今週の水曜日はかなり忙しい一日でした。

普段よりも医師数が少ない日に限って外来受診患者数が朝からかなり多く、その中に命にかかわる重病の方も数名混じり、病棟でも急変が発生しててんやわんやでした。

それくらいならいつもの水曜日で予想範囲内だったんですが、この日いつもに比べて「紹介状なしでの転医もしくはセカンドオピニオン希望」の方が多く、お陰で午前外来が14時過ぎまでかかってしまいました。

おかげで昼休みなしで午後のカンファや診療などに突入し、一息つけたのは18時頃でした・・・ε- (´ー`*)フッ




というわけで今日のメッセージですが、できるだけ「新しく病院にかかるときにはそれなりの準備をしたほうがよい」ですよ。



いつもお願いしても「はあ、そうですか・・・」とリアクションが薄いので患者側からするとあまり実感ないみたいですが、けっこう大事なことです。


もちろん、風邪や頭痛など急に生じた症状の場合はそんな余裕はないだろうから、近くですぐ見てくれる診療所などに駆け込むのまで悪いとは言いません。

そうではなくて、長くかかっていたとかけっこう重い病気の診断をされていてどこかの病院にかかっていて、「この先生は信頼出来ない・気が合わないから他の病院に移りたい」とか「引越ししたから近いところに移りたい」とか「こんなに重い病気の方針をこの先生だけにゆだねていいか心配だから他の先生に聞きたい」という場合のことです。



こういう場合は、一刻を争うということは少ないです。

一方で、判断が難しいケースがとても多いです。

じっくり準備をして、必要な情報を揃えて、適切な手順も踏んで受診したほうが良いのです。



特に、これまでの経過や行われてきた検査の結果、薬をどのように調整してきたのかやその薬の使用目的などの情報がないと、とっても判断が難しいです。

ひどいケースでは、「病名は・・・何だったけな(それは困る)。薬は・・・ええと名前わからないけど、あの白くて小さい丸い玉です(薬はほとんど白くて丸くて小さいですけどね)。検査はだいぶ前にしたけど内容は特に記憶にないから大丈夫だったんじゃないかな(ほんとに?関心がないだけでなくて?)」という方もいて、もう何もわかりません。


「じゃあ検査をすればいいじゃないか」と言われるかもしれませんが、検査の無駄な重複はパンク寸前の医療保険財政を圧迫しますし、検査自体にも合併症などの不利益はあります。

なにより過去の検査結果と比較しないと判断しづらい項目も多いので、適切な医療を求めて受診したのに適切な医学的判断ができないという残念なケースが発生します。


薬を全部見せてもらっても、その内容を薬剤師が正確に鑑別するには膨大な時間と手間がかかりますし、そこまでやってもお薬手帳や処方箋などがないと何をいつ何錠ずつで処方されているかがわかりません(そういう事例に限って本人の記憶もあいまいだったりします)。

同じお薬でも、投与開始した順番や副作用の影響、併存疾患や併用薬、投与する順番や変更の変遷履歴など次第で、その主治医がどういう意図でその薬を使っているかの意味合いがかなり変わってきます。

薬のさじ加減は奥が深いんですよ。「見りゃわかるだろ」とか言わないでいただけると大変助かります。

 

一番手っ取り早い解決策は、主治医・かかりつけ医に問い合わせをすることです。

しかし、外来診療の忙しい時間帯に電話問い合わせをするのはこちらの外来が止まるだけでなく、先方の外来や検査なども止めてしまう可能性もあるのでできる限り避けたいところです。

可能ならお昼休みや夕方の電話や手紙での問い合わせがベターですが、臨時受診で今結論を出して欲しいと言われるとその手は使えないですしね。

特に、前の主治医から紹介状を貰わずにこっそり受診するケースでは、「その先生への不信感があって」黙ってこっちを受診したとか、「紹介をお願いしても聞いてもらえなかった」とか(信じられないような理由ですが実際によくあるようです)、逆に「信頼している先生なので裏切っているようで言えない」というケースもあり、前医への問い合わせ自体を強く拒否されるパターンもたくさんあります。



そうなると、一人5分から10分くらいで診療を終えないと回らない外来のところ(本来はもっと時間をかけるべきですが、そうすると午前外来が15時過ぎまでとかかかってしまうので医療者も患者もツライので、1年かけてじっくり信頼関係を作りながら少しずつ情報収集や反応を見ながらの薬調整を行なっているのです)、15分から30分くらいかけて、じっくりと患者や家族から話を聞いたり身体診察をしながら情報を把握し、繰り返しになるかもしれず情報精度も下がる検査を行い、しかもその日に結論を出そうとすると採血結果であればさらに1時間の待ち時間が発生してしまいます。

多少はそういうケースが発生することを想定して、安定していてしっかり病気を管理できているかかりつけ患者さんはメリハリ付けて早く済ませるなどしてある程度余裕の時間を作ってありますが、さすがに2-3例続くと外来が完全にストップします。

お互い不幸ですね・・・(TдT)


それから、ちゃんと元の先生に話を通して義理を立ててから手紙をもらって受診するという正規のルートを通しておかないと、後々患者自身が損をすることがあります。

高度専門医療機関などから転院されてきた場合には、もし今後病状が悪化した時に逆紹介するという手段が無くなってしまいます。

医者の世界は狭いので、もし影響の大きい医者相手に不義理をしてしまうと、他の病院でも扱いが悪くなるなんてマンガみたいな話も無いとはいえません。

また、その人本人だけでなく、相談先の医者が「主治医の許可無く患者を横取りしたという体裁」になってしまうと、のちのち相談先の医者と元のかかりつけ医との関係が悪くなる可能性があります。

