映画「第9地区」を見てきた。あれはアメリカが世界で、なかんずくイラクとアフガニスタンでやっていることの正確な描写である。

 設定はヨハネスブルク上空にやってきた宇宙船から、弱ったエイリアンが発見され、彼らを地上の居住地域に住まわせたところ、人口が増加。

 それが社会問題に発展して、政府から委託を受けた多国籍企業MNUが彼らを別の収容地域に立ち退かせる、という話である。

 その間、彼らが地上でどのように扱われているかは、まさに黒人たちが南アフリカでどのように扱われていたかのプレーバックである。

 そして狭い押し込められた居住地域での生活、暴力、腐敗は現在のガザやその他世界中の難民収容施設そのものである。

 政府から仕事を引き受けたMNUは実は軍需企業で、エイリアンたちの武器に関心があり、そしてエイリアンたちをつかまえては内部の秘密施設で人体実験を繰り返している。

 これなどかつて日本がやった731部隊や1644部隊そのもの。

 そして彼らを立ち退かせるプロパガンダ、屁理屈、暴力、強制は、今アメリカがイラク・アフガンでやっていることそのものである。

 主人公はMNUノ社員として、立ち退きの仕事をやっていたのであるが、その過程で特殊な液を浴びでエイリアンへの変身が始まる。

 するとMNUは彼の体、つまり人間とエイリアンの構造をともに持つ生体組織に関心を持ち、生体解剖を開始しようとするのである。その許可を出すのは、彼の義理の父親でもあるMNU幹部である。

 ここで思い出されるのは圧倒的興行収益を上げたアバターがハートロッカーにアカデミー賞で敗れた一件だ。

 アバターでは特殊な鉱石への経済的利権のために、大量虐殺をおこなうアメリカ海兵隊の姿が描かれた。

 ハートロッカーにアカデミーで敗れたのはおそらく、ハートロッカーが心やさしいアメリカ海兵隊員の両親を描いているのに対して、アバターが遠慮なく殺される現地人間の現実と、彼らを「木の上に住む不潔な野蛮人」と描いたそのリアリズムにあったのだろう。

 アメリカ人は、たとえリベラル派が多いといわれるハリウッド関係者でも、自分たちがやっていることを直視することはできない、ということが証明されたようなものだ。

 しかもアバターなど初戦仲間が作ったフィクションにすぎないにもかかわらずである。

 第九地区はもっとリアルだ。

 それはアメリカか今行い、南アフリカがつい先ごろまでやっていて、そしてわが日本もかつてどっぷり浸っていた世界をリアルに描いている。

 お勧めの一作である。