宇田川耕一の「シックな藏」

「シックな藏」のシックはchic(粋)のつもりです。Sickness(病気)ではなく……。とはいっても、かなりこだわりと偏りの強い「空間」ではあります。本当に書きたいことしか書きません。しかも更新も不定期です。それでもお気に召しましたなら、楽しんでいただければ幸いでございます。好評発売中!「オーケストラ指揮者の多元的知性研究」‐場のリーダーシップに関するメタ・フレームワークの構築を通して‐大学教育出版刊 A5版210ページ 4,410円(税込)

体の震えが止まらない!小澤征爾指揮水戸室内管弦楽団演奏会

27日、ミューザ川崎シンフォニーホールで開催された小澤征爾指揮水戸室内管弦楽団のコンサートを聴いた。前半はモーツァルト:オーボエ協奏曲ほか、後半が小澤の指揮によるベートーヴェン:交響曲第7番であった。

2年ぶりのブログ更新だが、採点は今回からしばらく見送ることにした。もともと書きたい時しか書かないブログなので、あえて書く以上は満点のものだけにしようと、改めて決意したからである。

とにかく小澤指揮のベートーヴェン7番はもの凄い演奏であった。体ごと持っていかれる感じがした。私の同僚である大学教員に元ミスターコンサドーレ札幌の曽田氏がいるが、彼によれば芸術とスポーツの違いは、熱狂的に感情を爆発させ体で表現することがあるかどうかだとのことである。芸術と違ってスポーツにはそれがあるというのだが、今日の演奏に関しては、終演後の聴衆の熱狂は「ここはサッカーの競技場か」というほどであった。

団員と一緒に小澤がステージに現れると、拍手のボリュームが1段上がる。だが、指揮台はなく、寄りかかれるような椅子と休憩用の椅子が置かれ、チューニングが始まると小澤は椅子に座っている。 大丈夫なのか、という不安がどうしても頭をよぎる。

1楽章は精妙な音量バランスを保ってはいるが、どこか聴き慣れた小澤の音楽とは違う。時折見せる打ち込むようなアクセントが、バーンスタインを思わせる。これは私見だが、小澤という人は本来はバーンスタインのような本能的な熱情を爆発させるタイプの指揮者なのではないだろうか。しかし、対極的なカラヤンの影響を強く受け、流線形のスマートな音楽を生涯かけて目指すことになった。それが、ここにきて本来の一歩間違えば狂気に近いような熱情が、蘇ってきたように感じられるのである。

2楽章は遅めのテンポでじっくりと歌い上げる。フルトヴェングラーの演奏が思い浮かんだ。ここでの地に足の着いた表現が伏線となり、後半の熱狂を支えることになる。演奏を終えると小澤は腰掛ける。かなり消耗している様子がうかがえる。客席全員から「がんばれ」という「気」が送られる様子が見えた気がした。

そして、3、4楽章である。3楽章はリズムの張りがあり、フルートの工藤ほか名人揃いの楽団の贅沢極まりない技の競演が楽しめた。そして、小澤の大きな唸り声とともに4楽章が始まるとたちまち興奮の坩堝である。今まで何度聴いたかわからないこの曲だが、息をするのも忘れるぐらいの熱狂で、間違いなくベストと言い切れるだけの超絶的な演奏が目の前に繰り広げられるのを、固唾をのんで受け入れるのに精いっぱいであった。体の震えが止まらず、涙が流れるのにも気を遣う余裕はなかった。

私は多分、今日のこの演奏を一生忘れることはないだろう。

小澤征爾による未踏の境地 水戸室内管弦楽団演奏会

22日、サントリー大ホールで開催された水戸室内管弦楽団のコンサートを聴いた。モーツァルト:ディヴェルティメントニ長調、交響曲第35番ニ長調「ハフナー」以上指揮者なし。ハイドン:チェロ協奏曲第1番ハ長調 指揮:小澤征爾、チェロ独奏:宮田大。

 

★★★★(ディヴェルティメント)
★★★☆(ハフナー)
★★★★★(ハイドン:チェロ協奏曲第1番)満点!
(10点満点 ★=2点 ☆=1点)

 

小澤征爾の体調が思わしくないとのことで、前半2曲は急遽指揮者なしでの演奏に変更になった。小澤によるリハーサルの成果もあったのだろうか、隅々まで神経の行き届いた工芸品のような演奏で、とても良かった。特にディヴェルティメントはかつてこのような精度の高い演奏は、筆者は聴いたことがない。その点、ハフナーは編成も大きいので、やはり小澤に本番も指揮していただきたかった気もするが、それでも木管をはじめとする名手たちの息がぴったり合っているので、不満は感じなかった。

そして後半、天皇皇后両陛下が客席に姿をお見せになると、コンサートの半ばにして早くもスタンディング・オベイション。そして、メンバーと共に小澤が登場。当然のことながら万雷の拍手、本当に絵になる人である。

ハイドンの協奏曲は、もし録音されていたらこの曲の決定盤になるであろうと思われるぐらいに素晴らしい演奏であった。小澤は師匠のバーンスタイン同様に天性の明るさがあり、ハイドンは本当に似合っている。名手ぞろいの水戸室内管弦楽団も、好演だった前半をも軽々と凌駕する究極のアンサンブルを披露する。また、ソロの宮田も神憑り的な名演で十分な存在感を見せつけた。なによりも小澤の気迫が物凄く、筆者は客席で、かつて桐朋学園オーケストラでドヴォルザークのチェロ協奏曲を指揮した、壮年期の小澤を重ね合わせていた。音の密度が桁違いであり、小澤の精神的・肉体的消耗が心配されるが、村上春樹との対談にもあるように、この人にはこのように自らを音楽芸術に捧げる生き方しかないのであろう。

NHKホールに吹いた古都伯林(ベルリン)の風

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