家庭医といえば、地域や診療所外来でよく見る疾患・健康問題については誰よりも深い知識と効果的な治療スキルが求められます。

ましてや「風邪」という超Common diseaseであればなおさらです。


今回、自分が風邪にかかり、最大限の知識をつぎ込んだ自己治療によりたった3日で軽快したので、その経過を報告します。

(一般的に、風邪が治るまでの期間として成人では11日、学童でも10日、小児でも復帰まで3-7日で25%の子は1週間以上続くというデータがあるので早いほうだと思いますby Dynamed)


本当は風邪にかからない感染防御をしっかりできる方が大事なんですが、忙しかった時で免疫力が弱っていたから仕方なかったということで許していただければ幸いです。

また、知識はできるだけエビデンスベースドにしているつもりですが、あくまで一症例に対する一経過でしかないので、過度の一般化はせず各事例の治療にあたっては個別的な配慮をして欲しいと思います。 




経過


日曜日の夕方
強い鼻のかゆみ、鼻汁、激しいくしゃみで発症。徐々に鼻閉が出てきた。

同日夜
強い悪寒が出現し、布団にくるまっても寒気が取れない状態。
全身、特に腰部と下腿の筋肉の重だるさも出現。

発熱する前に、手持ちの葛根湯2包をお湯100mlに溶いて服用。
飲んでる最中から少し楽になった感じがあり、10分後には悪寒は消失。
鼻汁も出ていたが量はヘリ、くしゃみも落ち着き、筋肉痛や倦怠感も和らいだので、そのまま当直に向かう。

同日夜(当直中)
通勤途中のドラッグストアで、鼻症状用の市販の総合感冒薬を購入し、すぐに1回分を服用。
その後鼻閉・鼻汁も取れ、悪寒・頭痛・筋肉痛・倦怠感はなく、普段通りに近い状態まで改善したので通常業務をソツなくこなせた。

2日目朝
幸い急患もなく6時間半位の睡眠も取れた。
月曜の朝起きたときには鼻閉や悪寒・頭痛などなく、鼻汁だけあり、総合感冒薬をもう1回分追加で服用。
悪寒や全身症状はないため漢方は中止。

2日目午前
午前外来の間は、感冒薬の抗ヒスタミン作用だと思うけど、頭の回転が遅く、口渇が強い状態で返って体調悪化。

1日2回の風邪薬だったので昼は追加服用しなかったところ、午後の病棟患者や研修医・学生対応の時にはわりと普通に生活できた。

2日目夜
夜は早めに帰って、家で温かいご飯を食べ、鼻汁が出てきたので「薬きれたか」と思い、もう一回総合感冒薬を内服し就寝。

3日目朝
9時間くらい寝て、火曜日朝起床。
頭重感と全身倦怠感があるが、鼻汁は少し、鼻閉少し、他は気になる症状なし。

昨日の口渇や頭のぼーっとする感じ、さらに顔面の重だるさもあり、これは薬の副作用や副鼻腔炎様の症状と考え、この日は総合感冒薬は飲まず、手持ちのアセトアミノフェンだけ服用。

3日目午前
午前中はわりと体調よく、研修医の指導や学生の実習対応と病棟患者対応をテンポよくこなせました。
が、午後は頭重感というか顔面の重だるさと頭の回らない感じが強く、抗ヒ剤はのんでいないので「これは完全に副鼻腔炎が合併している状態だろう」と判断。
そういえば、風邪薬飲んでいないぶん午前中に鼻汁がやや多めで、頻回に鼻をかんでいたら耳が「ぴー」となったり鼻がツーンとなったので、かみ過ぎで上気道陽圧かけすぎて中耳や副鼻腔に悪影響を及ぼしていたんだろうと判断。

