2005年11月27日

『バルドフォースG』第一章

先日の予告通り、創作小説第一章です。


さて、本文に行く前に、閲覧者の皆さんに質問というか、聞きたい事があります。
というのも、本来この『バルG』はWordに書かれた文章であり、それが故、雰囲気や臨場感を出すためにWord独自の機能が使われているんですよね。でも、このブログの機能である『ファイルのアップ』は画像ファイルのみでWordのテキストファイルはアップできないみたいなのですよ!それに、このブログに文章を写した場合は、そのWord独自の機能を使った表現が、再現されないんですよね(>-<。
別にWordのファイルそのままである必要は無く、Wordでできる表現がそのまま見られる方法ならばそれでいいんですよね。例えば、Wordのファイルをそのまま画像ファイルに写すのでもいいんです。でも、それもできる限り試行錯誤してやってみたんですが、どうにもできないんですよね。
そして、スキャナーみたいな機器を使えば何とかなるのかもしれませんが、今の僕はそれを持っておらず、またすぐに手に入る可能性もありません。
そして、恥ずかしながら僕はパソコンに詳しくなく、これ以上の方法は思い浮かばないのですよね。なので、お願いします、誰か、いい方法を知っていたら、僕に教えてください(>-<!!

昨日も書いたように、この作品には結構な時間と労力がかかっていますし、何よりも皆さんに公開する以上、自分の思いつく限りの最良の形にしたいです。なので、どうか、皆さん何とぞ知恵をお貸しください、よろしくお願いします。

では、お待たせしました。本編の方に参りましょう。



プロローグ



人類が、零と一の記号の中にもう一つの『世界』を築いてから一世紀以上が過ぎた世界。
電子の世界は、我々の世界となんら変わらない姿へと変貌を遂げていた。
『サイバースペースネットワーク空間』。通称、ネット空間。最初に誰がそう呼んだかはわからないが、人々はその仮想の世界を、こう呼んだ。
そして人々は、この現実世界よりも幾分便利な仮想の空間の中に、現実世界のあるゆるものを持ち込んだ。
整然とした都市部の街並みも、豊かな緑あふれる公園も。
そして、犯罪も、戦争さえも・・・・。


第一章『草原の狼』

―冷たい・・・。
強く、冷たい夜風が、漆黒の虚空に漂っている相馬(そうま)透(とおる)の五感をなぶる
透の眼下には、無数に点在する明かりに彩られた、夜の街並みが広がっている。
―きれいだ・・・。
 透は、眼下に広がる光景を見てそう思う。そして同時に、そう思ったことに戸惑いを感じてしまう。
―所詮は現実の光景ではない、作り物でしかないのに?
 真下に広がる光景ばかりではない。この光景を見ている、感じている透の五感さえ、全ては仮想のものに過ぎない。

