳴らします。
サザビーもマリアを見つめたまま、いつの間にか『エヘへ』と笑顔になりました。


私はもう涙が止まりませんでした。
けれど自分の愛しい娘たちが笑顔でお別れしてくれているのです。
格好悪い所は見せられません・・・


『ララ、サザビー・・・
 ママ、あなた達が大好きよ』



もう何度も口にした在り来たりの言葉しか出ませんでした。
けれど言葉にしなければいけない気がしたのです・・・

普段、当たり前のように感じている感情も、
恥ずかしくて言えない様な感謝の気持ちも、
今、言わなければ・・・

もう伝える術が無くなってしまうのですから・・・





カ  チ  ャ  



その時、大きく開いていた扉が静かに音を立ててゆっくりと動き出しました。
それは私のいるこの世界と向うの世界を断ち切ろうとする扉の音・・・

そう、『奇跡の扉』はゆっくりと閉まり始めたのです。

少しずつ、少しずつ、2人の笑顔が扉に隠れていきます。


泣いちゃダメ、泣いちゃダメだ・・・


私は段々見えなくなる2人の姿の前で自分に言い聞かせます。
やっとの思いでかすれた声を搾り出して



『皆と永遠に一緒に暮らせますようにって・・・
 こっちで、扉の向うでずっと待ってるからね』




と言うのが精一杯でした。
次第に向う側の景色が扉に遮られて狭まり、
こちらを見つめる彼女達の姿も徐々に隠れ始めていきます。
それでも私は言葉を続けました。



『 ず っ と 待 っ て る か ら ・ ・ ・ 』



私がそう言ったその時、
僅かな隙間からサザビーが必死で顔を覗かせたのです!
その瞳はキラキラ光っていて、決して悲観的なモノではなく
希望に満ちた、それでいていつもの笑顔でした。


び っ こ ・ ・ ・


私はその扉の隙間に手を差し伸べようとした瞬間、
その気持ちを押し殺すように思い留めて・・・
彼女に笑顔で言いました。




『 今 度 逢 う そ の 時 は ・ ・ ・ ボ ー ル 、

 忘 れ な い よ う に ち ゃ ん と 持 っ て く る の よ っ っ ! 』





私の声が届いたのでしょうか・・・

ほんの僅かな隙間から、サザビーの笑顔が見れたのです。
それは彼女との生活で毎日見ることができた、
お馴染みの『エヘへ』って笑った顔でした。





ガ   チ   ャ   ン   ・   ・   ・




奇跡の扉』が完全に2人の前で閉じました。

私は扉の前で崩れ落ちるように両手を地面に置いて、
ガックリと肩を落としてしまいました。
そんなうな垂れた私を見かねたマリアが小さな声で囁きます。


『ママ、今からでも引き返せるよ、
 生き返らせてって、、、扉の前でお願いして・・・』



愛娘が私を諭すように言いました。
けれど私はそんな彼女に笑顔で軽く首を横に振ります。


『いいの、最後のお願いは皆の為にちゃんと取っておきたいし・・・
 それにママ、向うでちゃんと一生懸命生きてきてから、
 もう何も思い残すことはないんだ』



私は完全に閉まった扉の前で、そっと両手を絡めて・・・
祈るように手を合わせました。










み ん な 、い つ か ・ ・ ・ 、

き っ と ま た 逢 い ま し ょ う ね











私は十字を切って生まれて初めて自らに祈りを捧げました。
そして扉の前でゆっくりと立ち上がると、
一緒にしゃがみ込んだままのマリアにそっと手を差し伸べます。
彼女は私の手を握って立ち上がると、
2人は懐かしくもある遠い昔を思い出すかのように、手を繋いで歩き出しました。
ザクレロとググじいさんも彼女達の後を付いていきます・・・



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



・・・彼女はハッとして目が覚めました。
薄暗い部屋のベッドの上で周りを見渡します・・・
今は一体、何時ごろ?なのでしょう。
そのまま眠い目を擦りながら辺りをキョロキョロと見回して、
窓の方に視線を移すと、外はまだ暗く夜明け前のようでした。

すると・・・


起きた?サザビー


かすかな声が彼女の名前を呼びました。
サザビーは視線を感じ、そちらに目をやると
そこにはララが同じ様にコチラを見つめています。

彼女達は視線を合わせると、共に大きなアクビをして呟きます。


夢を見たよ


私も見たよ


2人はもう一度顔を見合わせました。




マ  マ  の  夢  だ  っ  た  ね  ☆




そう言葉を交わすと、2人は広すぎるベッドの上で横たわったまま、
何かを思い巡らせながら大きなため息をつきます・・・


良い子でいれば、いつか逢えるってさ


みんな先に向うで待ってるってさ


窓の向う側から朝日が少しずつ差し込み始め、
ベッドの上のララとサザビーを照らし出していきました。
それは僅かな輝きでしたが、2人の希望の光のようにも見えたのです・・・




絶 対 に ま た 逢 え る よ ね !




彼女達はニコっと笑うと、もう落胆なんてしませんでした。
だって私と約束したんですから・・・




また一緒に暮らしましょう、今度は永遠に!・・・って




そう・・・今の私も、きっと同じ気持ちでいることでしょう。
それは勿論、私の家族だけではなく多くの励ましを送ってくれた
読者である皆さんにも同様の気持ちです。


あ・・・でも、その前に私自身が、
奇跡の扉』に出会えるかどうかが先ず問題ですね(汗々)。





























み ん な 、 だ い じ ょ う ぶ っ !

私 は ち ゃ ん と 、 こ こ に い る よ !




2006 10 25 by Aya

  
Posted by good_luck0820 at 18:47Comments(1)TrackBack(0)

奇 跡 の 扉 ( 前 編 )

寿命を全うした人間は、この世を離れて霊界に向かう途中で、
ある1枚の大きな扉に出会うそうです。
その扉は『奇跡の扉』と呼ばれていて、
願い事を祈りながら扉を開くと、その願い事が叶うのだそう。
ただし、この扉は現世で良い行いをした者にしか見えません。
更に願い事はたった1つだけ・・・
自分の為にしか使えないのだそうです。


とある女性が扉の前に立っていました。
彼女は現世に2人の娘を残して旅立ってきたばかり・・・
途方に暮れて歩いている時に突然、目の前に扉が現れたのです。

そう、目の前にあるのは『奇跡の扉』・・・

彼女はその扉の存在を知っていましたし、願い事も決めていたそうです。
勿論、それまで落ち込んでいた彼女でしたが、
その扉を目にした瞬間、微かな希望に胸が膨らみ安堵の表情に変わります。


も う 一 度 、 こ の 世 に 私 は 戻 れ る ?

