米国のニュース専門TVは主に三局。それぞれ政治的な色分けが鮮明で、Fox News は保守、MSNBCはリベラル、CNNは中立となっている。

もっとも、たとえばCNNにルー・ドッブスという「バーサーズ」の頭目的存在となるような保守派のニュースキャスターがいたことでもわかるように、色分けに例外がないわけではない(「いた」と過去形で書いたが、ドッブスはひと月前に辞任。「政界に転身する」と噂されている。なお、オバマの出自を問題にする「バーサーズ」については、以前紹介した)。

と、ニュース専門局が三局鼎立することでまがりなりにも政治的バランスが保たれてきたのだが、最近、ケーブルTV最大手のコムキャストが、リベラルのMSNBCをラインアップからはずして話題になっている。MSNBCを見ようと思ったらコムキャストに特別料金を払うとか、プロバイダーを衛星テレビなどに変えるとか、しなければならなくなったのだが、保守派のFox News は基礎料金だけで見られるチャンネルに据え置いたままだったから、その政治的意図は明瞭だった。

ところで、私がよく見るのはコムキャストが視聴者に見せまいとしているMSNBC。中でもお気に入りはレイチェル・マドウという女性がキャスターを務める番組だ。

マドウは、歯切れのよい発言とユーモアが魅力。名門スタンフォード大学出身、伝統ある「ローズ奨学生(ローズ・スカラー)」としてオックスフォードに留学した学歴が示すように、頭脳の明晰さも秀でている。

このマドウの番組で、いま、連日取り上げられているのがウガンダ議会で審議中の「反同性愛法」だ。「同性愛行為には死刑あるいは終身刑」という、「ナチスも真っ青」の法律である。

しかも、「性交の意図を持って同性に触れたら終身刑」と条文にあり、体に指一本触れただけで終身刑となる可能性があるのだから恐ろしい。

恐ろしい条文は他にもたくさんある。
同性愛者の存在を知りながら24時間以内に警察に通報しなかったら7年の刑
同性愛者の権利を擁護したら7年の刑
(本来司法権が及ばない)国外での同性愛行為も処罰の対象、・・・etc.

マドウによると、ウガンダ議会にこの法律を制定するよう仕向けたのは、米国の保守系宗教団体。彼らの「同性愛嫌い」は昔から悪名高いが、最近は、「信仰の力で同性愛を治療する」ことに熱心で、同性愛治療がビジネス化するまでになっている。

そんな同性愛治療の第一人者がスコット・ライブリーという牧師。ウガンダの政治家達に反同性愛法の根拠となる「科学的データ」を提供した張本人である(ちなみに、ライブリーには、『ピンクの鍵十字』なる著書があり、彼は、その中で「ナチズムの核心は同性愛運動であったし、昨今の同性愛運動もナチズムが形を変えた物に過ぎない」とする珍説を展開しているという)。

米国の保守派がウガンダに「ちょっかい」を出すのは今回が初めてではない。ブッシュ政権がエイズ支援基金をアフリカ諸国に提供した際、「予防の手段として認められるのは禁欲だけ。コンドームの使用を薦めてはならない」と強制、それまで成果を上げていたウガンダのHIV/エイズ予防を後退させてしまった。

今のところ、米国でウガンダの反同性愛法について熱心に報道しているのはマドウの番組だけで、他のメジャー・ネットワークはほとんど無視している。マドウ自身同性愛者であることをオープンにしているし、熱心にならざるを得ないのだろうが、この問題についてフォロウしようと思ったら、マドウの番組を見る以外に手段はないのである。

というわけで、MSNBCはリベラル派にとって貴重な情報源となっているのだが、いま、その存続が危ぶまれている。というのも、MSNBCをラインアップから外した前科を持つケーブル最大手のコムキャストが、先週、MSNBCの親会社NBCを買収してしまったからである。

万が一MSNBCが「お取り潰し」となった場合、リベラルのニュース局が米メディアから消え、残りは保守派のFox News と、「中立」のCNN だけとなってしまう。

「まだ中立のCNNがあるからいいではないか」とおっしゃる方がいらっしゃるかも知れないが、たとえば、オバマの出自を疑問視する「バーサーズ」が問題となった際、Fox Newsよりも過激に「オバマはアメリカ人ではない」と騒ぎ立てたのは、CNNのドッブスだった。

HIV感染はコンドームではなく禁欲で予防」とか、「信仰の力で同性愛を治療」とか、米国は、信じがたいほどクレージーな主張をする人・団体が力を持つ国である。それだけに、「MSNBCが消えて、保守派の言論操作が容易になったら、『アメリカ反同性愛法』や『外国人取締法』のような恐ろしい法律が作られるような時代が来やしないか」と心配にならざるを得ないのである。