ちばてつやさん

秋の叙勲で、漫画家のちばてつやさんが、旭日小綬章を受章した。おめでとうございます(記事は2012/11/3付 日本経済新聞より)。

ちばてつやさんと言えば「あしたのジョー」。私も夢中になった一人だ。

その「あしたのジョー」と言えば、「燃えつきた まっ白な灰に」という有名なラストシーン。

このラストシーンは、偶然生まれたというが、私は、必然が生んだラストシーンだと思っている。
原作の梶原一騎氏が考えていたラストシーンは(※)

ホセ・メンドーサに判定で敗れたジョーに、段平が『お前は試合では負けたが、ケンカには勝ったんだ』と労いの言葉をかける。ラストシーン、白木邸で静かに余生を送るジョーと、それを見守る葉子の姿

だったが、ちばてつやさんは、

ここまでやってきて、『ケンカに勝った』はないじゃないか」と考えて、電話で「ラスト、変えますよ」と梶原に伝え、梶原も「ああ、任せるよ」とこれを承諾した

という。

しかし、この時、ちばてつやさんに思い描いていたラストシーンがあったわけではなく、次のような経緯であのラストシーンが生まれたという。

アシスタントとともに締めくくりをどうすべきか考え、20通りのアイデアが出るもどれもちばの納得のできる内容ではなく、締め切り時間が刻々と迫る中悩んでいたところ、本編を最初から読み返していた当時の担当編集者が、ジョーが紀子に「ほんの瞬間にせよ、まぶしいほどまっ赤に燃えあがるんだ。そしてあとにはまっ白な灰だけが残る。燃えかすなんか残りやしない。まっ白な灰だけだ」と語るシーンを発見し、「これこそあしたのジョーのテーマではないか!」とちばに差し出した。ちばはこの意見に同意し、これを基にラストシーンを描き上げた。その後、5日間は何もできず、ご飯もおかゆしか食べられなくて、家族も心配していた

このジョーと紀子の会話は、カーロス・リベラとの一戦後にあったもので、

ちばが創造したキャラクターである紀子に一度ジョーとデートさせてやりたいという理由で、梶原の原作とは独自に作ったものだった

という。

この時のジョーと紀子の会話は、ホセ・メンドーサとの世界タイトルマッチの第7ラウンド後のインターバルの時に生きてくる。

第5、第6ラウンドでホセ・メンドーサをKO寸前まで追い詰めたジョーだったが、ジョーの右目が見えなくなっていることに気付いたホセ・メンドーサが形勢を逆転し、第7ラウンドではジョーをKO寸前まで追い込んでいた。

試合をやめようとする丹下段平に、ジョーが「待ってくれよ おっちゃん おれは まだ まっ白になりきっていねぇんだぜ」といい、ここで紀子との会話シーンが回想される。

あしたのジョー第16巻p214s

ボクシングをやめたらという紀子に対し、ジョーが語った言葉がこれだ。

そこいらのれんじゅうみたいにブスブスとくすぶりながら不完全燃焼しているんじゃない
ほんのしゅんかんにせよまぶしいほどまっかに燃えあがるんだ
そして
あとにはまっ白な灰だけがのこる
燃えかすなんかのこりやしない
まっ白な灰だけだ
そんな充実感は拳闘をやるまえにはなかったよ

あしたのジョー第16巻p218s

そして、試合は第15ラウンドまで続き、ジョーは完全燃焼し、あの感動的なラストシーンにつながることになる。 

このジョーと紀子の会話がなかったら、このラストシーンもなかったかもしれないと考えると、ちばてつやさんが「一度ジョーと紀子をデートさせてやりたい」と考えてつくった話の重要性が分かる。

この会話が生まれたのも、そしてこの会話が物語の結末につながったのも、偶然だったのかもしれない。

しかし、これはちばてつやさんが「あしたのジョー」のテーマが何なのかを常に考えて作品作りをしてきた結果が生み出した必然なのだと私は思っている。

引用部分はWikipediaより