国勢調査と言語調査:1905年の臨時台湾戸口調査の場合

2010年09月03日


前置き

国勢調査

今年の10月1日、つまりあと1ヶ月ほどあとに、日本国内で国勢調査が行われる。

日本の国勢調査は、1920年に始められ、以後5年に1度行われている。より正確に言うと、1920、1930、1940年といった西暦で末尾が0になる年は、大規模調査を行う。大規模調査の中間に当たる1925、1935年といった西暦で末尾が5になる年は、調査項目が少ない簡易調査を行う。もっとも簡易調査でも、全数調査を行うことには変わりはない。

ただし、1945年のセンサスは終戦直後の混乱のために行われず、代わりに1947年に臨時調査が行われた。

国勢調査と言語調査

国によっては、国勢調査に際し、使用している言語を問うことがある。カナダ・オーストラリアなどがその例である。

現在の日本の国勢調査では使用言語は問われていない。しかし、戦前、日本の植民地であった台湾で行われた国勢調査では使用言語を問う質問があった。今日は、この台湾での言語調査について見てみたい。

1905年の臨時台湾戸口調査

1895年(明治28年)、下関条約によって、台湾は日本の領有するところとなった。効率的な植民地経営をするために、台湾の状態を把握することが必要であった。このため、1905年(明治38年)に台湾の全住民を対象とした国勢調査が行われた。これを1905年の「臨時台湾戸口調査」と言う。なお、「戸口」とは、戸数と人口のことである。

調査の結果をまとめるのには数年を要し、1908年(明治41年)に結果報告が出版されている。

言語調査

臨時台湾戸口調査では、どんな言語を使えることができるか、という質問がなされている。そのうち、ある人が一番よく使う言語を「常用語」と呼んでいる。当時の台湾の常用語の統計は以下の通りである(臨時台湾戸口調査部〔編〕『臨時台湾戸口調査結果表 明治38年』、1908年に基づく)。

常用語実数比率
総数3035674100.00%
内地語(日本語)576261.90%
土語(現地言語)総数297301797.94%
福建語(閩南語)256492084.49%
広東語(客家語)36469212.01%
其他漢語(その他の中国語諸方言)1600.01%
蕃語(台湾原住民諸語)432451.42%
外国語総数50080.16%
韓語(朝鮮語)120.00%
清語(標準中国語)48890.16%
英語670.00%
独語(ドイツ語)60.00%
蘭語(オランダ語)30.00%
諾語(ノルウェー語)170.00%
西語(スペイン語)130.00%
爪哇語(ジャワ語)10.00%
不詳230.00%

今からすると、言語の名前がだいぶ差別的ではあるが、『調査結果表』で使われている言語の名前をそのまま採用した。括弧の中に書かれている言語名は、今風の言い方である。

日本語

日本語を常用語とする57,626人のほとんどが内地人である。当時約300万人いた台湾人で、日本語を常用語とするのは466人に過ぎない。皇民化政策が進んだ1940年代ならばもっと多くの台湾人が日本語を常用としていただろうが、1905年という植民地時代の初期においてはそんなものである。

なお、常用語ではなく、副用語として日本語を使っていた人がどれくらいいたかというと、10,321人である。

中国語

中国語には様々な方言があるが、当時の台湾で主に使われていた方言は閩南語と客家語である。臨時台湾戸口調査では、それぞれ福建語・広東語と呼ばれている。「広東語」と言っても、香港で話されている広東語とは全然違うものである。

上に掲げた表での閩南語系と客家語系の比は、現在の台湾でもほとんど同じである。ただ、第二次大戦後に台湾に移住してきた外省人がいるため、全体に占める割合はそれぞれ若干低下している。

識字調査

臨時台湾戸口調査では、識字の調査も行われている。

何をもって識字とするかは、判断しがたい。例えば、日本語の場合、ひらがなだけを知っていれば識字と見なせるのか、漢字も知らないと識字と見なせないのかという問題がある。

臨時台湾戸口調査の基準は明解であり、仮名がわかるかどうかを問うている。なぜ仮名の理解を基準にしたのであろうか? 臨時台湾戸口調査部が1908年に出した『臨時台湾戸口調査記述報文 明治38年』(P.271)によると、(1) 漢字はどこまでを範囲とすればいいか分かりづらい、(2) 台湾人に対する日本語教育がどこまで行き渡ったのかを調べたい、(3) 欧米の調査ではアルファベットを調査するからとの理由で、仮名を基準にしたと述べられている。

調査結果によると、内地人の78.33%は読み書きが可能、0.29%が読むことのみ可能、0.06%が書くことのみ可能であり、読み書きができないのは21.32%に過ぎない。ただし、これは仮名について調査しているに過ぎないので、「読み書きが可能」であると答えた人であっても、現代の基準からすると全然読み書きができない可能性がある。それこそ、自分の名前しか書けないのに読み書きができると答えた人もいると考えられる。

台湾人について言えば、識字率はなんと1%ほどである。具体的に言うと、読み書き共にできる人が0.91%、読むことだけができる人が0.12%、書くことだけができる人が0%であり、残りの98.97%が「文盲」ということになる。ただし、この識字率の低さは、「外国語」である日本語の仮名について調査しているからであると考えられる。

台湾人の大多数を占める中国語(閩南語と客家語)使用者の中には、中国語の文章を書くことができた者がかなりいたと考えられる。しかし、日本語の仮名を識字の基準としているので、いくら中国語が書けても、仮名を知らない限り文盲ということになってしまうのである。



Posted by green_idea at 21:52│Comments(0)TrackBack(0) 言語学全般 | 統計・計量・数学 |

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