『奇跡のニューヨーク・ライヴ』小澤征爾さん指揮サイトウ・キネン・オーケストラによるブラームス交響曲第1番(CD)、ようやく昨晩聴けました。谷川俊太郎さん風にいえば「かっこわるいオザワ」、磨き上げられたアンサンブルが身上のこの組合せが、珍しくもザラザラとした感触で迫って来ます。でも泣けました!
日本を代表する音楽評論家の吉田秀和さんは「名指揮者」の条件について、「彼自身の中にすぐれた音楽としての素質をいっぱいにもっているというだけではたりない。彼は、管弦楽の楽員たちにも、少なくとも彼の棒の下にある限り、一人一人がすぐれた音楽家なのだという信念を吹き込む能力がなければならない。つまり、彼は、楽員を魔法にかけ、ふだん以上の能力を発揮できるようにする素質をもっていなければならない。日本人でも、たとえば、小澤征爾にはそれがある」と定義しています(『世界の指揮者』新潮文庫)。
吉田さんは、小澤さんには師匠であるバーンスタインと同様に、単に聴き手を陶酔させるだけではなく、オーケストラの楽員をも強く魅惑するにたる「精神的放射」があるとも書いておられます。
ところが、小澤さんはキャリア戦略があまりにも順調に行き過ぎたために、早くから世界的な一流オーケストラを相手に音楽を創ってきました。オーケストラの完成度が高いと、指揮者の姿はかえって見えにくくなります。また、それで良いのです。
ただ、今回の演奏は「サイトウ・キネン・オーケストラ」が、小澤さんの精神的放射を100%フィルター無しに受けた結果のような気がします。「とにかくオレがやりたい音楽はこうなんだ」という小澤さんの肉声が聴こえたような気がしました。
そういえば、もうひとりの師匠カラヤンもちょうど同じ年齢(75歳)の頃に椎間板ヘルニアに苦しめられていました。ハード・スケジュールに追われる超一流スター指揮者特有の職業病なのかもしれません。
カラヤンと小澤さんには共通点が多いのですが、私が注目するのは「起業家的知性」(Entrepreneur Intelligence)に恵まれているという点です。両者ともスポンサーやパトロンを獲得することにかけては、天才的な手腕を発揮しています。そうなると、音楽活動以外にも「出番」が増え、結果的にはスケジュールがさらに過酷になります。
拙著『オーケストラ指揮者の多元的知性研究』では、「世界のオザワ」こと指揮者・小澤征爾の成功物語を、科学的なモデルによる分析で「形式知化」しました。そこでは、小澤さんの唯一のアキレス腱として「哲学的知性」(Philosophical Intelligence)の不足を指摘しています。
しかし、このあまりにも圧倒的な「精神的放射」を聴いてしまった今、その仮説を修正する必要があるかもしれないと感じております(これも晩年のカラヤンと重なります)。そういう意味でも、一日も早いご回復を祈っております(もちろん一ファンとしても)。
吉田秀和
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