前項では、ジョン・ディーワンが2005年に考案した画期的守備評価法「+/−システム」について説明した。ディーワンは「+/−システム」をさらに発展させて、今年初め、「守備防御点」なる、これも画期的な守備評価法を発表したので紹介しよう。

「守備防御点」は、「ある野手の守備がシーズンを通じてどれだけ失点を防ぐことに貢献したかを平均的野手との比較で測る」ものである。具体的には、「野手のプレーが得点の期待値をどれだけ変動させたかを平均的野手と比較する」のだが、これだけで何のことかわかる人はまずいないだろうから、以下、詳しく説明しよう。

まず、最初にご理解いただかなければならないのが、以下に示す「状況別得点期待値表(The Run Matrix)」である。

                  アウト数      
走者           0          1          2       
なし           0.521    0.279    0.108
一塁           0.900    0.528    0.227
二塁           1.150    0.695    0.335
三塁           1.499    0.969    0.346
一・二塁      1.530    0.919    0.464
一・三塁      1.769    1.159    0.481
二・三塁      2.006    1.422    0.589
満塁           2.306    1.586    0.799

以上は、2008年のシーズン全体での実測値であるが、たとえば、一死二塁の欄の数字が「0.695」となっているのは、「一死二塁の状況からイニングが終わるまでに入った得点の平均(期待値)は『0.695点』であった」という意味である。

ここで、無死走者なし(得点期待値「0.521点」)の状況を考えよう。遊撃手がゴロを処理して打者走者をアウトにしたとすると、状況は、一死走者なし(得点期待値「0.279点」)となるので、遊撃手が得点期待値に与えた変動は「0.521-0.279=0.242点」。アウトにすることで「0.242点」の失点を防いだと考えるのである。

逆に、遊撃手が打球の処理をしくじってアウトが取れなかった場合、状況は無死一塁(得点期待値「0.900点」)となるので、遊撃手は「0.521-0.900=マイナス0.379点」の損害をチームに与えたことになる。

以上、野手のプレーが得点期待値に与える変動について説明したが、ここからは、これを、「平均的野手と比較」する計算法を説明する。前回、「+/−システム」を説明した際、属性値が「ベクトル17・ゴロ・遅い」という打球を例としたので、今回もこれを例にしよう。

前回も述べたように、「ベクトル17・ゴロ・遅い」という属性値の打球を遊撃手がアウトにする確率は26%である(逆にアウトにできない確率は74%)。

ここで、平均的野手が得点期待値に与える「変動の期待値」(期待値が二重に使われているので、混同しないように)は

(アウトにする確率)x(アウトにした場合の得点期待値の変動)と、(アウトにできない確率)x(アウトにできなかった場合の得点期待値の変動)との和になる。

無死走者なしの状況で、例とした属性値「ベクトル17・ゴロ・遅い」の打球を(平均的)遊撃手が処理した場合、得点期待値の「変動の期待値」は、
0.26(0.521-0.279)0.74(0.521-0.900)=—0.218点となるのである(平均的野手がこの属性値の打球をアウトにする確率は低い(=アウトにすることが難しい)ので、変動の期待値はマイナスとなる)。

しつこいようだが、上述したように、無死走者なしの状況で遊撃手がアウトを取った場合の得点期待値の変動は、無死走者なしの得点期待値「0.521点」と、一死走者なしの得点期待値「0.279点」の差の「0.242点」。この状況で平均的野手が属性値「ベクトル17・ゴロ・遅い」の打球を処理したときの得点期待値の「変動の期待値」は前段落で述べたように、-0.218点。つまり、この属性値の打球をアウトにした遊撃手は、平均的野手と比べて、「0.242--0.218)=0.460点」の失点を防いだと計算されるのである。

個々のプレーでの守備防御点を通算してシーズンを通しての守備防御点を集計するのだが、理論的に平均的野手の防御点は「ゼロ」となる。防御点がプラスの大きい値ほど守備がよく、マイナスに振れるほど「守備が下手」という読みとなる。

なお、厳密に言うと、ディーワンは、守備位置に応じて、バントの処理・ダブルプレーの中継、ホームラン(になったはずの打球)の捕球、強肩による補殺等を、修正点として考慮した後、シーズンを通しての通算点を計上している(守備防御点(Defensive Runs Saved)は、Bill James Online(有料サイト)で公開されている)。

また、前回紹介した「+/−システム」と、今回の「守備防御点」の評価は大方一致するが、前者が主に「守備範囲」の広さ・狭さに重きをおいた指標であるのに対し、後者は肩の強さ、ダブルプレー中継のピボットの巧みさなどを含んだ、より総合的な指標となっている。

たとえば、2009年の右翼手のランキング。イチローは、「+/−システム」ではメジャー1位となったが、「守備防御点」では4位。「守備防御点」で1位となったのは驚異的な肩の強さを誇るハンター・ペンスだった(ペンスの補殺16がメジャー1位であるのに対して、イチローの補殺は5)。

以下、遊撃手について、2006-2009年・4年間通算の「守備防御点」ベスト5とワースト5を記す。
<ベスト5>
1.アダム・エベレット   54
2.ジャック・ウィルソン  52
3.トロイ・トゥロイツキー 38
4.オマー・ビスケル    33
5.ジミー・ロリンズ    31

<ワースト5>
1.デレク・ジーター    -49
2.ユニエスキー・ベタンコート -39
3.オランドー・カブレラ  -33
4.フリオ・ルーゴー    -31
5.フェリペ・ロペス    -29

前回、私は、「シリーズの最後で必ずジーターを持ち上げる」と約束した。今回の「守備防御点」でも、ジーターは過去4年間で最悪の遊撃手と認定されてしまったが、私は、本当に、ジーターをほめることができるのだろうか?

(この項続く。当ブログ立ち上げの経緯についてはこちらをご参照下さい)