アセトアミノフェンをもう1回だけ飲んで、生食を自分で作って鼻洗浄をメインにして、強く鼻を噛むのを自粛したら夕方には軽快。

3日目夜
帰宅後は全身倦怠感が強く、風邪のせいか研修医+学生対応の疲労か判断つかないけど、食後はすぐに寝オチしてしまい、夜のSkype会議に参加できず・・・


4日目朝
9時間寝て水曜の朝はびっくりするくらい調子良く、薬は一切のまず、洗面ついでに1回だけ鼻洗浄して治療終了。

5日目朝
今朝まで症状のぶり返しなく、完全治癒を確認しました。




行った治療の振り返り

超急性期に麻黄湯でしっかり治療。
これが、有症状期間短縮に一番効いていたと、自分なりに解釈しています。

麻黄湯はインフルエンザなどのときに熱産生と免疫反応を助け、風邪ウィルスが全身に回って悪化するのを抑えるらしいです。
実際に、ウィルスが最初について増殖したと思われる鼻以外のへの症状拡大は最低限に抑えられ罹病期間も短くできたんじゃないかと考えています。

また、麻黄湯に含まれるエフェドリンと、総合感冒薬に含まれる抗ヒスタミン薬の組み合わせは、それなりのエビデンスのある治療なのでこれがうまく作用したのかもしれません。
以前調べた時のブログ記事の、ACCPのGradeAの推奨です。


更に、抗ヒスタミン薬だけでは鼻汁が粘稠になって狭い所で詰まりやすく副鼻腔炎や中耳炎症状を合併しやすいという耳学問で得た知識通り、そっくりそのままの経過になったため抗ヒスタミン薬の内服をすぐに止めたのが功を奏したようです。

さらに、副鼻腔炎や中耳炎で有効な治療である「アセトアミノフェンを使い、抗生剤はいらない」という知識に則ってアセトアミノフェンだけを内服しました。

さらに、症状改善に効果がありそうな生食鼻洗浄を自作で行い、また加湿目的で寝るときも含め常にマスクをして自宅も加湿器を使ったのも良かったのかもしれません。


あとは、エビデンスはなさそうですが、いつも以上にしっかり「寝て」、いつも以上にがっつり「食べた」ことも良かったと思います。

さらに、寒気のある時期は暖める効果のある「生姜」をいろんな料理に大量に入れたり、鼻づまりが気になって抗ヒスタミン剤を使っていた時期には「コーヒー」で多めにカフェインを取って眠気を相殺しつつ軽度の気管支拡張作用に期待してみたり、悪寒が取れた後の筋肉痛・倦怠感が残る時期はカフェラテに「シナモンパウダー」を入れてみたり(発汗後の急性期症状に使う桂枝湯の桂枝とシナモンはほとんど同じ(厳密には少し違うけど))とかの、エセ食養生・東洋医学知識もやってみたのが良かったのかもしれないです(自信ないけど)。



まとめ

こんな感じで、エビデンスのあるものを主力にしつつ、余計な薬を念のために使うことはしない、症状が変化したら内服薬も変える、薬以外の食事・休息・鼻洗浄・加湿などほぼ無害でそれなりに効果があってもおかしくない補助療法を行ったことなどが良かったのかもしれません。

実際は同じような症状でも、細かい違いが東洋医学的にはあるので同じ治療で治る保証はできず、すごく個別化した治療戦略が必要だと思います。

また、これだけめまぐるしく症状の組み合わせがかわる(数時間単位で全く別物の症状に切り替わっていました)のであれば、初診時に5日も7日も薬を出しても意味ないなーとも思いました。


日本はフリーアクセス(の問題もありますが)なので、患者が受診への抵抗がなかればマメに受診するようにしてもいいのかもしれません。

しかし、すでに外来がパンクしているような状態では患者受診回数をあまり増やしすぎるのも大変。


やはり、風邪をきっかけに、もしくは慢性疾患の安定期のふとしたきっかけを掴んで、または健康相談会のような地域に出ていく場で、風邪の対応について普段から患者教育・住民学習を進めていって、だれでも質の高い個別化治療ができるようにしていくのが一番大事かなとも思いました。

今回は、「全て市販薬と身の回りの品だけで対応する」というポリシーで、病院外来は受診せず、薬も全部市販薬(漢方やアセトアミノフェンも、市販薬の組成などを見て適切なものを常備しておきました)で治療してみました。

これでも十分うまくいったので、普段の住民学習による適切な知識と、電話やネットでの相談環境と、身近に信頼できるドラッグストアがあれば、風邪なんかでいちいち病院で長時間待たなくても大丈夫な地域を作れるかもしれないですね~。


何にしても早く治ってよかったです♪