メッツのクローザー、「K—ロッド」ことフランシスコ・ロドリゲスのブルワーズへのトレードが発表されたのは、日付が7月13日に変わったばかりの深夜。オールスター戦が終わってから約1時間後のことだった。

交換選手は後日指名される選手2人。いわゆる「PTBNL(player to be named later)」だが、以前に姉妹コラムの方で説明したとおり、この条件は、普通、欲しい選手を急いで獲りたいチームが、トレードをすぐに成立させるときに使う手段である。

ところが、今回のK—ロッドのトレードの場合、すぐに話をまとめたがったのは放出チーム側のメッツだった。しかも、ブルワーズに500万ドルを払うという「熨斗(のし)」までつけて、「早くいなくなって欲しい」と、トレード成立を急いだのである。

いったい、なぜ、放出を急いだかだが、その最大の理由は、K—ロッドの契約に含まれる特殊な「付帯条項」にあった。何もなければ契約は今季で満了するはずだったのだが、「2011年のシーズンで(セーブがつこうかつくまいが)55試合以上クローズしたら、2012年まで契約を延長し、年俸を1750万ドルとすることを保証する」という付帯条項がついていたのである。

今季前半戦終了時点でK—ロッドは34試合をクローズ(セーブ数は26機会中23。以下、数字は前半戦終了時点)。シーズン終了までに60試合をクローズするペースだったから、何もしなかった場合、メッツは、来季、K—ロッドに、1750万ドルという「救援投手としての史上最高年俸」を払わなければならないことがほぼ確実な立場に立たされていたのである。

ところが、メッツは、いま、史上最大の金融詐欺事件に巻き込まれて、被害者から「オーナーは主犯のバーニー・メイドフと仲良しだったし、詐欺であったことに気がついていながら取引を続けたに違いない。被害者に賠償せよ」と訴えられている。いずれ、巨額の賠償金を用意しなければならないことはわかりきっているし、球団を「一部身売り」しなければならないほど、財政的には苦しい立場に立たされている

しかも、K—ロッドは、今季23セーブを上げているとはいっても、防御率3.16・WHIP1.41と、力が衰えていることは数字からも明らかである(ちなみに、通算成績は防御率2.54・WHIP1.16)。メッツとしてみれば、落ち目の救援投手に、来季1750万ドルという「救援投手としての史上最高年俸」を払う気などさらさらなかったし、7月31日のトレード期限までに何としても放出する必要に迫られていたのである。

しかし、メッツは厄介払いをしたくとも、K—ロッドの移籍先となるチームとしてみれば、「クローズ55試合で来季1750万ドル」という付帯条件を守る義務が新たに生じるのだから、おいそれとトレードに応じることはできない。K—ロッドは、まるで、「ババ抜きのババ」のような存在になっていたのである。

では、なぜ、ブルワーズが「ババ抜きのババ」を受け入れるトレードに応じたかというと、その最大の理由は、すでにジョン・アックスフォードというクローザーがいたことにある。セーブ数は25機会中23・防御率3.00・WHIP1.33と、成績はK—ロッドよりいいし、K—ロッドをアックスフォードへの「つなぎ」として使う(あるいは二人を交互に抑えとして使う)ことで、「二枚抑え」の体制を整えることができる上、「55試合クローズ」達成という恐ろしい事態の到来を防ぐことも可能となるからだった。

以前にも説明したとおり、ブルワーズは、開幕前に、ブルージェイズからショーン・マーカム、ロイヤルズからザック・グリンキーを獲得したことでもわかるように、今季は、プレーオフ出場にかけて「出費覚悟」の補強を展開してきた。主砲のプリンス・フィールダーがシーズン終了後にFAとなって退団する公算が大であるだけに、「プレーオフ出場をねらうとしたら今季しかない」からである。

しかも、マーカム、グリンキーを獲得する際に、若手プロスペクト(有望選手)を多数放出、ブルワーズのファームに他球団が欲しがるような「プロスペクト」は払底していた。普通、「即戦力選手とプロスペクトの交換」がトレードの基本パターンなのだが、「どうしても厄介払いしたい」メッツが、「交換選手は誰でもいいし、いま、決めなくてもいい。500万ドルの熨斗もつける」という「破格」の条件を出すことで、トレード成立にこぎつけたのである。

しかも、トレード成立3日前の7月10日には、「トレードをさらに急がなければならないある事情」が出来。メッツとすれば、どうしても「超特急」でトレードを成立させる必要があった。

7月10日に出来した「ある事情」が何だったかというと、K—ロッドが、エージェントを、あのスコット・ボラスに替えたこと。ボラスは早速「K—ロッドはクローザーしかできない投手」という宣伝を始め、暗に「55試合クローズを避けるために、中継ぎに使ったりしたら(組合に訴えたりして)問題にするぞ」という「脅し」をかけ始めたのである。

ボラスが脅しを続ければ続けるほど他の球団がK—ロッド受け取りを尻込みすることはわかりきっていたし、メッツとすれば、何としてもオールスター戦のお祭り騒ぎの間に話をまとめてしまいたかったのである。

以上のような事情で「シーズン最多セーブ記録の持ち主」という大物投手が「交換選手(二人)後日指名・500万ドルの熨斗付き」という「破格」の条件でトレードされることになったのだが、メッツが、なりふり構わずに、K—ロッドの放出を急いだ理由がおわかりいただけたろうか?

(おまけ1)マイケル・ルイス著の『マネーボール』の映画化がついに完成。オールスター戦前後から「9月23日公開」のTVコマーシャルが放映されるようになった。ちなみに、アスレチクスGM、ビリー・ビーンを演じるのはブラッド・ピット。

(おまけ2)「イチローは大した価値のある選手ではない」とする趣旨の記事がニューヨークタイムズ(7月9日付け)に掲載されたので、関心のある向きはご一読されたい。

(7月10日、姉妹サイト「CTBNL (Column To Be Named Later)」を更新、「悲しい話題三件」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい)

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