生 き 返 る こ と が で き る ・ ・ ・



これは運命に逆らう事になるけれど、
この世に残してきた子供達に寂しい思いをさせずに済む唯一の方法。
彼女は何の躊躇いもなく願い事を祈りながら、扉のドアノブを握りました。


このまま扉を開けば、私は再び家族に逢えるんだ。
神様、どうか私を生き返らせてください



握り締めたノブをゆっくりと回して・・・
扉を前に押そうとした、その時でした!!


マ マ ・ ・ ・


彼女の耳に誰かの声が聞えてきたのです。
それは懐かしい彼女の心を揺り動かす声・・・

彼女は扉を押す力を一瞬緩めて、慌てて辺りを見回します、
しかし周りには誰の姿も見当たりません。


幻聴・・・?


その声』は扉の向う側から響くように聞えてきました。


マ マ 、 私 や っ と マ マ に 逢 え る ん だ よ


その声は忘れもしない幼い頃に他界した彼女の娘の声だったのです。
娘はこの世にはもういない・・・現世には、もう戻れない?

今、自分が現世に戻ってしまったら、彼女はまた一人になってしまう?

彼女は扉のノブから手を放しました。
自分にはどの子も大切で愛しい子供達です。
どうしたら良いのでしょう・・・

彼女は深くため息をついて自分に問いたのです。


何 が 大 切 な の か を ・ ・ ・ 


扉の前にうずくまった彼女は、頭を突っ伏したまま・・・
目を閉じて、
息を殺して、
ゆっくりと深呼吸を繰り返します。


願い事はたった1つだけ・・・
それも自分の為にしか使えない



亡くした娘はあちらの世界で待っていて、
残してきた娘達はこちらの世界で待っている。

だけど、どうやっても両方の世界を繋ぐことは出来ないのです

このまま扉を開かずに運命に逆らわなければ、亡くした娘に逢えるけれど
残してきた娘達には永遠に逢えなくなってしまうかもしれない。
このまま扉を開いて生き返る願いを叶えれば、残してきた娘達には逢えるけれど、
亡くした娘には永遠に逢えなくなってしまうかもしれない。

彼女はふっと笑みを浮かべました。


結局、私って誰にも逢えないだ・・・
だって、どちらかを選ぶなんてことなんて、出来ないんだもん



もし・・・
願い事が何でも許されるのなら、亡くした娘を蘇らせたかったな。
それが、この世で私が犯した罪への唯一の罪滅ぼしになるんだから・・・
















み ん な ・ ・ ・ ご め ん 、

マ マ 、 誰 に も 逢 わ な い か ら さ 、

ど う か 許 し て く だ さ い !




彼女はそう呟くと、在りし日の娘達の幸せそうな笑顔を思い出しました。
どの子も幸せそうで自分の腕の中にいた子供達です。
もう二度と自分の気持ちは子供達に届かないかもしれないけれど・・・
こうやって記憶の中ではっきり覚えてるだけで十分。


彼女はうずくまった状態から立ち上がると、
少しだけ開きかけた扉を見つめました。
そして何も願わないことを心に決めて・・・


これで良かったんだよ


そんな風に言い聞かせて、彼女は扉に背を向けました。


皆 に 逢 い た か っ た な ・ ・ ・


彼女がそう呟いた時・・・





カ   チ   ャ   ・   ・   ・





奇跡の扉』が静かに音を立てたのです!



え ・ ・ ・ ?


彼女は慌てて扉のほうに視線をやります。
扉は左側から、ゆっくりとコチラに向かって開き始めました。
ドアの隙間が少しずつ、少しずつ広がって・・・
向こう側の世界が彼女の目に映し出されていきます。





う そ ・ ・ ・ !





彼女の視界に飛び込んできた景色は・・・
横一列に並ぶ懐かしい自分の子供達の姿でした。


一番目に見えたのは幼い少女

二番目に見えたのは白黒の雄猫

三番目に見えたのは白茶の雄猫

四番目に見えたのは白い牝猫

五番目に見えたのは白茶の牝犬


扉が全て完全に開いた時・・・
そこには彼女の愛しい家族5人が、ドアの向こう側からこちらを見つめていました。

みんな、誰一人悲しい表情ではなく・・・
笑顔で彼女を見つめていたのです。




な、なんで・・・?

何も願っていないのに?




扉の向こう側から子供達が自分に向かって歩き出してきます。


『ママ〜、やっと逢えたじゃん!』


幼い少女がそう言って彼女に抱きつくと、
白黒の猫が彼女の手を舐めて『ニャ〜☆』と鳴きました。
白茶の猫も相変わらず声が出なかったけれど、『ゴロゴロ』っと喉を鳴らします。

彼女は娘にそっと尋ねました。

『ママ、何も祈ってないのに何で逢えたのかな・・・』

幼い少女はクスっと笑うとこう言いました。



『ママ、私が扉の前で願ったの、もしママがこっちに来たら、

 どうか家族に、みんなに逢えますようにって!』




彼女は初めて状況が飲み込めました。
そう、つまり『奇跡の扉』は自分の前だけではなく、
愛しい娘の前にも現れていたのです・・・


猫達や犬も勿論、私の大切な家族です。
だから彼女の願いは、全ての家族を揃えてここに集めてくれたのです。




あ り が と う ・ ・ ・ マ リ ア




マリアは嬉しそうに彼女に抱きつきました。
彼女は猫達を何故ながらふと気づきます・・・
それは扉の向こう側に居る白い猫と小型犬。
2人だけは自分の下にやってきません・・・


『おいで、今まで寂しかったでしょ?ごめんね』


彼女はそっと手を差し出しましたが、
彼女達はピクリとも動かずジッと彼女を見つめたままです。


『怒ってるのかな・・・』


彼女がそう呟くとマリアが言いました。


『違うの、ママ・・・
 たぶんあの子達はまだ、こっちの世界に来てないの。
 私も知らなかったんだ、こんなに家族が増えているなんて・・・』



マリアにそう言われて彼女は驚いて扉の向う側の2人を見つめます。
そうなのです・・・
自分のそばにいる子供達は、全て数年前に他界した子供達。
そして勿論、自分もです。
残された2人の娘はまだ現世で生きてるから、
こうして逢えても、触れることは許されないのでしょう。


だからマリアは私が他界してから逢える様に祈ったのです。
それは結局、こちらとあちらの世界を繋ぐことが出来ないから・・・


扉の向こう側との距離は僅かに数メートル・・・
2人の娘達はジッと私を見つめていました。


どうしようもないのかな・・・


マリアとザクレロ、ゲルググは扉の向うの2人に視線を送ります。
残された2人の娘は必死にこちらに来ようとするのですが、
扉の境目に見えない壁があるかのように、何かがそれを拒むのです。

