李啓充 MLBコラム

スポーツ紙のMLB情報では物足りないファンのために

2009年12月

守備の評価(6)ロリンズとジーター

今回は、2009年遊撃手部門でゴールド・グラブ賞に輝いたジミー・ロリンズとデレク・ジーターについて、その守備をデータで検証する。

まず、ロリンズだが、以下に200409年の、+/−システムのデータを示す。

           三遊間 正面 二遊間 飛球 総合 守備防御点(順位)*
2004      +2     +4        -1        0       +5         414
2005      +3      -2       +17     +4     +23       174
2006      -3      +4        +7      +4     +12        98
2007     +12     -6         -1      +2      +7         59
2008     +2      +2      +16      +3     +23       171
2009      -1      +4        -5       -1       -3         -223
(*今回示す守備防御点は、+/−システム(守備範囲)のみでの集計。遊撃手の場合、これに併殺の補正を加えて総合の守備防御点とする。なお、順位は遊撃手中。)

ロリンズは、2007年から3年連続でゴールド・グラブ賞を獲得したが、確かに2008年まではまずまずのデータを残してきた。しかし、2009年は二遊間・三遊間のゴロ処理能が落ち込み、「平均以下」の遊撃手となってしまった。

守備範囲が狭くなった原因が、体調が万全でなかったことにあったのか、それとも30歳となって年齢相応の衰えが始まったのかは不明であるが、2009年のロリンズの守備が、ゴールド・グラブにふわさしいものでなかったことは確かである。前回まで何度も述べてきたように、ゴールド・グラブは「過去の受賞者に票が集まる」傾向があるので、その典型といってよいだろう。

次に、ジーターのデータを示す。

           三遊間 正面 二遊間 飛球 総合  守備防御点(順位)*
2004     -24     +5       -5       +9      -16       -1232
2005     -18     +3     -25       +5      -34       -2634
2006     -10     +1     -10       -3       -22       -1734
2007     -14      -6     -14       -1       -34       -2634
2008     -18     +9       -1       -1       -11        -831
2009      -3      +7      +1      +1        +5         415

ジーターの守備の悪さは、前回まで何度も述べてきたが、たとえば、守備防御点を見た場合、2008年まで一度も30位以内に入ることができなかったことでもわかるように、「メジャー最悪」の遊撃手と言われてもしかたがない成績だった。

「最悪」の成績であったにもかかわらず、ジーターは、2004年から3年連続でゴールド・グラブ賞を受賞、「守備の名手」に祭り上げられたのだから、セイバーメトリシャンが呆れたのも無理はなかった。

しかも、ジーターの場合、守備の悪さは今に始まったことではなく、マイナー時代からのものである。以下に、マイナー時代のデータを示したが、エラー数と守備率という「時代遅れ」のデータからも明らかなほど、ジーターの守備の悪さは図抜けていた。

                                                試合数   エラー数   守備率
199218歳)ルーキーリーグ      57         21        .919
199319歳)シングルA           128         56        .889
199420歳)ダブルA              138        25        .959
199521歳)トリプルA           123         29        .953

ルーキーリーグでの守備率は9割そこそこ、シングルAではなんと9割を切ったのだから、どれだけ守備が悪かったかがわかるだろう(打球が10回飛んできたら、必ず1回はエラーしていたのだから恐れ入る)。

しかし、マイナー時代のジーターは、猛練習で「エラー王」の汚名を返上した。ダブルA,トリプルAと昇格するにつれ「エラーしない」守備を覚え、守備率が95分を上回るようになったのである。

さらに、メジャーに上がってからの守備率は15シーズン通算で976厘と、「エラーしない」守備にさらに磨きをかけた。その上、長身でスタイルもよく、見た目に「美しい」身のこなしで守備をするとあって、いつしか「名遊撃手」の評判を確立するようになったのである。

