CTBNL (Column To Be Named Later)

ボストン在住フリーランス・ライター、李啓充による気まぐれコラム

シャーロック・ホームズとSTAP細胞

 英米におけるシャーロック・ホームズ人気はいまだに根強く、たとえば英国ではホームズとワトソンを現代のロンドンに移植したTVシリーズが3シーズン目を迎えたし、米国でも現代のニューヨークに二人を連れてきたTVシリーズ(しかもワトソン役は女性)が2シーズン目を迎えている。

 米国版シリーズ、36日放映の回で使われたトリックが、たまたま、いま、日本で話題になっている万能細胞「STAP」にちなむ物だったので以下に紹介する。

 ・・・何年も前から行方が知れずにいる女性について、誘拐犯から、身代金の要求書と共に身柄を預かっている「証拠」として切り取った両耳が夫に送りつけられてくる。ところが、やがて見つかった女性は五体満足で、両耳もしっかり揃っている。 DNA鑑定の結果、両耳は女性の物であることが示され、謎は深まるばかり・・・(ちなみに、被害者から切り取った耳を家族に送りつけるというプロットはコナン・ドイル自身がホームズ第14短編「ボール箱」で使用している)

 番組を見ながら私が咄嗟に思いついた謎解きは「誘拐は被害者の『自作自演』で、存在が知られていなかった一卵性双生児の片割れから耳を切り取って夫に送りつけた」だったが、そうだとしたら行方不明者が二人、それも「うり二つ」の行方不明者が二人いなければならないので、いかにも無理が伴う「謎解き」であった。

 はたして、ホームズが番組でした種明かしを聞いて私はいつにもまして自らの不明を恥じたのだが、なぜことさら今回我が身の不明を恥じたのかというと、トリックの元となった「耳」の実験データを10年以上前から熟知していたからに他ならない。基礎となる科学についてよく知っていたにもかかわらず、ホームズに指摘されるまで、その知識を犯罪のトリックに結びつけることができなかったのだから、いつもホームズから馬鹿にされているワトソンと変わらない屈辱感を味わうこととなったのである。

 ホームズによる種明かしの根幹となったのは、ハーバード大学チャールズ・バカンティ教授が1997年にした「earmouse(耳マウス)」の実験である(Plastic and reconstructive surgery 100:297-302, 1997)。人間の耳をマウスの背中に育てるというグロテスクな実験だったのであるが、どうやってそんな手品をしたのかというと、まず、(1)生体内で分解され得る化合物を用いてヒトの耳の鋳型を作成、次ぎに(2)鋳型を軟骨細胞と培養、試験管内で「耳」の形をした軟骨塊を形成、最後に(3)ヒトの耳の形をした軟骨塊を、免疫能を欠く(=拒絶反応の起きない)ヌードマウスに移植、することでヒトの耳をマウスの背中に育てることに成功したのである。単純化しすぎることを恐れずにいえば、外部器官としての耳(耳介)は、軟骨塊を皮膚が覆っているに過ぎず、バカンティの耳マウスも「(耳は単純な器官なので)その気になればこんなことができますよ」ということを示したに過ぎない。知られていた技術・原理を応用して視覚的効果の大きい結果を示しただけの仕事だったので、科学的意義という観点から言うと、「極めて価値が低い」業績だったのである(発表された雑誌の名だけ見ても、「インパクト」の低さは明瞭だろう)。

 以上が今回の犯行のトリックの基となったバカンティ教授の実験(別名「バカンティ・マウス」)であるが、「犯人は同じ方法を自分の耳と自分の軟骨細胞と自分の背中を使って実施した」と、ホームズは看破したのである(元々本人の細胞なのだからDNAが一致するのも当然である)。もちろん、女性は行方をくらました後形成外科医と結婚していたという伏線があり、「必要な知識と技術を提供しうる共犯者がいた」というお膳立てが調えられていたのであるが、私は、昔、ハーバード系の施設で研究していた時代、軟骨細胞の分化調節を専門としていたこともあって、バカンティ・マウスのことはよく知っていた。さらに、バカンティ教授の講演を聞いたこともあったし、元プロの軟骨研究者として、「素人」のホームズよりも詳しい知識を有していたにもかかわらずトリックを見破ることができなかったとあって、我が身の不明を大いに恥じることとなったのである。

 以上が、今回のTV番組のトリックの詳細であるが、この話がなぜ、いま日本で話題になっているSTAP細胞と関係するのかというと、「バカンティ・マウス」のバカンティは、「リケジョの星」ともてはやされた小保方晴子研究者の、ハーバード留学時代の「恩師」に他ならないからである。

 もっとも、日本では「恩師のハーバード教授」ということで偉い学者のように思われているかも知れないが、当地では「耳マウスを作る様な『怪しげな』(際物的)科学者」というイメージでとらえられている。幹細胞や再生医学の領域では「アウトサイダー(傍流)」に位置し、同業者から尊敬される様な業績は何も上げてこなかったし、ずっと「権威」とは正反対の位置に立ってきた人なである。はっきり言って「世間に知られる業績は『耳マウス』だけ」という存在だったのである。

 今回、STAP細胞作成の論文がネイチャー誌に発表されたという報に接した際、私が最初に抱いた感想は「最終著者のバカンティは『おっちょこちょい』扱いされている研究者だけれど、大丈夫なのかしら」という物であった。結果として、私の危惧が当たることになってしまったのであるが、普通、まともに運営されている研究施設であれば日常茶飯に生データの検証が行なわれるので、データの切り貼りとか差し替えとかは起き得ない体制が調えられている。今回の研究は、太平洋を間にはさんだ二箇所で実施された経緯があっただけに、「この部分はハーバードで検証済み」或いは「理研で検証済み」という形で、チェックから漏れてしまったのだろうか?

 現在、「共著者の中でバカンティただ一人が論文の撤回に同意していない」ということであるが、元々一流紙に論文を連発するような位置に立ったことがないだけに、「ネイチャー論文」という「大きな魚」を逃がす気にはなれないのだろうか?

 論文発表時、当地ボストン・グローブ紙に「耳マウスでしか知られてこなかった傍流の学者が大成果を物にした」とする趣旨の記事が掲載されたが、いまのままで行くと、彼にとって、「今後も、業績らしい業績は、耳マウスだけ」ということになりそうな雲行きである。

Let Freedom Ring

 828日は、公民権運動のクライマックスとなった「ワシントン行進(The March)」の50周年記念日だった。50年前のこの日、人種差別解消を訴えて、全米から数十万人が参加して大行進・大集会が行われたのだが、このイベントの締めくくりに、マーチン・ルーサー・キング牧師が有名な「I have a dream」の演説をしたことは読者もよくごぞんじだろう。50周年記念の式典は「Let Freedom Ring」イベントと命名されたが、キング牧師の演説には、「I have a dream」以外にも、もう一つ有名なキー・フレーズが使われた。今回の記念式典のイベント名は、そのフレーズが「Let freedom ring」だったことに由来しているのである。

  Let freedom ring」は「自由(の鐘)を響かせよ」の意であるが、このフレーズを聴いて多くの米国人が連想するのがフィラデルフィアの「自由の鐘 (Liberty Bell)」である。独立宣言が発布された際にこの鐘が鳴らされたとする言い伝えがあるのだが、現在、この鐘は大きなヒビが入っているので、当時どんな音を響かせて独立戦争の闘士達を奮い立たせたのかは知ることができなくなってしまった。

 ただ、米国では「ヒビ入りの鐘」は「自由の鐘」と同義といってよく、ヒビ入りの鐘の意匠はフィラデルフィア市のトレードマーク化している。たとえば、フィリーズのチーム・ロゴにも使われ、本拠地シティズン・バンク・パークの外野正面には、ネオンライト製の巨大な「自由の鐘」が設けられている(もちろんヒビ入り)。フィリーズの選手が本塁打を打った後とか試合に勝った後とかの祝福に、この鐘が鳴らされるしきたりとなっているのである。 

 さらに、「自由の鐘」との連想で言うと、ボブ・ディランに「Chimes of Freedom」という曲がある。2年前にアムネスティ・インターナショナルが組織結成50周年を祝って、ディランのカバーばかりを集めた4枚組慈善CDアルバムを発売したことがあったが、そのときのアルバムタイトルが「Chimes of Freedom」だった。ディラン御大も(カバーではなくオリジナルの)「Chimes of Freedom」でアルバムに参加したのだが、「獄につながれ、虐待される政治犯・良心犯の釈放」をめざして運動しているアムネスティとすれば、「自由の鐘」は極めてふさわしいタイトルだったのである。

 というわけで、「let freedom ring」のフレーズは、「差別故に自由を束縛されている人々を解放する」とか、「獄につながれた人を釈放して娑婆に出す」とかの状況で使われることが多いのだが、この有名かつ「崇高」なフレーズが、あるコメディ映画の「ギャグ」に使われたことがあるので説明しよう。

 このフレーズが観客を笑わすために使われた映画とは野球コメディの傑作「頑張れベアーズ」(1976年)だった。ウォルター・マッソー扮する酔いどれ監督が、リトルリーグの駄目チーム、ベアーズを強くする話だが、監督の任務には、子ども達に野球を指導することに加えて、ユニフォームを作る資金を捻出するためのスポンサー探しも含まれていた。

 銀行とか商店とかの「まともな」スポンサーを見つけることができなかったマッソーは、散々苦労した挙げ句にあるスポンサーを見つけ出すことに成功した。子ども達のユニフォームの背中に、そのスポンサーの名とともに営業上のキャッチフレーズ「let freedom ring」が刷り込まれることとなったのだが、いかに事業運営上の根本理念が「let freedom ring」であったとはいっても、マッソーが見つけ出したスポンサーがアムネスティ・インターナショナルでなかったのは言うまでもない。

 では、「let freedom ring」をキャッチフレーズとして「獄につながれた人を娑婆に出す」ビジネスを営んでいたスポンサーは何であったかというと、それは「Chico’s Bail Bonds(チコの保釈金ローン)」だった。収監された容疑者に対して保釈金を用立てるビジネスであったのだが、子ども達のユニフォームに刷り込まれた「チコの保釈金ローン」社のロゴは、もちろん「ヒビ入りの鐘」であった(頑張れベアーズのスポンサー名付きユニフォームはこちら)。

口角炎再発!

 2週間ほど前から「肉体改造計画」に取り組んでいる。

 きっかけは7月に3週ほど日本に帰ったことだった。久し振りに、駅まで歩いたり、駅で階段の上り下りをしたりしなければならない生活を強いられて、「足が弱っている」ことを痛感したのである。

 もともと、駄文を書くことを生業としているので運動不足となりがちだったのだが、ここ3年間で2回足首を捻挫した。各回とも、まともに歩けるようになるまで二ヶ月ほどかかったこともあり、歩くことが徐々に苦痛となっていた。苦痛になるとますます歩くのが億劫になり、悪循環に入ってしまったのである。しかも、米国郊外の暮らしは車での移動がメインとなるため、歩く機会はもともと少なかった。

 ところが、日本では、歩かなければどこにも移動できない。否も応もなく歩かされることになったのだが、数分ほど歩き続けると、下腿・上腿・股関節・腰部に痛みが襲い(痛む場所はその時々で変わった)、速度を遅くしたり、休んだりしなければならなかったのである。

  私は10年ほど前に勤め人であることをやめた時から、「世の中に寝るほど楽はなかりけり。世間の馬鹿は起きて働く」をモットーとして生きてきたのだが、さすがに、自分の肉体の衰えに危機感を抱かざるを得なかったのである。

 そこで、「肉体改造計画」に着手することにしたのだが、まず、したことは、いわゆる「万歩計」を購入することだった。実際に使ってみると、昔の物と比べて機能がはるかに向上し、歩数だけでなく、活動時間や消費カロリーも計測する。しかも、一日の目標を達成すると、「万歳」で祝福するディスプレイが表示される。単純なしかけとはいえ、「今日も万歳が見たい」と張り切るので、少なくとも私にとってモーチベーション増進の効果は抜群だった。

 米国に戻ってからずっと、万歩計をつけて暮らしているのだが、いきなり無理な運動をしてあちこち痛めたのでは元も子もない。そこで、何年か前に衝動買いしたトレッドミルを活用することとし、「歩く」ことをメインとするだけでなく、「歩く条件が厳密にコントロールできる」環境での肉体改造計画にとりかかったのだった。

 速度・距離・歩く際の勾配等、徐々に負荷を上げてきたが、開始後2週半のいま、一日の総歩行距離「4マイル(6.4 km)」をノルマとして頑張っている。しかも、幸いなことに私のトレッドミルは扇風機付きなので、汗が吹き出し始めても、風を浴びながら快適に歩き続けることができる。各回、0.5マイルとか1マイルとか目標を決めてトレッドミルに乗るのだが、ノルマを達成した後、顔に浴びる風は特に心地よく感じられるのである。

 と、肉体改造計画は順調にスタートしたものの、一週間目くらいから口角炎が再発したので、私はびっくり仰天した。口角炎との戦いで苦労した経緯は以前に述べたが、これまで、発症は真冬に限られていた。「口角部に吹きつける寒風が皮膚にダメージを与え、カンジダが感染しやすい足場を作るから発症するのだ」というのが私の仮説であっただけに、真夏に口角炎を発症したことに、私はショックを受けた。

 幸い、どうすれば治るかはわかっていたので、自分で作ったプロトコールによる治療を始めたものの、これまで発症することのなかった真夏の発症だっただけに、私は言いようのない不安感にとらわれることとなった。「口角炎を発症しやすくする基礎疾患があり、その基礎疾患が重くなっている」可能性を考えざるを得なかったからである。癌、免疫不全、耐糖能異常、・・・etc. あまり嬉しくない基礎疾患の名があれこれと思い浮かんだ上、どれであるかはわからないその基礎疾患が重くなっている可能性を考えなければならなかったのだから、嬉しいはずはなかった。

 もっとも、口角炎が発症したからといって肉体改造計画を中断する理由になるとは思えなかったので、肉体改造計画はそのまま続行した。

 口角炎の再発が肉体改造計画と関連していたことがわかったのは、再発から数日後のことだった。4マイルのノルマを達成後、トレッドミル付属の扇風機が吹きつける心地よい風を顔に受けながら、私は、再発の原因が目の前で回っていることに気がついて愕然とした。扇風機が送り出す風が口角の皮膚を乾燥させることで、季節外れの口角炎を誘発していたのである。

   ・・・・

 その後、トレッドミルに乗る際に扇風機を使わないようにしているのは言うまでもないが、ここで口角炎治療のおさらいをする。私が以前に書いた口角炎のコラムには、いまだに毎週100人以上のアクセスがあり、同病に悩む方は少なくないようだからである。

1)      少なくとも毎食後及び就寝前に以下の処置を繰り返す。

2)      石鹸で洗顔。特に口唇・口角部は念入りに洗う。

3)      顔を拭いた後、ティシュー・ペーパーで口唇・口角の水分を除去。

4)      口角部にカンジダに抗菌力のある抗真菌剤を少量塗布。

5)      ワセリンを口角・口唇に塗布。口角部だけでなく、口唇全体に(口を一周して)ワセリンを塗るのが早く直すこつなので、ワセリンをけちらないように。

 口角炎に悩む方々が、一日も早くその苦しみから解放されることを願ってやまない。

Oh My!

 「ESPN The Magazine」最新号に、日本人選手のMLB移籍後の成績をどうやって予測するかについて研究している若者の話が出ていた。この若者、先月大学を卒業したばかりだが、在学中は「コンピュータ科学」と「アジア学」の二つを専攻したという。二つの専攻に共通するテーマが「日本からMLBに移籍する選手の成績予測」となったようである。

 日本のデータに球場別の重み付けをすることで、従来の方法より確度を高めたということだったが、彼は、自らが開発した予測法をNOM 予測」と命名した。「Nippon Oh My!」の略だそうであるが、「王貞治とジョージ・タケイの二人に敬意を表する」ためにこの名にしたとういう。「Oh My!」が王貞治の名と引っかけてあることに解説は不要だろうが、ジョージ・タケイとの関連については少し解説が必要だろう。

 日系人俳優タケイの名が広く知られるようになったきっかけは、SF番組「スター・トレック」(邦題「宇宙大作戦」)で日系人宇宙船員「スールー」役を演じたことだった。66-69年に放映されたこのTVシリーズは、いまだに熱狂的にフォロウするファンが多いことで知られるが、タケイの役名は、日本語の動詞「する」と混同したものだったのだろうか。日本での放映では「スールー」ではなく、「加藤」の役名が与えられていたように記憶している。

 スールー役で名を売ったタケイの人気がさらに高まったのは、トークショー出演等でそのひょうきんな人柄が米視聴者に好感をもって迎えられたからだった。特に、口癖の感嘆詞「Oh My!」は「トレードマーク」として熟知されるようになり、シャープが、液晶テレビの米国用コマーシャルで、映像の美しさに感嘆したタケイに「Oh My!」と叫ばせるまでになったのだった。

 以上、「NOM予測」とタケイの関連について説明したが、ESPN The Magazineの記事を読んだ翌日、私は、ワシントン・ポスト紙(627日付け)にジョージ・タケイが寄稿しているのを見つけて、ビックリ仰天した。

 投稿記事のタイトルはDOMAの敗北と『ick』の終わり」だったが、「DOMA」は Defense Of Marriage Act(婚姻防衛法)」の略であり、前日626日に米最高裁が「同性婚を禁じたDOMAは違憲」とする決定を下したばかりだった。また、「ick」は「気持ち悪い、キモイ」の意で使われる間投詞である。

 私は、タケイ(76歳)については「人の良さそうなおじいさん俳優」くらいの印象しか持っていなかったのだが、今回、彼の文章を読んで、そのイメージが一変することとなった。以下、彼が寄稿した記事を抄訳する。

「米国で同性愛者の権利運動が始まったのは44年前。ストーンウォール決起事件が最初でした。当時は、社会として同性愛者の存在を許容するかどうかが問題でしたが、昨日の最高裁判決が示すように、いまや、同性愛者に対し、結婚する権利が平等に認められるまでになったのです」

「どんな差別でも、差別する側に『ick(=あの人達は気持ち悪い)』という感情があり、排他性の基となっています」

「私は70年以上、『ick』が米国社会に蔓延するのを見続けてきました。私自身、男性同士が親密に接するのを初めて見たときは、腰が引けたものでした。自分が同性愛者であると気づいたのはまだ子供のときでしたが、同性愛者であることは隠すものと思い込んできたので、腰が引けたのです。ずっと隠し続けたまま、60代後半になるまでカムアウトできなかったのです」

「『Ick』に基づく差別は同性愛者に対するものだけではありません。長い間、白人と黒人が親密にふるまうことはタブーとされてきました。テレビで公然と白人男性が黒人女性にキスをしたのは、1968年、(スタートレックの)カーク船長が女性乗組員ウフラにしたのが最初でした。当時は大騒ぎになりましたが、私が育った時代、カリフォルニアではアジア人と白人が結婚することは法律で禁止されていました」

「バージニア州の異人種間婚姻を禁止する法律が廃止されたのは、1967年のことでした(まだ、50年も経っていません)。裁判で法律の正当性を主張した判事は『肌の色が違う人種をそれぞれ別の大陸に住ませたことでもわかるように、神は異人種が交わることを望んでいない』と主張したものでした」

「バージニア州の法律は『人種保全法』という名でしたが、今回の『婚姻防衛法』にしても、法律の名称そのものに、『伝統的な婚姻制度が汚染されることを防止しなければならない』とする目的がうたわれているのです」

「伝統的な婚姻制度を守らなければならないと主張する人は、しばしばその根拠を聖書に求めます。しかし、いま、自分の娘を山羊3匹・牛一頭とひき替えに結婚させる親がいないことでもわかるように、聖書に書かれたような婚姻制度はとっくに変わっているのです。同性愛は生物学的に400以上の種で認められる現象ですが、『同性愛嫌い』の現象が見られる種は、ヒト一つしかありません」

「将来の世代が今回のDOMAを巡る議論を振り返ったとき、その議論が狭量・恐怖・無知に根ざしたものであったことに呆れるのではないでしょうか。幸いなことに、最高裁はこのことを理解し、『ickstickする』 ことを許さなかったのです」

 「人の良さそうなおじいさん俳優」のイメージしか持っていなかったタケイが、日系人及び同性愛者として二重の差別を受けてきた体験の持ち主であったことも驚きだったが、彼が、今回の判決の意義と差別の愚かさを理路整然と論じた文書を読んで、私は、その知性の高さに「Oh My!」と感嘆したのだった。