 ここは『ネット空間』。
 一世紀以上にも渡り発展させてきた人類の英知の、その結晶。究極の虚像の世界だ。

月菜:「透、透ってば!」
 声の主の姿は見えないが、笹桐(ささぎり)月菜(つきな)の声が、透の耳に直接とび込んできた。
月菜:「透!・・・もお、ちょっと、聞いてんの!」
透:「あ、いや・・・。それで、なんだ?月菜。」
 透は、サポートのため現実の世界で待機している幼馴染の少女に向かって、思わず気の抜けた返事をかえした。
月菜:「しっかりしてよ、もう!! カウントダウンは開始しているのよ! ハッキングプロトコルを修正してる暇はないんだからね!!」
透:「安心しろ。その手続きを組んだのは俺と優哉だ。既に一から十まで頭の中に入っている。月菜こそ、初めてでもないのになにそんなにをカリカリしてるんだ。」
月菜:「あのねぇ・・・・。」
優哉:「月菜は、幼馴染がドジって脳死した姿を、見たくないんだとさ。」
 二人の会話に、チームのリーダーで透の親友である、野々村(ののむら)優哉(ゆうや)が割り込んできた。声のした方向を振り向くと、優哉の体も透のすぐ目の前に浮かんで、こちらに笑いかけている。
バチェラ:「でも、仕事の前に痴話ゲンカはやめて欲しいな。興奮した人間はミスを犯しやすいんだ。」
 透たちの会話に、さらに性別不明の機会音声(マシンヴォイス)が割り込んできた。回線が繋がった時に表示されるウィンドウ内の顔も、匿名モードだ。
彼(あるいは彼女か?)はバチェラ。透たちのチームに、一年ほど前から接触をかけてきた人物だ。それから透たちは、こうして幾度となく彼と共に仕事をしているが、その間、バチェラの声や顔はもちろん、電子体さえ一度も見たことがない。
電子体には、現実世界のありのままの姿が投影される。それは、厳粛なるネットロジックの一つで、凄腕ハッカーのバチェラといえども、逆らうことはできないのだ。
 そのとき、真下の摩天楼から、不意に不規則な光が瞬いた。それは最初は一つだったが、次第に二つ、三つと多くなり、しまいには街のあちこちで光が点滅し始め、人々の騒ぎ声も聞こえ始めた。
バチェラ:「予定通りだ! ボクの可愛いウィルスたちが活動を始めたよ。」
 バチェラのウィルスが、眼下に広がる仮想の企業都市のシステムのあちらこちらに潜入して、性質の悪い悪戯を始めたのだ。
優哉:「よーし。下はいい具合に騒ぎになってるようだな。これなら、俺たちが侵入しても誰も気付きはしないだろうさ。」
月菜「でも、本当にやるの? 今日は、中小企業のちんけな構造体が相手じゃないんだよ・・・。」
 透たちが目指しているのは、W&Dエンターテイメント。その手の企業の中では最大手の、一流娯楽配給会社だ。W&Dの構造体のビルは、企業街であるこの街の中心に、周囲を威圧するかのように荘厳にそびえ建っている。 支社とはいえ、そこいらの企業とは格が違うことを、無言のうちにアピールしているかのようだ。
透:「なんだよ、月菜。びびってるのか?」
月菜:「そ、そんなわけじゃないけど・・・。」
バチェラ:「大丈夫だよ。ボクのウィルスは完璧さ。」
優哉:「そうだぞ、月菜。それに、俺たちは今までだって、セキュリティ自慢の企業の防壁を、いくつも突破してきたじゃないか。」
月菜:「うん・・。そうだね。」
透:「時間だな・・・。よし、月菜、『MS』の転送を頼む!」
月菜:「了解!」
 月菜の声と同時に、透の体は、通常の電子体の三倍近くの大きさを持つ、額に二本のツノを生やした、鋼の巨人の姿へと変貌していた。
 マニピュレーティド・シュミクラム。ネット世界の黎明期に開発された仮想世界での戦闘用ツール『シュミクラム』の、現在の形だ。
 戦いのためには、柔らかな皮膚も、繊細な神経も必要ない。ただひたすらに硬い鋼鉄の体と、粗雑(クルード)な武器だけが必要なのだ。
 マニピュレーティド・シュミクラム体、通称MS体となった透は、1仮想Gの仮想重力に引かれて落下し始めた。透はMSのバーニアスラスターを使って落下速度を減速し、そのままW&D社の構造体の入り口真正面に、無事軟着陸を果たした。
 直後、透のすぐ後ろで、重厚な金属が着地する音がした。見ればMS体の優哉もまた、無事に着陸したようだ。優哉のMSは『ジムコマンド』。現実世界では、黄色く染めた坊主頭に派手な装いの優哉だが、MSは本人の性格を反映しているように、ヘルメットの様な頭部と、グレイと白のツートンカラーのボディの、シンプルで地味な形状だ。
バチェラ:「どうやらキミたちも、無事に着陸したようだね!」
 二人の後ろで、まるで子供のようなはしゃぎ声をあげながら、バチェラも事も無げに着陸した。バチェラのMSは、優哉のものとは対照的に、白とピンクのカラー、肩には昆虫の羽根を思わせる飾りをつけた、派手で悪趣味なものだ。通称『キュベレイ』というらしく、女性的な容貌のMSだが、シュミクラムがそうだからといって、本人が女性とはもちろん限らない。
透:「全員揃ったな。さあ、始めようか。」
優哉:「ウィルス騒ぎのせいだろうな、周りには誰もいない・・・。ここまでは、順調だな。」
バチェラ:「だから言ったろう。ボクのウィルスは完璧さ。」
透:「・・・よし、ゲートを破るぞ!」
 透はゲートの前まで歩いていくと、シュミクラムの腕をゲートの端末と接続させる。
透:「月菜、錠前破りを転送してくれ。」
月菜:「了解。」
 透のMSに、月菜の錠前破り、お手製のセキュリティコード書き換えツールが転送され、透は早速、それを起動させた。
透:「これで・・・どうだ?」
月菜:「・・・・。」
 回線の向こうから、月菜が緊張のあまり息を飲む音が聞こえた。月菜だけではない、優哉と、バチェラでさえ、後ろでかたずを飲んで見守っていた。この瞬間だけは、透も何度目だろうと緊張する。成功すれば宝の山。しかし失敗すれば、この場でセキュリティとの小競合いが待っている。負ければ逮捕か脳死することもあるし、勝ってもただの間抜け野郎だからだ。
※「コード、認証されました。あなたたちには、この構造体内での、全てのデータへのアクセスが許可されます。」
セキュリティの音声と同時に、目の前の扉が開いた。
月菜:「やった!あたしたち、V・S・Sのセキュリティ部隊として認識されたよ!!」
 月菜の嬉しそうな声を横目に、透は、この構造体の奥深くにあるだろう宝の山を見据えて言った。
透:「・・・・、よし、いくぞ!!」
 透の声と同時に、三人は、スラスターを全開にして、高速移動でW&Dの構造体内に侵入した。
 