しかし、セイバーメトリクスの真髄を一言で言うならば、それは、「見た目にだまされない」ことに尽きる。ジーターの守備がどんなに華麗に見えたとしても、セイバーメトリクスのデータは、「ジーターは史上最悪の遊撃手」であることを示してきたのである(ちなみにジーターを「史上最悪の遊撃手」と認定したのはセイバーメトリクスの創始者ビル・ジェームズである)。

さて、ここまで、読者に、「本シリーズの最後に必ずジーターを褒める」と約束し続けてきたが、ジーターの並外れた偉大さを2点指摘して、このシリーズを終えることにしよう。

まず第一に、上に示したジーターの+/−システムのデータ、2009年の部分を見ていただきたい。2008年までと違って、左右の守備範囲がほぼ平均レベルまで広がったことがおわかりいただけるだろうか。その結果、守備防御点もプラスを記録、+/−システムの記録が取られるようになってから初めて平均的遊撃手を上回る成績を残したのである。

ジーターはマイナー時代にエラー王の汚名を返上したと前述したが、35歳と、もう引退してもおかしくないような年齢になってから「史上最悪の遊撃手」の汚名を返上すべく猛練習に明け暮れたというから、その努力には頭を下げざるを得ない。

さらに、これはジェームズも言っていることだが、第二に指摘したいジーターの偉さは、「史上最悪の遊撃手」なる汚名を獲得した事実そのものにある。というのも、この汚名、ちょっとやそっとで獲得できる「生やさしい」物ではないからだ。

たとえば、守備以外の能力がすべて「並みの」選手を考えていただきたい。そんな選手の場合、もし守備が「史上最悪」だったとしたら、そもそも、レギュラーとして使ってもらえないだろう。

ジーターの場合、守備は「史上最悪」でも、打力・走力・統率力・・・etc.を合わせた総合的能力が並外れていたからこそ、ただレギュラーとして使われただけでなく、キャプテンとしてヤンキースの屋台骨をかつがされたのである。

しかも、ジーターの場合、記憶に残る名プレーは、守備位置の広さを誇るものとはまったく別種・別次元のプレーである。たとえば、2001年アスレチクス相手の地区決定第3戦、10とリードして迎えた7回裏、外野から大きくそれた返球をファウルグラウンドで捕球するや「シャベル・パス」で本塁に送球、間一髪同点の走者を刺したプレー(このプレーでシリーズの流れは変わり、ヤンキースは02敗から3連勝、リーグ選手権へと駒を進めた)。

そして、200471日のレッドソックスとの首位攻防戦。33で迎えた延長12回表、2死二・三塁のピンチで、左翼ファウルライン際の飛球を全力疾走で捕球するやそのままスタンドに飛び込み、顔面に裂傷を負ったプレー(しかも、ジーターは、翌日のメッツ戦に負傷を押して先発出場した)。

いずれも、野球選手としての「本能」に基づくとしかいいようがない、一瞬の判断・勇気が物を言った類のプレーである。

守備位置の狭さが「史上最悪」であろうがなかろうが、その野球選手としての総合的価値の高さが、ヤンキースをして、15年間、毎日のようにジーターを遊撃の守備位置につかしめたのである。

逆説めいて聞こえるだろうが、「史上最悪の遊撃手」なる称号を獲得したこと自体に、ジーターが偉大な選手である事実が如実に示されているのである。

<補足>
本シリーズでは触れる機会がなかったが、守備の評価法として最近よく引用されるデータがUZR (Ultimate Zone Rating、究極のゾーン・レイティング)である。ディーワンが考案したZRをさらに発展させたものであり、平均的選手との比較で「失点をどれだけ防いだか」を計測する。UZRのデータは、FanGraphs で無料公開されている。

守備の評価(5)2009年ゴールド・グラブ賞再訪

今回は、2009年のゴールド・グラブ賞選考結果を、前回紹介した「守備防御点」のデータを用いて検証する。

以下は、2009年の受賞者であるが、*をつけた選手は、守備防御点でメジャー・ベスト10に入っていない選手、つまり、本当にゴールド・グラブ賞にふさわしいのかどうか、首を傾げたくなるような受賞者である。

