今年4月、新ホーム球場「マーリンズ・パーク」を開設したばかりというのに、マーリンズ・ファンの間にボイコット運動が広がっている。

 ことの発端は、11月13日、ブルージェイズとの間に合意が成立した大型トレードだった。ホセ・レイエス、ジョシュ・ジョンソン、マーク・バーリー等スター選手を根こそぎ放出、チームを「解体」したことに、ファンの怒りが爆発したのである。

 新球場建設に当たって、地元自治体は建設資金6億4500万ドルのうち約4分の3を負担した。「フットボールとの併設球場では人気が出ない。人気が出なければチーム強化にも金をかけられない。チームを強くするために、新球場建設の資金を出して欲しい」とするマーリンズの要請に応えて、貴重な血税を投入したのである。それなのに、こけら落としから1年も経たない間にチームを解体したのだから、ファンが「裏切られた」と怒ったのも無理はない。

 元々、マーリンズのオーナー、ジェフリー・ローリアは、「金のことしか考えない」と、ファンの間の評判は悪かった。エクスポスのオーナーだったときには、地元自治体が新球場建設の資金援助を拒否した途端、MLB機構に売却する形で経営権を放棄、モントリオールの野球ファンからチームを奪う前科を残した(ちなみに、今回のトレードの相手となったブルージェイズのGMアレックス・アントポロスは、モントリオール育ちの元エクスポス・ファン。ローリアがオーナーだったときに、エクスポスの無給インターンとなって球界での経歴をスタートさせた因縁の持ち主である)。

 その後、マーリンズのオーナーに横滑りした後は、「年俸を極端に低く抑え、MLBから得る収入分配金をそのまま懐に入れる」ことで莫大な黒字を上げる経営に徹した。そのあこぎな商法が選手組合・他オーナーの批判を浴びた後、「分配金はきちんとチーム強化に使います」と誓わされたほどだった。

 しかし、新球場開設を目前に控えた昨オフ、ローリアは、大枚を叩いて、レイエス(期間6年・総額1億600万ドル)、バーリー(4年・5800万ドル)、ヒース・ベル(3年・2700万ドル)等をFAで獲得。「巨額の建設資金を提供してくれた地元ファンの期待に答えて、チーム強化に金をかける」方針転換を行動で実証した。チーム年俸総額は、2011年の5770万ドルから、2012年は1億160万ドルとほぼ倍増。ファンは、「ローリアが約束を守った」とぬか喜びしたものだった。

 ところが、「これからは金をかける」と言った舌の根も乾かないうちに、7月以降、スター選手をことごとく放出。地元自治体もファンも「だまされた」と怒ることになったのである。以下、2012年開幕時の主力メンバーがいまどうなっているかを見ていただくことで、ローリアが断行したチーム解体の凄まじさをご理解いただこう(括弧内は2013年年俸:万ドル、ただし*は2012年年俸)。

1番 遊 J・レイエス(1000)ブルージェイズにトレード
2番 中 E・ボニファシオ(220*)ブルージェイズにトレード
3番 三 H・ラミレス(1550)7月、ドジャースにトレード
4番 右 G・スタントン(48*)残留
5番 左 L・モリソン(48*)放出が噂されている
6番 一 G・サンチェス(48*)7月、パイレーツにトレード
7番 二 O・インファンテ(400)7月、タイガースにトレード
8番 捕 J・バック(600)ブルージェイズにトレード
  先発 J・ジョンソン(1375)ブルージェイズにトレード
  先発 A・サンチェス(800*)7月、タイガースにトレード
  先発 M・バーリー(1100)ブルージェイズにトレード
  先発 R・ノラスコ(1200)放出が噂されている
  抑え H・ベル(900)7月、ダイアモンドバックスにトレード

 いまのところ、放出が噂されていないのは若き主砲スタントン(23歳、今季OPS9割6分9厘)だけ。文字通り、「そして、誰もいなくなった」状態となってしまったのである。しかも、そのスタントンが、今回のトレードが決まった直後、「頭にきた」とツイートしてあからさまに不快感を表明した。本人も「このチームに長くいる気はない」と思っているだろうが、マーリンズも、年俸調停資格やFA資格を得て値が張る前に放出する意向であるのは間違いないので、数年内に「そして、スタントンもいなくなった」となることは火を見るよりも明らかなのである。

 一方、マーリンズのチーム解体に頭を痛めているのが、コミッショナーのバド・シーリーグだ。現在、レイズとアスレチクスが、移転・新球場建設を希望、自治体からの資金援助を期待しているところだというのに、ローリアが血税を投じたファンの期待を裏切ったからである。これから、新球場建設に公金を支出させることが一層困難になっただけに、憂鬱とならざるを得ない。シーリーグは、「ファンの怒りは理解できるし、今回のトレードを認めるかどうか検討したい」と表明、11月16日現在トレードの正式認可を保留している。しかし、チームの間で合意が成立したトレードをご破算にするのは難しいと見られている。

 チームが「そして、誰もいなくなった」状態となったいま、ファンとしてみれば、一番消えて欲しいのはローリアなのだが、当のローリアは「チームを売却する気はない」とうそぶいて開き直っている。収入分配金制度の上にあぐらをかいて、チーム年俸を減らすことに専念すれば客が入らなくとも黒字が保証されているのだから、ファンが怒ろうと騒ごうと気にならないのである。

 しかも、仮に、圧力に屈してチームを売却することになったとしても、新球場建設のおかげでチームの資産価値は大幅に値上がりしただけに、巨額の売却益を得ることは確実である。どちらに転んでも大儲けできることは決まっているのだから、ファンのボイコット運動など痛くも痒くもないのである。

(11月9日、姉妹サイト「CTBNL (Column To Be Named Later)」を更新、「オバマ再選」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい)

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