映画のメトダ

【メトダ】とはポーランド語で【方法・方式】の事です。 世界有数の映画大学であるポーランド国立ウッチ映画大学に通う筆者が学校で学んだ事、自分で実践している事などなど、映画製作に関わる事を書いています。

2015年01月


さて、前回の続きです。

【ジブショット/jib shot】2:26〜

これは上記の様にクレーンを使ったショットの事を言います。このクレーンは簡易なものから、コンピューター制御できる高価な物まで様々。ただし、簡易な物でも高額です。

【フォローショット/follow shot】
映像をみて分かるようにカメラが被写体を追いかけていくショットの事です。
ちなみに、有名なこのショットを使った映画がこちら…
またまた『シャイニング』です。
『シャイニング』が名作といわれる理由は様々な映画テクニックを最大限に効果的に利用して作られている作品だからです。なので、映画大学では必ずこの映画を分析します。


【ハンド・ヘルド・ショット/Hand Held shot】2:44〜
実はこれ、手持ち撮影の事です。手でもって撮影することをHand Held(手で持った)と言います。この動画は良い例ではないですね。
この動画だと【スピン・アラウンド/spin around】に見えてしまいます。
スピンアラウンドとは…


この様にカメラをある部分を支点にして360度くるくる回すショットの事を言います。
前者の様に円の中心から外に向かって撮影するのも、
後者の様に円の外から中心や外に向かって撮影するのも全てスピン・アラウンド・ショットです。

【T/Vショット/the vertigo shot】2:54〜
別名ドリーズームとも呼ばれるショットです。
別名からもお分かりの通り、ドリーとズームを同時に使用します。

ヒッチコックが『めまい』で始めて使い“伸びる床”として一躍有名になりました。

撮影方法は上の画像の様に被写体を同じ大きさに保つ事が重要で、
ドリーアウトする場合ズームインを
ドリーインする場合ズームアウトを使って被写体の大きさを一定に保ちます。
ちなみに、両者はもちろん背景の見え方に違いができます。
上記の動画はドリーイン・ズームアウトで撮影されています。

以上、知ってると得する(?)カメラーワーク追記でした。

さて、カメラワークの手法は大変多く、複雑に分類されて様々な名称がありますが…
正直言って、そんなの覚える必要ないです。

いえ、もちろん覚えておいて損は無いですが…
要は全て今までやった4つの表現で説明できるのです。

4つの表現とは

【フレーミング】【スタイル】【カメラの動き】    【レンズ使い】
 LS       手持ち  パンニング       ズーム
 FS       固定   トラッキング・ショット フォーカス
 M-LS
 MS
 M-CS
 CU
 XCU
 M-S
 
の事でしたね。
 
映画は極端に言うと、この4つの基礎をどの要に組み合わすかで出来ています。
どんな複雑なショットも元を正せば全てこれらの掛け合わせで成立しています。

それでも、覚えておいておいた方が良いカメラワークをおさらいも兼ねて3度目の登場であるこの動画を使って補足していきます。


【ツーショット/Two-shot】
0:42〜 

名前の通り、2つの被写体を同等の大きさで画面に収めるショットの事を言います。
主に会話シーンで使用される、最も使用頻度の高いショットの1つと言えます。
当たり前ですが人物が3人に増えるとスリーショットになります。それ以上の人数は特に特別な言い方は無いです。

【オーバー・ザ・ショルダー・ショット/Over the shoulder shot/OS-S】0:48〜
直訳すると【肩越しのショット】で人物の肩越しに撮影する事で登場人物の視点の先や関係性を表現したりします。
OS-Sは主に会話シーンで人物が対峙しているときなどに頻繁に登場します。
また、動画の様に肩越しに物を写す事で登場人物の視点の先を表す事になります。

その原則を逆に利用して、被写体がカメラを向いた状態で肩越しで写します。すると登場人物は背後で起こっている出来事が見えません。【登場人物が見えない状態=知らない状態】で何かが起こっている…というのを、観客に示す事も出来ます。

【アングル/angle】0:52〜
アングルとはカメラを設置する高さの事を言います。
高い位置にカメラを置く事を【ハイアングル/high angle/H-angle】
低い位置にカメラを置くことを【ローアングル/low angle/L-angle】といい、
特別な意図を持って配置します。

実はH-aもL-aも必然性無く突然使ってしまうとそのカットだけ浮いてしまって使えません。必然性とは主に被写体である人物の目線の先を想定してカメラを置いたりすることです。ただし、これはフルショット(FS)より登場人物を大きく見せる場合。FSより広く撮影する場合は状況を写すカットなのでそれに該当しません。

L-aの場合は状況が少々変わり、アクションシーンの効果を狙ったり、物体と登場人物の位置関係を見せる為や登場人物が置かれた状況に対する隠喩を含んだりするので必ずしも被写体の視線を重要視はしません。
例えば『主人公が巨大企業に立ち向かうために乗り込みます。主人公は会社の建物を見上げます』そういう時、ローアングルで登場人物と高くそびえる建物をローアングルで捉えると、視覚的にその困難さを示す事が出来ます。ちねみにこの表現はH-aでも使えますね。

