もし、5年前に『ハゲタカ』を観なかったら、ワタシはNHKのドラマをこんなに観るようにならなかったし、大森南朋くんのファンにならなかっただろうし、日本経済や社会のあり方についても考えるようにならなかっただろう。そしてなにより、大友啓史さんという演出家を知ることもなかっただろう。3年前の映画版で、彼がなんと現在ワタシが住む盛岡の出身だということを知り(それに驚いた記事がこれ)、彼が地元映画祭にやってきたときには、シンポジウムでかぶりついてしまったのであった(笑)。
 彼の演出した『白洲次郎』も、もちろん『龍馬伝』も楽しく観た。なんせ思いきってカテゴリまで作ってしまったくらいだからね(笑)。

 2年前の秋、龍馬を完走した後、大友さんはいったいどこに行くのだろうか…と思った矢先に大震災が起き、それから間もなく発表されたNHK退局(彼風に言えば「脱藩」)の報。そうか、いよいよ映画監督として一人立ちするのか、ハゲタカの続編がもう作られないのは寂しいけど、きっと面白い映画を作ってくれるよね、と期待した。
 だから、岡田以蔵ことタケルを主演に、このマンガを監督第2作(すなわち独立第1作)にすると聞いた時には、かなりの衝撃を受けた。よりによってなんでマンガ原作なのよ!ってね。

るろうに剣心  1 〜明治剣客浪漫譚〜 (集英社文庫―コミック版)
るろうに剣心  1 〜明治剣客浪漫譚〜 (集英社文庫―コミック版)

 しかし、大友さんがFacebookを開設し、twitterでマネージャーさんと共につぶやき始め、いろんな情報を表に出し始めたことから、当初に抱いた不安はだんだん期待へと変わっていった。なにせ90年代ジャンプを盛りたてた超人気作品なので、これを知った原作やアニメの熱烈なファンからのブーイングも多かった。でもあの大友さんのこと、そんな悪評を跳ね返し、彼のこれまでの作品に慣れ親しんだ人間なら非常に満足するものを作ってくれるんじゃないかと大いに期待し、観に行ったのである、『るろうに剣心』を。

 幕末に倒幕派の刺客として暗躍し、人斬り抜刀斎と呼ばれて恐れられた緋村抜刀斎剣心(タケル)。鳥羽伏見の戦いを最後に、決して人を斬らないという「不殺の誓い」を立てた彼は、愛刀を逆刃刀に替え、日本全国をさすらう流浪人となっていた。
 10年後、東京にやってきた彼は、神谷道場の跡取り娘薫(武井咲)と出会う。その頃街には抜刀斎を名乗る人物が出没して暗殺を繰り返し、恐怖の極みに落とされていた。そのお尋ね者が神谷活心流の使い手である疑いをかけられていたため、薫の道場は急激に廃れ、今や門弟はまだ幼い明神弥彦(田中偉登)一人となっていた。
 抜刀斎を名乗っていたのは、かつて鳥羽伏見の戦いで剣心と対決した鵜堂刃衛(吉川晃司)。剣心を終生の敵手と定め、彼が捨てた刀を手に、対峙した相手を金縛りにする「心の一字」を身に付けた鵜堂は、抜刀斎と偽って貿易商の武田観柳(照之)の警護を務め、決戦の機会をうかがっていた。
 その観柳は医師の高荷恵(蒼井優)を使って阿片を密造し、水辺にある神谷道場一帯を潰して港を作り、それを世界中にばらまこうと企んでいた。恵は観柳のもとを逃げ出し、偶然弥彦に助けられたことで神谷道場に身を寄せる。当然観柳の魔手は神谷道場に迫る。
 人を殺さずに剣で活かす道を模索する剣心と、時代の流れに取り残され、彼と殺し合うことを渇望する鵜堂。そして彼らを利用しようとする観柳。それに喧嘩屋の豪傑相楽左之助(青木ムネムネ)、維新時には剣心と対立した元新選組の警察官斎藤一(江口)、観柳の護衛の一人で戦闘のエキスパート外印(綾野剛)が加わり、壮絶な戦いが繰り広げられる…!