<本サイト好評コラム5選>
1)M君を偲んで 2)m君に 3)自分の口角炎も治せない「藪」 4)アニッサとマリッサ 5)ビン・ラディン殺害を巡って 

(6月25日、姉妹サイト「李啓充 MLBコラム」を更新、「MLB最強2チームの『矛盾』」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい。2013年は、7月・10月の2回、日本に参ります。)

MLBコミッショナー 最後の大仕事

 64日、ここ半年近くMLBを揺るがしてきた「バイオジェネシス=PEDスキャンダル」に新展開があった(4月半ばまでの経過については姉妹コラムの方にまとめたので、興味のある方は参照されたい)。

 マイアミ市のアンチ・エージング・クリニック「バイオジェネシス」が20人以上の選手にテストステロン等のパフォーマンス増強薬(performance enhancing drugs, PED)を供与したとされるこの事件。MLB機構は終始一貫して「全容の解明」と「汚染選手に対する処罰」のための努力を続けてきた。

 しかし、警察と違って強制捜査権を持たないMLBにとって、全容解明は容易ではなかった。事件を報じた地元紙に調査員を派遣して資料提供を求めたり、バイオジェネシスの元経営者アントニー・ボッシュ等関係者数人を「営業妨害」で訴えたりと、あの手この手を駆使してきたものの突破口が開けずにきたである。

 「突破口が開けた」といってもよい新展開があったのは64日のことだった。事件を熱心に取材してきたESPN が、MLB関係者の情報に基づいて「バイオジェネシス元経営者のボッシュがMLBへの調査協力に合意した」と報じたのである。選手に薬剤を供与した当の本人が全面的に協力することになったとあって、全容解明への期待が一気に膨らんだのである。

 さらに、MLBでは、「薬剤検査が陽性ではなくとも、文書等の使用の証拠があれば処罰の対象としうる」と定められているので、「汚染選手の処罰」についても道が開かれることとなった。それだけでなく、これまでMLBの調査に対して「嘘」を突き続けてきた悪質な事例については、「使用」そのものの罪を1回目のルール違反(罰は出場停止50試合)、「調査に対して嘘をついてきた罪」を2回目のルール違反と数えることで、いきなり「出場停止100試合」(2回目の違反に相当する罰)の厳罰を加えることも検討しているという。

 ここまで、MLBは、強制捜査権を持たないという「ハンディキャップ」があったにもかかわらず執拗に調査を続けて来ただけでなく、ひとたび薬剤使用と嘘が証明できたら「厳罰で臨む」方針が明らかになったのであるが、いずれも、コミッショナー、バド・シーリーグの強い意向に基づくものとされている。

 7月末に79歳となるシーリーグ。すでに、2014年末の任期満了と同時に「引退」する意向を表明しているが、これまで数々の業績を残し、「史上最高の名コミッショナー」と賞賛する向きも多い。以下、シーリーグが1992年にコミッショナー代行に就任した後、これまで達成してきた業績を列挙する。

95年以降、ストライキ・ロックアウトが起こっていない「労使協調」体制を実現

*プレーオフ出場チームを増やし、ワイルドカード制を導入

*国際大会WBCの実現

 *「収入分配・ぜいたく税」等スモールマーケットチームに対する財政支援制度の実現

*インターリーグ戦導入

*ア・リーグ、ナ・リーグのチーム数同一化

*ビデオ判定導入

*抜き打ち薬剤検査及び汚染選手に対する罰則の導入

*オンライン生中継など新メディアを利用した収入源の開拓

・・・・・

 シーリーグの下、数々の改革が断行された結果、機構・チームの収入が増え続けただけでなく、選手の年俸も激増、MLBは空前の栄華を享受しているといっても過言ではないのである。

 私が見るところ、シーリーグの最大の功績は「労使協調体制の構築」であるが、シーリーグが就任する前、MLBでは毎年のようにストライキ或いはロックアウトが繰り返されていた。シーリーグがコミッショナー代行に就任した2年後の94年には、MLBはシーズンが半ばで終わる史上最悪の労働争議に見舞われた。ファンの反発は強く、観客数が2割以上減少するなど、MLBは存亡の危機にさらされることとなった。シーリーグの「自分の監視下に史上最悪の争議を起こしてしまった」とする自責の念は強く、その後、ストライキ或いはロックアウトを避けることにあらゆる努力を傾注、選手組合との間に20年近く続く「平和」を維持してきたのである。