 そう。正社員なら、自分のIDで堂々と中に入ればよい。客なら、アポの際にもらったコードで中に入ればいい。
 しかし、透たちはハッカーだ。
 ハッカーは、防壁のわずかな隙間を見つけ、そこから侵入する。
 隙間が狭ければ狭いほど、彼らは燃える。
 旧世紀には、登山について、「そこに山があるから登るのだ」、と言った登山家がいたらしい。
 それと同じだ。彼らがセキュリティの穴に潜る理由など、無いのかもしれない。
 隙間があるなら、潜ってみなければ気が済まない。ハッカーとは、そういう人種なのだ。
 そう、彼らはハッカー。最高のハッカーチーム『草原の狼(ステッペン・ウルフ)』なのだ。


 三機のMSは、高速移動でW&D社内の構造体を移動、お宝の山であるデータベースに向かっていた。
優哉:「でも、こんなところにお宝なんてあるのか?」
 優哉がふと、つぶやく。
優哉:「俺たちは、未公開お宝映像なんかをあさりに来た、駆け出し野郎とは違うんだぜ。」
バチェラ:「大丈夫ダイジョウブ、ボクを信用しなよ。一見ゴミの山の中にこそ、本当のお宝は埋もれているものさ。・・・ほら、ボクのスキャナーは、もうお宝の存在を嗅ぎつけたよ。」
 そう言うが早いか、バチェラは一人でさっさと先へ行ってしまった。
透:「あ、おい!・・・まったく、相変わらずしょうがないヤツだな。」
優哉:「俺たちも行こうぜ、相棒。」
 透と優哉は、お互いの顔を見合わせた。MSは無表情なのでお互いの表情はわからないが、二人には、お互いが笑顔であることははっきりわかっていた。
 そして二人も、全速力でバチェラの後を追った。

