映画のメトダ

【メトダ】とはポーランド語で【方法・方式】の事です。 世界有数の映画大学であるポーランド国立ウッチ映画大学に通う筆者が学校で学んだ事、自分で実践している事などなど、映画製作に関わる事を書いています。

2015年04月

良い俳優が "どんな俳優なのか" を知る事は映画監督として大変重要です。

なぜなら "キャスティング" は映画の命に関わる重要な決定です。
配役を決定する過程で、良い俳優の条件を知っているかどうかは映画監督にとって明暗を分けます。

キャスティング(配役)には様々な方法があります。

例えばシナリオを書く段階で配役を想定して書く場合もあれば、オーディションによって選ぶ事もあります。今回はオーディションで役を選ぶ基準から "良い俳優" の条件を探っていきましょう。

そもそも、映画監督は配役する時に役者の何を観ているのでしょうか?

まずオーディションで何をするか見ていきます。
これは各オーディションによって様々です。

①写真、書類審査
ここでは、外見、経歴を参考に取捨していきます

②初期段階でのカメラ・テスト
方法はカメラに向かい名前、年齢、簡単な自己アピールを言ってもらい、正面、横顔、手と映し終了。
これで8割はその人が映画俳優として適しているかが判断出来ます。監督が観ているポイントは以下の通り。
  • カメラに対して構えが無いか。普通、カメラに向かって自己紹介をする時、人間は構えてしまいます。緊張から来る場合もありますが、“カメラに向かう” という意識が強過ぎて無意識に過剰な振る舞いをする役者さんがいます。
  • 自己アピール。これは俳優としての賢さを判断する一要素です。短い中で、何を伝えるのか。そう言うのを意識出来ている方が好まれます。ここで言うアピールは『自分の特技がどうだ』とか『どれだけ、この映画で役を演じたいか』を語る事ではありません。“俳優自身がこの映画でどんな役割を果たせるか”を伝える事にあります。
    あとは声としゃべり方ですね。しゃべり方は方言も含めてよっぽど訓練しないと変わりません。なので合わないと思われると落とされます。
初期のカメラテストで確認できる事は多くありません。
それでもこの段階で8割の人が落ちます。たった30秒程で合否が判断されるのです。逆に言うと映画監督は30秒程で合否が判断できるのです。これは経験を積まないと難しい判断と言えます。
ちなみに、初期段階でのカメラテストは大きな映画の制作現場やテレビ、CM等のオーディションで使われる事が多いようです。

③演技テスト
俳優は短い台本、役の設定、脚本の要約等が書かれた紙を事前又はオーディション中に渡されます。
ここで見るのは読解力とその読解を通したイマジネーション、そしてコミュニケーション能力です。
では具体的に役者に必要な読解力とはどんな物でしょうか?

次回詳しく解説します。

あなたは、良い俳優というと誰を思い浮かべますか?

では思い浮かべた俳優さんの一体なにが良いのでしょう?

その俳優と悪い俳優との違いを明確に答えることが出来ますか?

大げさな演技をしない
自然体に見える
セリフを覚えるのが早い
長台詞を言える

これらは全て解答ではありません。

もし上記の様な答えを思い浮かべたなら、あなたはまだ映画監督ではありません。
まだまだ、観客目線で役者を見ていることになります。

映画監督の思考になるには俳優にとって演技とは何か映画にとって俳優の演技とは何かを知る必要があります。

①俳優にとって演技とは何か


そもそも、俳優はどのように演技をしているのでしょうか?
大前提として、人間は自分で経験した事以外の事はできません

目の前にあるスマフォを分解して、バラバラにして、元に戻して下さい。
なんて、云われても、殆どの人が出来ないでしょう。

自分の知らない何かを行う時、人は学び、指導を受け、練習し、その結果出来るようになります。

これは精神構造も同じです。

感情表現という精神的な表現も同じように、学び、指導を受け、練習し、その結果出来るようになります。

しかし、演技の難しい所は必ずしも同じ体験が出来ないと云うことです。

例えば『死んだ後、生き返った人の気持ちを演じてくれ』

などと言われても、誰にも分かりません。

では、俳優はどのように演じているのでしょうか。

それは『死んだ後、生き返った人の気持ち』に見えるように演じているのです。

どういう事だ?と、お思いかもしれません。

よく『役の気持ちになって』とか『その役になり切れ』などと耳にしますが
そんな事は不可能です


人間には個人差があります。それは俳優も同じ。
そもそも、誰も死んで生き返った人の気持ちなんか分かりません。
だって経験した事が無いのだから。
観客は俳優の演技を見て「そう見える」と判断しているだけなのです。

では、もっと身近な話しから演技を考えていきましょう。

例えば、あなたが友人にお金を貸したとしましょう。大金です。
あなたはどうしてもそのお金を返して欲しい。しかし、友人は悪びれる様子も無く「今はお金がないから返せない」と言うだけでなく、逆ギレしだしました。

そんな時、あなたはどんな行動をとりますか?

①ただひたすら説得を試みる人。
②怒って殴りつけてしまう人。
③諦めて帰ってしまう人。
④誰かの手を借りて何とかしようとする人。
⑤絶望して泣き出す人

色々あります。これは個人の性格です。性格は容易に変える事は出来ません。特に感情を伴う場合の行動はコントロール不可能です。

ここで映画監督として、あなたは②の演技が必要です。しかし、俳優の性格は③だとします。その場合、俳優は②の演技をする事は出来ません。

俳優は分析によって "役の行動原理" を把握します。そう、頭ではきちんと理解しています。
しかし、感情表現になるとそうはいきません。
では俳優はどのように演じているのでしょうか?

それは②に見えるように自分の経験から、感情を引っ張りだしているのです。

俳優がこの例の様なシュチュエーションで、人を殴る程の感情の高ぶりが無い場合、俳優は自分の経験から、その状況に合うシュチュエーションと感情を見つけ出して再現します。

その俳優にとって、お金の問題は人を殴る価値がない様な状況でも、家族を傷つけられれば同じ様な感情、行動に成れる場合、俳優は家族を思って演じます。

この様に、役に合わせてるのではなく、役を自分の経験に合わせることで “そう見えるように演じて”いるのです。

ではロバート・デ・ニーロに代表される【なり切り型】の俳優はどうなのか?
前述したように人は経験してない事は出来ません。
ロバート・デ・ニーロはなり切る為に学び、指導を受け、練習します。
これは、自分が経験した事で、より役を自分側に引き込む作業をしているのです。

このように、俳優の演技のメカニズムを知る事は演出側に大変重要です。

映画にとって俳優の演技とは何か


これは何度も言うように『自分が俳優に何を求めるか』というのに関係してきます。
俳優が演技する事で、この映画の何を表現できるのか。これを軸にして俳優と関わる事が重要になります。なぜ、これが大事なのかというと、俳優は前途の方法で【そう見えるように】演じます。映画は俳優が内面でどう思っていようと画面上で ”そう見えれば“ 成立します。
その為【見えるように】俳優は様々なアプローチします。時には役の内面とは全く逆の心理構造から感情を見いだします。しかし、様々なアプローチの過程で当初の目的であるはずの【映画で伝えたい事】を見失い必要な演技とは全く別の演技になってしまう場合があります。しかし、逆に言うと、それさえ見失わなければ、俳優はどんなアプローチを使ってでも ”そう見えるように“ 色んな事を試す事が出来るのです。【見える】と判断するのは監督の仕事です。

それではこの2つの前提を元に “良い俳優の条件” を見ていきましょう。

まず、監督として知って頂きたい事があります。

それは俳優は決して監督の思い通りの演技をしないと云うこと。

俳優は常に

①監督の想定とは違う方向で悪い演技をする。
②監督の想定の許容範囲内での演技をする。
③監督の想定とは違う形で素晴らしい演技をする。

この3つしかありません。

そう、100%頭に思い描いた様な演技を俳優にさせるのは無理です
ですので、監督は常に②③を目指して俳優をコントロールしていきます。

俳優にとって “間” は恐怖です。
なぜなら "何をすれば良いのか分からない" からです。
ですので、その "間" を恐れて常に変化を表現しようと試みます。
それが俗にいう "ワザとらしい" とか "嘘くさい" に繋がります。
これが①の "想定とは違う方向で悪い演技をする" に繋がります。
これは、当人の俳優としての能力にも関わってきますが、読解がきちんとできてない場合もこうなります。また読解が上手くいっていても俳優がそれに合った感情を自分の経験から引っ張りだす事が出来ない場合があります。そういう時は①に陥ってしまう事が多々あります。しかし、最大の原因は“監督が適切な指示を出せていない”事にあります。

