昨年のドラフト1位指名選手はナショナルズが獲得したスティーブン・ストラスバーグ投手。「10年に一人の逸材」という評判に違わず、1500万ドルと、史上最高額の契約金を獲得した。

日本で「10年に一人の逸材」となると、チームもファンも、「開幕から1軍デビューさせたい」と望むのが普通だが、当地で、ストラスバーグを開幕からメジャーで投げさせたりしようものなら、「折角大金をかけて獲得した逸材をそんなに早く潰したいのか」と猛非難を浴びるのは間違いない。

というのも、若い投手が中4日で(それもメジャーの高レベルで)、シーズンを通して投げることができるようになるためには、じっくり体を鍛え上げる必要があるからである(大学での登板間隔は中6日が普通)。

もともと当地では「投手の肩は消耗品」という感覚が強いところに加えて、若い投手については、「いきなり酷使したら潰してしまう」と考えられているので、投げすぎは「御法度」とされている。その「将来」を考えた場合、1試合当たりの投球数だけでなく、1シーズン当たりの投球イニング数も厳しく制限するのが普通となっているのである。

若い投手を使い過ぎで潰さないようにどれだけ気を使っているか、今季、松坂大輔と先発四番手の座を争うクレイ・バックホルツの例で説明しよう。バックホルツは、2007年メジャー先発2試合目でノーヒット・ノーランを達成したが、その試合、テオ・エプスタインGMは「投球数が増え過ぎたら記録継続中でも途中降板させる」と決めていた。1試合だけの記録のために逸材の将来を潰してしまうことはできないと考えたからだった。

さらに、2007年のシーズン、レッドソックスは優勝争いに加わっていたが救援陣の不調に苦しんでいた。特にシーズン途中に獲得したエリック・ガニエが大きく期待を裏切り、「パペルボンとの二枚抑え」になるどころか投げる度にリードをはき出す体たらくだったため、バックホルツがブルペンに加われば戦力的には大助かりとなるはずだった。しかし、投球イニング数がシーズンの限度数に近づいた途端、レッドソックスはシーズン終了を待たずにバックホルツを「シャットダウン」した。目先の優勝のために利用することよりも、その将来性を守ることを優先したのである(結果としてバックホルツの助けを仰ぐことなくワールドシリーズ優勝を達成した)。

ことほどさように、若い投手については時間をたっぷりかけてじっくり育てる風潮が強まっているのだが、いま、1シーズン当たりの投球イニング数の目安とされているのは、「前の年より30イニング以上増やしてはいけない」というものである(イニング数には、マイナー、メジャー、レギュラーシーズン、プレーオフと、ほとんどすべてを含めるが、プレシーズン=調整段階の投球回数は含めない)。上述した2007年のバックホルツの場合も、レッドソックスは、投球イニング数が2006年より29イニング増えた時点でシャットダウンしたのだった。

しかし、目安は設けられていても、戦力的に切羽詰まって若い投手を使い続けざるを得なかったり、さらには、将来性にそれほど頓着しないチームがあったりするため、毎シーズン「30イニング」の限度を超える投手が何人か現れる。

トム・ベルドゥーチは、スポーツ・イラストレイテッド誌の名野球ライターであるが、ここ数年、開幕前になると「前年酷使された若手投手」のリストを発表、警告を発している。ベルドゥーチによると、「25歳以下の投手の場合、投球イニング数が前年(あるいは自己最高記録)よりも30イニング以上増えると、その悪影響は次の年に現れ、怪我で故障者リスト入りしたり、成績が悪化したりする」といい、酷使された翌年に悪影響が現れるこの現象を、彼は「翌年効果(the year after effect)」と呼んでいる。しかし、この現象を「翌年効果」と呼ぶ向きは少なく、一般には「ベルドゥーチ効果」の名で知られている。

ベルドゥーチによると、2009年までの4年間、「ベルドゥーチ効果」の犠牲となることが懸念された投手は34人に上ったが、なんと、30人が、怪我で故障者リスト入りしたり、成績が低下したりしたのである。

以下、昨シーズン、「ベルドゥーチ効果」の犠牲となった顔ぶれ5人について、20082009年の防御率を示した(年齢は2009年開幕時)。

マイク・ペルフリー(メッツ、25歳) 3.725.03
コール・ハメルス(フィリーズ、25歳) 3.094.32
チャド・ビリングズリー(ドジャース、24歳) 3.144.03
ジョン・ダンクス(ホワイトソックス、24歳) 3.323.77
ダナ・イブランド(アスレチクス、25歳) 4.347.16

また、昨季投球イニング数が30回以上増加、今季「ベルドゥーチ効果」の犠牲となるかもしれない要注意投手は以下の10人である。年齢・昨季の投球イニング増加数とともに示す。

シーザー・カリロ(パドレス) 25歳、+84.1
バド・ノリス(アストロズ) 24歳、+73
マット・ラトス(パドレス) 22歳、+66.2
ジョバ・チェンバレン(ヤンキース) 24歳、+63.2
ホーマー・ベイリー(レッズ) 23歳、+55.1
ジョシュ・ジョンソン(マーリンズ) 25歳、+52
リック・ポルセロ(タイガース) 21歳、+45.2
マックス・シャーザー(タイガース) 25歳、+42
フェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ) 23歳、+38
ウェイド・デイビス(レイズ) 24歳、+35.1

ヘルナンデスは5年・7800万ドル、ジョンソンは4年・3900万ドルの大型契約を結んだばかり。もし今季「ベルドゥーチ効果」の犠牲になったりしたら、チームとしては泣くに泣けないだろう。特にヘルナンデスの場合、昨季の投球回数の計算には、ベネズエラ代表として出場したWBCでの投球回数は含まれていないだけに、今季落ち込む可能性が一層心配される。

また、ベルドゥーチも指摘していることだが、優勝争いに加わっていないチームがシーズン終盤に若い投手を酷使する行為は「犯罪」といってよい。ベイリーの場合、昨季最後に先発した9合の平均投球数は112球と、シーズン終盤に意味もなく酷使され続けた。レッズのダスティー・ベイカー監督は、カブスでマーク・プライアーを潰した前歴などで、「潰し屋」の定評があるだけにベイリーの将来が心配されてならない。