             ア・リーグ                ナ・リーグ
投手 マーク・バーリー     アダム・ウェインライト*
捕手 ジョン・マウアー*      ヤディアー・モリーナ
一塁 マーク・テシェラ*      エイドリアン・ゴンザレス
二塁 プラシド・ポランコ    オランドー・ハドソン*
三塁 エバン・ロンゴリア    ライアン・ジマーマン
遊撃 デレク・ジーター*      ジミー・ロリンズ*
外野 アダム・ジョーンズ*   マイケル・ボーン
外野 トリイ・ハンター*      マット・ケンプ*
外野 イチロー                   シェイン・ビクトリーノ*

18人中、10人の受賞に疑問符をつけざるを得ないのだが、ゴールド・グラブ賞の投票者は、メジャーリーグの監督・コーチである。

彼らの投票が、
(1)過去の受賞者、
(2)スター選手、
(3)打撃のいい選手、
に偏る傾向があることは、以前も述べた通りである。

以下、ポジション別に、検討する。
<投手>
ア・リーグ受賞者バーリーの守備防御点11はメジャー1位、順当な選考であった。しかし、ナ・リーグ受賞者ウェインライトの守備防御点はマイナス1点と、平均的投手より劣った。他にもっと守備のいい投手はたくさんいたのになぜ選ばれたのかは、謎としかいいようがない。

<捕手>
守備防御点の考案者ディーワンは、捕手については、(1)投手のリード、(2)盗塁阻止の2部門を計測している。モリーナはリードではメジャー19位と大したことはなかったが、盗塁阻止ではリーグ3位の強肩を誇った。一方、マウアーは盗塁阻止はリーグ18位と並みだったが、リードはリーグ5位と優れていた。マウアーはMVPとなる活躍をした上、二人とも、オールスターにファン投票で選出されたことを考えると、「スター・パワー」が物を言った受賞であったと言えよう。

<一塁>
テシェラの守備のよさについては定評があるが、データを見る限り、2009年のシーズンについては、他にもっと守備のいい選手がいた(特に、ア・リーグでは、守備防御点メジャー4位のケビン・ユーキリス)。過去の受賞実績/スター・パワー/打力と、投票バイアスの3要素すべてを揃えていたことが効いたようである。また、ゴンザレスは守備防御点3位(11点)とまずまずの選考、アルバート・プホルス(1位、12点)を抑えた。この二人は、どちらが受賞しても、不思議はないところだ。

<二塁>
ポランコは守備防御点10位以内とはいっても9位。ポランコも、ハドソンも過去の受賞者であり、「昔の名前」が物を言ったケースだ。2009年の守備防御点ベスト5を上げると、1.イアン・キンズラー、2.アーロン・ヒル、3.ベン・ゾブリスト、4.チェイス・アトリー、5.ダスティン・ペドロイアとなる。ペドロイアを除いて、いずれも今までゴールド・グラブ賞を獲ったことがない、「新しい名前」だ。

<三塁>
守備防御点を見ると、ジマーマン22点(2位)、ロンゴリア17点(4位)とまずまず順当な選考なのだが、ロンゴリアは、1位ショーン・フィギンス(31点)、3位エイドリアン・ベルトレ(22点)を、打力とスター・パワーのバイアスで抑えた。

<遊撃>
遊撃については何度も触れてきたように、ジーターもロリンズも、他にふさわしい選手がたくさんいたのを抑えての受賞だった。この二人については(特にジーターについては)、次回、詳しく論ずる予定である。

<外野>
そもそも、「左翼・中堅・右翼」と分類せずに、「外野」と、いっしょくたにまとめていることに問題があるのだが、守備防御点のデータからは、「6人中4人の選考に問題あり」と言わざるを得ない。