 面白かった。予想以上に面白かった。それも見事なまでに香港映画的な面白さだった。
 以前から言っているが、大友さんの作品には今までもどこかしら香港映画的な匂いがしていた。ハゲタカで企業買収をめぐって熱く戦う男たちの姿はウーさんの挽歌シリーズにも重なるし、龍馬のアクションシーンはどこか武侠映画的。映画がかなりお好きだとは聞いてたけど、実は結構香港映画もお好きなんじゃないか、と感じて嬉しかった。
 そしたらこの作品ではアクション監督に我らがアクション健ちゃんこと、谷垣健治さんを起用。いやー、なんてわかってるんだ大友さん!でも、『笑う大天使』『カムイ外伝』みたいなのをやられたらワタシゃ泣くよ…なんて、そんなのは全くの杞憂。もちろん香港映画と同じことをそのままやっているのではなく、谷垣さんが香港でド兄さん(注:ドニー・イェン。あえて説明はしない。詳しくは中華blogを参照のこと)のもとでやってきたことを、うまく日本映画に落とし込んでアクションをデザインし、それが見事に成功していたから嬉しかった。
 このアクションは本当に嬉しい。香港の人たちに是非見せてあげたい。心からそう思った。

 もちろん、アクション以外にも細かいところにも目を配った。動物大量投入(薫の「猫ちゃんだー♪」場面はお約束だと思ったが、今回は観柳が机で飼っていた白兎に注目)や、要の場面で降る雨(あの場面に降ってほしかった…というのが一か所あるんだけどここでは言わない)、そして効果的な服装の使い方、どれも大友組作品のお約束であり、それが健在だったのにまたまたニンマリ。
 それに加えて、道場での剣心と薫の礼を重んじる場面、そこに弥彦、恵、やがて左之介も加わって食卓を囲む場面の穏やかさ、そんなところもステキだった。

 タケルは初主演ドラマの電王でその演技力と身体能力の高さに驚かされたけど(そういえば彼が5役で演じ分けたイマジンのリュウタロスはブレイクダンスが得意で、自分で踊っていたもんね)、南朋くん、いせやんに続く大友組座付俳優となって、ますますそれらに磨きがかかった印象。のほほんと朗らかな姿から、刀を握って人斬りの本性を現した姿の落差もものすごかった。いい俳優に成長したよねー。…でもホレないよ(笑)。
 そういえばタケルは若手イケメンにしては珍しく同性の支持を集める俳優らしい。それならかつて龍馬で、以蔵を自らの懐に引き込んで勤王党の刺客に仕立て上げてしまう半平太こと南朋くんが、それを行った場面に臨んだ時、タケルを「抱きしめたいと思った(はぁと)」とインタビューで言ったのにも大納得だぜ。
 武井咲嬢はブーイングが多かったし、確かに…となったところもあったけど、今まで観てきた中では一番いい演技してたんじゃないかな。週刊新潮のコラムでもベタ誉めされてたな。でもタケルより…だから、ラスト近くで剣心が彼女を救いだす場面では○○○○○だったんじゃないの?とは一緒に観た朋友のコメント。
 優ちゃんは今まで演じてきたキャラとガラッと変わってて衝撃。しかもちゃんと色っぽい。やっぱり彼女の方が上だわ。意外とよかったのが江口の斎藤。まさかこーゆーアクションを見せてくれるとは!と驚き。
 あ、最近の世間の騒がれように対してワタシの評価がかなり低い綾野ですが、彼も思ったよりはよかったです、はい。あくまでも自分比ですけどね。もっとアクション映画に出てもらえば評価も上がるのだろうか。いや、それでも惚れないと思うけどな。ホントにな。

 その他、いろいろと書きだすときりがないんだけど、それはまたの機会でもいいかしら?もう一度観に行きたくてしょうがないしね。あと、アクション方面のネタを中華blogでも書きたくなったな。わははは。

 独立後、旺盛に仕事に取り組む大友さん。来年公開の次回作『プラチナデータ』も既に撮了し、現在ポスプロ中とのこと。こちらは東野圭吾原作・ニノ&トヨエツ主演という超堅実な見かけだけど、決してありきたりのアイドルサスペンスにはならないことを期待したい。今作以上のぶれない演出ととんでもない見せ場を期待してもいいよね。
 そして、ハゲタカからのファンとしては、ジョン・ウー&トニー・レオンの黄金コンビにも例えたくなる、彼と南朋くんとのコンビ作を、いつか再び劇場で観てみたい。あの作品の続編や社会派ドラマは安易に期待しない。恋愛ものやコメディでも全く問題ない。だから、るろ剣の続編が決まったとしても安定志向に走らず、とにかくどんどん突っ走って、内輪受けと思考停止に陥っている日本映画界でどんどん大暴れし、再生させてほしい。

 大友さん、本当にどうもありがとうございました。観てて嬉しかったし、楽しかったです!