前回、アレックス・ロドリゲス等7選手が、マイアミのアンチ・エージング・クリニック「バイオジェネシス」から薬物を入手・使用したとする疑惑について書いたが、その後も、同クリニック経営者の「診療録兼帳簿」に載っていたとされる選手名のリークが続き、この原稿を書いている213日時点で、疑惑選手の総数は12人に達した。

 前回以降出てきた名前の中で、もっともビッグだったのが元ナ・リーグMVPのライアン・ブラウンだ。ブラウンについては、一昨年薬剤検査陽性となったものの、「異議申し立て」が認められて出場停止処分を免れた経緯については別の場所に書いたとおりだ。検体の保管・移送段階での手続き上の「不備」をあげつらったブラウン側の言い分が認められて処分が取り消されたのだが、本人が「潔白が証明された」と威張るのとは裏腹に、ブルワース・ファン以外でその「潔白」を信じる向きはほとんどいない。

 以下、疑惑12選手の名を列挙する。

1)アレックス・ロドリゲス (NYY 3B: 前科、マ大)

2)ジオ・ゴンザレス (WAS P: マ大、代理人)

3)セーザー・カリヨ (DET P: マ大)

4)バルトロ・コロン(OAK P: 前科)

5)ヤスマニ・グランダル(SD C: 前科、マ大)

6)メルキー・カブレラ(TOR OF: 前科、代理人)

7)ネルソン・クルーズ(TEX OF: 代理人)

8)ライアン・ブラウン(MIL OF: 前科、マ大)

9)フランシスコ・セルベリ (NYY C: 代理人)

10)ダニー・バレンシア(BAL 3B: マ大)

11)ヘースス・モンテロ(SEA C: 代理人)

12)ジョニー・ペラルタ(DET SS: 代理人)

 なお、選手間に共通するファクターを括弧内に「前科・マ大・代理人」としてまとめたが、「前科」は「過去の薬剤検査陽性歴」の意である。

 「マ大」は、野球の「名門」マイアミ大学野球部との接点であるが、たとえば、ブラウンに加えて、カリヨ、グランダル、バレンシアもマイアミ大学野球部出身である。また、ゴンザレスは、マイアミ大学野球部のコンディショニング・コーチ、ジム・ゴインズをシーズンオフに雇っているという接点があるのだが、ゴインズもまた、クライアントとして「診療録兼帳簿」にその名が何度も記載され、同大学野球部そのものが薬剤汚染されていた疑惑が浮上している(ちなみに、問題となったアンチ・エージング・クリニックはマイアミ大学キャンパスの道向かいで営業していた)。

 さらに、A−ロッドもマイアミ大学とのつながりが深く、元同大学志望者だった(高卒後進学せずマリナーズに入団)だけでなく、390万ドルを寄付して同大野球場の改築に貢献した。現在、同大学の球場は「アレックス・ロドリゲス・パーク」の名が冠されているが、A−ロッドもシーズンオフにマイアミ大学の施設を使ってトレーニングしていることで知られている。

 共通項の第三点「代理人」は、セスとサムのレビンソン兄弟であり、今回の疑惑選手12人中、同兄弟のクライアントが、5人半を占めている(セルベリは元クライアントなので半分と数えた)。

 昨年、カブレラが出場停止処分を受けた際に架空の薬剤販売サイトをでっちあげて「無実の証明」を画策した話は以前に書いたが、でっちあげの主犯とされたのが、レビンソン兄弟が「ラテン系選手世話係」として雇ったフアン・ヌネスだった。今回、名が出たクライアント5選手はいずれもラテン系であり、「世話係」のヌネスが薬剤供給元のクリニックとの「連絡役」をしていたと見られている(なお、疑惑選手の間には、これら三点以外にも、「ドミニカ共和国出身」、「A−ロッドの元・現チームメート」という共通項がある)。

 ところで、今回の疑惑報道に対して、選手の反応は、「疑惑否定」と「だんまり」の二つに分かれている。「否定派」の中でも、特に強く否定しているのがA−ロッドであり、「クリニックも経営者のアントニー・ボッシュも知らない。『診療録兼帳簿』はでっちあげだし、報道は嘘八百」と全否定している。

 これに対して、ブラウンとセルベリは、ボッシュとの接点があったことは認めつつ「ドーピングはしていない」とする部分否定にとどめている。ブラウンは「昨年の異議申し立ての際、ボッシュを『専門家』として雇ってアドバイスを求めた」というのだが、なぜ無名・無資格(ボッシュは医師ではない)のクリニック経営者を「専門家」扱いしたのかについては一切説明していない。また、セルベリは「足を怪我した際に、回復を早めるサプリメントについてアドバイスを求めた」としているのだが、彼も「なぜボッシュでなければならなかったのか」については説明せず、二人とも「ますます疑惑を深める」弁明となっている。

  ところで、一連の報道の中で、クリニックの経営者ボッシュがラテン系選手世話係のヌネスに書いたとされる手紙の草稿が公表されている。カブレラが薬剤陽性となって出場停止処分を受けた直後に書かれたとされているが、「(カブレラに)渡した薬の金を払って欲しい」と懇願する内容だった。

 今回の疑惑報道のきっかけは、元々自転車操業だったクリニックの経営が傾き、給料(あるいは配当)を払ってもらえないことに腹を立てた従業員(あるいは共同出資者)が、内部情報をリークしたことだったされている。検査陽性となった後、カブレラが薬代を踏み倒したことが一連の疑惑報道が始まるきっかけになったとする説も成り立つだけに、興味深いところである。

(2月10日、姉妹サイト「CTBNL (Column To Be Named Later)」を更新、「ドーピングと組織犯罪」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい。2013年は、7月と10月の2回、日本に参ります)

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