受賞を逃した顔ぶれを3人だけ上げると、カール・クロフォード(左翼での守備防御点1位)、フランクリン・グティエレス(中堅1位)、ハンター・ペンス(右翼1位)となる。

ディーワンは、外野手の守備防御点については、「(守備)範囲」と「肩」の2部門のデータを公表しているので、以下、「不当」に受賞した4人のデータを、投票のバイアス要因とともに紹介する(数字は守備防御点、括弧内はメジャー順位)。

                                         範囲          肩    バイアス要因
アダム・ジョーンズ         -11 (32)     12 (1)          AS, SS
トリイ・ハンター              4 (12)       1 (19)        AS, SS
マット・ケンプ                -8 (28)        9 (2)             SS
シェイン・ビクトリーノ    -13 (33)      7 (3)             AS

投票バイアスの要因で、AS はオールスター、SS はシルバー・スラッガーの略だが、4人とも、バイアス要因が有利に働いた可能性は高い。また、4人中3人は、守備範囲は広くないものの、メジャー3位以内の強肩を誇った。ゴールド・グラブに投票する監督・コーチ達は、どうやら、強肩・強打のスター外野手がお気に入りのようなのである。
(この項続く) 

守備の評価(4)Defensive Runs Saved

前項では、ジョン・ディーワンが2005年に考案した画期的守備評価法「+/−システム」について説明した。ディーワンは「+/−システム」をさらに発展させて、今年初め、「守備防御点」なる、これも画期的な守備評価法を発表したので紹介しよう。

「守備防御点」は、「ある野手の守備がシーズンを通じてどれだけ失点を防ぐことに貢献したかを平均的野手との比較で測る」ものである。具体的には、「野手のプレーが得点の期待値をどれだけ変動させたかを平均的野手と比較する」のだが、これだけで何のことかわかる人はまずいないだろうから、以下、詳しく説明しよう。

まず、最初にご理解いただかなければならないのが、以下に示す「状況別得点期待値表(The Run Matrix)」である。

                  アウト数      
走者           0          1          2       
なし           0.521    0.279    0.108
一塁           0.900    0.528    0.227
二塁           1.150    0.695    0.335
三塁           1.499    0.969    0.346
一・二塁      1.530    0.919    0.464
一・三塁      1.769    1.159    0.481
二・三塁      2.006    1.422    0.589
満塁           2.306    1.586    0.799

以上は、2008年のシーズン全体での実測値であるが、たとえば、一死二塁の欄の数字が「0.695」となっているのは、「一死二塁の状況からイニングが終わるまでに入った得点の平均(期待値)は『0.695点』であった」という意味である。

ここで、無死走者なし(得点期待値「0.521点」)の状況を考えよう。遊撃手がゴロを処理して打者走者をアウトにしたとすると、状況は、一死走者なし(得点期待値「0.279点」)となるので、遊撃手が得点期待値に与えた変動は「0.521-0.279=0.242点」。アウトにすることで「0.242点」の失点を防いだと考えるのである。

逆に、遊撃手が打球の処理をしくじってアウトが取れなかった場合、状況は無死一塁(得点期待値「0.900点」)となるので、遊撃手は「0.521-0.900=マイナス0.379点」の損害をチームに与えたことになる。

以上、野手のプレーが得点期待値に与える変動について説明したが、ここからは、これを、「平均的野手と比較」する計算法を説明する。前回、「+/−システム」を説明した際、属性値が「ベクトル17・ゴロ・遅い」という打球を例としたので、今回もこれを例にしよう。

前回も述べたように、「ベクトル17・ゴロ・遅い」という属性値の打球を遊撃手がアウトにする確率は26%である(逆にアウトにできない確率は74%)。

ここで、平均的野手が得点期待値に与える「変動の期待値」(期待値が二重に使われているので、混同しないように)は

(アウトにする確率)x(アウトにした場合の得点期待値の変動)と、(アウトにできない確率)x(アウトにできなかった場合の得点期待値の変動)との和になる。

無死走者なしの状況で、例とした属性値「ベクトル17・ゴロ・遅い」の打球を(平均的)遊撃手が処理した場合、得点期待値の「変動の期待値」は、
0.26(0.521-0.279)0.74(0.521-0.900)=—0.218点となるのである(平均的野手がこの属性値の打球をアウトにする確率は低い(=アウトにすることが難しい)ので、変動の期待値はマイナスとなる)。

しつこいようだが、上述したように、無死走者なしの状況で遊撃手がアウトを取った場合の得点期待値の変動は、無死走者なしの得点期待値「0.521点」と、一死走者なしの得点期待値「0.279点」の差の「0.242点」。この状況で平均的野手が属性値「ベクトル17・ゴロ・遅い」の打球を処理したときの得点期待値の「変動の期待値」は前段落で述べたように、-0.218点。つまり、この属性値の打球をアウトにした遊撃手は、平均的野手と比べて、「0.242--0.218)=0.460点」の失点を防いだと計算されるのである。

個々のプレーでの守備防御点を通算してシーズンを通しての守備防御点を集計するのだが、理論的に平均的野手の防御点は「ゼロ」となる。防御点がプラスの大きい値ほど守備がよく、マイナスに振れるほど「守備が下手」という読みとなる。

なお、厳密に言うと、ディーワンは、守備位置に応じて、バントの処理・ダブルプレーの中継、ホームラン(になったはずの打球)の捕球、強肩による補殺等を、修正点として考慮した後、シーズンを通しての通算点を計上している(守備防御点(Defensive Runs Saved)は、Bill James Online(有料サイト)で公開されている)。

また、前回紹介した「+/−システム」と、今回の「守備防御点」の評価は大方一致するが、前者が主に「守備範囲」の広さ・狭さに重きをおいた指標であるのに対し、後者は肩の強さ、ダブルプレー中継のピボットの巧みさなどを含んだ、より総合的な指標となっている。

たとえば、2009年の右翼手のランキング。イチローは、「+/−システム」ではメジャー1位となったが、「守備防御点」では4位。「守備防御点」で1位となったのは驚異的な肩の強さを誇るハンター・ペンスだった(ペンスの補殺16がメジャー1位であるのに対して、イチローの補殺は5)。

以下、遊撃手について、2006-2009年・4年間通算の「守備防御点」ベスト5とワースト5を記す。
<ベスト5>
1.アダム・エベレット   54
2.ジャック・ウィルソン  52
3.トロイ・トゥロイツキー 38
4.オマー・ビスケル    33
5.ジミー・ロリンズ    31

<ワースト5>
1.デレク・ジーター    -49
2.ユニエスキー・ベタンコート -39
3.オランドー・カブレラ  -33
4.フリオ・ルーゴー    -31
5.フェリペ・ロペス    -29

前回、私は、「シリーズの最後で必ずジーターを持ち上げる」と約束した。今回の「守備防御点」でも、ジーターは過去4年間で最悪の遊撃手と認定されてしまったが、私は、本当に、ジーターをほめることができるのだろうか?

(この項続く。当ブログ立ち上げの経緯についてはこちらをご参照下さい)

守備の評価(3)+/- System

前項まで、守備の評価法として、ビル・ジェームズがRF(レンジ・ファクター)を、ジョン・ディーワンがZR(ゾーン・レイティング)を考案したことを紹介した。

しかし、RFもZRも完璧とはほど遠く、種々の欠陥を内包していることは前項で述べたとおりであり、最近は、ジェームズもディーワンも、RFやZRをあまり使用していない。

なぜかというと、RFやZRよりもはるかに優れた評価法が出てきたからだが、それは何かというと、今回説明する「+/−システム」である。

<+/−システムの概要>
+/−システムは、2005年に、ZRの考案者・ディーワンが考案したものである。前項で、ZRはビデオ解析に基づいて計測すると説明したが、+/−システムも基礎データの収集はビデオ解析によって行われる。

