開幕前には「最下位で決まり」と言われていたメッツが、20勝17敗(ナ東地区3位、以下数字は5月16日現在)と健闘している。

 オーナーがバーニー・メイドフの金融詐欺事件に巻き込まれて以後、財政的金縛りにあって思うような補強ができなくなったメッツ。ここ2年間、FAに投資して戦力を強化するという手段が取れずに来た。

 昨オフには、FAになったオールスター選手、ホセ・レイエスを引き留めることができずにマーリンズに獲られたばかりであるし、ここ2年間で複数年契約したFA選手は2人だけ(しかも、2人とも期間は2年のみ)にとどまった。ビッグ・マーケット・チームであるにもかかわらず、まるでスモール・マーケット・チームのように振る舞わなければならなかったのである。チームの年俸総額も2010年の1億3400万ドル(MLB5位)から今季は9300万ドル(MLB14位)まで減少してしまった。

 では、なぜ最下位が指定席となっていたはずのメッツが予想外の健闘をしているのかというと、その最大の理由は、昨季不振だった主砲デイビッド・ライト(29歳)の復活である。昨季は、OPS7割7分1厘と「並み」の成績しか残せなかったのに、今季のOPS10割9分5厘はリーグ3位。「早くも下り坂にさしかかったか」と心配された選手が、完全復活を遂げたのである。

 しかも、レギュラーでOPSが8割を超えているのはライト一人だけ。「ただ一人でチームを引っ張っている」と言っても言い過ぎとはならないほど頑張っているのだが、5月15日、このライトが、試合中、ベンチ内でテリー・コリンズ監督に公然と食ってかかる事件を引き起こした。いったい、チームの主砲は、何が不満で、試合中、監督に食ってかかったのだろうか?

 ライトが監督に食ってかかる事態を引き起こした張本人は救援投手のD・J・カラスコである。ブルワーズ相手に0対7とリードされた7回表、敗戦処理として登板したのだが、二死を取った後、二番のリッキー・ウィークスに本塁打を浴びてしまった。その「腹いせ」に、よせばいいのに、次打者のライアン・ブラウンに対して初球を肩にぶつけたのであるが、主審が「故意死球」でカラスコを退場させたのは言うまでもない。

 7回裏、メッツの攻撃は三番のライトから。「敵が主砲にぶつけたのだから、こちらも主砲にぶつけ返す」とブルワーズが待ち構えたとしても不思議のない状況となったのである。

 しかし、コリンズにしてみれば、絶対に欠くことのできないチームの屋台骨が死球で怪我をさせられたのではたまったものでない。試合は0対8の大差で決着がついているとあって、ライトを引っ込めて代打を送ったのだった。

 このコリンズの処置に対して、ライトが「誰かがぶつけられなければならないのなら、チームリーダーの僕がぶつけられて当然。なぜ、『敵前逃亡』するようなみっともない真似をさせるのだ!」と激怒、試合中であるにもかかわらず、監督に食ってかかったのである。

 試合後の記者会見で、コリンズは「報復の死球から守るために主砲に代打を送った」ことを正直に認めた。実際、ライトは、2009年に頭部に死球を受けた後故障者リスト入りした前歴があるだけに、選手層がとりわけ薄いチームを指揮するコリンズとしては、主砲に怪我をさせないことを何よりも優先せざるを得なかったのである。

 一方、ブルワーズのロン・レニッキー監督は、コリンズがライトに代打を送った采配について「非常にインタリスティングだ」と述べるにとどめて、あからさまに批判することは避けた。しかし、「9月に両軍が再度対戦する際、報復が行われることは間違いない」と見る向きがほとんどであり、コリンズの「予防処置」にもかかわらず、ライトはぶつけられる運命から免れられそうにないのである(昨季のワールドシリーズ優勝を最後に引退した名将トニー・ラルーサは、自軍選手がぶつけられた分と報復でぶつけ返した分について「帳簿」をつけていたといわれているが、メジャーでは、ビーンボールの「借り」については、「どんなに間があいても必ず返す」のが普通である)。

 ところで、今回の事件の大元の原因を作ったカラスコであるが、試合後「故意ではなかった」と言い張ったものの、その言い分を真に受ける向きは少ない。「なぜ八つ当たりでぶつけるような馬鹿な真似をするのだ」と、チームメートでさえ呆れるようなビーンボールだったのだから、言い訳の余地はない。

 カラスコは、ブラウンにぶつけた翌日のレッズ戦でまたまた本塁打を浴び、試合後に「戦力外通知」を受けた(解雇時防御率7.36)。「八つ当たりビーンボール」が解雇の決定を早めたとしても不思議はないのであるが、カラスコは、ここ2年でメッツが複数年契約をオファーした、たった二人のFAの一人だっただけに、皮肉な結果となった。

 ところで、今回の事件で、一番可哀想だったのは、ライトの代打として起用されたルーキー、ジョーダニー・バルデスピン(24歳)である。なにしろ、監督は、(1)「誰もお前にぶつけようとは思わない」、あるいは(2)「お前ならぶつけられてもよい」、と判断した上で、打席に送り出したのだから・・・。

(5月30日、姉妹サイト「CTBNL (Column To Be Named Later)」を更新、「Shaken, Not Stirred」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい)

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