しかし、同じ偽証罪でも、ボンズとクレメンスが訴追されるにいたった経緯は水と油ほどに異なるので、以下、比較してみよう。
<偽証が行われた場所>
ボンズの場合、偽証が問われているのは「犯罪が行われたかどうかを訴追前に審理する」大陪審での証言。大陪審は非公開が原則なので、問題となった証言は、ごく少数の関係者が出席した法廷で「ひっそりと」行われたものだった。
一方、クレメンスが偽証をしたとされる場所は、米下院の公聴会。全米に中継されるTVカメラの前で、「ステロイドもHGHも使っていない」と、繰り返しきっぱり断言したのである。
<証人の有無>
クレメンスの筋肉増強剤使用を暴露したのは、元専属トレーナーのブライアン・マクナミー。しかも、マクナミーは下院公聴会でクレメンスと真っ向から対立。「どちらかが嘘をついている」ことは誰の目にもあきらかだった。さらに、チームメートだったアンディ・ペティートが下院の調査に対してマクナミーの証言を補強、クレメンスにとって非常に不利な状況となっている。
一方、ボンズの場合、元専属トレーナーのグレッグ・アンダーソンは「黙秘」を貫き、検察側を困らせている。しかも、アンダーソンは、証言を促す判事の指示に反抗、法定侮辱罪で長期収監され続けたにもかかわらず「黙秘」を貫き、ボンズを守り抜いてきた。
<偽証内容>
ボンズは、「知りながら使ったことはなかった」と、「偽証」に際し「知りながら(knowingly)」という副詞を使った。検察としてはただ使ったことを立証するだけでなく、「知りながら」使ったことを立証しなければならないというハンディキャップを負っている。
一方、クレメンスは「一切使っていない」と全否定。一度でも使った事実を立証できれば、検察としては自動的に「偽証」を立証できるのである。
<偽証にいたる経緯>
ボンズが大陪審の証言台に立ったのは、バルコ社の違法薬剤供与捜査に証人として出頭を求められたため。いわば、「いやいや」証言台に立たされた。
一方、クレメンスは、みずから「潔白を証明したい」と下院での公聴会開催をリクエストした。下院側は、「公聴会を開かずとも(非公開の場で)宣誓下の証言をすればそれでよい」と「寛大」な姿勢を示したにもかかわらず、クレメンス側から「公聴会にしてくれ」と、わざわざリクエストしたのである。
しかも、下院側は、クレメンスに対し「真実にもとる証言をしたら犯罪に問う。公聴会での偽証は議会の国政調査権をないがしろにする大罪」と、何度も繰り返し警告した。にもかかわらず、クレメンスは「全否定」を繰り返したため、下院としては「おおっぴらに嘘をつかれては面子が立たない」立場に立たされてしまった。捜査当局に対し「クレメンスが公聴会で偽証をした疑いが強いので捜査すべし」と依頼せざるを得なかったのである。
<裁判結果予想>
ボンズは無罪、クレメンスは有罪、というのがもっぱらの下馬評となっている。また、法律上クレメンスは最長30年の刑に服する可能性があるが、「初犯」であるので、「相場」通りの判決なら15-21ヶ月の服役になるだろうと言われている。
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ボンズとクレメンス、同じ偽証罪の訴追でありながら、ここまでの経緯は「水と油ほどに違う」と言った理由がおわかりいただけただろうか?
無罪と有罪、法律的には正反対の決着となりそうな雲行きなのだが、二人が問われている罪は「違法薬剤を使った」ことそのものにあるのではなく、「嘘をついた」ことにあるので、仮に無罪となったとしても、「薬を使った事実はない」と法廷がお墨付きを与えるわけではないので勘違いしてはならない。
裁判の結果がどうなるにせよ、ファンのほとんどは「二人が筋肉増強剤を使ったのは間違いない」と考えている。少なくとも「Court Of Public Opinion(世論による裁き)」に関する限り、薬剤使用の罪については、二人とも、すでに有罪判決が確定しているのである。
(8月22日、姉妹サイト「CTBNL (Column To Be Named Later)」を更新、「ルー・ゲーリッグはゲーリッグ病ではなかった?」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい)
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ボンズ選手と、クレメンス選手の偽証罪に関する相違が、明確に分かりました。ありがとうございます。
特に、結果予想を非常に興味深く、拝読させていただきました。「Court Of Public Opinion」というのは、世論や世評による裁きということで、非公式ながらも、世の人々の判断ということでよろしいのでしょうか?
こうした天賦に恵まれた選手が…と考えると、非常に残念な限りです。決して、薬によって、卓越したパフォーマンスが成し遂げられたとは思いたくないのですが、先生のお考えは如何に?