レッドソックスが15年の間に4度目となるワールドシリーズ(WS)優勝を果たした。惜しくもWS
MVP受賞を逃したものの、優勝への牽引役を務めたのはデイビッド・プライスだった。
しかし、これまで、レッドソックス・ファンの間でのプライスの評判は芳しくなかった。レッドソックスに加入したのは、2016年のシーズンから。ここまで3年間の成績(レギュラーシーズン)は39勝19敗・防御率3.74とまずまずであったが、7年2億1700万ドルの超大型契約での獲得であっただけに、「年間3000万ドルも稼ぐ選手としては物足りない」というのがファンの実感だったのである(ちなみに、クリス・セイルのレッドソックス加入後2年間の成績は29勝12敗・防御率2.56)。
さらに、2017年のシーズンは肘の故障でフル出場できず、ファンの「裏切られ感」は倍加した(同年の成績は6勝3敗・防御率3.38に終わった)。その上、その年、移動中の飛行機内で、中継でチームメイトを批判した解説者に腹を立てて食ってかかる事件を起こし、ファンを呆れされた。よりによって、「お前に何がわかる」と食ってかかった相手は、殿堂入りの名投手であり、その歯に衣着せない解説でファンの人気を集めているデニス・エッカスリーだったからである。
かくしてファンに疎まれるようになったプライスを揶揄する言葉として流行りだしたのが「Give Price A Chance」だった。ご存知の通り、ジョン・レノンの名曲「Give Peace A Chance」(*)のもじりだが、「ダメなプライスにも活躍するチャンスをやろう」と、名曲のパロディで、プライスのダメ振りと裏切られてきたファンの思いを強調したのである。
というわけで、今季のポストシーズンに先立ち、プライスの活躍を期待したファンは少なかった。しかも、プライスには「大試合に弱い」という定評があった。デビューした2008年のポストシーズンこそ救援投手として快投を披露したものの、昨季までポストシーズンで先発した9試合は0勝8敗と勝ち星がなく、チームも全敗という、惨憺たる成績だったからである。今季も、ヤンキース相手の地区決定シリーズ第2戦で2回も持たずにKOされ、「やっぱりダメ」と、ほとんどのレッドソックス・ファンが見切ったのだった。
しかし、野球の神様が「Give
Price A Chance」の祈りを聞き届けて下さったのか、リーグ選手権シリーズ以降のプライスの活躍は見事だった。第5戦先発でアストロズを6回無失点に抑え、ポストシーズン先発初勝利を達成したと思ったら、WS第2・第5戦も勝ち投手となり、これまで先発勝ち知らずだったダメ投手が、何と3連勝でチームにWS優勝をもたらしたのである。
第4戦は救援でも投げ、第2戦以降4試合中3試合に登板した活躍からすると、MVPになっても不思議はなかった。しかし、MVPに輝いたのは、第4・5戦で3本塁打・7打点の打棒を振るったスティーブ・ピアスだった。野球の神様は、「Give Price A Chance」を「Give Pearce A Chance」と聞き違えたのだろうか?
(*)ベトナム戦争真っ盛りの冷戦時代を代表する反戦ソング