それを見ながらマリアが言います。


『ママ、ママも祈れば良いんだよ、
 生き返らせてくださいって・・・』



彼女は娘の言葉にハッとしました。
確かに彼女はまだ何も願ってはいません。
残された望みは自分が生き返ることに使えば、
扉の向うの娘達とまた一緒に暮らせるのです・・・

しかし彼女はゆっくりと小さく首を横に振りました。


『それは、出来ないよ・・・』


彼女はため息をつきました。

『なんでよ?』

マリアが不思議そうに聞き返します。

その娘の大きな茶色い瞳はあの頃のまま・・・
きらきらと輝いていて何も疑うことを知らない綺麗な瞳

彼女はその瞳をしばらく見つめてからポツリポツリと口を開きました


もし私が生き返ってしまったら、
せっかく逢えたマリア達とまた離れ離れになってしまう・・・

マリアはずっと今日の日を待っていてくれたのに、
逢えたからってすぐに元には戻れない



ザクレロとゲルググが静かに彼女の膝の上に乗ってきます
そう、この子達だって待っていてくれたのです
そしてようやく再会できたはずなのに・・・



マリアは彼女を見ながら呟きました。

『ママ、私は大丈夫だよ、こっちにはザクやググじいさんがいるもん。
 あの子達、まだ小さいんでしょ?戻ってあげて・・・』


彼女はビックリして自分の愛娘を見つめます。


あのワガママ娘が暫く逢わないうちに、
また随分と大人になっちゃったな・・・



人は死んでも成長するのでしょうか・・・?
マリアの思いがけない言葉に彼女はただ驚くばかりでした。


後編に続く

  
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2006年10月23日

最 後 の お 散 歩

犬にとってのお散歩は、飼い主とのコミュニケーションを計る上でも
重要な日々の日課の一つです。
更に、このお散歩から学ぶべきことは色々とあるのだけれど・・・

私は7年間、いつもサザビーに教えられていたような気がします。


×月×日 ×曜日

『だいじょぶなんか?』

兄が車から降りた私に言いました。
私は軽くうなづくと車内にいるサザビーに指で合図を出します。

『大丈夫よ、いつも歩いていたコースだし・・・
 サザビーも一緒にいるんだから、ね』


私の言葉が言い終わらないうちにサザビーも車から飛び降りました。

『ま、それならええんやけど何かあったらすぐに携帯で連絡せえよ。
 ここに車を停めて待っとるさかい・・・』


私は兄に笑顔で視線を送ってサザビーを抱き上げます。

『お兄ちゃん、心配しすぎだってばっ。たかだかびっこのお散歩よ?
 私はこれを7年間、毎日続けてきてたんだから(笑)』


サザビーが私の腕の中で『エヘへ〜』と笑顔になりました。



外は晴天、平日の午後だけあって公園には誰もいませんでした。
私はリードを緩めてサザビーに話しかけます。

『びっこ、ママさ、体力落ちてるかもだから・・・
 今日はスローペースでお願い?できる?』


私にそう言われるとサザビーは笑顔のまま軽くリードを引き始めました。

季節はもう秋の気配・・・
木々は緑の葉を赤く染め始めて、夏とは違った涼しい風が私達を包み込みます。


こ れ が 、 最 後 の お 散 歩 に な る ん だ な ぁ ・ ・ ・


私は少々センチになって見慣れた公園の風景を目に焼き付けて歩きました。
何度も何度も彼女と一緒に足を運んだ、この思い出の沢山つまった公園にも
もう二度とお散歩に来ることが出来なくなるのです・・・
そう考えたら目の前をかっ歩するサザビーに申し訳なくなってしまいました。

そんなサザビーはと言えば、全く普段と変わらないようにお散歩を愉しんでいます。
時に木の根っこの匂いを嗅いでおしっこをかけたり
芝生の中をちょこちょこ探索したり、
その姿はいつもと全く変わりありません。

変化があるのはそんな彼女のリードを引いている飼い主である私の方・・・


もっと沢山、
もっと数え切れないほど、
彼女とお散歩をしておけばよかった。

私の頭には、そんな言葉が繰り返されます。
初めて彼女とこの公園にお散歩に来た時から約7年・・・
色々な思い出が出来たけれど、これで終わりにするのは早すぎる。
だって彼女はまだ7歳、15歳まで生きたとしてもまだやっと半分なんです。

どこの世界に『最後のお散歩』とわかりきって愛犬と歩く飼い主がいるのでしょう。
最後のお散歩』は過去を偲んだ時に初めて
あれが最後のお散歩だったんだ』と認識するものなわけで・・・
その大半は愛犬が目の前からいなくなるという図式の元で成り立つこと。

なのに・・・
当のサザビーはこんなに元気なのに、
私は今散歩をしているこれが『最後のお散歩』と認識しちゃっている。


そ れ は も う す ぐ 私 が こ こ か ら い な く な る か ら な の だ




いつも2人で歩くお散歩コースには小高い坂道があるんです。
勿論、そこはそれほど傾斜があるわけでもない・・・
ただそれも健康な人間ならではのこと。

サザビーは嬉しそうに坂を駆け上って行きます。
私はと言えば、足元がフラつきながらも彼女の後を必死で追います。


『こんなに坂って急だったっけ・・・(汗)』


全然そんなことはないんです。
それは私の体力が無くなっただけのこと・・・

坂道の途中、いつものように私の胸に胸痛が走りました。


ま た 来 ち ゃ っ た ・ ・ ・


今日はサザビーとの最後のお散歩なのです。
それなのに病気は待ってはくれません。
私はあまりの痛みに耐え切れず、地べたにしゃがみ込んでしまいました・・・

先を歩くサザビーが立ち止まって私を振り返ります。


マ マ ? 

ど う し た の ・ ・ ・ ?



また心配をかけてしまった・・・
本当にダメなママだよね、せっかく『最後のお散歩』なのにさ
でも大丈夫だからちゃんと待っててね、びっこ!
ママ、最後まで一緒に坂を上りきるからさ


私はよろよろと立ち上がり胸の痛みを堪えました。
サザビーはそんな私を心配そうに見つめています。

ごめんね、びっこ・・・
一歩一歩、地面を踏みしめるようにしか歩くことしかできないなんてね。
情けないでしょ?
でもね、ママさ、もう一回ちゃんとあなたとお散歩したかったんだ


私はようやく彼女の近くまで辿り着くことができました。


『いこっ、びっこ!』


彼女のリードを持って軽く促すと、
サザビーはこちらを気にしながらも前に歩き始めました。

けれど私の具合が良くない事に気づいたせいでしょうか・・・
彼女はペースをグッと抑えたまま、時々私を振り返っては立ち止まります。


私はそんな彼女を見ながらため息をつきました・・・

『ごめん、びっこ。こんなんじゃお散歩にならないよね
 もうちょっとペースを上げても大丈夫だからさ・・・』


けれどサザビーは私を見上げたまま動きません・・・
彼女なりの心配なのでしょう。

その愛しさ、ママはしかと受け取ったよ















この公園に初めてきた時、サザビーはまだ生後半年ぐらい。
この坂道を必死に私の後をトコトコと付いて来ていました。
私はと言えば、少々冷たい育て方・・・
ショーに出陳することも視野に入れていたために抱っこは厳禁!
オマケに子供だからと甘やかすことも無く、
私に引き離されないように必死に歩く彼女を