また、真上から撮影するアングルの事を【バード・アイ・ヴュー/bird's-Eye view】と言います。これは本来、人間が見る事が出来ない特別な視点です。実はこのアングルを使うと、否が応でも観客は違和感を感じます。通常映画はこの違和感を感じさせないように構成されているか、その違和感を利用して印象的なシーンを作り上げています。

前者の場合は映画の冒頭に近い所で必ず数カット使用されているのを始め、映画全篇を通して数回B-Eyeが使われています。そうして、観客をその視点に馴れさせておいて、映画の中盤にいきなりB-Eyeが使用されても違和感を感じさせないようにしています。

また逆に違和感を利用して印象的なシーンを作ったりします。違和感=注目が集まります。物語の中盤、またはラストシーンなどの重要なワンカットのみに使用したりします。ただし、こちらの方は観客の視点をB-Eyeへと導く必然性を必要とします。例えば、被写体が地面に寝転がっていたり、被写体の目線の先であったり…

ちなみに、この違和感を最大限に利用し、違和感を増幅する事によって成立させている有名な映画のシーンがあります。それは『シャイニング』の迷路を俯瞰からズームアップしていくシーンです。


この様に、アングルを変えるというのは観客対する明確な効果を狙った表現なのです。

さて【フレーミング】【スタイル】【カメラの動き】の3つをすでに学んだ皆さん。

残るはレンズ使いです。

これは正直に言うと、詳しくやり始めるとドツボにはまります。
というのは、何度も言うように、これはカメラマンの領域。
詳しくやり出したらそれはもう映画監督では無くカメラマンです。
彼らは様々なレンズを使用して映像を作り上げていきます。
映像を撮影するのは言ってみれば物理学。どんなに撮りたい映像があっても物理的に無理な映像は撮影する方法が無いのです。私たちが何気なく映画で見ている映像の多くは特殊なレンズを使った映像が少なくありません。そして基本レンズは高価です。また、物理を基礎とした詳しい技術的理論は私もお手上げです。到底、全てを理解する事は出来ませんし、する必要もありません。

しかし、最低限知っておいた方が良い基礎もあります。
ですから、ある程度の事を理解する為にも撮影編【初級】道具で述べたように、あれば一眼レフを使用する事をお勧めしました。一眼レフのカメラを使用していると、物理的に『どうすれば、どういう画像が撮れるか』感覚的に理解できるようになってきます。

まあ、それは置いておいて、コンテを練るのに必要な最低限の基礎をここで述べていきます。

レンズを使った表現は主に以下の2つに分類されます。

①ズーム表現
②フォーカス表現


①の【ズーム/zoom】は撮影中にズームレンズを動かす事によって、カメラ自体は静止した状態で被写体の大きさ(フレーミング)を変化させる事を言います。

被写体をだんだん大きく見せていく事を【ズーム・アップ/Zoom up/Z-up】
被写体をだんだん小さく見せていくのを【ズーム・アウト/Zoom put/Z-out】

と言います。

ズームを使った表現は70年代に頻繁に使われてきましたが現在では撮影中に頻繁にレンズを交換できないドキュメンタリーで使う以外はかなり廃れてきています。というのも、同じように被写体に近づいたり離れたりするならば【トラッキング・ショット】を使った方が画面に動きが出る分、変化が大きく、観客を飽きさせる事が無いからです。
画面の動きと単純に言われても分かり辛いかもしれませんが、ズームは写真の引き延ばしと同じだと考えて下さい。被写体を大きく写すだけで、それ以外の変化はありません。
しかし、トラッキング・ショットの場合はカメラが動くので常に背景が変化するのです。

大抵はこの様に、登場人物のPOVの効果として使われています。
もちろん、上手に使えば素晴らしい効果を与える事が出来ます。

大事なのはズームとトラッキング・ショットの違いを知った上でどのように活用していくかです。

②フォーカス

【フォーカス】は別名ピントとも言いますね。

みなさん、お手持ちのカメラで試してみて下さい。
被写体を一つ選んで、少し離れた状態で立って下さい。
カメラの位置を動かさずにそれをレンズが1番ズーム・アウトした状態で1枚。
そして、1番ズーム・アップした状態で1枚撮影して下さい。

すると、前者の背景はくっきり写り、後者の背景はボケて写っているはずです。

前者の映像全体がはっきり写っている事を【ディープ・フォーカス/deep focus】深い
後者の被写体以外がぼやけて写る事を【シャロー・フォーカス/Shallow focus】浅い
と言います。

 深い                  浅い
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上記の画像は分かりやすいように加工した画像ですが、この様に背景をはっきり写すか写さないかは映画の表現上、とても大事になります。

もし、フォーカスをどんどん浅くしていくと…こうなります。
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この様に極端に被写体以外をボヤカす手法を【ボケ/Bokeh】と言います。
そうです、日本語がグローバル・スタンダードとして使用されているのです。