バチェラ:「二人とも、遅いなぁ。ほら、お宝の山だよ。」
W&Dのデータベース。そこには、データの存在を示すディスプレイが、無機質に規則正しく並んでいた。
厳粛なネットロジックの一つとして、構造体は、その情報の内容に適した外観が与えられる。つまり、この無機質な部屋の中には、無機質な情報が並べられているはずだった。
透:「ここに間違いは無いな・・・。」
優哉:「それじゃ、どこから手を付けるかだが・・・・。」
 そこに、月菜の緊迫した声がとび込んできた。
月菜:「透、優哉、気を付けて! 前方にウィルス接近!」
 見れば、月菜の言ったとおり、透たちの前方に防衛用の番犬プログラム、ウィルスが数個、こちらにゆっくりと向かってくるのが見えた。それと同時に、セキュリティからの警告の音声が流れる。
*:「警告します。正当な許可無しにこれらの情報にアクセスすることは、第一級の不正アクセスと見なされ、重罪です。繰り返します、正当な許可無しにこれらの情報に・・・。」
月菜:「どうして!? セキュリティは上手く騙せたはずなのに?」
バチェラ:「サスガは大企業だね。大元のセキュリティシステムとは別に、数個の独立したセキュリティシステムが存在していたみたいだ。ゴメンゴメン。」
 バチェラの口調は、全くの他人事みたいだった。
優哉:「これじゃ、大元のセキュリティの復活も、時間の問題だな・・・。」
月菜:「バチェラぁ! アンタ、今回はドンパチ無しって言ったよね! だからあたしは賛成したのに!」
 そうこうしている間にも、ウィルスは透たちに接近し、それぞれの銃口を向けた。おそらく、警告に従わねば侵入者を容赦なく蜂の巣にする、そういうプログラムが組み込まれているのだろう。
 しかし、透たちは全く動じていなかった。こういうことは、これまでに何度もあったことだ。そもそも、透たちのMSのクルードな装備は、このために存在しているのだから。
透:「月菜、俺と優哉の装備の転送をたのむ。」
月菜:「わかった!」
 月菜の声と同時に、透と優哉のシュミクラムに、それぞれのアンチビームシールドとビームライフル(優哉のものは、正確には高出力ラインビームライフル)が転送された。
 ハッカーとは、本来は繊細なテクニックで勝負するべきものだ。しかし、この時代、ネット空間の発展により、そんな奇麗事だけでは済まされなくなってきていた。故に、自分たちの命を守るためには、時にはあえてこういうクルードな手段に訴えることもやむをえないのだ。
 その時、一番先頭にいた、樽のような胴体と鉤爪の生えた両腕が特徴のウィルス『ゾノ』が、透たちが警告に従わないものとみなし、鋭い鉤ツメの付いた掌の機関砲から発砲した。そして、それが戦闘開始の合図となった。
 透たちは、その攻撃をかわすと同時に散開した。そして透は手にしたビームライフルで、そのゾノを一撃のもとに撃ち抜いた。撃ち抜かれたゾノは、目もくらむような閃光を発すると、跡形も無く消滅した。
 遠距離戦が得意な優哉は、最初に散開したときに相手との間合いを開けると、ラインビームライフルで、もう一匹のゾノを真っ直ぐに撃ち抜いた。
バチェラ:「あははは、相変わらずキミたちもやるね。それじゃ、ボクも・・。」
 バチェラはそう言うと、戦闘機型のウィルス『メビウス』の撃ちかけてくるミサイルを余裕でかわしながら、手首にマウントされたビームガンでメビウスを撃ち抜いた。
 そうしている間にも、さらに数多くのウィルスたちが、データベース内に殺到した。
 しかし透たちは、事も無げにウィルスたちを次々と撃破していった。
 透の蹴りが一機のゾノを撃破し、優哉はビームをかわして接近してきたメビウスを、頭部バルカンで迎撃した。バチェラは、キュベレイの最大の特徴の武装である、小型特殊レーザービット、通称『ファンネル』二基を放出した。バチェラの天才的なプログラミング技術によって行動をプログラムされた二基の小型独立移動砲台(ビット)は、まるで生命を吹き込まれたかのように機敏かつ縦横無尽飛び回り、レーザーを放って二機のメビウスを同時に撃破した。
透:「やれやれ、大企業の割には、随分安物のウィルスを使ってるんだな。」
優哉:「ま、こんな大企業、狙ってもハイリスク・ローリターンだ。狙ってくるのはよっぽどの大物か、バカかのどちらかなんだろうさ。」
透:「それじゃ、俺たちはどっちなんだろうな。」
優哉:「そりゃもちろん・・・。」そう言って、優哉は(表情はわからないが、まず間違いなく)ニッと笑った。
優哉:「掛け値なしの、大バカ野郎だな。」
透:「ああ、そうだ。」
透も笑い返した。そのとき、
月菜:「透、優哉、データベースに向かって大量のウィルスたちが接近中よ!」
優哉:「やれやれ、これじゃあ、キリがないな・・・。」
透:「・・・よし。」
 透はそうつぶやくと、優哉とバチェラに向き直った。
透:「俺が一人でこいつらをひきつけておくから、お前たちは先に行ってデータを漁っててくれ!」
優哉:「わかった!」
