映画のメトダ

【メトダ】とはポーランド語で【方法・方式】の事です。 世界有数の映画大学であるポーランド国立ウッチ映画大学に通う筆者が学校で学んだ事、自分で実践している事などなど、映画製作に関わる事を書いています。

2014年08月

【シナリオには全ての情報が書かれている訳ではない】

これ、とても大事です。


シナリオを書き始めたばかりの人が良くする間違いに

“どの情報をどれだけ書けば良いのか分かっていない“ 


というのがあります。

前回、シナリオは設計図と書きましたが、
大事なのは『最低限の情報をきっちり書く』ということです。
情報は多すぎても、不明瞭でも混乱を招くばかりです。

例えば、主人公が【ミキ】と言う【女】だとします。
まず必要になるのは【年齢】です。
これが無いと、俳優探しも出来ません。

そして、次の情報は 【どんな?】 です。が、これは、もう既に書かなくても良いのです。しかし、もちろん書いても良いのです。さて、ここで多くの人が間違う【どんな?】の例を書きましょう。

例:ミキ(12)明るくて心優しい女の子

これは、ダメです。この表現はシナリオには書けません。
なぜなら、シナリオは大原則として
【見えるもの、聞こえるものだけを書く】
というのがあります。

では、想像してみてください。
自分は今、映画を観ています。
ミキが画面の中で立っています。
さあ、あなたはミキが明るくて心優しいと思いますか?
答えはノーでしょう。立って画面に映っているだけでは、ミキが12歳(くらい)である事は分かっても【どんな?】は分からないのです。
では、観客はどのように『ミキが明るくて心優しい』と言う事を、知るのか?
それは彼女の行動です。

例:
ミキ(12)が横断歩道を走って渡る。
その途中、すれ違った近所の人に大きな声で挨拶をする。
横断歩道を渡りきった所に、お婆さん(78)が苦しそうにしゃがんでいる。
ミキ「お婆さん、大丈夫ですか?」
と、背中を撫でながらお婆さんの顔を覗き込む。


さて、ここにはミキが『明るい』とも『優しい』とも書かれていません。
しかし、これを読めば、ある程度の人は『ミキが明るくて優しい子』であることを理解できます。

さて、それでは【どんな?】には、何を書けば良いのか?
簡単です。
先ほども言いましたが、シナリオには
【見えるもの、聞こえるものだけを書く】のです。
なので、追加で書ける情報としては次のようになります。

例:ミキ(12)痩せて背は低い。

そう、視覚情報です。もし“痩せて背は低い”が映画にとって重要な要素であれば、このように書きましょう。

【どんな?】には、必ず視覚情報を書きます。それ以外の『明るい』や『優しい』などの目に見えない形容詞は使わない事。これが、シナリオを書く上での基本なのです。

【何の為にシナリオはある?】

多くの日本の若い作家のなかで、この質問にキチンと答えることができ、また実践出来ている人はとても少ないです。

まず、映画制作の大まかな流れをおさらいしましょう。

企画書/シナリオ
   ↓
 企画決定
   ↓
スタッフ集め
   ↓
キャスティング
   ↓
ロケーション探し
   ↓
美術・衣装制作
   ↓
  撮影
   ↓
  編集
   ↓
  宣伝
   ↓
  公開


こうやって大ざっぱに書いただけでも10もの工程があります。

では、各工程でどのような人々が関わるのかも見てきましょう。


企画書/シナリオ(監督・脚本家)
   ↓
 企画決定(プロデューサー)
   ↓
資金集め(スポンサー)
   ↓
スタッフ集め(プロデューサー補佐、カメラマン、衣装、美術、助監督)
   ↓
キャスティング(俳優)
   ↓
ロケーション探し(ロケ地の所有者)
   ↓
美術・衣装制作(美術・衣装アシスタント)
   ↓
  撮影(撮影技師、撮影助手、音声)
   ↓
  編集(編集者、音楽家、音響効果マン)
   ↓
  宣伝(デザイナー、営業マン)
   ↓
  公開(劇場スタッフ)


こちらも、ざっと書いただけで、この人数。
各1人ずつとしても(実際はそんな事は無い)22人。

さて、22人もの人を動かすには何が必要か?

それは【目標=完成を想定できる物】です。

人を動かすには的確な指示、明快な目標が必要となります。
シナリオは言わば映画の設計図。
スタッフはその設計図を使って各パーツ(美術、衣装、映像etc...)を作っていきます。
大事なのはその設計図さえあればスタッフが何をすればいいのか分かる事。

そして、監督は言わばそのパーツの組み立て人。
設計図通りにやろうとしても、各パーツをバラバラに作っていたのでは、不具合が出る事もあります。その不具合を調整してぴったりとハメていくのです。

もちろん、これはある程度の大きな映画撮影でのモデル。
自主制作では、こんなに人は必要ないかもしれません。

しかし監督以外に、最低限でもカメラマンと役者、2人以上の人に
【設計図=何をするか?】という事を伝えなければならないのです。

え?

カメラマンも俳優も監督である自分がする?

ええ、もちろん、そういった映画もあります。
確かに、そういう人にはシナリオは必要ないのです。
書かずに自分で勝手に撮影してください。
だって、自分でキチンと設計図を理解できているのなら、それは必要の無い工程なのですから。

ですが、通常は違います。
もし、あなたが映画監督として生きていきたいなら、スタッフも役者も必要です。
その人たちがキチンと目標を見失わずに、完成まで持っていける事。
その為にシナリオが必要なのです。

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