「Girl Model」は当地の教育テレビ(PBS)で324日に初放映されたドキュメンタリー映画である。私は、ビデオ録画した物を、2週ほど遅れて、何の予備知識もなく見始めたのだが、映画が日本を舞台としていることを知って、ビックリ仰天することとなった。

 もっとも、映画の始まりは日本ではなくシベリアだった。いきなり水着姿の少女が何百人もひしめくシーンで始まって目を奪われたのだが、やがて、水着姿の少女が集まった理由が、海外(それも日本)で働くモデルの選考会であったことが明かとなる。

 日本の「マーケット」の需要に適合するモデルとして晴れて選考されたのが13歳の少女、ナディアだった。「日本で大金を稼ぐことができる」と、本人も家族も大喜び。親戚一同が集まった祝賀会兼送別会の後、ナディアは日本に向かう飛行機に乗り込んだ。

 と、ここまでは、希望と夢に胸をふくらませる少女を主人公とした、「人畜無害」な筋立てだったのだが、様子がおかしくなるのは成田に到着してからである。出迎えは誰もいず、日本語はおろか英語も話せない13歳の少女が、独力で東京都内の指定場所まで向かわなければならないのである。バスの切符を買おうとしたものの言葉が通じず、困り果てたナディアは結局カメラマンに助けを求めたのだが、もし、ドキュメンタリーを撮っていず一人きりだったらどうなっていたのか・・・。言葉が通じない空港で路頭に迷わせた時点で「児童虐待」の罪に問うべきではないか・・・、とナディアを呼び寄せたエージェンシーに対する疑念が頭をもたげ始めた。

 ようやく都内に赴いたナディアは、粗末なアパートに一人置き去りにされる。以後、エージェンシーの車で都内を連れ回される日々を送ることになるのだが、プロモーション用ビデオの撮影の際、エージェンシーの社員が「I am fifteenと言え」と指示するに及んで、「これはまともな業者ではない」という事実が明かとなる(「13歳」と本当の年齢を言わせたら労働基準法に違反するので「15歳以上」にしないとならないのである)。

 結局、「casting」と称するオーディション(?)には何遍も連れて行かれたものの、まともな仕事が回ってくることはなく、エージェンシーに「2000ドルほどの借金」を抱えたまま、ナディアはシベリアに戻ることになった。映画には、他にも、ロシアから連れてこられた少女が何人も出てきたが、モデルとして成功した例はなく、「いったい、このエージェンシーは、何を考えて、何人もの少女を海外から連れてくるのか?」という、根本的な疑問にとらわれざるを得なかった。

 映画の中で、ナディアをシベリアでスカウトした米国人エージェント(元モデル)が奥歯に物のはさまったような口調で、「モデルとして海外に連れて来られた女性が売春に身をやつすことは珍しくない」という意味のことを語っていたが、「もし、ドキュメンタリー・カメラが回っていなかったら、ナディアにもとんでもない運命が待っていたのではないか」と思うと、自身も娘を持つ親の身としては、腹が立ってならなかった。

 そもそも、いったい、ナディアはどういうビザで入国したのか? 労働基準法だけでなく入管法にも触れる商売をしているのではないか? 疑問に思った私は、映画に出てきたモデル・エージェンシーのウェブサイトを訪問した。同社のホームページには「2013年4月1日 弊社は2013/3/31をもちまして、外国人モデルの取扱いを休止致しました」と記載されていたが、米国でドキュメンタリーが放映された一週後に取り扱いを中止したのは、なにか、後ろ暗いことがあったせいなのだろうか?

 そうだったとした場合、はたして、当局による取り調べはすでに始まっているのか? それとも、「現代の人買い(human trafficking)」とも紛うこの手の商売は、このまま野放しにされるのか? 今後の推移を注視したい。

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(4月1日、姉妹サイト「李啓充 MLBコラム」を更新、「スター選手早期『囲い込み』の潮流」をアップしました。なお、講演・原稿等のご依頼は本サイトのコメント機能をご利用下さい。2013年は、7月・10月の2回、日本に参ります。)