『マクセ(アンドロマクセ)、置いてくよ!』

と冷たく言い放っていたのです・・・
それでも彼女は私に声をかけられると喜んで走り寄ってきます。

そんな彼女を私は褒めることもせず、
ただひたすらショーの為に姿勢を良くさせて歩かせたのです。
そんな彼女の唯一の愉しみは、坂道の頂上で私に褒められること・・・


『 良 く 頑 張 っ た ね 、 マ ク セ ! 』


たったこれだけだった私達の関係・・・
それでもサザビーは忠実に子供の頃から私の言うことを聞いてくれたのでした。




あの時と、立場が逆転しちゃったなぁ・・・
冷たいママだったからバチが当たったのかもしれない


私は胸痛に耐えながらも、じっと下から見上げるサザビーを見つめます。

『ママさ、決して良い飼い主じゃなかったよ
 あの頃も精神的に病んでたしさ・・・
 愉しいはずのお散歩で何度も嫌な想いをさせちゃったでしょ』


坂道の途中で大きく息を付いた私は苦笑しました。


『今日はね、あの頃の仕返しが出来ちゃうよ、びっこ!
 今後のママを安心させる為にも、
 もうお前なんか相手にならないやって言うぐらい突き放しなさい!』



サザビーは私の足元でキョトンとしていました。
その瞳はなんだか悲しそうに映ったのです・・・


マ マ ? も う 歩 け な い の ?


そんな風に問いかけているように見えます。

『行けるから、行けるから・・・
 あなたも前に進みなさい!』


私は手で合図をして彼女を促します。
けれど・・・サザビーは前に進みません。
仕方なく私は少し前に歩き出しました・・・

ところが、サザビーは動きません。
その場所からこちらを見つめて座ったままです・・・


・・・ったく、強情なんだから(汗)


私はリードを離して坂道を頂上まで歩き出しました。
時々後ろを振り返ってサザビーを確認すると、彼女は相変わらず座ったまま・・・


『 な 、 な ん な の よ 〜 ! ( 汗 ) 』


こんな感じで今でも私は、時々サザビーが何を考えているのかわからない時があります。
けれど1つ違うのは彼女の意味不明な行動は、かならず理由があるということ・・・
ただ私がダメな飼い主だから、それを上手に気づいてあげられないんです。


ふぅ〜、やっと着いたよ・・・


結局坂道の頂上まで私は一人で登りきってしまいました。
サザビーはと言うと、さきほどの場所にまだ座っています・・・

なんなんだよ、びっこわ・・・(汗)

私は息を荒くしながらも頂上でしゃがみ込んで、そのまま座り込みます。
それを遠くで見つめるサザビーも依然として動きません・・・(汗)

まさか、また戻って来いとでも言うのでしょうか?


ま さ か ・ ・ ・ ね ( 汗 )


辺りは静かに川風が吹いてきます。
もう夏ではありません・・・
風も夕暮れ時になれば冷たく感じる季節です。

胸痛の痛みは少しずつ治まってきました。
痛みでかいた冷や汗を拭うと私は半ば怒りながら・・・

自然とこう叫んだのです。






『マクセ(アンドロマクセ)、置いてくよ!』





言い終わらないうちにサザビーは凄い勢いで坂道を駆け上って・・・
あっという間に私の胸に飛び込んできました!
そして私に向かって


エ ヘ へ 〜 ☆


と笑顔を作ったのです・・・・・

なんで?
これは、どう意味・・・
なんで一緒に歩いてくれなくって
あの場所にずっと座っていたのでしょう?


まさか、びっこは幼い頃の元気な私になって欲しかったのかな・・・
いつも必死に自分が付いて行かなければならなかった
強いママ』に戻って欲しかったのかもしれない

そして私の『置いてくよ!』の声に坂道を駆け上がって・・・



褒 め ら れ た か っ た の か も し れ な い



私は勘違いをしていたんだ。
サザビーは幼い頃にここで私に冷たく置いていかれたことも怒ってはいなかった。
ううん、逆に私との大切な想い出だったのかもしれません・・・


あ り が と う 、 び っ こ ・ ・ ・


私は彼女の頭を幼い頃のように何度も撫ぜた後、
その当時は決して許されなかった『抱っこ』をしました。


今 日 ま で マ マ と 一 緒 に 

お 散 歩 を し て く れ て あ り が と う

一 緒 に 歩 け て 本 当 に 幸 せ で し た



彼女は嬉しそうに『エヘへ♪』と笑顔になります。


もうボールも投げられないし、一緒に歩くこともできないけれど
それでもあなたがこうして笑顔を作ってくれるなら・・・


マ マ 、 何 度 で も 頑 張 る か ら ね





その後、私達は2人で一緒に兄の待つ車に向かって歩きました。
それはゆっくりと一歩一歩、ただ歩くだけだったけれど、
私にとってはかけがえのない瞬間の積み重ねだったんです。


7年間は長くなくって、あっという間でした。
私は彼女と生活をするようになってから毎日夕方になると
彼女と一緒に車に乗り込んでお散歩に出かけます。

その時間は2人にとってとっても大切な時間で、
私達は一緒に歩くことが愉しくって、嫌なことを全て忘れさせてくれました。

そしていつしかその時間は私には当たり前の日常となっていて・・・
こうして終わりがくるなんて考えたこともなかったのです。



だ け ど ・ ・ ・

ママ、あなたと一緒にお散歩に行きたいから、かならず帰ってくる。
だから今度はサザビーが坂道の頂上で待ってて・・・


戻 っ て き た マ マ を 褒 め て く だ さ い


そしてまた一緒に公園を歩きましょう

その時はあなたが隣で私を見上げて


『 エ ヘ へ 〜 ☆ 』


って笑ってくれるの・・・










約 束 ね 、 び っ こ ♪

   
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2006年10月15日

永 遠 の 笑 顔

この世に永遠なんて存在しないんです
だから人は皆、いつかは死ぬんです
そんな風に寿命に限りがあることは誰しもが知っていること

だから・・・
だから私は死ぬことなんてちっとも怖くはない
遅かれ早かれ、いずれ誰しもに平等に訪れるモノだから

『何で私だけがこんなに早く?』

なんて思わないよ


そんなことより・・・
ママはあなたの『エヘへ』って笑う笑顔を見れなくなることの方が怖いんです



永遠のない世の中で、あなたとの関係だけは永遠だって信じていた私
今でも毎日当たり前のように笑ってくれるあなたの笑顔が
もう2度と見れなくなるなんて考えたこともなかったよ・・・