ただ、ZRが「野手のゾーン」というただ一つのファクターに限定して打球処理に成功したかどうかを計測したのと違って、+/−システムは、個々の打球を(1)ベクトル(方向)、(2)速さ(速い・普通・遅い)、(3)種類(ゴロ、フライ、ライナー、ハーフライナー)で分類した上で、分類毎に成功・失敗の価値を計測する。

と、書いても何のことかわかる人はまずいないだろうから、例を上げて説明しよう。

たとえば、三遊間のややショートよりに飛んだ遅い(緩い)ゴロを考える。ディーワンはグラウンド全体を260ほどのベクトルに区分しているが、「三遊間ややショート寄り」はこの分類に従うと「ベクトル17」となるので、この打球に
「ベクトル17・ゴロ・遅い」
という属性値を与える。

ここで、メジャー全体で、遊撃手がこの属性値を持つ打球をアウトにした割合が26%であったとする(ちなみに、26%という数字は2005年のシーズンの実測値)。言い換えると、この属性値を持つ打球を遊撃手がアウトにする確率を考えたとき、その期待値は「0.26アウト」となるのである。

ある遊撃手が「ベクトル17・ゴロ・遅い」の属性値を持つ打球をアウトにした場合、「期待値0.26」に対してアウトを1つ取った勘定になるので、その差の「0.74」を評価して、このプレーに「プラス0.74」のポイントを与える。逆に、アウトにできなかった場合は、期待値0.26に対しアウト獲得数0(ゼロ)であるから「マイナス0.26」のポイントを与える(減じる)のである。

しつこいようだが、さらに、例をつけ付け加えよう。同じくベクトル17に飛んだゴロでも、打球の強さが「普通」であった場合、アウトになる割合は52%(同じく2005年の実測値)なので、アウトにした遊撃手に「プラス0.48」のポイントを与え、アウトにできなかった場合は「マイナス0.52」と評価するのである。

ちなみに、「ベクトル17・ゴロ・強い(速い)」がアウトになる割合は0.10だが、同じ方向に飛んだゴロでも、「遅い(期待値0.26)、普通(同0.52)、速い(同0.10)」の差で期待値が変わることがおわかりいただけるだろうか。

何が言いたいかというと、個々の打球について、処理に当たっての「難易の差」が反映される評価法であることが、+/−システムの眼目なのである。難しい打球を処理した場合、易しい打球を処理したときよりも高いポイントが与えられる仕組みになっているのである(逆に易しい打球をアウトにできなかったときは大きく減点される)。

以下同様に、すべての打球について属性値別に評価、アウトにした場合は「1—(期待値)」のプラスのポイントを、アウトにできなかった場合は「0—(期待値)」のマイナスのポイントを計上して、シーズン全体のスコアを集計するのである。

+/−システムについて初めて説明されたとき、ホワイトソックス監督のオジー・ギエンは「自分がプレーしていた時代にこの評価法があったら、『史上最高の遊撃手』の評判が確立できていたのに・・・」と悔しがったという。

いかにも自信家のギエンらしい発言であるが、守備に誇りを持っていただけに、「エラー数・守備率」という、優劣が正確に反映されない方法でしか守備が評価されないことが、ずっと悔しくてならなかったようである。

以下、実際のデータ例として、2007-2009年三年間通算の遊撃手の評価を示す(なお、「+/−システム」のデータは、Bill James Online(有料サイト)で公開されている)。

<「+/−システム」遊撃手ベスト5(2007-09年)>
1.ジャック・ウィルソン    +56
2.トロイ・トゥロイツキー +50
3.ユーネル・エスコバル    +37
4.シーザー・イズトリス    +33
4.オマー・ビスケル         +33

<「+/−システム」遊撃手ワースト5(2007-09年)>
1.ユニエスキー・ベタンコート −56
2.デレク・ジーター              −40
3.オーランドー・カブレラ      −37
4.ブレンダン・ハリス           −36
5.ハンリー・ラミレス           −29

三年間通算のデータであるから、それなりの重みがあるが、前回、前々回に続けて、「ジーターは下手」であることを示すデータを出したので、ジーター・ファンの読者は、そろそろ堪忍袋の緒が切れかけているのではないだろうか?

