前回のスティーブン・ストラスバーグに続いて、今回も鮮烈のメジャー・デビューを果たした新人の話である。

612日、レッドソックスの新人ダニエル・ナバ(27歳)が、初打席で、それも初球をたたいて、満塁本塁打を放ったのである(初打席満塁本塁打は史上10人目の快挙)。しかし、ストラスバーグが史上最高額(1510万ドル)で入団契約を結んだ超有望選手であったのとは正反対に、ナバは、誰からも期待されない、超「非」有望選手だった。

誰からも期待されなかった最大の理由は体が小さかったことにあった。たとえば、高校入学時の身長は142 cm(体重32 kg)。「低身長症」とされて、成長ホルモンが投与されたほどだったし、チームでは9番より上の打順に入ったことはなかったという。

さらに、大学入学時にもまだ体が小さかったため、野球部入部を希望したものの選手になることはできず、マネージャー(用具係)として、選手のユニフォームを洗ったり、グラウンド整備に励んだりしなければならなかった。しかも経済的事情から大学を中退。好きな野球を続けるためには、ジュニア・カレッジ(日本の短大に相当)に転学しなければならなかったのである。

体が大きくなったのはジュニア・カレッジ転学後。大きくなると同時に打者としても成長、野球で奨学金を得て元の大学への復学を果たすと、リーグ首位打者となったのだった。しかし、MLBのドラフトでは完璧に無視された上、独立リーグ、チコ・アウトローズの入団テストにも失格。プロへ進む道はまったく閉ざされてしまった。

野球に復帰することができたきっかけは、アウトローズの外野手が結婚を機に引退したこと。シーズンが始まった後になって、チームから誘いの電話がかかってきたのである。はたして、入団後、ナバは猛打を奮い、打率395厘で首位打者の座を獲得した。

首位打者となったナバに興味を示したのがレッドソックス。アウトローズから契約を「1500ドル」で買い取ると、春季キャンプに招待した。もっとも、1500ドル全額が払われるのは「ナバがマイナーリーグの選手になることができたら」という条件付き。レッドソックスが前もってアウトローズに払った金額(=ナバに投じた財政的リスク)はわずか「1ドル」にしか過ぎなかった。これに対して超有望選手ストラスバーグにナショナルズが投じた金額は1510万ドル。私が「1ドル選手」ナバを、超「非」有望選手と呼ぶ理由がおわかりいただけるだろうか。

かくしてまったく期待されないナバがマイナーリーグ・デビューを果たしたのは2008年。25歳と、薹(とう)が立った新人だったが、わずか2年でメジャー昇格にこぎ着けたのだから立派である。

ところで、今回、ナバがメジャーに昇格することができた理由は、同じ外野手のジェレミー・ハーミダが肋骨骨折でDL入りしたからだった。ちなみに、ハーミダも2005年にデビューした際、初打席満塁本塁打という快挙を成し遂げていたという奇縁でつながっているのだが、快挙の先輩、ハーミダの骨折が完治した暁には、ナバはまたマイナーに戻らなければならないことになっている。

ナバとすれば、次はいつメジャーに昇格できるのかを考えると暗い気持ちになるかも知れないが、私は、エイドリアン・ベルトレ(三塁手)が元気な限り、ナバのメジャー再昇格は遠くないと考えている。

というのも、ベルトレは、セーフになる可能性が全くない内野ゴロを打った後だろうと、普通だったらとても取れそうにない飛球を追いかけるときだろうと、絶対に全力疾走を怠らない「立派」な選手だからである。しかし、この「立派」さが仇となって、打球を追いかけては他の野手と衝突、怪我をさせるということを繰り返している。ハーミダが肋骨を折ったのも飛球を追うベルトレに衝突されたからだが、ベルトレに今季肋骨を折られたのはハーミダが二人目。一人目のジャコビー・エルスベリーは開幕早々ベルトレに肋骨を折られた後、治ったと思ったら再骨折するという不運もあっていまだにDL入りしたままなのである。

「二度あることは三度ある」というし、たとえ、すぐまたマイナーに戻らなければならないとしても、ベルトレという強い味方もいるのだから、ナバには、メジャー再昇格の日(=外野手枠に空席のできる日)を目指して頑張って欲しいものである。

もっとも、子供の時からずっと「期待されない選手」だったにもかかわらず「メジャーでプレーする」という夢を諦めずに追い続けたナバにとって、私が励ます必要などまったくないのだろうが・・・。

613日、姉妹サイトCTBNL (Column To Be Named Later)を更新、「中間選挙予備選とティー・パーティー」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい)