映画のメトダ

【メトダ】とはポーランド語で【方法・方式】の事です。 世界有数の映画大学であるポーランド国立ウッチ映画大学に通う筆者が学校で学んだ事、自分で実践している事などなど、映画製作に関わる事を書いています。

2015年02月

さて、今回は【カメラ目線の罠③】と題していますが【180-degree rule】も含めて、例外も紹介していこうと思います。

今まで習ってきた事はいわゆる基本です。
映像でストーリーを語る為の最低限のルールなのですが『シャイニング』など既に上げたいくつかの、基本を逆手に取った映画がある事も覚えておいて欲しいのです。

実は先ほど違和感は【違和感の原因が分からない時】プラスに働く、と書きましたが実はもう1つプラスへとの変換方法があります。それは違和感が驚きになった時です。

それを最大限に利用した作品がこちら。

鈴木清順の『ツゴイネルワイゼン』です。
ここでは詳しく説明しませんが、一例を挙げると、
AとBのショットで男女が向かい合っていると思ったらCというショットで実は男女は背中合わせに立っている事が分かる、と言う様な場面が多用されているのが鈴木清順作品。
これは違和感を強調する事で驚きに変えているのです。

ちなみに、この驚きの根底には想定線によって導きだされている観客の先入観を利用しているというのがあります。

想定線で話したように
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この様なショットをみると観客は2人が向かい合っていると思い込みます。
しかし次のカットでツーショットのMLで背中合わせで2人が立っているのを見ると、想像と違う事で驚きに変わります。

人間が驚く理由は2つあり、1つは突然の衝撃、爆音や、振動、もう1つは自分が思っていた事と全く違った結果を知ったときです。
この映画はまさに、モンタージュ理論に馴れ切って先入観を前提として映画を見ていた観客の映像構成で意表をついた作品と言えるのです。

この様に、編集理論の原則を逆手に取って作られた名作は多くあります…
しかし、忘れてはいけないのが、どの作品も編集理論あってこその作品である事。
編集理論を逆手に取ると言う事は、編集理論を最大限に利用する事。
今まで上げた名作の作者であるキューブリックも、ベルイマンも鈴木清順も編集理論知らない、使えないではなく、知り尽くしているからこそ、この応用的演出を可能としているのです。

基礎を知ると言う事は新たな表現を探る為の第一歩なのです。

前回は『シャイニング』を例に説明をしましたが、この映画は例外的だと思って下さい。
スタンリー・キューブリックという希代の天才が気の遠くなる様な綿密さで数学的に構築したある種の完璧な映画です。おそらく、これと同種の名作を作る映画監督は向こう50年は出てこないでしょう…(だからこそ、有名監督の選ぶベスト・テンの必ず上位にあるのです)
しかし、この映画から学べる事はたくさんあるのです。

さて、他のカメラ目線のショットの別例を上げていきましょう。

想定線上にカメラを置くとPOVになると言いましたね。だからカメラ目線になる。
と、言う事はPOVを前提としたショットだと、登場人物がカメラ目線になるシュチュエーションが生まれるのです。

まずは、こちらの動画を見て下さい。

以前、POVの説明でも紹介した『クロニクル』です。
この映画は新しくカメラを買った主人公がそのカメラをオンにする所から始まります。そして主人公達が超能力を得てゆく過程を、主人公達がそのカメラ、または別のカメラを通してドキュメンタリーとして撮影している体で全篇構成されています。
登場人物達は常にカメラ=撮影者である劇中人物にむかって演技をしています。
この様に大前提でPOV撮影を観客に認識させる事によって、カメラ目線を劇中のカメラに向かっての会話と認識させているのです。

『クロニクル』はこの大前提によって
①観客を違和感に馴れさせる
②大きな違和感を感じさせないように上手く観客を誘導する
の2つをクリアしているのです。

もう1つの例としてテオ・アンゲロプロス『永遠と一日』を例に挙げます。

この映画は老いた詩人が妻と過ごしたある1日を、人生最後の日に思い出す、という内容です。全篇に渡り過去と現在が交差します。その転換は常に自然に行われて、特徴的なのは過去のシーンも現在の老いた主人公が演じている事です。これによって、大前提としてリアリティーではなく幻想的な手法で映画が構成されている事を観客が冒頭から認識しています。

この映画の凄い所は、違和感を違和感なく演出している所なのですがそれはまた別の話し…
では、見て頂きましょう。

このエンディングシーンはワンショットで撮影されています。
(正確にいうとワンショットに見えるように撮影されています)

このシーンはワンショットで以下の時間と空間の変遷があります。
現在→過去→主人公の夢の世界。最後がなぜ夢の世界だと言い切れるのかというと、最後に映画冒頭に出てくる母親が少年時代の主人公を呼ぶ声が聞こえてきます。ここに、今まで"妻と過ごしたある1日"と "主人公最後の日"の例外として少年時代の思い出、しかも誰とも共有していない記憶が登場します。

ちなみに、カメラ目線は“過去→主人公の夢の世界”の間、全篇に渡り1回だけ行われます。それをただの違和感ではなくプラスの演出に変えているのには、以下の理由があります。

第1として、冒頭にこれと全く似たショットが主人公の少年時代の姿で撮影されています。何より主人公を呼ぶ母の声はこの冒頭のシーンで使われているのです。この冒頭とラストを繰り返し表現し、リンクさせる手法は、永遠のサイクルを物語上で示す方法としてよく使われています。また、冒頭からワンショットで過去と現在の交差が示されています。そのことにより、この映画が非現実的である事を観客は前提として把握しています。

第2として、頻繁にこのラストシーンの様に何度も過去と現在が交差する事で観客は時代や空間が変わる事に違和感を感じなくなります。

第3として、現在の主人公は住んでいる家を出て死の旅路につきます。その旅路を冒頭からみることで観客は主人公に共感して同じように旅をしているように感じます。

第4として、このエンディングシーンをそれまでの主人公の人生=長い旅路の終焉を暗示するために多くの説明が映画全篇に渡って散りばめられています。特別なシーンである事を観客は認識しているのです。

そして最後に主人公は本当に旅を共にした私たち(=観客)に向かって語りかけていること。

これらの事が主人公のカメラ目線を観客を引き込む為の演出に変えているのです。
そもそも、この映画はとても詩的で映像、構成、何から何まで美しく構成されています。
じつは、この詩的かつ美しい構成は本来違和感が生じるはずの場面のつながりを違和感無く繋げることで生じています。

最後にカメラ目線に違和感を感じない方法として、先ほども出てきたように“登場人物が観客に向かって話す場合”があります。例としてはこちら。

『ヒッチコック劇場』このように、プレゼンターとして登場人物が観客に話しかけています。
『世にも奇妙な物語』などもこれと同じ手法が使われています。

映画ではよく、劇中劇の紹介などのシーンで使われています。

そもそも『シカゴ』は突然歌いだすというミュージカルの違和感を劇中劇として表現した事で大ヒットした映画です。このシーンでは、観客は本当に劇場にて観劇している観客となっているのです。

以上の事で分かるのは、カメラ目線が使われている映画は、そのカメラ目線の効果を最大限プラスとして引き出す為に全篇が綿密に構成されていると言う事です。

逆に言うと、ろくなプランも無く安易にカメラ目線を使うと、観客をしらけさす原因になります。ですので、カメラ目線をどうしても使いたい場合は以下の2つを必ず考えて、全篇を構成した上で使って下さい。

①観客を違和感に馴れさせる
②大きな違和感を感じさせないように上手く観客を誘導する


最後に、どうしても主人公の真正面から撮りたい場合の方法を紹介します。
これはイングマール・ベルイマンの『叫びとささやき』という映画です。

見て頂きたいのはこの動画の49:51~です。
このシーンは2人の人物が向き合って、食事をしています。
その向かい合ったショットは正に想定線上の真上にカメラが存在しています。
しかし、大事なのは目線がカメラに向かっていない事。
この2人はきちんと、お互いを見て演技をしていますね。

それは何故か?

もうお分かりだと思いますが、登場人物とカメラの目線が合わないようにアングルが変えてあるのです。実は登場人物の真ん前からのショットは、ほぼ例外無くこの原則が使用されています。
すなわち、被写体と目線が合わないようにアングルが上か、下からかのどちらかで撮影されているのです。
このシーンも若干下からのアングルで撮影する事によりカメラ目線を避けています。
『叫びとささやき』は映画自体がいわゆる完璧なリアリティーに基づかずに『シャイニング』と同じように過度な誇張や違和感で観客の注意を促し構成してあるので何処にどのように違和感を使用しているのかDVDを見ながら探すと【違和感をプラスに代える手法】を学べると思います。

ちなみにベルイマンはキューブリックと並ぶ希代の天才、巨匠の1人です。
全ての彼の作品を見る事をお勧めします。

さて、私たちは様々な映画で役者がカメラに向かって演技するショットを見ます。
その時、あなたはとある違和感を感じませんか?