 親友の危険な提案を、優哉は何の躊躇いもなしに飲んだ。透は地味なハッキングよりもシュミクラムでの派手な戦闘が向いていること、逆に検索作業などは優哉の方がはるかに得意であることを、お互いに熟知しているからだ。そして、それはそのまま、相手の腕前への絶対的な信頼の証でもあった。
優哉:「気を付けろよ。」
 優哉は、その一言だけを残すと、バーニアスラスターを全開にして、その場から去っていった。バチェラも、すぐに後に続く。
透:「さてと、やるか!」
透は、優哉たちが無事に先へ進んだのを見とどけると、ウィルスの群れに向きなおって、二基のバックパックの大型バーニアをふかした。
 ウィルスの数は、さっきとは比べ物にならないほど増えていて、四方八方から、まるで蟲の大群のように殺到し、大量の機関砲やらミサイルやらを浴びせかけてきた。
 しかし透は、通常のシュミクラムでは有り得ないようなアクロバティックな動きで、これらの砲撃を全てかわしてみせた。
 透のMSの名は『ゼフィランサス』。現在MSのスタンダードタイプとなっている、『ガンダムタイプ』のMSの一つである。
 この機体の最大の特徴は、背部のバックパックに取り付けられたフレキシブルに稼動する二基の大型バーニアスラスターと、全身に装備された無数の姿勢制御バーニアにある。そのおかげで、本来のMSには望み得ないような柔軟で敏速な動きが、この機体には可能なのだ。もちろん、仲間内で『フルバーニアン』と呼ばれているこの機体を自由自在に扱えるのは、透の知る限りでは透自身一人だけだ。彼の天才的としか言いようのない操シュミクラム術のセンスを持ってして、はじめてこの機体は本来の能力を引き出せるのである。
 透は、メビウスの何発ものミサイルを、姿勢制御バーニアを使い、空中で側転しながらかわし、そのままビームを撃ってメビウスを撃墜した。そして次の瞬間、背後に飛び掛っていたゾノを、振り向くことなく手だけ後方に向け、一撃のもとに撃ち抜いた。
透:「よし、次!」
 さらに透は非常に精度の高い射撃で、次々とウィルスたちを撃ち抜いて行った。優哉と一緒にカスタマイズを繰り返したビームライフルは大した威力だが、それ以上に、透の戦闘能力も大したものだった。
 最後のウィルスが、ビームに撃ち抜かれ閃光を発して四散、消滅した。
 ネットのロジックは、プログラムが破壊される過程を、気前良く正確に表現してくれる。しかし、機能を停止したプログラムを残しておく度量は無い。
 もし透のシュミクラムも撃破されれば、やはりすぐにネット空間からデリートされるはずだ。そのときは、神経の過負荷によって、現実世界で下町のアジトに横たわっている透の脳味噌も、キレイにデリートされるはずなのだ。
 透が全てのウィルスを片付けた、丁度その時、優哉とバチェラも検索作業を終え、戻ってきた。
優哉:「おお、マジで全滅させたか! ホント、相変わらず凄いよな、お前。」
透:「そっちはどうだったんだ?」
 すると、バチェラが得意げに胸を張って言った。
バチェラ:「うん、こっちもバッチリ。思ったとおり、お宝発見だよ。」
透:「と言うと?」
バチェラ:「変態向けスペシャル番組の顧客リストさ。出演者の大半はトップアイドルで、リストにはVIPの名前だらけ。」
 確かにこの手のデータは、売れば金になる。それを手に入れたやつがどう使うかは、透たちの知ったことではない。
優哉:「他にも、新番組の企画書、契約書、顧客情報、etc、etc。金になりそうなのは、とにかくメモリにめいっぱい詰め込んだ。」
 そのとき、構造体中のスピーカーから、けたたましい警告音と共に警報のアナウンスが流れた。
※:「構造体内に侵入者発見。侵入者は、直ちに武装を解除し、速やかに投降してください。この警告に従わない限り、あなたたちの身の安全は保障しません。繰り返します、侵入者は直ちに・・・。」
バチェラ:「やれやれ。予想通り、すぐに大元のセキュリティも復活しちゃったね。」
優哉:「ま、もう必要なものはいただいたわけだし、さっさとオサラバするか。」
 しかし透は、鳴り響く警報も聞こえない様子で何かを考え込んでいた。そして、おもむろに顔をあげ、優哉たちに言った。
透:「優哉とバチェラは先に脱出していてくれ。」
優哉:「お、おい。透、何を・・・。」
透:「俺には、まだちょっとやり残したことがあるんだ。」
優哉:「透、お前、まさか・・・。」
 優哉が何かを言う前に、透は高速移動で、構造体の上層階へと駆け上っていった。
月菜:「ちょっと、透、何やってんの! あちこちにウィルスがわらわら湧き出してるんだよ!!」
 本格的に焦り始めた月菜に向かって、透は事も無げに言った。
透:「今回俺がここに仕掛けたのは、盗掘のためじゃない。ここに俺たちのチームのサインを書き残してやりたかったんだ。」
月菜:「さ、サイン?」
 月菜は、本気であきれ返っていた。
月菜:「何言ってんのよ、透! なにもこんなお尻に火がついてるときに・・・。」
 しかし、透は月菜の言うことを無視し、更に構造体の上部へと上って行った。

