カブスが108年ぶりのワールドシリーズ優勝を達成した。

7戦、スタンドでカブスを応援するファンの中に、「It’s Gonna Happen」と書かれたプラカードを掲げる向きがいるのを中継で見たとき、私は2008年開幕戦の「偶然だぞ」事件を思い出した。
 

この事件、カブス・ファンが、優勝への期待と日本から獲得したばかりの福留孝介の開幕デビューに合わせた応援とを組み合わせたことによって起きた「珍事」だった。まず、「It’s Gonna Happen」のプラカードの意味を説明するが、そのためには2007年のシーズンまでさかのぼらなければならない。
 

同年のシーズン、カブスは、61日時点で首位に 7.5ゲーム差の地区4位(借金8)と大きく出遅れていた。しかし、62日、ルー・ピネラ監督が退場覚悟の「猛抗議」でチームの闘志に火をつけたことがきっかけとなって快進撃が始まり、最終的に地区優勝をとげた。スポーツ・イラストレイテッド誌(同年730日号)が、67月の快進撃を伝えた際、記事に「It's Gonna Happen」とタイトルをつけたことで、このタイトルが、応援スローガンとして一気にファンの間に広まったのだった。ちなみに、「It's Gonna Happen」の「It」が「(その当時の計算で)99年ぶりのワールドシリーズ優勝」を意味したのは言うまでもない。
 

2008年のシーズンは、大枚を叩いて日本から強打者福留孝介を獲得した上、前年地区優勝したとあって、カブス・ファンは「今年こそ悲願達成」と期待を強め、優勝の立役者になるはずの福留に特別の応援をする必要を感じていた。そこで、優勝への期待を込めた「It's Gonna Happen」の応援プラカードの裏にその日本語訳をつけることで福留を鼓舞しようとしたのだが、悲しいかな、誰かがコンピュータの自動翻訳で見つけた「偶然だぞ」をそのまま印字してしまったのだった。かくして応援された当の福留が何のことやら意味がわからず目を白黒させる珍事件が出来したのだが、今回のカブスの第7戦勝利は、天の配剤による「偶然だぞ」が最大の勝因となったと考える向きは多い。
 

……
 

最終第7戦は、ジョー・マッドン監督の投手リレーが失敗、カブスは「あとアウト4つで優勝」と迫ったところで同点に追いつかれた。8回裏二死3点差の場面で、ジョン・レスターに代えてアロルディス・チャップマンを起用、「4アウト・セーブ」を期待したのだが、第6戦、5点リードの場面で不必要に登板させたつけが祟った。疲れの目立ったチャップマンは、1アウトも取れないまま、あっという間に3点リードをふいにしてしまったのである。
 

3点リードであとアウト4つ」まで迫ったところでクローザーがセーブに失敗したのだから、そのショックは大きかった。嫌なムードを引きずったまま延長戦に突入しようというそのとき、「天の配剤」がもたらした「happening(偶然)」がカブスを救った。アンソニー・リゾーいうところの「The best rain delay ever(これまで起こった中で最良の雨天中断)」が起こったのである。
 

雨天中断が告げられると同時に、同点に追いつかれて意気消沈していたチームメート達に「選手だけのミーティング(players only meeting)」招集を呼びかけたのは、今季ずっと打撃不振に苦しんだジェイソン・ヘイワードだった。打線の「ブレーキ」として幾多のチャンスを潰してきたものの、ヘイワードは好守備で何度もチームを危機から救ってきた。しかも、誠実な人柄はチームメートも認めるところであり、スランプから抜け出ようと一所懸命努力してきた姿勢は逆に尊敬を集めてきた。
 

集まったチームメートに対し、ヘイワードは大略次のように語ったという。

「僕たちは今季野球界ベストのチームとして闘ってきた。ここまで来るために多くの障碍も乗り越えてきた。大切なのは勝ち負けそのものではなく、チームメートを信じ、互いのために全力を尽くすことだ。君たちといっしょにプレーできることを誇りに思う」
 

ヘイワードの言葉を聞きながら涙ぐむ選手は少なくなかったという。ヘイワードの後も次々と選手が発言に立ち、チームを奮い立たせた。クローザーが打たれて意気消沈していたチームの雰囲気が一変、17分の中断が終わった時には、逆に、意気揚々と延長戦に臨むことができたのである。
 

10回表、先頭打者カイル・シュワーバーのヒットに始まり、代走アルバート・アルモラが中飛でタッチアップし二塁に進む好走塁、そして、ベン・ゾブリスト、ミゲル・モンテロのタイムリーと、カブスは猛攻で2点を上げた。その裏1点を奪われたものの、逃げ切って108年振りの悲願を達成したのは、読者もよくご記憶のとおりである。優勝が決まった途端、「It’s Gonna Happen」のプラカードが「It Did Happen」と書き換えられたのは言うまでもない。
 

……
 

優勝の翌々日、シカゴでの祝勝パレードでは、500万人のファンが沿道と最終会場のグラント・パークを埋め尽くした。就任時の、「5年で優勝できるチームを作る」とする約束を守った球団社長のテオ・エプスタインは、グラント・パークでの挨拶で、雨天中断という「偶然」をもたらした「天の配剤」のおかげで優勝できたことを強調、天国にいる「Harry」(カブスの名アナウンサーだったハリー・カリー)と「Earnie」(殿堂入りした名遊撃手アーニー・バンクス。「Let’s play two(こんなに天気がいいのだから、二試合やろう)」の名セリフを残したことで有名)に感謝した。
 

以上、「The best rain delay ever」が、最終戦、しいてはワールドシリーズのカブスの勝因となったことを説明した。そういう意味では、10回表にタームリー二塁打を放ったゾブリストよりも、シリーズ通算20打数3安打のスランプでチャンスをことこどくつぶしたヘイワードの方が、チーム全体を奮い立たせ、10回表の猛攻を可能とした功績でMVPにふさわしいと思うのだがどうだろう。
 

 

(付記:本ブログ更新が遅れたことを読者にお詫びする。引越、新しい職場への赴任と、ばたばたしていたためであるが、引越・転勤が必要となった理由についてはこちらの方で説明したので興味のある読者はご一読いただきたい)

 

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