4月28日、日帰りで米東部最北のメイン州を訪れた。目的地は、同州最大都市のポートランド(人口約6万6000人)。

 なぜ、慌ただしく日帰りで訪れることを思い立ったかというと、レッドソックスの2Aチーム、ポートランド・シードッグズで、昨年受けた肘の手術(トミー・ジョン手術)からリハビリ中の松坂大輔が調整登板するからだった。いま、日本のメジャー・ファンはダルビッシュ有の活躍で持ちきりなのだろうが、レッドソックス・ファンの私としてはダルビッシュよりも松坂に頑張ってもらわないと困るし、その復調ぶりを我が目で確認したかったのである。

 ポートランドまでは約120マイル。普通の米国人だったら、迷わず車で往復するところだが、メイン行きには、もう一つ「おまけの目的」があったので、私は公共交通機関を使う方法を選んだ。

 幸い、ボストンからポートランドまでは、アムトラック(鉄道)もグレイハウンド(バス)も路線を持っていた。さらに、シードッグズの本拠地ハドロック・フィールドは、駅からもバスターミナルからも歩いて行ける距離にあった。

 両方とも2-3時間に1本と本数は少なかったが、行きは11時15分着のアムトラック、帰りは5時発のグレイハウンドを使えば、午後1時開始のゲームをフルに観戦できるはずだった。

 アムトラックが時間通りに運行されないことは悪名高いが、その理由は、米国の鉄道網が、もともと、貨物用に作られ、運営されていることにある。旅客を乗せて走る列車は、(100両以上の貨車がつながった長い長い)貨物列車の合間を縫って運行されているのである。

 幸い、私が乗った列車はポートランドに定刻通り到着した。しかし、いざ、時間通りに着いたものの、球場までの道がわからない。駅周囲の道には道路名を示す標識が一切なく、地図が役に立たなかったのである。「高速道路を越えた側に大きな病院があり、球場はその近く」ということはあらかじめ調べていたので、「とりあえず高速道路の反対側に歩き、病院風の建物を探す」という作戦を立てた。

 歩き出したらすぐに病院風の建物が見えてきたので作戦は成功したかの様に見えた。しかし、病院は周囲に何もない土地にぽつんと立っているだけで、球場が近くにあるとはとても思えなかった。しかたがないので、病院の中に入り込み、受付に座っていた守衛に道を尋ねた。

 守衛によると、私が辿り着いたのは、目印として目指した病院ではなく、市に2つある病院のうちのもう一つの病院だという。球場に行くには駅まで戻らなければならなかったのだが、「ふりだし」に戻る苦労を味わわされたせいで、15分しかかからないはずの球場に辿り着くまでに、1時間近く歩き続ける羽目になってしまったのだった。しかし、わざわざメイン州までやってきた「おまけの目的」を考えたとき、長時間歩かされたことは、必ずしも悪いこととはいえなかった。

 マイナーリーグ観戦の楽しみは、「家庭的(アットホーム)な雰囲気」に尽きるといってよいだろう。ゲートをくぐったところであまり上手とはいえないロックバンドが演奏していた(写真はサムネイルをクリックすると大きくなります)が、ご苦労なことに、メンバー全員、動物の着ぐるみで身を包んでいたので笑ってしまった。マイナーリーグのゲームでは、アトラクションが「チープ」であることもアットホームな雰囲気を盛り上げることに貢献しているのである。Animal Band

 さらに、シードッグズのホーム球場は、フェンウェイのグリーンモンスターの「チープ」な模造を外野に建てていることで知られている。しかも、フェンウェイの景色に合わせて「Citgo」の広告板やコカコーラボトル(前オーナーの時代、グリーン・モンスターの上には巨大かつ醜悪なコカコーラ・ボトルが4本立っていた)の模倣も追加、「チープ」なパロディに徹することで楽しさを盛り上げているのである。Green Monster

 フェンウェイの場合、ファンの最大の関心事はチームが勝つかどうかにあるので、ややもすると殺気立った雰囲気があるのだが、マイナーリーグでは、観客も子供連れの家族がほとんどであるし、みな、勝ち負けよりも野球を純粋に楽しむことに徹している。しかも、長い冬が終わったばかりとあって、春の陽を浴びながら、目の前に広がる緑の芝を眺めているだけで「幸せな気分」に浸ることができるのである。ボールパークの「パーク」は、語源が「パラダイス」と共通であるといわれているが、観客席に座っているだけで、まるで、パラダイスに入り込んだかのような気分にさせられるのである。

 もっとも、私にとって、パラダイス気分を完璧なものとするためには、絶対に欠かせないある物が必要だった。この必需品を心ゆくまで味わいたいからこそ、七面倒な手間をかけてわざわざ公共交通機関を使ってメインくんだりまでやって来たのだが、その必需品が何であったかというと、それは、勿論ビールである。

 「野球場で、それもデーゲームで飲むビールは、他で飲むビールと味が違う」と私は信じているのだが、ハドロック・フィールドで売っていたメインの「地ビール」(Geary 社製ペール・エール)がとりわけ秀逸だったので、私は完全かつ完璧なパラダイス気分を味わうことができた(しかも、歩き疲れて一汗かいた後だっただけに、その味は格別だった)。

 と幸せな気持ちに浸っている間に、松坂が投げ始めたのだが、4回途中まで7三振を奪う好投を見せてくれたので、私の幸福感はさらに増大した。もっとも、リハビリが順調に進んでいるようなのは何よりだったのだが、(1)2ストライクを取った後打たれるファウルの多さ、(2)走者を背負ったときのボールの多さ、という「癖」は、手術前と変わっていないようだった(2つともデータを取っている人がいないので、あくまでも私の「印象」にしかすぎないのだが・・・)。Matsuzaka

 かくして、松坂のリハビリ振りを見届けるという第一の目的に加えて、野球場で「昼ビール」を飲むというおまけの目的も達成した後、私は、グレイハウンドに乗り込んだ。歩いた疲れにビールの効果が加わったのだろう、席につくなり眠り始めた私は、ボストンまでぐっすり眠り続けることで「チープ」な幸福感に浸ることができた一日を締めくくったのだった。

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