 そして数分後、透は屋上にいた。
 目の前には、月六万クレジットの巨大な広告板。このエリアを訪れる人が、必ずと言っていいほど目にするだろう、最高に目立つ場所だ。
透:「よし、ここならサインを書き残すには最適だな。駆け出しのころから、この場所に俺たちのサインを書き残してやりたいと思ってたんだよな。」
 透は、東西南北の四方に向けて設置された広告板の一つを見上げると、現実世界で待機しているもう一人の仲間に向かって言った。
透:「あきら、例のものを頼む。」
あきら:「よっしゃあ、待ってました! 落とすなよ〜。」
 もう一人の仲間、二階堂(にかいどう)あきらは歓声をあげ、透に落書きツール『タトゥー』を転送した。『タトゥー』はスプレーを模した外見のツールで、缶のラベルに落書きされた卑猥なジョークが、あきらの性格を物語っている。
あきら:「さあ、さっさと起動しろよ。待ちどおしくって、今にも逝っちゃいそうなんだからよ。」
 あきらに言われたとおり、透は落書きツールを起動する。
 すると、有名企業の製品を表示していた広告が、見る見るうちに我らが『草原の狼』のロゴマークに変わっていく。
あきら:「やっほう! 月六万クレジットの広告スペースが台無しだぜ! こいつはもう消えねえ。消したけりゃ、この広告スペースの構造体を丸ごと消すしかねえからな。」
 あきらの落書きツールは広告板の構造体と同調しているため、消したければこの広告板、そしておそらく、周囲の広告板さえも消して一から構築し直す必要があるのだろう。無論、それには莫大な費用がかかる。この性質の悪さは、まさしく『刺青(タトゥー)』の名に相応しい。
あきらは、この手の性質の悪い悪戯の技術にかけては右に出る者がいない。古き良き正統な壊し屋(クラッカー)の末裔として、ステッペン・ウルフの貴重な『戦力』の一人なのだ。
 あまりにも見事な結果に、透も歓声をあげようとした、その時だった。
透:「!! あ、あれは・・・?」
 透の目の前に、この殺伐とした場にはあまりにも不似合いな、一人の少女の電子体が浮かんでいたのだ。大きなリボンを着けて、純白のワンピースを着た儚げな美少女は、透を悲しそうな澄んだ瞳で見つめていた。
少女:「・・・・。」
 透は、MSに内蔵されたレーダーを見た。しかし、電子体反応は、全く無い。そもそも、ただの電子体が、透に全く気付かれずに目の前に近づけることがおかしい。
月菜:「透、とおるってば!!」
 月菜の声に、透はあわてて現実へと引き戻される。そして改めて見ると、さっきまでいたはずの電子体の少女の姿は、どこにもない。
透:「あれは・・・一体?」
月菜:「もう、透、何言ってんの! 本格的にお尻に火が付いてるんだよ! ウィルスの反応、百、二百・・・、ああ、まだまだ増えてる!!」
 その時、透の目の前にも、一瞬にして大量のウィルスが出現した。先程戦ったゾノやメビウス、それに、中心に一つ目がある球体に軟体生物を思わせる足が四本生えた、『アプサラスボール』なるウィルスもいる。
透:「くそ、一人で相手をするには、少しばかり数が多すぎるか・・・。」
 透が苦戦を覚悟した、そのとき、一匹のゾノが、一条のビームに貫かれた。
優哉:「透! 無事か!?」
 それは、優哉のシュミクラムだった。
透:「優哉、どうして・・・。」
優哉:「相棒を置いて、一人で脱出なんてできるかよ!」
バチェラ:「そうそう。キミ一人置いていくの、なんか後味悪いしね。」
 声と同時に、一基のファンネルがメビウスを撃ち抜き、バチェラのMSが姿を現した。
透:「みんな・・・すまん! さあ、全員無事に脱出するぞ!」
 透は背部にマウントされた二本のビームサーベルユニットのうち一本を抜き放ち、柄から真っ赤に輝くビームの刃を出力させると、ウィルスたちに斬りかかった。
 そして、三人は力を合わせてウィルスたちを撃破していった。
 アプサラスボールの一つ目から放たれるビームを、透はアンチビームシールドで防御し、そのまま勢いを緩めずアプサラスボールに突撃して、ビーム刃で真っ二つに切り裂いた。さらに、その隙を狙って攻撃してきたメビウスを、頭部バルカン『イーゲルシュテルン』で撃墜する。
 優哉も自慢のラインビームライフルで、バチェラもファンネルと両手の五指の五連装バルカンで、それぞれウィルスたちを破壊していった。
 しかし、三人の善戦にもかかわらず、ウィルスの数は一向に減らず、むしろ一匹やられたら二匹出現する、といった具合で益々増えていくばかりだった。
優哉:「やれやれ、流石は大企業。質より量の局地だな。」
透:「このままじゃ、ラチがあかないな。月菜、離脱は?」
月菜:「無理よ、ここはもう離脱妨害エリア内になってる!」
 厳粛なるネットロジックの一つで、離脱妨害エリア内は、特定の権限を持つ者の強制離脱以外は、一切を受け付けないのだ。そして、現在はこの屋上はもちろん、この構造体内全てに離脱妨害エリアが張られているのは明らかだった。
透:「やっぱりな・・・・・、月菜、ここから離脱妨害エリアの終了まで、どれくらいだ。」
月菜:「えっと・・・直線距離にして、およそ700仮想mだけど。」
透:「700か・・・。ここの構造体の高さが、確か500仮想mだったな。」
月菜:「そうだけど・・・、透、今度は何を・・・?」
 すると、月菜より先に、優哉が透の考えを理解して相槌を打つ。
優哉:「だとすると、助走をつけて飛び出せば、超えられる距離かもな。」
 そこでようやく、月菜も透の考えを理解した。
月菜:「ちょ、ちょっと、あんたたち、何考えてるの!」
バチェラ:「うん、それしかないかもね。」
 バチェラが、ファンネルを三基発射し、助走の障害となっていたウィルスを瞬く間に破壊した。
透:「よし、今だ、いくぞ!!」
月菜:「ああ、もう! 無茶ばっかり!!」
 山ほど文句を言いそうな月菜を無視し、三人は最高速度で助走をつけ、スラスターを全開にして、夜の摩天楼めがけて飛び出した。
 仮想の虚空に飛び出した三機は、瞬く間に仮想重力に引かれ、地面に向けて物凄い勢いで引かれていった。
月菜:「・・・この調子なら大丈夫。無事に脱出できるわ。だけど、エリア脱出後三秒で地面に激突するから気を付けて。」
透:「ああ。」
月菜:「エリア脱出まで、あと三秒、二秒、一、エリア脱出、急いで!!」
 月菜の声と同時に、透の目の前に『離脱』のアイコンが表示され、透はすぐさまそれを押した。

