December 03, 2009

TISコンペ

c876d704.jpg「(昭和)二十九年に戦後初めて北海道においでになった時、阿寒湖のへりのお宿にお泊まりになった。赤黒いような提灯をつけたカヌーが近づいて、お部屋の下まできて、バンザーイ。渋くさびたいい声だった。アイヌばっかり五、六人で漕いできたもの。翌日ボッケにおいでになって、船から御上陸になったら、アイヌが一人、ヒグマの子をつれて合掌していた。夏とはいえ北の国のこと、うすら寒いような山の気の中の、このふたつの情景、いつまでも忘れられない。」ー天皇さまの還暦 入江相政 朝日文庫より



昭和天皇の侍従を永らく務め、最後は、侍従長として退任する前日に突然亡くなった入江相政氏。この人の書く随筆が好きで、ずいぶん読ませてもらった。中でも、戦後まもなくから行われた「地方巡幸」の随員として、昭和天皇とともに北海道を訪れた際の、上記の文章のイメージが、かつて自分も訪れたことのある、阿寒湖のすぐそばの湖「オンネトー」の早朝のイメージとオーバーラップして以前から頭の中に残っていて「いつか機会があったら絵に描きたい」と思っていた。



先月行われたTIS(東京イラストレーターズソサエティ)のコンペに、このイメージをモチーフとしてイラストを描き出品しました。一点だけではテーマが伝わりにくいだろうと思い、これも以前訪れたアフリカで見て感動した「槍一本を頼りにサバンナをたった一人歩くマサイ族のモラン(戦士)」と「意のままに馬を操るネイティブ・アメリカンのチーフ」の三作品を同じテーマのシリーズとして出品しました。(HP内、Othersにアップ)

これらの作品を通して伝えたかったイメージは・・・
作品の中で、彼らが普通に生活の場としている場所や風景・・・しかし、もしそこにいるのが彼らではなくて(作品を見ている)自分一人だったら?という「自然への畏怖」や「不安感」みたいなものと、そこに存在する彼らを、自分の「味方」として見たときの「安心感」、あるいは「敵」として見た場合の「恐怖感」・・・そういったものを、絵を見る人がそれぞれ自由に感じてくれればいいなあ、と思いながら描きました。



で、コンペの結果ですが・・・一次審査は通過したようですが、入選はならず。
もちろん出品したからには、この結果には残念な気持ち、悔しい気持ちも多少ありますが、もともと今回コンペに出品する気になったのは「自分のスタイルが現在の日本のイラストレーション界でどこまで通用するのか?」を確認してみたい気持ちになったから・・・なので「入選できなかった=負けた」ということでもないと思ってます。

というのも、現在の日本のイラストレーション界は、おおざっぱに分けて3つの括りに分かれているような気がして・・・

一つは、ノーマン・ロックウェルに代表されるように「どう描くか?」の前に「何を伝えるか?」を重視して、モチーフを大切にする志向の強いグループ。

一つは「東京イラストレーターズソサエティ」に代表されるような、作家性、オリジナリティを重視する、よりアート志向の強いグループ。(これが現在の日本のイラストレーションの主流・・・だと思う)

そしてもう一つは、PCとペンタブを駆使して、いわゆる「萌え」系の絵を描く、コミックやゲーム方面から進出してきた比較的新しいグループ。


現在、この3つのグループが、同じ「イラストレーション」や「イラストレーター」という、コトバの括りの中にいる、という少々無理な状況にある・・・ような気がしている。



もちろん自分は、最初の「何を伝えるか?」を最も大切にしたいと思ってる。

媒体の注文を受けて描く「イラストレーション」である以上、サッカーを描くときも、ビートルズを描くときも、あるいは風景を描くときでも、あくまで主役は「彼ら」なのであって、それを描く自分は単なる引き立て役にすぎない。イラストを見る側は、気持ち良く「彼ら」を見たいわけで、そこに俺のフィルター(オリジナリティと言ってもいい)をかけすぎることで、見る人が「???」となっては欲しくない。ピカソが描いたようなジョン・レノンや、12頭身のクリスティアーノ・ロナウドを、少なくともビートルズファンやサッカーファンが求めているとはどうしても思えないんだ。

もちろん、そういう需要「も」あることは理解するし「アート志向」「萌え志向」の強い作品を否定する気もない。そういった作品が好きな人もたくさんいるからこそ、市場として成り立っているわけだし、俺も自分では描かないけれども、アート系、萌え系それぞれに「いいな」と思える作品もたくさんある。



とまあ、そんな自分のスタイルが、現在のイラストレーション界の主流である、作家性の強い「TIS」に果たして通用するのか?理解はしてもらえるのか?・・・それをちょっと確認してみたいな、と思ってね。
 
ま、場合によっては

「ゴルフのコンペだ、っつってんのに短パン履いてバット持ってる」

「カラオケ大会だ、っつってんのにいきなりオペラ歌い出す」

みたいな空気になるやも知れず(笑)。



で、結果、少しそれに近い感じになっちゃったのかな?と。
オリジナリティ不足、あるいはイラストレーションとしての方向性の違い・・・もしそのへんが理由だったら、これは考え方の違いだからしょうがないな・・・と、入選した人々の作品を見て思いました。

しかし、俺みたいな考え方でも「必要としてくれる人はたくさんいるハズだから」と信じて、スタイルは変えずにこのまま行きますよ。少なくとも「主流じゃないから」とか「個性がないから」とかいう理由で表現方法を変えることは絶対にしたくない。俺が自然に、普通に描いたものが俺の個性。「誰もやってないから」という理由だけでむりくり捻り出したようなものは個性でもなんでもない、と思ってるから。

頑張るよ。






gots13 at 02:11│Comments(0)TrackBack(0) アート 

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