先日、主に後期研修医を対象とした、院内での「漢方学習会」を行いました。


うちにいる後期研修医に対しては、病棟全症例を週1回、外来症例も気になった症例などをえらんで週1回の振り返りをしています。

その中で、診断がつかないけど長い期間にわたって症状に苦悩している患者や、一般的な西洋薬を使っても症状が取れず、またはその副作用で苦しんでしまって次の手が打てない患者などをたくさん経験している事がわかり、そういうときに(ほかの多彩なアプローチも紹介する中の一つとして)漢方の処方案を伝えて少しずつ経験を積んでもらっていました。

意外な程に著効することも多く漢方への関心が高まっていたものの、同じような病名の人なのにちがう処方を推奨されたり、最初は聞いていた漢方が徐々に聞かなくなって薬を変えたらまた効くという経験も増え、「今は指導医に聞けばいいけど、今後自分で病態を理解して自力で適切な処方をできるようになりたいな」というニーズが高まっていて、「あー、漢方の勉強会したいっすー」という意見が何回も出て複数の研修医から出るようになってきたので開催することにしました。

ので、「十分にCommon Diseaseの診療を経験し、西洋医学的な標準的診断・治療も身に付けて、それでも超えられない壁を何とか乗り越えて患者の苦痛を軽減したいという熱意で満たされた後期研修医」を対象として準備しました。


のですが、たまたま今回ってきている初期研修医の一人が日常的に漢方を使っていた幼少期の経験があり関心が高く、もう一人も救急に関心が高いため風邪など急性疾患における漢方の使い分けに興味があったため、初期研修医も参加してもらいました。



とりあえず1時間くらいかけて、一応過去に作った資料を配布しつつ、主に対話とホワイトボードをベースにしてニーズを確認しながらアドリブで進めていこうかなと考え、緩めの準備で挑みました。

初期・後期研修医両方に対する漢方講義するのは久しぶりだったし、以前と比べて自分の経験も増え(独学なので第3者による評価は受けられていないのが弱いところですが、それなりの有効率を実感しています)、学習者側のニーズのバラ付きも大きそうだと思ったので、「準備しすぎず、臨機応変に」というつもりでした。



実際の流れとしては、

1.まずは外来Common Diseaseの統計を見せて、「内科一般外来でよく見かける症状のうち、西洋医学で対応しずらいが、患者のQOLを損なう健康問題」を提示(勉強してもいつ使えるかわからないような基礎講義ではなく、明日からしょっちゅう使える内容ですよというフリとして)

2.それらに対して、とりあえず「病名処方」できる漢方一覧を提示(随証治療は難しいので、まずは取っ付き易く簡単なところから)

3.その漢方のイメージを、「絵でわかる漢方処方解説シリーズ」の絵を見せたり、私が雰囲気やよくある患者のセリフをいろいろと提示しながら持ってもらう(あー、そういう人よくいます!あるある~!!といういいリアクションが、主に後期研修医からたくさん返ってきて楽しかったです♪)

4.その後少し質疑応答の時間をとって、ここまでの病名処方に対する質問をふくらませて返して、より理解を深める。

5.そこまでいくと「でも、風邪に使う処方はたくさんあるし、実際に外来でも指導医に聞くたびにちがう漢方を推奨されるので難しい」という意見がでて、また開始時に聞いたニーズも「風邪の漢方をマスターしたいっす!」という意見もあったので、「じゃあ、ちょっと難しいけど、風邪の漢方の使い分け行きますか!」と話を展開

6.基本的な用語の解説をしてから、表裏・寒熱と六病位の基本を解説。お互いに脈診や腹診をして表裏・虚実の区別はつくようになってもらう実習付き。

7.具体的な処方の使い分けを順次説明。

8.最後にフリーディスカッション

という流れでした。


本当は自分の今の症状をプレゼンして、診察をしてもらって最適な処方を考えてもらうというクイズを最後にやろうと思ったんですが、この時点ですでに2時間近くかかっており立派なワークショップ1本文くらい消耗しお腹もいっぱいだったので切り上げました。