 『離脱(ログアウト)』

 脳内チップを通じて電子音声が流れ、肌に物凄い勢いで当たる冷たい夜風の感触が、瞬間、ふっと消失する。同時に、透の意識は、仮想の世界から離脱していた。

透:「ぅ・・・・。」
 現実への帰還は、鮮明な夢の目覚めによく似ている。
あきら:「透、おつかれさん。大成功だったじゃねえか!」
 嬉しそうに激励するあきらの声を聞いて、透の意識はハッキリと現実世界に戻ってきた。
透:「ああ。今回も楽勝だったな。」
月菜:「なにが楽勝よ!! ウィルスがわらわら出てきたときは、ほんとに焦ったんだからね!!」
 あきらの隣では、月菜が可愛らしい顔をぷうっと膨らませていた。
透:「全員無事だったんだから、いいだろ。」
 現実に戻ってきた途端に月菜のお説教を聞く羽目になり、透はいい加減うんざりしながら答えた。
優哉:「ま、確かにちょっとクルード過ぎる展開だったな。」
 透より少し先に戻ってきていたのだろう、優哉はそう言うと、同時にため息をついた。
優哉:「本当はこういう展開、あんまり好きじゃないんだけどな・・・。」
バチェラ:「そうかい? ボクは、ちょっとガッカリだな。」
 バチェラの実体は、もちろんこのステッペン・ウルフのアジトにはいない。音声が回線を通じて聞こえてきているだけで、本人がどこにいるのかは全くわからないのだ。
バチェラ:「大企業というから、もう少し歯応えがあるヤツが出てくると思ったのにさ。政府関連や金融関連以外は、みんなあんなもんなのかな?」
 バチェラは、どうやらあんなヤバイことを、本気で楽しんでいたらしい。
バチェラ:「ところで、さっきのデータの買値がついたよ。」
 どうやら、バチェラはいつのまにか、盗んできたデータを、独自のネットワークで売りつけていたらしい。まあ、透たちは、特にお金が目的というわけではなかったから、こういうことはバチェラに全て任せているが。
バチェラ:「今、アフリカ経由でデータ故買屋と話をつけたんだけど、手数料として85%を向こうが、そしてこっちの取り分の半分を、約束通りボクがもらうよ。」
月菜:「 85%も手数料を取るの?!」
 お金が目的ではないとはいえ、現実的な月菜は生活費のことも考えているため、やはりこういう話は気になるらしい。すると、優哉が苦笑しながら言った。
優哉:「月菜、俺たちの口座、いくら入ったか確かめてみろよ。」
月菜:「え? ええ・・・。」
 月菜は、言われた通りにチームの預金口座をチェックし、
月菜:「・・・・・・。」
 そのまま絶句した。口座には、しばらく全員が遊んで暮らせるだけの額が、新たに振り込まれていたのだ。
月菜:「あ、あはは・・・・。」
 月菜にも、やっと成功の実感が沸いてきたらしい。
優哉:「ま、今回も大成功、ってところだな。」
あきら:「んじゃ、成功を祝って、ぱーっといきますか。」
 あきらがいつの間にか、缶ビールを両手一杯に持っていた。あきらはそのうちの一本を、透に手渡す。
透:「そうだな。」
 透は、そう言って自分の分のビールを受け取り、フタを開けた。
全員:「かんぱーい!」
 ハックの成功を祝って全員で飲むビールがいつも美味しいのは、やはりみんなで掴み取った『勝利の味』とやらがするからなのだろうか、と透はいつも思うのだった。