×月×日 ×曜日

ある晩、怖くてあなたを抱きしめたら、
それでもあなたは『エヘへ』って笑ってくれました


あ り が と う


その『エヘへ』はもうすぐ見られなくなっちゃういつもの素敵な笑顔
けれど本当に救われました

近い将来私に訪れるであろうその時が、毎日凄く怖くて苦しくて悔しいのに・・・
あなたの笑顔は一瞬でその事を忘れさせてくれました
ママも泣きながら『エヘへ』って笑っちゃったっけ・・・

その時、思ったの
この先その笑顔が見れなくなっても、あなたの笑顔は永遠なんです
目に映るモノだけが全てであって永遠』なわけじゃないんですよね


永遠とは心に刻み付けることができる幸せを指すの


ママと最後のお別れが来ても、どうか泣かないでください
泣かないでママを『エヘへ』って最高の笑顔で見送ってください

そしてママが居なくなっても、その笑顔を忘れずに
ずっと・・・ずっと永遠に笑顔でいてください



だって今度はその笑顔でママ以外の沢山の人を救ってあげなくちゃいけないんだもん
だから約束してね、愛しのサザビー

  
Posted by good_luck0820 at 22:24Comments(1)TrackBack(0)

2006年09月13日

コ ン ビ ニ 女

人間って死ぬ間際に誰を思い浮かべるのでしょう・・・

一番大切な人?
一番大切にしてくれた人?

それは家族、親だったり、兄弟、もしくは子供だったり
はたまた愛しい恋人だったり・・・人それぞれですよね。


あなたは誰を思い浮かべると思いますか?


私の場合は・・・誰だろう?



×月×日 ×曜日

その日の病室はなんとなく気まづい空気が流れていました。
私はパジャマ姿だったし、彼は相変わらず格好イイし・・・

オマケに
私は歳を食ってハゲてて・・・
彼は若くて格好よくて・・・

とてもじゃないけど釣り合いが取れていない。

彼の目には私がどう映っているだろう・・・
少なくとも格好イイ綺麗なお姉さんではないよね(汗)。
そんなことはわかってるつもりでも、いざ
こうして面と向き合ってしまうと・・・


私ったら声も出せない・・・。


ああ、Mくん・・・
もし私が健康であと10年若かったら、


絶 対 に ス ト ー カ ー に な る の に ! !




その日、Mくんは突然私の病室を尋ねてきてくれたのです。
綺麗な花を持って、私の好きなケーキを買ってきてくれました。

その時の私はと言えば・・・
看護士さんとケラケラと世間話をしていて、バカ笑いの真っ最中!
その突然の来訪に驚いたのなんのって・・・
心臓が8回も止まりかけたような気がします(汗)。

恐らくこれは・・・
このサプライズゲストは・・・


お兄ちゃんが勝手にMくんに言ったからに違いありません・・・


勿論それはそれで有り難いことだけれど、
今の私はハゲだしすっぴんなんだってば!!
こんな情けない姿を大好きな人に見られたくない
ヲトメ心』がなぜ兄にはわからないのでしょう!!

看護士さんは半分にやけながら

『ごゆっくり〜(笑)』

なんていい残して私達を二人っきりにしてしまいました。



『お、おひ・・・さ・・・!』



軽く手を上げて放った私の最初の第一声!

マヌケです・・・
本当に心の底からマヌケです(汗)。


そ れ も ハ ゲ て っ し ・ ・ ・ 


彼は2,3度頷いて『元気そうでよかったです』と言ってくれました。

その笑顔がカッチョ良くってさぁ〜
せっかく彼を忘れようと努力していたのに、
これじゃ〜また私の恋の炎が点火されちゃうじゃん!


今の私にその笑顔は灯油かガソリンの投下、だね・・・(萌えw)


彼は私のベッドの横に置いてある椅子に腰掛けてこう言いました。

M『サザビー達、お兄さんと元気そうに毎日お散歩してますよ』

私は布団のすそを顔の半分まで持ち上げながら何度も頷きます。
この至近距離じゃ〜まともに彼の顔を見られません・・・(恥)
見れるのは顔から下ばっかり・・・

でもその服装だって今風で、お洒落で格好イイ!
私なんて病院から支給される薄いガウンみたいな格好で
オマケに坊主・・・まるで三蔵法師みたいだよ(泣)。

世の中、不公平だ・・・
こうしていい出会いを演出してくれたって
決して上手くいかないようにシナリオが決まってて・・・

きっと将来Mくんと付き合う女の子は
私みたいに病気じゃなくって健康で
こ〜んな恥をかく様なこともないんだよ・・・


どこでこんな風に差がつくんでしょう、ね(笑)








Mくん『退院したらデートに誘ってもイイですか?』







私、一瞬病室が真っ白に見えたの・・・
そんな中でMくんだけがはっきりと視界に映ってさ、
耳を疑うってことよりも、幻聴でもいいから
このまま時間を止めて欲しかった。


デ ー ト ・ ・ ・ 


待ちに待ったその言葉は、彼の本心じゃなくたって良かったの。
ただね、、、こんな風に幸せを感じてみたかっただけなんです。

幸せは掴んだと思うとすぐにその手からすり抜ける。
だから大きな期待は抱かない・・・
でも、わずかでも淡い夢が見られるその瞬間が私は大好きなんです。


退 院 し た ら ・ ・ ・ 

是 非 、 誘 っ て く だ さ い !



それは病室だったし、
ハゲてたし、スッピンだったし、
オマケにパジャマで・・・
子供の頃から空想して憧れてきた
大好きな恋人の前で告白を受けるイメージとは
だいぶかけ離れていたのだけれど・・・

でもね・・・


嬉 し か っ た !


私にも人生でこんなシーンを演出してくれたイエス様に感謝☆☆☆

そして仮に嘘でも、
私を元気づけるためだったとしても、


ありがとうMくん、やっぱりあなたは最高にイカしちゃってる!


もう・・・
死んでもいい〜(笑)
これで決まった!!
私が死んじゃう時に思い浮かべるその大切なたった一人は


      M  く  ん   に  決  定  !  ! 
     
      
だって、これで相思相愛じゃ〜ん!
もう誰にも邪魔させないわ、この幸せと彼は私のモノなのよ!

サザビー、見たか!
彼の、Mくんの心を射止めたのは、娘のあなたじゃない!(笑)

マ マ で あ る 私 だ っ た の よ 〜 〜 〜 !