参加者側は、かなりノリノリで聞いたり質問してくれていて、終わった後もフリートークが続いたり、「たのしかったー」と笑顔で言ってくれていたりでかなりの手応えでした。

自分も、こんなにすんなりと漢方レクチャーが届いた手応えは始めてで、自分の漢方診療経験の成長やレクチャースキルの成長を感じることができて嬉しかったです。


独学で学び始めたのが卒後3年目の頃、4年目あたりから積極的に使うようになり、5年目のときには学生向けの学習会を薬剤師さんと一緒にしたりもしていましたが、その後あまりニーズがなく地味に個人的に使うだけでした。

しかしそれから4年たち、自分がこういうふうに成長していることを実感できて面白かったです。

「ここの病院に漢方に詳しい先生がいるってお友達からきいて、わざわざ診療日を電話で問い合わせてきたんです。実はですね・・・」みたいな患者さんが年に数人はやってくるので、そんなめちゃくちゃ高く設定されたハードルをくぐり抜けてきた経験が生きてるな-という感触はあるし、一方で日常的に風邪や更年期障害や便秘やらなんやらに普通に出し続け、後日その感想を必ず来いてフィードバックを得続けてきたという地味な成果もあるのかもしれません。

漢方、たのしーですね(*´ω`*)



最後に、学習会の資料も紹介します。

これだけみてもよくわかんない部分も多いと思います(学習会の時はこれの何倍もアドリブでしゃべっていたので、資料から受ける印象と実際の学習会で学べた内容はかなり違うような気もします)。

何らかのさんこうになれば幸いですし、誤りや改善点などあればぜひ教えてほしいと思います。



漢方入門-外来Common Diseaseの「漢方ファーストチョイス」.pdf by けんた



プライマリ・ケア現場でよくみられる健康問題の統計をもとに「プライマリ・ケア医が漢方で対応すべきよくあるシチュエーション」をリストアップし、少数のグループにまとめることで「たくさん学ばなきゃいけないのか?」という最初の心理的ハードルを崩すことを目的にした資料です。

外来研修を少しした頃であれば、いずれも「あ、それ良く経験します」という症状に絞れるので、「じゃあ今度からすぐ使えるかも」とか「この前の患者さんに使えたな-」と感じることができ、学習する気が出ることを期待しました。

それぞれのファーストチョイスの薬も(細かいところをざっくり無視して)とりあえず並べることで、「たくさんの薬を暗記して細かい違いを覚えなきゃいけない」という感染症診療を独学で学ぶときに最初に躓く壁と似たような現象を回避することも狙いました。
必ず「これだけでは100発100中には遠いけど、とりあえず禁忌でなくて患者の全身状態も良ければ指導医の監視のもと処方して手応えを感じてみよう」という注釈をつけながら解説しています。





漢方入門-基礎理論+風邪診療編.pdf by けんた


最初の「CommonDiseaseのファーストチョイス編」で心理的ハードルが下がった後に、「でも風邪の漢方って数が多くて使い分け難しそうなんだけど・・・、でも面白そうだから勉強したいっす!」とモチベーションが高めなようなら追加でレクチャーしています。

五臓六腑や気血水の考え方が西洋医学と同じ字でも意味が違うことや、随証処方と病名処方の違いなど、よく誤解を生みそうなところだけざっくり説明。

そのあと、「六病位」で病気のステージを教える(ほかの慢性疾患のステージ分類と似たような感じで)。
で、外来でとりあえずよく出会う太陽病期と少陽病期にしぼり、この中で多彩な方剤を使い分けるために、「八綱弁証」のうちとくに表裏と寒熱について解説を加えてから、個々の方剤の使い分けを説明していきます。

病名処方だけでは乗り越えられない「微妙な症状・ステージによる漢方の使い分け」を、この「二病位+表裏寒熱」だけで理解してもらい、奥深さの一端を知りつつ、明日からとりあえず処方できるようになってもらうことを目指しました。 



以上です!


でわ~ヽ(´ー`)ノ