通常の観客が映画を見る場合、シナリオ分析の講でも書きましたが第1のシークエンスで映画の世界観を理解し、その後は映画世界に入り込んで物語を鑑賞しています。
しかし、一度役者がカメラに向かって演技を始めた瞬間、
観客は登場人物が誰に向かって話しているか見失います
なぜなら観客は自分に話しかけていると錯覚するからです。そう錯覚した瞬間、観客は自分を意識します。すなわち、それまで入り込んだ世界から一度抜け出して、現実を意識することになります。一度、映画の世界から離れた観客を再び元の世界に戻すのはとても大変なことです。

そう、カメラ目線を使うということは途中で観客に映画の世界から離れた位置で観賞させることになるのです。そして、常に物語の流れの中断という可能性を秘めていると言えるのです。

しかし、それでも私たちはカメラ目線で演じられた名シーンを知っています。
そう、以前にも言いましたが上手に使えば ”違和感“ は強く観客の注意を引く可能性も秘めているのです。

カメラ目線を上手く使用した名作と言えば『シャイニング』です。

映画のメトダでは再三出てきておりますが、この映画はエイゼンシュタインが打ち立てた編集論を逆手に取り、観客心理に基づいて綿密に計算された最高の映画です。なので、是非この解説を読む前に皆さんにも『シャイニング』を見て頂きたいです。以下はネタバレも含みますので要注意です。

では、このシーンが、なぜそんなに素晴らしいのか解説していきます。
カメラ目線でのショットで観客が感じる
違和感の正体は“役が自分に話しかけて来ること”
にあります。
映画の違和感を緩和する為には2つの方法があります。
①観客を違和感に馴れさせる
②大きな違和感を感じさせないように上手く観客を誘導する


①は観客を違和感に馴れさせる為に、映画の冒頭から何度も違和感を生じさせて繰り返し示すことです。
②はショットの違和感を緩和する為に、上手くカメラ目線になる必然性を誘導してあげることです。

この作品の凄い所はその両方を駆使していることです。
まずは①の説明から。実は観客は冒頭から小さな違和感を与えられ続けています。そして、物語の進行と共に違和感は徐々に大きくなっていきます。
小さな違和感は、同じシーンの直前のショットにあったはずの椅子が無くなっていたり、急に分からない程度に絨毯の色や柄が変わっていたり、廊下にさっきまで無かった部屋が登場したりします。これは別に制作側のミスではなく、全てキューブリックの観客心理に基づいて計算した演出です。
これらの些細な変化は人間に違和感を感じさせますが、初見でその正体に気がつく人は殆ど居ません。実は違和感が観客の注意を引く場合は“観客がその違和感の理由に気がつかない”ことが条件なのです。
この様に ”カメラ目線の違和感“の前に観客は既に大量に提示された別の違和感で慣らされているのです。

②この映画ではシンメトリーが多用されています。
このシーンの冒頭、主人公は画面のどこから登場しますか?
そう、画面の中心です。
では、前回の記事を思い出して下さい。
カメラ目線になる状況は何処から撮影したときでしたか?
想定線の真上にカメラが置かれる場合でしたね。この場合、被写体はカメラのど真中(=被写体を軸にしてシンメトリー)に置かれる事になるのです。

ですので、このシーンのカメラ目線のショットも主人公は画面の中心にいます。
さらに、重要なのはカメラ目線で話すのは主人公だけと言う事です。
まずこのシーンで主人公は誰と会話しているでしょう?
バーテンダー…違います。
実はこのシーン、主人公は常に自分と話しています。

この映画の簡単なあらすじはというと、リゾート地にある怪ホテル、冬の間雪で閉ざされるこのホテルの管理人として家族で引っ越してきた主人公が徐々に狂っていき、最終的に自分の家族に手をかけていく…という話しです。

大事なのこのシーンの冒頭。バーには誰もいませんでした。この映画の巧妙なところは、ジャック・ニコルソン扮する主人公が顔を覆い、手をどけた所で観客と目線が合います。ここで、観客はドキッとさせられるでしょう。その後、この男がこちら側に向けて話していると思えば、突然、今まで居なかったははずのバーテンダーが現れて、彼と会話している様相を映し出していきます。バーテンダーは何処から来たのか?歩いて??違います。
主人公がいる対面、バーの中には何があるでしょうか?そう、鏡です。
冬の間閉鎖されるこのホテルの居るのは主人公家族だけ。そもそも、このバーテン自体存在しないのです。
主人公は鏡に写った自分の姿をバーテンダーと思って会話しているのです。しかも、幻であるバーテンダーの写ったショットは常に360度ルールに則って撮影されています。
ここでのカメラ目線のショットではカメラは鏡の役割をしており、それ以外のショットは全て主人公の妄想=主人公に撮っての現実世界ということになります。

ここで言いたいのは、カメラ目線のショットは明確な理由付けと、綿密な計算が必要となる大変高度なテクニックになるという事です。
この映画と、このシーンの凄さを更に解説すると、実は鏡が重要な役割を果たすというシグナルを事前のシーンで何度も示しているのです。分かりやすい所で言うと、冒頭のヘリコプターから川の水面を写したシーン。水面には山が鏡の様に写っています。さらに、主人公達が引っ越ししてきた当初、朝食を食べるシーン、実は鏡越しで撮影されていた事がショットの中盤で分かり、更に最後に強調されます。これはこのショットでは観客に無意識に自分たちに話しかけられているのでは無く、鏡に向かって話しかけていると言う風に認識させるために導く為のものなのです。
以上の様に、このシーンを撮影するまでに様々な計算が尽くされています。