Mくん『是非3人でドッグカフェにいきましょう!』





え・・・・・・・・・・?
ド、ドッグ・・・カフェ?

え、映画とか食事じゃ・・・ないの?
遊園地とか、ホテルとかじゃないの?




ド 、 ド ッ グ カ フ ェ 〜 〜 〜 ! ?




私ってば坊主なのに、平気で顔から布団を外して彼を見つめた!
だ、だって、だって、だって・・・

さ、3人って・・・
誰と誰と・・・だれ・・・よ?(汗)。



Mくん『前から一度ドッグカフェに行ってみたかったんですよ。
   勿論Aさんの体調が良くなって退院してからで良いのですが、
   是非サザビーと一緒に連れて行ってもらいたかったんです』




サ 、 サ ザ ビ ー ・ ・ ・ ?

私の頭の中には高笑いをする彼女の姿が浮かんだ。
さ、さてはママのいない間に・・・

よ ろ し く や り や が っ た な 〜 〜 !



び っ こ 〜 〜 〜 ! ( 怒 ) 



私は一気に拍子抜けして身体から力が抜けていくのを感じました。

『で、でも、なんでドッグカフェなの?
犬なんか飼ってないんじゃなかったっけ・・・?』


彼は笑顔でいいます。


Mくん『はい、でも前にテレビで見たことがあって・・・
    俺、犬好きなんで1回行って見たかったんですよね』
 
   
    
完全に固まる私・・・

ど、どうやら本当に犬好きで行きたいだけ!・・・みたい、ね(汗)。
それもサザビー連れを希望するなんて、、、やっぱりMくん天然かも。





面会時間が終了する頃、彼は帰っていきました・・・
ベッドで仰向けにひっくり返りながら天井を見つめる私。
   

きっと、このまま死んじゃったら・・・

    
私は頭の中を色んな思い出をめぐらせて考えます。




『 エ ヘ へ 〜 ♪ 』




頭の中に浮かんだのはMくんに抱っこされて、勝ち誇ったように笑うサザビーでした!


そ 、 そ ん な こ と 、 絶 対 に

許 す も ん で す か ぁ ぁ ぁ ぁ 〜 !



思い切り叫んだ時、病室の扉が開いて、


静 か に し て く だ さ い !


・・・と看護士さんに怒られて『ごめんなさい』・・・と謝る私。




こ、このまま・・・
このまま終わらせてなるもんですか!




絶 対 に 、

絶 対 に 治 し て 退 院 し て ・ ・ ・ 

M く ん を 奪 い 返 し て や る ぅ 〜 〜 〜 ! !



  
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2006年03月05日

試 練

左目の視力が一気に落ちた
これはきっと病魔のせい?
もしくは抗がん剤のせい?

それとも神様の仕業なのかな・・・

何にしても悲しむべきことで、、、
私は次第に生きる気力が吸い取られていく感じがした
サザビーがボヤけて見えるよ・・・
中々視界が定まらない

でも、まだ生きてる。
こうして生きていられる事に感謝しなくちゃいけない
そして、あなたと一緒に過ごせる時間を大切にしよう


落ち込んでいる時間なんて、もうないんですってば!


×月×日 ×曜日

悪性の腫瘍が転移を繰り返して身体が悲鳴をあげた
指は思い通りに動かなくて鍵盤は不協和音を奏でる
更に髪の毛は抜け落ちて、もはや視力さえおぼつかない・・・

人間こうなっちゃうと夢や希望なんてどうでもよくなる
ただ、ひたすら苦しまないで済む方法を考えてしまう

泣くにも次第に声が出なくなってきた私
そんなベッドで蹲る私を彼女は黙って見つめていた
微動だにせずにジッと見つめていた

ごめんね、ママ格好悪いよね?

私は酔っ払いのように口調の呂律が回らない
彼女は大きな耳をピンと立てたまま凛々しく見えた

胸痛がやってくる・・・
左胸がズキズキと痛み始めた
ああ、私、また転げ回っちゃうかもしれない
そしたらまたサザビーを怯えさせちゃうかも・・・

凄く痛くても我慢しなくっちゃ・・・

私はお座りする彼女の前で横たわったまま
頭と顔を両腕で覆うようにして呻いた
あまりの痛みに胸を掻き毟ってしまった
でもサザビーの前では泣き言は言えないの

その時、彼女が私の震える腕をそっと舐めてくれた
その狭い両腕の隙間から覗く彼女の表情は悲しそうだった
私はかすれた声で彼女に囁いた


だいじょうぶ、ママ、絶対にあなたから離れない
約束するから、心配しないで、ね



彼女はそれでも私の腕を舐め続けたの
もうイイって言ってるのに・・・
心配しないでって言ってるのに・・・

そんな一生懸命に看病をしてくれる彼女を見ていたら
いつの間にか胸の痛みは治まっていました

ありがとう、サザビー

私は静かに彼女を抱きしめて、床の上に座り込んで・・・

次は・・・なに?
神様、次はどんな試練ですか?


天井を見上げながらそうつぶやいた


私はどんな試練でさえも乗り越えてみせます・・・


だって・・・だってね
こんなガラクタのようなママの前でも、この子は『エヘへ』って笑ってくれる
私はその笑顔のおかげで、もう一日痛みと闘う気持ちになれるんだから

ああ、神様・・・
最愛のマリアを失って塞ぎ込んでいた私の人生に彼女を授けてくれた事を感謝します
マリアを守りきれなかった分、私は彼女を全力で守ります。


もし神様がサザビーを守ってくれるのなら、私はいかなる試練にも耐えて見せましょう


だから・・・

だから・・・


1 日 で も 長 く 彼 女 の マ マ で い ら れ ま す よ う に ! 

  
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2006年02月09日

こ の 世 の 果 て

人間はしてはいけないことを繰り返す・・・

戦争や殺戮
そして虐待・・・

わかっているのにやってしまう
そんなこと、悪いとわかっていてもやってしまう

そんなに本来は悪い生き物ではないのに
人間は同じ過ちを何度も何度も繰り返す

その手が自分の子供やペットのような家族に伸ばされた時・・・


そ の 悲 惨 な 状 況 は 目 を 覆 う ば か り だ



×月×日 ×曜日

なにも疑うことも無い子供やペットは今日もあなたにしがみついてきた。
それなのに、あなたは自分の理性を見失って・・・

信頼という見えない糸に結ばれた絆なを自ら断ち切って
その子を手にかけたんです・・・



その子を初めて抱きしめた一瞬を思い出して、
どうかその想いを絶対に忘れないで下さい・・・

どんなにあなたが苦しくても、その子はあなたを信じています


今 日 は 笑 っ て く れ る か な ・ ・ ・ っ て


そう信じてあなたのそばに来るのです
どうかその手を振り払ったり、虐待したりしないでください

どんなにあなたが苦しくても、その子はあなたを信じています


パ パ や マ マ は だ い じ ょ う ぶ か な ・ ・ ・ っ て





抵抗できない子供を虐待しないでください

・・・だったら最初から産まないで堕ろしてください
中絶が可哀想なんじゃないんです
産まれたあとで虐待される方がよっぽど可哀想なんです

・・・だったら最初から可愛いだけで飼わないでください
動物は可愛いいだけじゃないんです
一瞬の感情で飼い殺しされるペットはイイ迷惑です






どうかお願いです・・・
自分に同じ事をしてみてください

何日も水を飲まずに、物も食べずに頑張ってください
自分で手足の骨を折って、病院に行かずに働いてみてください
炎天下に1日中、車の中でエンジンをかけずに生活してみてください
身体の大きな人間に頼んで、木刀で何度も何度も殴られてみてください


そ れ で も ・ ・ ・ あ な た は 相 手 を 愛 せ ま す か ?


