いま、タイガース対ドジャース第3戦(6月22日)をテレビ観戦しながらこの原稿を書いている。

伝説的名アナウンサー、ビン・スカリー(83歳)の名調子に聞き惚れている限り、「今日ものどかな野球日和。世の中平和であるな」という雰囲気しか伝わってこないのだが、スカリーの言葉が作り出す「野球の楽園」のイメージとは裏腹に、テレビに映る画像は、ドジャースに起こりつつある「異変」の大きさを如実に物語っている。

カメラに映るドジャー・スタジアムの観客の入りは多めに見積もっても「3割」ほど。空席ばかりが目立つのである。

人気の落ち込みは、リセール・サイト(StubHub)におけるチケット価格にも反映されている。たとえば人気シリーズのはずの対エンゼルス戦、それも週末の試合(6月24-26日)が、「定価30ドルの内野リザーブ席が3ドル95セント」という具合に、たたき売りされているのである(比較の対象としてフェンウェイ・パークのStubHub価格を記すと、定価20ドルの立ち見席に最低35ドルと、立ち見席でさえもプレミアム付きの値がつけられている)。

では、なぜ、こんなにドジャースの人気が落ち込んでいるのかというと、オーナー、フランク・マッコートに対する反感が強まり、ファンの間に「あいつがオーナーをしている間は絶対試合を見に行かない」というボイコット運動が広がっているからである(球団が公式に発表する「観客数」は、テレビに映る観客席の「ガラガラぶり」と乖離する印象があり、チケットを持っていても行かないというファンが多数存在するようなのである)。

オーナーに対するファンの反感が高まった経緯については、すでに『スラッガー』7月号の巻末コラムで詳述したが、以下、簡単に経過をまとめよう。

元々ボストンからやってきた「よそ者」のマッコートは不人気だったのだが、ボイコット運動が起こるほどその不人気が高まるきっかけとなったのはオーナー夫人の不倫に端を発した醜悪な離婚騒動。しかも、離婚裁判の過程で、オーナー夫妻がぜいたく三昧に耽るためにドジャースの金を使いまくっていたことが判明、4月20日には、コミッショナーのバド・シーリーグが、球団経営をMLB機構の監督下に置く強権を発動した(マッコートは、球団の金庫から金を引き出しては個人の用に使うことを繰り返してきたのだが、それができないようにしたのである)。

マッコートは、始めから自己資金に乏しく、金を借りまくってオーナーの座に納まったのだが、その治世下でドジャースの負債は増大、最近は選手に払う給料の現金にも事欠くようになっていた。給料日が近づく度に金の工面に走り回り、「倒産」を避けるということが繰り返されていたのである。

そんな状況の下、マッコートが画策した「起死回生策」が、フォックスTVとの期間17年・総額30億ドルの長期巨額放映権契約だった(ただし、「30億ドル」はマッコート側の宣伝する数字で、MLB機構によると実際は「17億ドル」の価値しかないという)。

しかし、マッコートの起死回生策に対して、コミッショナーは、6月20日、「この契約は、巨額の頭金がマッコートの懐に入る仕組みとなっているので、球団の長期的将来を考えたら健全な契約ではない」とし、機構として承認しないことを決定した(換言すると、本来、将来のオーナーが得るべき利益を、マッコートがつまみ食いする構造になっていると断じたのである)。

かくして起死回生策を封じられたマッコートは、6月30日の給料日を間近に控えて難しい金策を迫られているのだが、「今度こそ給料を払えなくなる」と観測する向きがほとんどである。

マッコートが給料を払えなくなった時点で、機構が給料を立て替え払いした上で経営権を接収、身売り先を探すことがが可能となる。実質的にマッコート治世に晴れて終止符が打たれることとなるのだが、ドジャース・ファンとしては、マッコートが一日も早く消えていなくなることを願っているだけに、「どうか、金策が成功しませんように」と祈りながら6月30日が来るのを待っているのである。

いわば、抑え投手ジョナサン・ブロクストン(現在DL入り)が9回表に敵打線を抑え込むのを祈るのと同じような感覚で、マッコートが最後の金策に失敗することを祈っているのである(もっとも、マッコートがおとなしく引き下がると見る向きは少なく、コミッショナー・機構相手に訴訟を起こして居座り続ける可能性があるだけに、ドジャース・ファンとしては気がかりなところである)。

ところで、マッコートにとって、ただでさえ金策が難しくなっていることに加えて、6月30日までに用意すべき現金は普段の給料日よりも額が大きいだけに、状況は厳しい。では、なぜ、いつもより用意すべき金額が大きいのかというと、あのマニー・ラミレスに対する「将来後払い分」年俸800万ドルが含まれているからである。

ラミレスは、現役時代はその「薬漬け」の肉体で強打をほしいままとして、敵投手を打ちのめしただけでなく、巨額の年俸を稼ぎ続けた。そして、いまは、もう引退したというのに、その「薬漬け」のバットで、不人気オーナーの治世に終止符を打つ決勝打を放とうとしているのである。

(6月19日、姉妹サイト「CTBNL (Column To Be Named Later)」を更新、「40年続く不毛な『戦争』」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい)

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