卒後3年目くらいから、独学で漢方を勉強しています。

残念ながら大学では一度も学習する機会がなかったため、勉強の仕方から手探り状態でした。



最初の頃は初学者向けのテキストを読みあさり、学会とかの学習会にも参加し、ツムラのメーリングリストも購読したりしました。 

最近はツムラのメーリングリストを眺めつつ、日経メディカルとかメディカル朝日といった医療系雑誌の特集を眺めながら知識を増やしています。

いわゆる「EBM」の目線でいうと怪しい物も多いですが、まあ実際に使うと効くことも多いので重宝しています。




漢方に手を出したきっかけは「西洋医学の限界」を実感したから。


卒後3年目までずっと西洋医学の急性期医療を勉強していると、とりあえず現時点でのスタンダードの知識は一段落します。

で、その範囲でベストを尽くしていてもなかなか治らない症状を訴える人たちがたくさんいます。


総合医という肩書きで研修していると「専門医が見てもよくわからないので、診断が得意な(というかよくわからない面倒な患者が得意な)総合医が何とかしてよ」という感じで、「西洋医学では診断も治療も検討つかない人たち」が集まってきます。

慢性疼痛、心臓神経症、ノイローゼ、心身症、心気症、更年期障害、自立神経失調症などなど、前医がテキトーにつける病名はたいてい決まっています。
ほんと、みんなテキトーです。

そんなほとんどの西洋医がテキトーな状況だから、自分が「医学的には異常ありませんよ」というわけにはいかず、「何とかしなきゃ」 と追い詰められていたときに出会ったのが漢方だったわけです。



漢方のいいところは「診断名」がつかなくても、「症状」や「患者の体質」を丁寧に見れば、それに対応した「処方」が決まること。

診断しなくてもいいのだから、「適切な治療法がない」という状態がないため、自分のような『「困った患者」の最後の砦』 の立場で働く人間にとってはありがたいものです。

(ただこれは諸刃の剣で、西洋医学の診断学をちゃんと極めていれば「薬一発で治る病気」のはずなのに、診断学が弱いせいで「よくわからない病態」と誤診して漫然と漢方投与になってしまう可能性があります。一応「西洋医学」を勉強して医師免許をとった身である以上、最低でも内科学の研修を2-3年してから手を出したほうがいいんじゃないかと思っています)




このように、「症状や体質」を見極めて処方を決めるやり方を『随証治療』といいます。


西洋医学で言う『診断』に当たるのが、『証』。

前者は検査で確定させないといけないので現代医学の科学技術の限界を超えると「診断不能」になりますが、後者は話を聞いて、舌や皮膚を見て、脈を取り、腹部を触ることで判断できるし、うん千年前の人間が判断できる範囲で作られた学問体系のため「証の決定不能」となることはありません。


この『証』は、少なくとも『和漢』という日本で発展した漢方医学の体系の中では「ある程度特徴的な症状や体質の聴取」と「舌診・腹診・脈診」の3つで大体わかります。
(これに対して昔から中国で発展した「中医学」はもっと難しそうで手を出していません)



原則はこの『随証治療』を行うことで、これによって漢方薬の効果を最大限得られます。

しかし、これはちゃんと一から理屈を学ばないといけないので一般の医師にはハードルが高い。 


でも最近は手軽な考え方もあって「西洋医学的な診断名」にあわせて漢方薬を決める『病名処方』 というモノもあります。

こちらはEBM的な手法でその有用性を検討されていて、機能性胃腸症に対する六君子湯、イレウスに対する大建中湯、慢性咳嗽に対する麦門冬湯、喉頭違和感症に対する半夏厚朴湯、インフルエンザ感染症に対する麻黄湯などなど、たくさんあります。

これなら、医者が普通の思考回路で診断をつければ、ある程度効果を科学的・統計学的に予測して投与をできるので使いやすい。
(もちろん「診断」がつくのが前提なので、限界は多いです)

実際にやってみると、「診断」が合っていても「証」が合っていないことも多いので、適当に『病名処方』だけしていると「漢方って効かないなぁ~」とか「当たるも八卦当たらぬも八卦」みたいな感覚になります。

やはり基本は『随証治療』です。 



時間や気持ちに余裕があると、
「じゃ、脈取りますね(これはあまり抵抗感なく受け入れられる)」。
「次は舌見せてください(これは「えっ?」という顔をされることが多い)」。
「じゃ、最後にお腹も触りますね(腹部症状以外で受診した人には怪訝な顔をされます)」
というふうに診察し、お腹を出すために何重にも重ね着された服をゆっくり脱ぐおばあちゃん・おじいちゃんをおおらかな気持ちで見守り、しっかり証を判断しています。

でもやっぱり忙しいし、患者さんが服を脱いで、診察台に横になって、診察後にまた椅子にもどって、服も着てとやると、それだけで2-3分かかっちゃうんですよね。


というわけで、患者さんもそこまで漢方に期待していない場合には、見た目で大雑把に虚実を判断し、簡単な問診で表裏・陰陽・寒熱を判断した上で、「病名処方」を第一選択から順番に試してしまうことが多いです。
 


漢方をちゃんと学んでおられる先生方からしたら「けしからんっ」て感じでしょうが、意外と患者さんにはありがたがられているので「まあいいかな」と思っています。



もし「よくわからない症状」でお困りの方がいらっしゃったら、外来でご相談ください。 

なんとかなるかもしれませんよ。


自分も冬場のしもやけ寸前の冷え性や、底冷えする日の下痢、風邪引いたあとの長引く空咳、喘息発作のあとの痰がらみ、二日酔い、インフルエンザ初期などに漢方を使ってだいぶラクさせてもらってます。