 その後、水曜日にまたこの溜まり場に集合、ということで、今日のところはお開きになった。
 透は、ステッペン・ウルフの貸し切りとなっているこの溜まり場兼アジトを足早に出た。というのも、もたもたしていると、またうるさいのが寄ってくるからなのでが・・・。
月菜:「透、ちょっと待ってってば。」
 案の定、透のすぐ後を、月菜が小走りで追いかけてきた。
月菜:「透、もう、冷たいなあ。帰る道が同じなんだから、一緒に帰ってもいいじゃない。」
 月菜は、透の幼馴染というだけでなく、今でも同じアパートのお隣さんだ。といっても、預けられていた笹桐の家を、月菜の父の死をきっかけに出ようと思って借りたアパートに、月菜が勝手についてきただけなのだが。
透:「それを言うなら、いつも一緒に帰ってるだろ。」
月菜:「いつもって、いつも透がさっさと先に行っちゃうから、あたしが追っかけることになるんじゃない。」
透:「文句あんのなら、別に追っかけてこなくてもいいんだけどな。」
月菜:「む〜・・。」
 いつも通りのやりとりの後、月菜はふうっとため息をついた。
透:「どうした、月菜? ため息なんか。」
月菜:「ねえ、透。今回はホント、あたしヒヤヒヤしっぱなしだったんだよ・・。」
 そう言う月菜の顔は今でもどこか不安げで、月菜が今回、いかに心配のし通しであったかを物語っていた。
月菜:「バチェラ、今回は危ないことないって言ったから、あたし賛成したのに・・・。それに・・・・。」
透:「それに、なんだよ。あの位、俺たちにはどうってことないって、月菜もわかってるだろ。それに、バチェラもいた。あいつは天才だからな。セキュリティの隙間を見つける。」
月菜:「それだって、今回もバチェラがいなきゃ、あんなところ狙うことなんてなかったのに。第一、これってほとんど犯罪じゃない。」
透:「ほとんど、じゃなくて、もう完全に犯罪さ。」
 その言葉に、月菜は目を見開いた。
 それから、二人は、しばらくの間一言もしゃべらなかった。
 バチェラがステッペン・ウルフと仕事を共にするようになって以来、ハックの難易度やターゲットの危険性は、回を追う毎に高くなっていった。バチェラは、高難易度かつ付け入る隙があるような、そういう標的を見つけてくる天才だったのだ。そして、バチェラの言う通りにして、失敗したことは一度もなかった。
 しかしそれは、悪戯から犯罪へのエスカレートであることも、また事実だった。『草原の狼』の名は、そろそろ裏社会でも知られるようになってきたが、それは必ずしも喜んでいいことではない。
 悲しそうな表情で黙る月菜を見かねて、透は口を開いた。
透:「なあ、月菜。もしいやなら、いつでもチームを抜けていいんだぞ。」
月菜:「別に、いやじゃないよ。あたしも、透や優哉とハック仕掛けるの、楽しいし。でもなんか、悪戯半分で仕掛けてた頃が懐かしいな、って・・・。」
透:「あのな、俺たちは、もう駆け出しじゃないんだ。いつまでもそんなお遊びみたいなハックで、満足するわけにもいかないだろ。」
月菜:「そりゃ、そうだけど・・・・。透、あのバチェラって、本当に信用できるの?」
透:「少なくとも、共犯である間はな。なんだ、月菜、バチェラが嫌いなのか?」
月菜:「嫌い、ってわけじゃないけど・・・・。」そう言う月菜の表情から見て、月菜がバチェラを嫌っているのは明らかだった。
月菜:「あいつ、なんだか信用できないんだよ。第一、声も顔も隠してるのって、普通じゃないよ。」
透:「アイツが変なんじゃなくて、俺たちみたいに全員が現実(リアル)でも顔見知り、ってのが珍しいんだよ、この業界じゃな。」
 ネット空間がここまで発展した時代、重要な社会的行為以外は、わざわざ顔と顔をつき合わせて何かを行う必要はない。だから、お互いどこの誰かも知らない集まりなんてのはこの時代ザラだし、バチェラが使っている匿名回線やマシンヴォイスだって、珍しいものではない。
月菜:「でも・・・。でも、透も優哉も基本的にはお人好しだから、なんだかあいつに利用されてるみたいで、心配なんだよ・・・。」
透:「ちぇ、誰がお人好しだよ。」
 透はつまらなそうに言ってみるが、月菜の言うことを完全に否定できないところがつらいところだ。
透:「大体、月菜は小姑みたいにうるさいんだよ。俺ももう子供じゃないし、だいたいお前はお姉さんでもないだろ。」
月菜:「だれが小姑ですって! それに、透なんて、まだ全然子供っぽいじゃない!」
透:「な、誰のどこが子供っぽいんだよ!」
月菜:「そういうところよ!」
透:「なんだと!」
月菜:「うぅ〜!」
透:「む〜!」
 こうやって、二人はとりとめもない言い争いをしながら、夕焼けが茜色に染める下町の空の下、家路に着くのだった。






第一章『草原の狼』完。

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