カブスのホーム球場リグリー・フィールドは、球場外にも観客席が存在することで知られている。外野席沿いの道に立ち並ぶ人家が屋上を「有料観客席」に改造、高額の入場料を取ってカブス戦を観せているのである。

 リグリーの場外私設有料観客席は、通称「ルーフトップ」の名で知られているが、カブスがルーフトップのオーナー達を相手に「球団に無断で試合を観せて儲けるのはけしからん」とする訴訟を起こしたのは2002年のことだった。その後、2004年に示談が成立、ルーフトップのオーナーは、カブスに17%の「寺銭」を払うようになった。

 何軒も立ち並ぶルーフトップの中、右翼側に立つ一軒は、その壁に、カブスが勝てずに来た歴史を簡潔に要約する表示をしていることで知られている。この表示、毎年更新されるのだが、今季、リグリーに訪れるファンが見る表示は、「AC0467104」となるはずである。

 ACはラテン語の「Anno Catuli」の略であり「カブス年」の意。ACの後に続く数字の最初の2桁は最後に地区優勝してから「4年」、次の2桁は最後にリーグ優勝してから「67年」、そして最後の3桁は、最後にワールドシリーズ(WS)に優勝してから「104年」であることを表しているのである。

 カブスが104年もWS優勝から遠ざかっている原因としてファンの間に語り継がれているのが、有名な「ビリー・ゴートの呪い」である。1945年、タイガース相手のWS第4戦。ペットの山羊とともに観戦に訪れたビリー・シアニスの入場をカブスが拒否したのだが、それ以前は、山羊との観戦を黙認されていたとあってシアニスが激怒。カブスのオーナー宛てに「私の山羊を侮辱した祟りで、今回を含め、金輪際、カブスがWSに勝つことはない」とする電報を送りつけたとされているのだが、シアニスの予言通り、カブスは、45年のWSに負けた後、ずっと、WSに勝てないどころか出場することすらできずにいるのである。

 以下、カブスが「ビリー・ゴートの呪い」に祟られてきたことを象徴する事例を三件示す。

*69年黒猫事件:8月まで独走していたカブスをメッツが猛迫。9月9日シェイ・スタジアムでの直接対決、「不運の兆し」とされる黒猫が出現、選手をにらみつけながらカブスのダグアウト前を徘徊する事件が起こった。この直後カブスは首位から転落、メッツに逆転優勝を許した。

*84年リーグ選手権逆転負け:パドレス相手の選手権シリーズ、カブスは2勝0敗と王手をかけた後3連敗。最終第5戦は7回裏途中までリードしていたものの、なんでもないゴロを一塁手がトンネルしたことがきっかけとなって逆転負け。ファンの間に「呪い」の認識が強まる契機となった

*03年スティーブ・バートマン事件:マーリンズ相手のリーグ選手権第6戦。カブスは8回途中までリード、58年ぶりのWS進出を目前としていた。しかし、三塁フェンス際に上がったファウルフライの捕球を最前列に座った観客、スティーブ・バートマンが妨害したことがきっかけとなってマーリンズが大逆転。ファンの非難は試合中からバートマンに集中、物を投げたり、殴りかかったりするファンが続出した。当時イリノイ州知事だったロブ・ブラコイェビッチも、試合後、「あの馬鹿から(刑務所入りした後)保釈申請が来たとしても絶対拒絶してやる」と息巻いたが、昨年、彼自身が知事時代にオバマの大統領当選で空席になった上院議員の座を金で売ろうとした罪で刑務所入り。自らの保釈申請の心配をしなければならなくなった。

 その後、カブスは、07年、08年と、2度プレーオフに出場したもののいずれも0勝3敗で敗退。バートマン事件後、プレーオフの試合には一度も勝っていない(現在8連敗中)。

 と、ずっと負け続けてきたカブスだが、今オフ、ファンに、新たな希望を抱かせる展開があった。レッドソックスGMとして「ベーブ・ルースの呪い」を破った実績を持つテオ・エプスタインの引き抜きに成功、球団社長として迎え入れることができたのである。

 しかし、新たな希望を抱いたとはいっても、今季すぐに呪いを破ると期待しているファンはいない。現有戦力が地区ライバルのカージナルス、ブルワースと比べてはるかに見劣りする上、マイナーにも有望選手が枯渇しているからである。さらに、前任のフロントから、メジャー一の問題児、「ビッグZ」ことカルロス・ザンブラーノの放出問題も引き継いだだけに、エプスタインが優勝を狙える体勢を整えるまでに、少なくとも2、3年かかることは承知しているのである。

 ザンブラーノが起こしてきた問題については以前に本コラムで紹介したが、その暴れん坊ぶりの凄まじさに放出先が見つかるかどうか危ぶむ向きも少なくなかった。幸い、1月4日、マーリンズとの交換トレードで合意が成立したが、今季の年俸1800万ドルのうち、カブスが1500万ドルを負担するという「熨斗付き」トレードとなった。

 ちなみに、ザンブラーノ放出の目途が立った1月4日は、16歳のギリシャ移民、ビリー・シアニスが、アメリカに到着してからちょうど100年目の記念日。カブスの呪われた歴史の節目となる日にザンブラーノの放出が決まったのも何かの因縁なのだろうが、はたして「ビリー・ゴートの呪い」が解けて、ルーフトップに「AC000000」と表示される日がいつかやってくるのだろうか?

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