12月21日付け朝日新聞「アスレチクス移籍断念の岩隈に聞く」を読んで、腰を抜かすほど驚くと同時に非常な失望を覚えざるを得なかった。

記事には、岩隈が移籍断念の「真相を明かした」とする前置きがついていたが、私がなぜ驚き、かつ、がっかりしたかというと、岩隈が暴露した「真相」は、当地の事情を少しでも知る者にとっては、「こんなことはありえない」と思わざるをえないような話ばかりだったからである。

その極めつけが「地元紙などが岩隈側は総額1億2600万ドルの7年契約を要求したと報じたことについて、岩隈は『本当に間違った報道』と怒りを隠さない。アスレチックスからは、『うそをリークして報道させた。不愉快な思いをさせた』と、地元紙からも『事実と違う報道をした』という趣旨で、団氏を通じて謝罪があった」とした下り。

同じく岩隈のインタビュー記事を掲載した英字紙Japan Today (共同通信のインタビューを引用)によると、謝罪した地元紙とはサンフランシスコ・クロニクル紙。クロニクル紙でアスレチクスと岩隈の交渉経過を報じ続けたのはスーザン・スラッサー記者であるが、以下、岩隈が明かした「真相」に対し、同記者がアスレチクス・ファンのディスカッション・サイトに寄稿した反論を紹介する。

*12月21日午後3時49分:たったいま、岩隈の発言を読んだところですが、クロニクル紙が岩隈側に謝罪した事実がないことは、「絶対保証付き」で断言いたします。・・・「バリー・ジートの契約(期間7年・総額1億2600万ドル)について岩隈側の代理人が言及した」と記事に書きましたが、これは事実に相違ないので謝罪しなければならない理由は存在しません。・・・それだけでなく、岩隈側の代理人自らが「岩隈側の要求をもっともよく説明している記事」と引用し続けたほどです。・・・

*同午後4時24分:岩隈側は当初年俸1200万ドル・契約期間3年を要求しました。ポスティング・フィーも含めると1年当たり1800万ドルです。私の記事はこちらですが、代理人自らが繰り返し「正確」と評してきた記事です。・・・とっても腹が立ったので(団野村との)やりとりをすべて読み返してみましたが、彼が私の報道の「誤り」を指摘したことは一度もありませんでした。すべて、こちらの質問に対して向こうが答えるという誤解の余地のないやりとりだったのです。岩隈はまったく違う話を聞かされているようですが、こうまで事実と違う話が出てくると、彼がしている他の発言についてもどこまでが真実なのか疑わざるをえません。

*同午後9時00分:野村から「『(クロニクル紙が)謝罪した』とする発言について明日取り消す」と連絡がありました。どういう形で取り消すのかについては知りませんが、岩隈が、こちらが謝ったと思っているなんて、まったくどこから見ても噴飯物の話です。(筆者註:団野村が「謝罪」に関する岩隈の発言を実際に取り消したかどうかは不明。少なくとも、私が知る限り「取り消し」が報道された事実はない)

以上、地元紙担当記者の反論を紹介したが、同記者のコメントを信ずる限り、地元紙はそもそも「嘘の報道」をしていないし、謝罪もしていない。さらに言うなら、(「嘘の報道」自体がなかったのだから)アスレチクスが「嘘をリークして報道させた」事実もないことになり、事実がない以上、「不愉快な思いをさせた」と、岩隈側に謝罪することもあり得ないことになる。

岩隈側とクロニクル紙記者との証言はかくも大きく食い違うのだが、この食い違いの大きさは「誰かが嘘をついている」としなければ説明できない物であることは言うまでもない。嘘をついているのが誰かについての判断は読者に任せるが、日本では、岩隈サイドの証言のみが「真相」としてまかり通っているだけでなく、アスレチクスが一方的に「悪者扱い」されているというから驚かざるを得ない(朝日の記事にしても、事実関係をチェックしないまま岩隈の発言を鵜呑みにして「真相」と銘打ったのだから「おっちょこちょい」のそしりを免れないだろう)。

それにしても、私が理解できないのは、なぜ、岩隈側に、契約を結ばなかったことの「正当性」を説明したり、アスレチクスを「悪者」にしたてあげたりしなければならない必要があったのかということである。単に、「双方の希望が折り合わず交渉がまとまらなかった」という「ビジネスの話」にしか過ぎない(=どちらが正しいとか間違っているとかの話ではない)のに、なぜ「(岩隈側対アスレチクスの)正邪の闘い」という大げさなストーリーを演じなければならなかったのだろうか?

私には「理解不能」を通り越して、 とてつもなく「奇怪(bizarre)」な話と聞こえてならないのである。

(12月26日、姉妹サイト「CTBNL (Column To Be Named Later)」を更新、「プラセボー効果の不思議」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい)

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