子供やペットは、それでもあなたを信じています
いつか昔のように、また抱きしめてくれるって・・・

苦しくて辛くて、もがいても・・・
死ぬ瞬間まで、親であるあなたが大好きなのです




人間は動物の中で一番優しくて、一番身勝手な生き物なのかもしれません
でも親であるからには他の動物の親と同様に子供には愛情を注がなければなりません


ど ん な 命 で も 、 世 話 を 決 め た 瞬 間 か ら 、

あ な た は そ の 子 の 親 な の で す か ら ・ ・ ・













アメリが最後の薄暗い廊下を歩かされた時、
彼女は何を思っていたのだろう
せまいガス室に送り込まれて
大勢の狂ったように吠える知らない犬の中で
彼女は一体・・・
何を感じて何を見たのだろう


扉が閉められて室内が真っ暗になった時・・・



そ れ で も ア メ リ は 私 や サ ザ ビ ー な ん か じ ゃ な い

あ な た を 思 い 浮 か べ て い た は ず な ん で す !




絶対にあなたが助けに来るって最後の最後まで信じていたんです

何も疑わずに、あなたを待っていたんです














でも・・・あなたは助けてあげなかった

たかがペット、たかが犬って思ったの?


私 は 大 切 な 親 友 の 家 族 だ っ て 思 っ て た よ !











ある神奈川の丘で私とサザビーは座って街を眺めていました。
そこは多くのワンちゃん達がお散歩を愉しんでいました・・・

私とサザビーは時折、振り返っては知らないワンちゃん達の洗礼を受けます。
その度に牙をむき出しに威嚇するサザビー。

『びっこ、怒らないで・・・
 きっと、この中にはアメリの友達もいるかもしれないの』
 

私は彼女を制してなだめます。

そう、この場所は恐らくアメリが生前お散歩を愉しんだ場所なのです。
丘の上だけに風が少々強かったけれど、
ワンちゃん達にとっては心地良い風だったのかもしれません。

私は髪がなびかせたまま上空を見上げると・・・
そこには真っ青な空に白い雲が形を作っていました。
白い雲はゆっくりと東の方角に流れていきます。


あ の 雲 さ 、 ア メ リ に 似 て な い ?


サザビーも上を見上げましたが、すぐに私の頬を舐めて
エヘへ』と笑顔になりました。 


そっか・・・アメリは白くないもんね(笑)
真っ黒なツヤが綺麗な女の子だったんだっけ・・・


こうして彼女を思い出す人さえいなくなれば、
アメリの人生って一体なんだったんだろうなんて考えてしまいます。



だけど・・・
私達は忘れないよ。

ここに引っ越してきた頃、一緒に丘の上でキャッチボールをしたじゃない?
アメリはママに褒められて凄く嬉しそうだったんだ。
得意げにサザビーのそばにきて、びっこに怒られてたっけ・・・
お腹が空くまでサザビーと一緒に走り回って、
お家に戻って仲良くみんなで御飯を食べて、サザビーと一緒にソファーで寝たでしょ。

私はその姿を見て幸せそうで嬉しかったんだよ、アメリ。



そんな幸せな2人を引き裂かなきゃいけない理由はなんですか?



あの時、わずか数年後に・・・

あなたがガス室に送られるなんて誰が想像できたでしょう




ごめん、ごめんなさい、アメリ

私 は あ な た を 救 え な か っ た ・ ・ ・















でも・・・
もし・・・
この先・・・

私が死んでいなくなったら・・・
虹の橋で一番最初にあなたを抱きしめてあげる

もしあなたの居るその場所が虹の橋の上じゃない、この世の果てでも・・・
私はかならず見つけ出してあげるから・・・


待 っ て て ・ ・ ・ ア メ リ

私 も 、 も う す ぐ そ こ へ 行 く か ら ね !









PS
Kちゃん、今度もし何処かで偶然出逢えたら・・・
私はあなたも抱きしめてあげるからね

GOOD LUCK







この本文は生前AYAが親友のK様に当てたメールです
内容にプライバシーが含まれる箇所もあったため
一部省略してK様に許可を得た上で掲載させていただきました。

  
Posted by good_luck0820 at 22:50Comments(1)TrackBack(0)

2005年12月26日

ク ロ ー ン

最近の遺伝子(DNA)についての研究は目覚しいものがあります。
みなさんも知っている通りクローン羊(ドリー)が造られたり、
いずれは人間の臓器までもが造られるのだそう。
もし臓器が作られたら人間はほぼ不老不死の動物に変貌するのだ。
だって身体の悪い部分を全部交換できるのだから・・・
それも本人のDNAから作られた臓器であるならば上手く機能しないはずはない。
そうなったら本当にこの世から病死という言葉は減っていくのだろう・・・

私はサザビーを溺愛し初めた時に感じたことがある。
それは、もし彼女の寿命がきてサザビーが私の目の前から居なくなってしまったら
私は一体どうなってしまうんだろうって・・・・
間違いなく『ペットロス』になって、マリアの時と同様に苦しむ日々が続くのかもしれない。
そうなったら私の心はサザビーと生活する前に戻ってしまう。
ううん、正確にはもっと酷い状態になってしまうのかも・・・

それはペットと生活する上で誰もが避けられない事なのだけれど
私は恐らくそれを素直に受け入れる自信がないのだ・・・。


そ う だ 、 サ ザ ビ ー の ク ロ ー ン を 作 っ て も ら お う !


私はいつしかそんな風に考えていた時期があったのだ。
それは本当のサザビーではないけれど・・・
本物にそっくりで区別がつかないぐらいのサザビー。
そうなれば彼女を失った後にやってくる私の苦しみは軽減されるのではないだろうか?