このシリーズ、最後にジーターを持ち上げる結論を用意しているので、ジーター・ファンの諸君は、いましばらく我慢するように。

(この項続く)

守備の評価(2)Zone Rating

(1)RF(Range Factor)の問題点

前回、ビル・ジェームズが考案した「Range Factor(守備範囲係数:9イニング当たりのアウト達成数、以下RF)について紹介したが、RFは極めて荒っぽい守備力評価法であり、種々の欠陥があることが指摘されている。

たとえば、所属チームの投手陣が三振をバッタバッタと取るような強力な陣容であった場合、野手の守備機会は減るので、達成するアウト数も減り、RFでの評価は低いものとなる。

同様に、左投手が多いと対戦相手に右打者が増えるので三塁手のアウト達成機会が増えるし、シンカーボーラーが多いと内野手のアウト達成機会が増える一方で、外野手の機会は減ることになる。

というわけで、守備力とは関係なくアウト達成機会の多寡に影響を与える要因があまりにも多く存在するために、RFは、どうしても、「荒っぽい」指標としかなりえないのである。

言い換えると、RFによる評価には、「飛んでくる打球の『数』は野手の守備能力とまったく無関係」という、致命的欠陥が内包されているのである(ジェームズはこの批判に答えてRFの改良版を発表している:ジョン・ディーワン著「Fielding Bible2006Acta Sports)」, 199-209頁)。

(2)ZR(Zone Rating

打球の数に影響されることなく、「守備力だけに限定した評価」を可能とする目的で開発された方法の一つが、1980年代にジョン・ディーワンが考案したZone Rating (守備範囲内守備率、以下ZR)である。

ディーワンは、当時、Stats Inc (スポーツに関する統計データを収集・分析する企業。プロ・チームやメディアを対象に有料でデータ・分析結果を提供する)の従業員であったが、「守備範囲内」の打球を処理した割合で野手の守備力を測定する方法を思いついたのである。

打球の「数」には影響されない評価法であるということについては旧来からの守備率と同様であるが、飛んできた打球を十把一絡げに対象とする守備率と違って、「野手がアウトを取ることが期待される守備範囲内に飛んできた打球だけ」に限定して守備率を計算するのである。

ここで、「守備範囲」の定義は、「その中に飛んできた打球をアウトとする確率が50%以上の範囲」である。と、言葉で言うと簡単であるが、この範囲を具体的に特定するためには、すべてのプレーをビデオで解析し、コンピュータで集計する作業が必要となる。

というわけで、RFが、公式記録の数字からファンが簡単に計算することができるのとは対照的に、ZRを計測するためには、手間暇に加えて、膨大なコストが必要となる(毎日、全試合の全プレーをビデオで解析することの手間を想像していただきたい)。

データ収集解析会社が「ビジネス」として計測しない限り、絶対に生み出されることのないデータなのである(対照的に、ジェームズの改良版RFは公式記録の数字から計算することが可能である)。

と、ZRは、手間と暇とお金をかけないと計測できないのだが、この方法にも、「守備範囲外の打球を処理したこと(多くはファインプレー)が評価されない」などの、欠陥が指摘されている。これに対して、ディーワンは、ZRに加えて「守備範囲外でのアウト達成数(plays made outside zone:以下、OZ )を併記することで改良を加えた。

