前回も書いたように、いま、日本に来ている。

 朝はワールドシリーズ、夜は、久しぶりに、日本シリーズをTV観戦しているのだが、始めのうち、ユニフォームの色で頭が混乱してしまった。

 というのも、米国では、ホームチームは白、ビジターはグレーという長年の慣例があるのに対し、日本では、どちらのチームも白を着用していたからである。日本の場合、「ビジターはユニフォームの上を色つきにする」のがルールとなっているようだが、MLBの場合、上を色つきにしても、下が白のユニフォームは、やっぱりホーム用なので、米国の感覚からすると「どちらのチームもホーム用のユニフォームを着て試合をしている」ように見えるのである。

 「カラーの違い」をさらにいうと、阪神タイガースのトラが「黄と黒」の縞であるのに対して、デトロイト・タイガースのトラは「オレンジとダークブルー」。ダークブルーは一見黒に似て見えるので、「黄とオレンジ」の違いが際立つ。

 日米で「黄とオレンジ」の差があるのは、野球チームのトラ縞だけではない。実は、生卵の「黄身」の色、アメリカでは黄色であるのに対して、日本はオレンジ色。昔からオレンジ色であったのかどうか記憶が定かでないが、最近は、日本で生卵の黄身の色を見る度に、驚くようになってしまった。

 と、今回は「カラー」の違いについて書いてきたが、日米の差を鑑みて呆れざるを得ない「カラー」の違いが野球解説である。英語で解説者は「カラー・コメンテイター」というのだが、プレーの事実関係だけを描写したのでは無味乾燥になるので、気の利いたコメントや補足の情報で中継を「色づけ」する役目であることからこの名がある。さらに、「Jerry Remy has colored red sox games for more than twenty years(ジェリー・レミーは20年以上、レッドソックスの試合を解説してきた)」という具合に、動詞で使ったとき、「カラー」は「解説する」の意となる。

 例文に上げたジェリー・レミーは、レッドソックスTV中継の「ただ一人」の解説者である。これもただ一人、アナウンサーのドン・オシロとペアを組み、二人だけで、シーズン中ほぼ全試合を担当するのだが、MLBでは、ほとんどの球団で専属アナウンサー・解説者の二人だけというシステムを採用している(例外は複数の解説者を置くヤンキースと、超高齢の「人間国宝」的アナウンサー、ビン・スカリーを擁するドジャース。スカリーが放送する試合では解説者がつかない)。

 日本のアナウンサー・解説をローテートする仕組みと比較して、「放送者が固定されたらファンが飽きないか?」と心配する向きがあるかも知れないが、飽きるどころか、固定した二人が毎晩のように放送するので、ファンは放送担当ペアをまるで家族の一員であるかのように慕うことも稀でない。

 しかも、一年中ほぼ全試合を担当させるだけあって、中継をおもしろくする情報や気の利いたコメントを連発する能力を持つ人(つまり、解説の「プロ」)しか解説者にしない。日本の解説者がする、「ここは何としても押さえなくてはいけませんね」とか「打たないといけませんね」とかの、「情報量ゼロ」のコメントを発することはまずないと思ってよいのである。

 これに対して、日本の場合、「元スター選手」であればそれだけで解説が務まると思っているようで、「ちゃんと言葉が話せない」人まで解説陣に加わっているのだから聞くに堪えない。しかも、ローテート制で何日間かに一回顔見せるだけで「専属」の厳しさがない(=「お遊び・アルバイト」の域を出ない)せいなのか、勉強や下調べをした跡が感じられることもない。アメリカの野球放送を聞き慣れた私からすると、「試合をカラーする(色づける)」努力を一切しない日本の解説は「視聴者・ファンを馬鹿にしている」としか思えないのである。

 そこで、日本でMLBの試合を見るときは、可能な限り、副音声の英語を聞くようにしているのだが、困るのは、日本の野球放送である。いま、日本シリーズを中継しているが、一試合目は、日本TVの、内容がない上に巨人びいきだけが目立つ放送を聞く羽目になってしまった。

 二試合目は、NHK・BSでも放送していることに気がついたおかげで日本TVの中継を見る拷問から解放された。BSの中継を見て初めて知ったのだが、「副音声では試合場の音声だけを放送している」という。早速、試してみると、何の解説も入らず、球場で聞こえる音だけを流す放送は、まるで自分が球場で見ているような気分にさせてくれた。しかも、「音声を聞いて見ることをさぼる」ことがないので、一つ一つのプレーをより真剣に見ることができた。

 というわけで、解説・アナウンスなしの放送の効用を実感することができたのだが、NHKが、視聴者に対して「副音声で試合場の音だけを流す」オプションを与えているのは、「お前達のくだらんアナウンスや解説を聞きたくない」とする強い要望があったからなのだろうか?

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