当コラムでもよく引用する『ベースボール・アメリカ』(以下、BA)誌は、マイナーリーグ・アマチュア野球情報誌としての定評を確立している。
毎年、開幕直前に、同誌主幹ジム・カリスがプレーオフ出場チームを占うことが恒例となっているのだが、今年の彼の予想(3月27日号)を以下に紹介する。
<ア・リーグ プレーオフ出場チーム>
レイズ
ロイヤルズ
エンゼルス
レッドソックス(ワイルドカード)
(次点 ヤンキース)
<ナ・リーグ プレーオフ出場チーム>
ブレーブス
レッズ
ジャイアンツ
ナショナルズ(ワイルドカード)
(次点 フィリーズ)
「昨季最下位のロイヤルズ、ナショナルズがプレーオフに出場すると予想するとはなんと大胆な」と読者は驚かれるかも知れない。しかし、BA誌主幹カリスが毎年開幕前に予想するのは、その年ではなく、「3年先の」プレーオフ出場チーム。「3年経つと、ロイヤルズ、ナショナルズが強豪チームに変身している」と、カリスは言うのである(なお、カリスはプレーオフ出場チームのリストに「次点」を加えているが、プレーオフ出場枠が拡大された場合は5チームが出場することになると予想されているからである)。
カリスがロイヤルズ、ナショナルズが強くなるとする予想の根拠はファームの充実度と若手有望選手の多さにある。
たとえばロイヤルズ。BA誌は毎年開幕前に「ファーム充実度ランキング(Organization Talent Ranking )」を公表することも恒例としているが、ロイヤルズは今年の第1位チームにランクされている。しかも、有望選手100人 (Top 100 Prospects)中9人を擁し、「将来の大器」がファームにゴロゴロ転がっているのだから、他チームGMの垂涎の的となっているのも不思議はない。
今オフ、エース投手ザック・グリンキーをブルワースに放出、引き替えに若手有望選手4人を獲得したのも、「2,3年先に強豪チームとする」戦略を徹底したからに他ならない。前々回、マリナーズがフェリックス・ヘルナンデスを放出することのメリットを論じたが、「若手有望選手をかき集めて数年先に強いチームとする」戦略を採る場合、ロイヤルズが未練なくグリンキーを放出したように、チーム「解体」を徹底する方が得策なのである。
一方、ナショナルズの場合、一昨年はスティーブン・ストラスバーグ、昨年はブライス・ハーパーと、2年続けて「10年に1人」級の逸材をドラフト1位指名で獲得したばかり。さらに、ストラスバーグに匹敵する剛腕投手、ジョーダン・ジマーマン(24歳)もトミー・ジョン手術から復帰、エース級投手へと育つことが期待されているように、他にも有望選手を多数擁している。しかも、今年7年目のライアン・ジマーマン(26歳、2009年にゴールドグラブ賞、シルバースラッガー賞受賞)は人格的にもチーム・リーダーにうってつけとされ、これから伸びてくる若手選手を率いて「キャプテン」的役割を果たすことが期待されている。
ヤンキースが「Core Four(ジーター、リベラ、ポサダ、ペティートと、自前で育成した選手4人がチームの核を構成)」を擁して90年代後半以降長期覇権を誇ったのと同じように、ナショナルズが強豪チームとして2010年代に君臨する可能性があるのである。
しかも、今オフ、FAのジェイソン・ワースを期間7年・総額1億2600万ドルの巨額契約で獲得したことでもわかるように、オーナーのマーク・ラーナーは、「その気になりさえすれば」ふんだんに金を使うことができる大富豪。ストラスバーグやハーパーが将来FAとなって逃げることを防止するだけの財力は十二分に備わっている。
私が見るところ、ナショナルズがこれから「黄金時代」を築くことができるかどうかの鍵を握るのは以下の二つ。
まず、第一はワースが期待通りに活躍するかどうか。もし、ワースが「アホウドリ」となった場合、長期計画を大きく狂わせる障害となりかねない。
そして、第二の鍵はスコット・ボラス。ナショナルズとすれば、ストラスバーグ、ハーパーが期待通りに成長した暁には、FA資格を得る前に長期契約を結びたいところだが、ここでネックとなるのが二人のエージェントがボラスであること。スター選手は「FA資格を取らせて市場での競りにかける」ことを原則としているからである。
もっとも、今オフ、昨季OPS9割7分4厘と大ブレークしたカルロス・ゴンザレスがFA資格取得前にロッキーズと7年・8000万ドルで契約更改したことでもわかるように、ボラスのクライアントだからといって必ずFAになると決まっているわけではない。ゴンザレスの契約更改について、ボラスは「本人の強い希望に従ったまで」と説明したが、ナショナルズが目論見通りに黄金時代を築くことができるかどうかは、ストラスバーグやハーパーが「このチームで長くプレーしたい」と思うことができるかどうかにかかっているようである。
(3月27日、姉妹サイト「CTBNL (Column To Be Named Later)」を更新、「テレビ『初出演』にからむ忌まわしい思い出」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい)
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