以下、前回に続いて、ZRについても遊撃手のデータを示す。2009年のデータはまだ公表されていないので、ここでは2008年のデータを示した。

<遊撃手 ZR>
ベスト3
1.トロイ・トゥロイツキー 884
2.ミゲル・テハダ     879
3.シーザー・イズトリス  869
ワースト3
1.フリオ・ルーゴー    786
2.スティーブン・ドルー  788
3.ジェフ・ケッピンジャー 797

<遊撃手 OZ:守備1000イニング当たりアウト数>
ベスト3
1.シーザー・イズトリス  57.9
2.J.J. ハーディ      56.8
3.ジャック・ウィルソン  56.0
ワースト3
1.トロイ・トゥロイツキー 20.1
2.デレク・ジーター    23.0
3.ユニエスキー・ベタンコート 24.9

ここで、たとえば、トロイ・トゥロイツキーのデータに注目していただきたい。ZR(守備範囲内での守備率)がメジャー1位であるのとは正反対に、OZ(守備範囲外でのアウト達成数)はメジャーで最下位なのである。守備範囲内の打球を堅実に処理する能力と、守備範囲外の打球を果敢に処理する能力とはまったく別物であることが、トゥロイツキーのデータを見ただけでも明瞭に理解していただけるだろう。

守備範囲外の打球を処理するためには、(1)スピード、(2)強肩に加えて、(3)打者・投球・状況に応じて守備位置を変える能力が必要となることは簡単に推察されるが、ZRとOZという、異なった二つの数字で守備を計測しただけで、個々の選手の守備能力のパターンついて示唆に富む結論が導かれるのだからセイバーメトリクスは奥が深いのである。

一方、トゥロイツキーとは対照的に、シーザー・イズトリスはZRがメジャー3位、OZもメジャー1位と、両方に優れた能力を発揮したが、この年、ゴールド・グラブには選出されなかった(ナ・リーグで選出されたのは、ZR9位・OZ5位のジミー・ロリンズだった)。

また、マーリンズは、今季途中、OZ第3位のウィルソン(ちなみに、ZRはメジャー7位)を獲得したことについて、「先発2番手のジャレッド・ウォッシュバーンを放出した後に高年俸のウイルソンを獲得するとは、GMは何を考えているのか。いったい、優勝を諦めたのか諦めてないのか?」と揶揄されたものだった。

しかし、ウイルソンの獲得前に放出した前任のベタンコートは、OZワースト3位に加えて、ZRもワースト4位と、メジャーでも「最悪」といってよいほど守備の下手な遊撃手だった。

守備の拙い遊撃手ほどチーム首脳陣の精神衛生を蝕む存在もなく、マリナーズGMとしては、優勝争いに絡むか否かにかかわらず、遊撃の守備を改善する必要に迫られていた、というのが私の解釈である。それが証拠に、マリナーズは、シーズン終了後、すぐさまウイルソンとの契約を2年延長、「守備のいい遊撃手に逃げられてたまるか」という意図を明瞭にした。

最後に、しつこいようだが、前回に続いてジーターの守備について言及する。ジーターは2009年のア・リーグ・ゴールドグラブ受賞者だが、その守備が、見た目にどんなに華麗であっても、「OZワースト2位(ちなみに、ZRは上から12位)」のデータは、「名手などではないぞー」と叫んでいるのである。

(この項続く)

自己紹介
1954年、東京生まれ、京都大学医学部卒業。1990年よりボストンに居住、ハーバード大学医学部助教授を経て文筆業に転身。『医学界新聞』(医学書院)で医療コラムを20年近く連載する一方で、週刊文春に6年間『大リーグファン養成コラム』を連載するなど、野球評論も手がけた。2014年、震災復興支援を目的に、日本の臨床に復帰したものの・・・。2016年11月より川崎協同病院内科。

著書:『アメリカ医療の光と影』、『市場原理が医療を亡ぼす』(ともに医学書院)、『レッドソックス・ネーションへようこそ』(ぴあ)他。

訳書:『医者が心をひらくとき』(医学書院)、『インフォームド・コンセント』(学会出版センター)
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李 啓充

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