単発ならまだしも続けざまになると明らかにトラブルに発展し、今後の病院間のスムーズで質の高い医療連携が妨げられ、他の患者の不利益になることもあるのです。

「だまってきたんだからわかりゃしないでしょ」と思う方もいるかもしれませんが、医療の業界は特に狭く、とくに患者さんが自力で来られるような範囲にある同じ標榜科の医師同士であれば、まず確実に医師会や学習会、学会などで交流があることがほとんどですのでばれないということは無いのです。

今後お世話になるかもしれない医師や医療機関、そしてそこにかかっている他の大勢の患者に不利益を与えないためにも、できるだけちゃんと紹介状をもらう手続きをして正規のルートを通ったほうが良いと思います。



さらにいうと、相談だけのケースとか、いろいろと相談したけっか結局もとの医者のところに戻ることになった場合、検査や処方などの医療行為が発生しないため当院の収益は診察料だけとなってしまいます。

あまりうつくしい話ではないですが、病院の赤字を拡大してしまうのですよね。

今の医療制度は出来高払いなので、有益だろうが無駄だろうが検査や治療をたくさんしたほうが儲かり、親身に話を聞きその人にベストの方針を一緒に考えて患者がすごく納得したりとても質の高い医療を提供できても処方と検査と処置がなければお金がすこししか入らないのです。

たまにであればボランティア精神で対応もできますが、一応病院の経営にも責任を持つ立場としては、こういうパターンの受診が無制限に増えたらどこの医療機関もキツイだろうなーと思います。

都市部に無駄に医療機関が多いからこういう無駄が発生するんだろうなーと思ったり、慢性疾患や新患は出来高払いやめたらいいのになーと思ったりしてます。

ちょっと本題からハズレましたね。



 
というわけで、これから普段かかっている病院・診療所とは違う医療機関にかかろうと思っている方は、以下の様な事前準備をするとお互い幸せになれるかもしれません。

参考にしてみてください。


・可能な限りかかりつけ医に紹介状作成を依頼する。
すごく大事です。
最近の医師は、それだけで怒るとか拒否するというケースは少ないと思いますよ。

・紹介状がない場合でも、薬の名称と容量・用法がわかるような資料を持っていく。
お薬手帳がベターです(すべての医療機関からの処方内容がまとまってればベスト)。
お薬の実物も、何もないよりはマシですが、ジェネリックだらけで小さな医療機関に持ち込むと内容調べるための負担がものすごいので注意しましょう。
過去1年くらいに処方内容の変更があれば、その変遷がわかるようにまとめておくのも重要です。

・検査結果も、分かる範囲で持って行きましょう。
普通は検査結果のコピーをもらえるはずなので、それを普段から取っておいて、他院受診時に持参しましょう。
基本的に患者のデータは患者のものなので、黙ってたらくれない病院でも「ください」といって拒否されることは無いはずです。
何もなくても、検診の結果通知書が2-3年分あれば少しは助かります。

・経過や症状を的確に説明できるようにまとめておく。
他の病院にかかっていてからよそに受診する場合、大抵は長く複雑な経過があります。
いつ何が起きて、どんなことをしたらどうなったのかという経過を、簡単なメモ程度でいいから整理しておきましょう。
よく、診察室に入って医師に質問されてからじっくり思い出してたどたどしく説明される方がほとんどですが、その時間の分だけ時間がおして貴方がきちんと説明をしてもらえる時間を圧迫してしまうのでお互いに損をします。

・受診予定の医療機関に、予め電話問い合わせをする。
セカンドオピニオンや新患、紹介状持参患者専用の予約枠がある病院もあります。
当院は時間帯によっては常勤医が出ていない時があったりしますし、混んでいる日の午前外来だと2-3時間待ちになることもありますので、事前に「この時間帯にこういう手順で受診したら良い」というアドバイスを受けたほうが賢明です。 
事前に受診することがわかっていれば、担当医師が事前に情報を読み込むことでよりスムースな対応ができるようにもなります。



こういった一手間を惜しまなければ、わざわざ時間をとって緊張しながら慣れない医療機関にかかるための負担が報われる程度には満足できる診療を受けられると思います。

ここまできちんと自分の医療情報を管理できる方であれば、たいていはかかりつけ医との関係もうまく作れたり適切な医療機関を探す能力があったりするのでこういう受診には繋がらないのかもしれませんけどね・・・(-_-;)


もちろん、そうは言ってもなかなかこういう準備ができないとか、やっぱりかかりつけ医には「紹介状書いてくれ」と言えないという事情のある方はたくさんいるでしょうし、そういう場合はもちろん最大限の努力をしてベストの対応をしたいとは覆っていますから、どうにもならないと思って塞ぎこむくらいだったらまずは飛び込みで受診したほうがマシです。

もちろんそういう場合は最大限努力します。というか毎日そういう努力をしています。

出来る範囲で、可能な場合はそういう準備をしたほうがお互いにお得ですよという話でした。
 


半ば、今日大変な思いをした自分の憂さ晴らし的な記事のような気もしますが、もしこれを読んで近いうちに他の病院にかかろうと思っている方がいましたら、上記の一部でもいいですので実践してみてください。

飛び込みはホント、ツライですから