覚えておいて欲しいのは、フォーカスが浅くなればなるほど、撮影が難しくなります。
というのも、少し動くだけでピントが合わなくなるからです。
日本ではピント合わせはアシスタントの仕事…という、イメージですが海外ではピントを合わすだけの専門スタッフ=プロがいるくらいです。

ちなみに、ボケ状態で被写体から別の被写体にピントを合わせ変える事を
【プル・フォーカス/pull focus】と言います。


この表現は3脚を使った表現と共に、もっとも簡単で効果的な表現です。

さて、ここまでは【フレーミング】と【スタイル(固定、手持ち撮影)】と学んできました。

次に必要なのは【カメラの動き】です。

カメラの動きは大きく分けて以下の2つに分けることが出来ます。

①三脚の首を動かす事によって動きを付ける方法
②カメラ自体を三脚ごと動かす方法


①は三脚を立てた状態で、ヘッドだけを上下左右に動かします。

 左右に動かす事を【パンニング/panning/Pan】

 上下に動かす事を【ティルティング/tilting/tilt】といい、
 それぞれ下から上に動かす事を【ティルト・アップ/tilt up/TU】
 
上から下に動かす事を【ティルト・ダウン/tilt down/TD】と区別します。

これらは、動画用の3脚さえあれば使える、最もお金と手間のかからないカメラの動かし方になります。
ちなみに、手持ちでもカメラマンがその場を動かずに上下左右にカメラを動かせば、同じようにパンニング、ティルトと呼びます。

②は正確にいうと【トラッキング・ショット/Tracking shot】と言います。

よく聞くのは【ドリー/dolly】と呼ばれる、レールを敷いて、そのレールの上でカメラを動かすショットのことです。レールを引く以外にも、車輪のついた荷台に載せて動かしたり、車両(自転車や車の上)に乗せて動かす方法があります。また、カメラ自体が動くショットの事を言うので、ステディーカムを使った手持ちや、上下移動のあるクレーンを使った映像を含めてトラッキング・ショットと言います。

こちらのショットも基本は前後左右です。

被写体に対して近づいていくショットを【トラッキング・イン/Tracking in/T-in】
被写体に対して離れていくショットを【トラッキング・アウト/Tracking out/T-out】

被写体の動きに平行して動くショットをカニの動きに例えて
【クラヴィング・ショット/crabbing shot】といいます。

右に動く事を【クラヴィング・ライト/crabbing right/CR】
左に動く事を【クラヴィング・レフト/crabbing left/CL】

(この動画の1:23〜パンを含めたショットが見られます)

一般的にはトラッキング・ショットはレール(dolly)を使って撮影するのでそれぞれを
【ドリーイン/D-in】【ドリーアウト/D-out】【ドリーレフト/DR】【ドリーライト/DL】
と置き換える事が出来ます。

ただし、一般の人がドリーを購入して使用するのはかなり難しいと思います。
大変高額な上に安物はすぐ曲がり、揺れが出てしまうからです。

その為に日本のインディペンデント映画監督達は色々な代用品を駆使してトラッキング・ショットを撮影する訳です。まだ、最低限の機材が大学にあったのでマシだったのですが、私も日本に居たときは撮りたい映像を撮る為に色々工夫しました。

正直言うと、ポーランドに来てから代用品を使って撮影しているカメラマンなんて何処にも居ません。在学中は学校の備品をレンタルでき、卒業後は在学中に広げたコネクションによって安くで備品を調達する方法を学んでいくので代用品と言う発想自体が無いのです。また、うちの学校に居るだけで巨大なカメラマン同士のネットワークが出来上がるので、分担して備品を買って貸し借りをする…という、方法が主流になっているのです。

さて、まあ、無い物を色々言っても仕方がありません。
それに、トラッキング・ショットは映画の基本中の基本です。実際の撮影でどのように撮影するかは後に置いておいておいて、ここではコンテの構成の仕方をさせる為にしっかりと学んで、知っていきましょう。

さて前回、固定と手持ちとの違いと特徴について書きましたが、今回は手持ちの効果として、もう1つ追記しておこうと思います。

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(写真はBlackMagicポケットというカメラとショルダーと呼ばれる手持ち撮影で使われる補助器具)


それは、POV(Point of view/ポイント・オブ・ヴュー)です。

POVとは登場人物や物の視点として撮影した映像のことを言います。

登場人物の視点を見せることによって、観客と登場人物のとの共感を計ります。

このPOVを表すためによく使われるのが手持ちです。

理由は以下の様にまとめることができます。

①固定撮影と併用することによって、観客に即座にこの映像がPOVである事を示すため。
②画面の適度な揺れにより、あたかも自分が見ている景色であるように観客に促す。
③また、POVで動くことにより、観客に緊張感をもたらす。


上の映画は代表的なPOVを駆使してされた映画です。
全篇カメラの視点で撮られ、POVの弱点を逆手に取って、POVの効果を最大限に高めた表現で当時大変話題になった作品です。

POV自体は、固定や静止でも撮影するので、必ず手持ちでするわけではありませんが、多くの映画で使われている手法です。
表現の幅が広がるので覚えておきましょう。

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