 シーリーグの「薬剤汚染浄化」に対する思いがとりわけ強い理由も、「自分の監視下で薬剤汚染が蔓延した」とする自責の念にある。2000年代の初め、MLBの薬剤問題に対する姿勢は「もっとも後進的」と批判され、シーリーグは議会の公聴会に呼ばれる度に議員達から吊し上げられたものだった。「抜き打ち検査はプライバシーの侵害」とする論理をふりかざして反対した選手組合を説得して03年に「陽性率を調べるための検査(結果は陽性率6%)」を実施、「5%を超えたら抜き打ち検査を導入する」との組合との合意に基づいて、ようやく04年の検査実施にこぎつけた。

 その後、検査回数、検査対象薬剤、処罰を次々と拡大・強化、10年足らずの間に、「現在プロスポーツの中でもっとも厳しい体制を運営しているのはMLB」と米国アンチドーピング機関に賞賛されるまでの体制を築き上げたのである。

「自分の就任中に起こった問題は自分が任についている間に解決させたい(少なくとも解決の目途を立てたい)」と思うからこそ、シーリーグは、薬剤検査・処罰体制を強化してきたのであるが、今回のバイオジェネシス事件についても、「任期中最後の大仕事」との認識の下、全容解明と汚染選手の処罰をめざして断固たる姿勢を貫いてきた。

 もっとも、シーリーグがコミッショナー代行に就任した当初、その評判は決してよいものではなかった。前コミッショナーを解任する「クーデター」の首謀者と目されていたし、ブルワーズのオーナーであったシーリーグは「オーナーの利益を代弁するために(=金儲けをしやすくするために)コミッショナーになった」と見られていたのである。しかし、21年間の治世を振り返ってみると、その業績はさんさんと光り輝いているし、オーナーだけでなく、選手、ファンの満足感も強い。

 ミルウォーキー出身のシーリーグの名が野球ファンの間で知られるようになったきっかけは、65年にブレーブスがミルウォーキーからアトランタに去った後、「MLBチーム招致の草の根運動」を起こしたことにあった。この運動が実って、シアトル・パイロッツがブルワーズとなってミルウォーキーに移転することになったのだが、シーリーグの野球に対する愛情の強さが筋金入りであることはこのときすでに誰もが認めるところとなっていたのである。

 私は、シーリーグが、これまで様々の改革を実現できたのも、今回バイオジェネシス事件に対して断固たる姿勢を示しているのも、その根底には、野球に対する並々ならぬ愛情の深さがあるからだと思っている。

 たとえば、今回A−ロッドとともに「汚染」が報じられているスター選手の代表が、ブルワーズの主砲、ライアン・ブラウンである(検査が陽性であったにもかかわらず、ブラウンが処罰を免れた経緯については、以前に説明した)が、ブラウンに「出場停止100試合」等の重い処分が下された場合、ブルワーズは大打撃をこうむることとなる。ただ出場停止中の戦績が落ち込むことが予想されるだけでなく、「チームの屋台骨を背負う」と見込んで2020年までの長期契約を結んでいる選手が長期欠場で力を落とす可能性もある。シーリーグは、元々自分がミルウォーキーに招致したチームに大きな害が及ぶかも知れないと承知の上で、「汚染選手には厳罰で臨む」とする原則を貫いているのである。

 以上、今回はバイオジェネシス事件の新展開について紹介するとともに、MLBが全容解明を目指す背景に、シーリーグ・コミッショナーの強い意向かあることを説明した。野球に対する愛情に基づいて「正すべきは正す」ことに専念するシーリーグと違って、どこかの国のコミッショナーは、統一球の仕様変更を巡って、自分の面子を守るためなのか、「黒を白と言いくるめる」ことに努力を傾注しているというから呆れざるを得ない。

<本サイト好評コラム5選>
1)M君を偲んで 2)m君に 3)自分の口角炎も治せない「藪」 4)アニッサとマリッサ 5)ビン・ラディン殺害を巡って 

(5月30日、姉妹サイト「李啓充 MLBコラム」を更新、「勝利の『経済学』」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい。2013年は、7月・10月の2回、日本に参ります。)

livedoor プロフィール
タグクラウド
livedoor × FLO:Q
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