先日、癌終末期のセデーション以外ではかなり久しぶりに鎮静を行いました。

慢性臓器障害がかなり進んでおり、しかしまだ意識はある状態で、かなり苦痛があるなかオピオイドでも苦痛が取りきれなかった症例でした。


病態の細かい評価や投与薬剤選択、投与スピード、その後の微調整など含め、我ながら上手にコントロール出来たと思ったんですが、担当していた後期研修医に「ミダゾラムで鎮静ってどーなのよ?」と聞かれたので、「こりゃ、教える前にもう一度知識確認して正しいこと教えねば」と思いました。

また、この前の飲み会で本院のICUで働いている人からも「え?プレセデックスじゃないんですか?」と言われて、若干自信が揺らいだこともあり、まあいいタイミングだなと思って、30分ほどざっと知識再確認しました。



1.鎮静薬の種類
2.鎮静中の評価法
の2点を簡単に整理します。


1.鎮静薬の種類について
大きく3種類あり、ベンゾ(うちだとミダゾラム)、プロポフォール(ディプリバン)、デクスメデトミジン(プレセデックス)の3種類です。

他にもあるけど、まあこの3つでいいと思います。


ミダゾラムは蓄積がある、せん妄になりやすいなどデメリットばかりが目立つ薬なので、ICUではほとんど使われなくなっています。

そういう状況なので、中病ICU医が「え?」ていうのも当然だし、おそらく今後自分が教えることになる研修医も「え?」て言うと思います。


プロポフォールは手術・ICU以外では適応がない(その後も改定されたという記載は見当たらない)し、血圧低下や呼吸抑制は同じくらいあるので、ムリに一般病棟で使う薬ではないと思います。

本院で研修後に地方にいって、もちろん中小病院にICUはなくて、重症患者を一般病棟でみていたときに「え、プロポフォール使えないの?」と自分も思ったことがありました。

「使えるんだよ」という情報あればすぐ訂正するので教えてください。


デクスメデトミジンはせん妄だけ抑えてくれて、程よく寝てくれるが、声かけるとすぐ覚醒してというふうに、理想的な薬と言われています。

また、調べた範囲では一般病棟や術後以外でも適応があったので、使おうと思えば中小病院の一般病棟でも使えそうです。

しかし自分が初期研修中にはなかった薬で、後期研修中に出てきたけどその頃にいた中小病院では病棟看護師が未経験で指導医も使用経験が無いため導入は難しく、そんな背景があり私自身は自分の意志で投与開始やコントロールをした経験はありません。


そういう理由があってプロポフォールとデクスメデトミジンに対しては気軽に使えない事情があり、きちんと評価して慎重に使えば副作用がわかっている分使いやすいという感覚があるミダゾラムをファーストチョイスにしています。

「古い薬は副作用が予測しやすいので、使用経験が豊富であれば けっこう使いやすい」というのはどのジャンルの薬でもそうかもしれませんね(もちろん抗癌剤や抗てんかん薬など、特に理由がなくエビデンスがあれば新しい薬のほうがいいことが多いというジャンルもありますが、プライマリ・ケアレベルでは概ねOld is betterなことが多い印象です)。
 
でも、デクスメデトミジンは、今後導入検討してもいいかもと思ったりしました。



2.鎮静中の評価法
自分は過去に勉強したRamsay Sedation Scaleしか手持ちの武器がなかったのでこれで評価しました。

初期研修で本院にいたころは集中治療に関心のある指導医が回りにおらず、後期研修で地方中小病院を回った時もやはり関心持たれておらず、独学していく中で見つけたのがたまたまこれだったというだけです。

実際、鎮静が深すぎないように程々に調節したり、日中はギリギリまで浅くするという目的では、十分使いやすいです。


http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/method-humans.html 
このページの該当部分を読むとRamsayが古くて、欠点としては興奮している状態は評価できず、2002年に新しいのが開発されたとあります。

確かに最初から高活動型せん妄だったり、鎮静浅くすると不穏で困る症例ではイマイチしっくり来ておらず、その場合は独立してせん妄の評価をしていました。


で、今はRASSのほうがいいようですね。
http://www.icudelirium.org/docs/CAM_ICU_training_Japanese.pdf

こっちは、Ramsayの欠点を踏まえて2002年に開発されたと記載があるので、初期研修をしていた2005年の頃に自分の病院まで知識が届いていなかったのは仕方ないかなとは思いますが、一方ですでに10年以上経っているので当たり前のように使わねばと思いました。
 
実際、すでに本院ではこれがICUで標準になっている点や、日本語版として妥当性が評価されているという点、興奮も含めて幅広く評価できるが使用法自体はシンプルと言った点を考慮すると、RASSがより妥当とかんがえられるので、こっちを今後の標準にしようと思っています。


これは、CAM-ICUというICU患者の脳機能評価スケールの一部に組み込まれていて、ステップ1でRASSを使って鎮静が深すぎないことを評価し、深すぎなければステップ2でCAMを使ってせん妄かどうか評価します。
 
これによって過鎮静やせん妄を早期に診断できるのはかなり便利ですね。
 



以上、学んだことをまとめなおして、実際に今のセッティングで自分がどうするかを考えると
 
鎮静が必要と判断したら、とりあえず普通の中小病院ではミダゾラムで開始する
(もちろん病棟スタッフの学習会をして看護師が使いこなせるような準備をしつつ、自分の学習も深めていて、さらに可能なら普通に使用している病院で自分も使用経験をもてればデクスメデトミジンもあり。もしくは本院でデクスメデトミジンを使っていた人がこっちに赴任してきてくれたらそのタイミングで導入を検討してみる)。
 
鎮静を開始したらすぐに(自分は30分から1時間以内に)CAM-ICUで効き具合を評価して、適正量に調整していく。
 
CO2貯留など効きすぎのほうが困るなら、特に小柄・虚弱・痩せた高齢者などではミダゾラムは通常量の半分以下から(10mg/24hかそれより少ないくらい)でスタートしてCAM-ICU見ながら漸増。

もちろん、緊急挿管や激しいせん妄やてんかん発作ならもっと高濃度orワンショット静注を検討する。

という感じがいいのかなと思っています。



集中治療から遠ざかって4年近くになるので、勘違いがあれば指摘してもらえると嬉しいです。

もし他の資料、考え方などあれば教えて下さい。


あ、ちなみに「ICUブック」を読めばほとんどまとめて書いてあるので、そっちをきちんと読むといいと思いますよ。

自分は教科書以外に新しい知識が出てないかなと思ってネットでもいろいろ調べてみただけです。


でわ!