シャイニングのその他の違和感シーンを知りたい方はこちらに解説した動画があります。残念ながら英語ですが、見てれば映像付きで解説してくれているので分かると思います。


次回は別の事例を使っての解説です。

さて、ここまで想定線を学んできて、疑問に思った事があると思います。

それは想定線の真上から撮影したらどうなるのか?
まずは例によってこの画像を見ましょう。
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この様に、カメラを想定線上に起きます。
原則として肩越しショットは撮れません
あたりまえですがAの後ろからB写そうとしてもAが邪魔で写りません。
A無しの状態での撮影になります。Aの代わりにカメラを置く事になるのです。
勘の良い方はもうお分かりかもしれませんね。

そうです、この場合のショットはAのPOVになってしまうのです。
POVとは登場人物目線の事でしたね。

実はこの方法、非常にまずいのです。

というのは、BはカメラをAと思い演技する事になります。
そうなるとBはカメラ目線で演技する事になります。
このカメラ目線が要注意なのです。
カメラ目線については次回詳しく説明します。
当然、想定線上のどの位置に置いても必ずAかBのPOVになってしまうので注意。


さて、続いては、進行方向の想定線上の解説に写ります。
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カメラ位置の選択肢は①か②となります。
この位置からの撮影には大きく分けて2つの組み合せがあります。

まずはカメラが静止している場合。
当たり前ですが、この場合被写体は常に動いています。
ですのでロー・アングル又はハイ・アングルからの撮影によって、被写体にカメラの真上又は真下を通過してもらう事になります。
カメラ位置②だけは被写体が遠ざかるショットを通常のアングルで撮影する事ができますが…おそらく映画の中でも殆ど観た事が無いと思います。なぜなら凄くつまらないから。被写体がだんだん小さくなっていくだけで殆ど画面の変化が観られないので、3秒以上は間が持ちません。(3秒ルールについてはまた別の機会に)

カメラが動いている場合
これは非常に簡単で、被写体の動きに合わせてカメラも移動します。
その場合、被写体の進行方向と同じ道のりを辿ります。
このショットはもう既に出てきたが【フォロー・ショット】と言いましたね。

さて、以上で長かった【180-degree ruleの説明は終わりです。

次回は【カメラ目線の罠】と題してカメラ目線を徹底解説します。

さて、これまでは【180-degree ruleの基本を学んできました。
簡単に言えば想定線を越えては行けないというこのルールにも例外があります。

想定線を超えること。

実はあるルールに則れば想定線を越える事が出来ます。

想定性の超え方①【
ワンショットの中で超える】
簡単に言うと撮影中に想定線を越えるのです。
以前出てきたスピン・アラウンドなんかもワンショットのなかで線を超えていますね。
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この様に、カメラが被写体の位置関係を写したまま線を越えると観客に混乱を招きません。
ただし、次からのショットはカメラが最後に止まった側から再び

【180-degree rule
に則って撮影していきます。
上の図で言うと、カメラが左から右に移動しました。
異動後は最後にカメラが止まった側、右側からまた撮っていきます。
再び左側から撮影したい場合は同じようにワンショット内で右から左に移動する必要があります。


想定性の超え方②【第三者の登場】
まずは図を見て下さい。
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AとBは今までと同じ想定線上に居ます。シーンの途中でCという新たな登場人物が現れた場合、細い水色の線で表したように、新たな想定線が出現します。そうする事によって、それまでは1のカメラがある左からしか撮影できなかったのが、次のカットでCのいる右側から撮影できるようになります。
この線越えの方法では1側から撮った最後のショットにCの登場を示す必要があります。
(3人以上の想定線の組み方は中級編にて解説予定です)

想定性の超え方③【真正面からによるグローズアップを挟む】
想定線を越えて撮影する場合、真正面からのクローズアップを挟む事で左右移動の違和感を緩和できます。
①まず片側からの通常の撮影
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②これに極端な真正面のアップを挟みます
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③その後、反対側から撮影します
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このショットの組み方はあくまでショックの軽減である事。
この方法は進行方向の法則による想定線の越え方にてより効果を発揮します。

というのも、ここで問題になるのは極端なフレーミング・サイズの変更自体にも違和感が生じることです。この想定線の越え方はかなりの上級レベルだと思って下さい。これらの、詳しい解説はまた後ほどの章にて行いますが、この方法は慎重に行わないと、思った様な効果は生まれないので注意する必要があります。

さて、以上が想定線を越える方法になります。

次回は想定線上のからのショットの解説です。

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