本 当 に そ ん な 風 に 考 え て い た ん だ ・ ・ ・ 私


けれどよくよく考えればこれは凄く勝手な考えで・・・
まさに自身のことしか考えていないエゴの骨頂かもしれない。

自分が寂しくて辛いからクローンを造りたい・・・

こんな考えは亡くなっちゃうサザビーのことを全く考えていないよね。
あくまで残される私(飼い主)の立場でしかモノを見ていない考えなんです。
これはある意味自分が満たされたいからペットといると言っているようなモノ。
勿論ペットを飼う時の最初のきっかけや動機は人それぞれだから
飼い主本人が満たされたいからでも良いと思うんです。
けれどそのペットと一緒に生活を共にして慈しむ気持ちが芽生えてきたのならば
仮にその子が居なくなったからといって、代用品のようにその子のクローンを造りたいなんて・・・

間違ってますよね?



×月×日 ×曜日

車でのお散歩の帰り道、外はポツポツと雨が降ってきていました。
道路はお帰り渋滞・・・
サザビーは疲れているのにも関わらず、私の運転席の膝の上で
窓の外の景色を身を乗り出すように眺めていました。

車道の信号が赤く変わります・・・
道路を連なる前の車のブレーキランプが、まるで真似をするように赤く点滅し始めて
私達の車も同じ様にそれに続きゆっくりと停車しました。

私は窓の外に乗り出すサザビーを静止しながら言いました。

『雨が入ってきちゃうから窓、閉めようね、びっこ』

彼女は私の方を振り向くと少々不満気味です。
その耳の飾り毛の被毛は降りしきる小雨のせいで湿っぽい・・・

『あらあら、濡れちゃったじゃない・・・』

ティッシュを使って私はそっと彼女の被毛についた水滴を撫ぜ回すように拭き取ります。
サザビーは『エヘへ〜』と笑いながらまた窓の外を眺め始めました。

その時、私に胸痛の痛みが走りました。
けれど今に始まったことではないこの痛みは、もうすでに
この頃の私をさほど驚かすほどのモノではありませんでした。
ただ・・・

あ あ 、 ま た か ・ ・ ・

と感じざるを得ないだけで、、、
気持ちが少々憂鬱に変わっていくだけ・・・。


そ れ 以 上 で も そ れ 以 下 で も な い


そんなことよりも今のこの一瞬一瞬を壊したくないだけ。
サザビーと一緒のお散歩帰りの愉しい一時を壊したくないだけ。

私は渋滞のせいもあってか身体がだるくなって、
そっと静かに彼女の背中の上に顔を押し付けました。

甘いサザビー独特の匂いがして・・・
私は彼女の香りで安心したようにゆっくりと目を瞑ります。

もしこの子がいなくなっちゃったら、どうしようなんて
ずっとずっと考えていたんだっけ・・・
それはいつからなんだろう?
恐らくあなたを本当に愛しいと感じた頃からなのだろうけれど
本当にそれはいつからなんだろう?


ああ・・・あなたと離れたくない

ママはずっと、こうしてそばにいたいよ・・・



いつしか立場が逆になって、あなたがいなくなるよりも
もっと先に私がいなくなってしまう。
どっちにしてもあなたとは離れ離れになっちゃうんだよね。

だめだ・・・ママはそればっかり考えていたよ



パ パ ー ン ! !



大きなクラクションの音が鳴り響きました。
ハッと我に返った私はサザビーから離れて前を見ると・・・
車はとっくに流れ始め、私達は道路の真ん中に車を停車させたまま。

ご 、 ご め ー ん !( 汗 )

慌ててアクセルを踏んで車を走らせると、
突然動き出した車内の揺れに驚くサザビー。
彼女は窓の外から視線をずらして私を振り返って見つめます。
その姿は心配そうに

だ い じ ょ う ぶ ?

と言っているかのようにも見えて・・・
私は苦笑いをしながら軽くうなづきます。


うん、だいじょうぶよ、ママは絶対にあなたから離れないからさ・・・


雨は次第に激しさを増してフロントガラスのワイパーの速度も上がっていきました。
傘を差しながら道を歩く帰宅する人々の数が増えてきます。

・・・あなたのそばを離れないけれどママはもう
こうしてあなたの温もりを感じることは出来ないのかもしれない。
それは明日かもしれないし、一ヵ月後かもしれない。
でもその時は着実に近づいて来ていて・・・

だから何とかしなくっちゃいけないのに・・・
なにもできない自分がいるというもどかしさ。


そう遠くない近い将来、私はこの世からいなくなってしまうことがわかってるのに・・・



イエス様、最後のお願い、
もう何度も色んなお願いをしちゃって
聞いてくれないかもしれないけれど・・・

もし、私がいなくなったら・・・


私 の ク ロ ー ン を 造 っ て く だ さ い


そして、そのクローンをどうかサザビーのそばに置いてあげて・・・
これから先、いつでもあのコの笑顔を受け止められるママが必要なの。

だからお願い、、、

彼女を見守ることができる私を用意してあげてください。


これだってエゴかもしれない。
でも自分のことしか考えないエゴとは決して違うの。


自分が寂しくて辛いからクローンを造りたい・・・んじゃなくて、
残される彼女が心配だからクローンを造りたいんです。

ある意味、これも心配でいられない私の気持ちを安堵させるだけのエゴなのかな。



でもエゴでもなんでもいい
もし彼女が私がいなくなった後も、ずっと笑っていられるのなら
クローンでも何でも良いから・・・


誰 か 、 あ の 子 に ・ ・ ・

私 の 代 わ り を 用 意 し て あ げ て く だ さ い








家の前に車が着いたとき、サザビーは膝の上で寝ていました。
私はその寝姿をこうして見られることがあまりにも幸せで、
暫くそのままで車の中にいたんです。

そのうち雨はドンドンと激しくなっていって、
車のボンネットや窓ガラスに叩きつけられる音が大きくなり
大きな水滴がフロントガラスを流れ落ちていきます。

それと同じ様に私の目からも大粒の涙が頬をつたい流れ落ちていきました。
その雫はゆっくりと彼女の背中に落ちていって・・・

何度目かの時にサザビーは目を開けて私を見上げたのでした。


エ ヘ へ ・ ・ ・ ☆


彼女が笑顔で私を見つめたときに、私も静かに泣き顔から笑顔に変わります。


『お家に着いたよ、みんなにただいまって言おうね!』


私はサザビーを抱き上げると車を降りて、ドシャ降りの雨の中、
家族の待つ玄関のノブを回して言いました。


た  だ  い  ま  !


ググじいさんとララが玄関先にお出迎えです。
あと何回、こうして『ただいま』が言えるのかはわからないけれど・・・
1日でも多く、あなた達の笑顔を見ていたい。

イエス様、ありがとう。
今日も彼女や家族を見守ることが出来て嬉しかったよ。

  
Posted by good_luck0820 at 23:37Comments(0)TrackBack(0)