②の想定の許容範囲内での演技をする。
これは十分テキストを理解し、その上で ”感情表現は合っているのだけどディテールが違う“ 場合と "概ね合っている感情表現" をする事です。この少しのディテールの差にとらわれると俳優の新鮮な表現を失う可能性があります。こういう時は【バリエーション】を撮る事をお勧めします。これは演技を何パターンか撮っておく事です。時に、こういう状況で役者さんは化けます。
【バリエーション】を撮る場合はきちんと役者さんに『バリエーションを撮る』事を伝えましょう。そうする事で、一度リフレッシュされて、新たな気持ちで別の演技が出来ます。ただし、バリエーションを撮る場合の指示は具体的でなければなりません。

③監督の想定とは違う形で素晴らしい演技をする。
この瞬間に出会えた時、監督は震えます。心底、その役者を尊敬します。
これは想定とは違った、役者側からのアプローチや解釈の仕方から生まれます。
大事なのは、その想定とは違うアプローチがきちんとそのシーンと映画の目的に合っている事です。その上でこの瞬間に立ち会えたら、喜んでその演技を採用しましょう。

さて、長々と言いましたが伝えたいのこれだけです。

役者なんて善くも悪くも思ったように動きはしないので柔軟に判断して対応せよ


この判断と柔軟な対応は経験でしか培われません。
しかし、映画撮影はそうそう頻繁に撮影できません。
だからこそ、知識とシュミレーションが必要となって来るのです。
また、世の中には自分の想定していた物より素晴らしい物が沢山あります。
監督には映画を導く為の確固たる信念と指針が必要です。映画を面白くする為なら何でもするべきなのです。もし、自分が想定していたように完璧に再現する事で映画が素晴らしくなるならば、それを押し通すべきです。ですが、誰かが自分の想像もしてないような素晴らしいアイディアが出てきた時に、きちんとそれを見つけて映画の為に活かして下さい。

さて、前回ご紹介した本はゆっくり読んで下さい。
高額な上に、難解だったり、撮影経験の無い方などはピンとこない内容があったりと、読み進むのは大変ですが、この先、映画監督として必ず役に立つ時が来ます。よくわからなくても最後まで読み進めて下さい。部分的に読飛ばしても構いません。とにかく最後まで。実際に俳優の演出を始めればきっと役に立ちます。

さて、それでは今回の本題です。

俳優とは何か?

例によって以下の形式を使って5つ以上箇条書きして下さい。
  • 俳優とは______である
もちろん、“具体的” で “目的が明確にわかる" ことを意識して考えて下さい。

いいですか?
書けましたか?

それでは、例を上げていきます。
  • 俳優とはその身体を使って物語を表現する者である。
  • 俳優とは感情を露にできる者のことである。
  • 俳優とは常にコミュニケーションを試みる者である。
  • 俳優とは相手の話しを聞くことの出来る人物である。
  • 俳優とはイマジネーションを持った者のことである。
これは、自分が俳優を使って、何を表現したいかを把握する為の作業です。
これをきちんと認識する事で自分が俳優に対して何を求めているかがはっきりしていきます。
要求が明確になれば、指示も明確になります。

例えば上から順に
  • 俳優とはその身体を使って物語を表現する者である。→シーン自体の意図を意識しろ
  • 俳優とは感情を露にできる者のことである。→人に良く思われようと思うな
  • 俳優とは常にコミュニケーションを試みる者である。→思考を停止するな
  • 俳優とは相手の話しを聞くことの出来る人物である。→相手が何を考えているか考えろ
  • 俳優とはイマジネーションを持った者のことである。→1つの指示で複数のパターンを思い浮かべろ

この段階では “なんでこんな指示になるの??” と思われるかもしれません。

実はこれ、俳優に直接指示する内容ではなく【自分がどんな俳優を選ぶか】と云うことに深く関わってきます。


次回は良い俳優の定義について。

まず、大前提として伝えておきたい事があります。

それは、日本にも素晴らしい役者さんは沢山いるということです

では高等教育機関が無い日本でどのように素晴らしい役者さんが出現しているのか?
それは、善くも悪くも役者さん自身の努力によって役者に必要な条件を身につけてらっしゃるのです。また、一部の良質な俳優演出学校や劇団がきっちりと俳優の基礎を教えている所もあると思います。

も ちろん海外の高等教育機関で学ぶ事にも努力が必要です。そもそも、試験に受かるのも、卒業するのも日本と違って、容赦なくガンガン落とされる海外の大学で は、努力無しにまともに卒業する事は叶いません。だからこそ、映画学校や俳優学校を卒業したというだけで、ある程度の尊敬の念を受けます。善くも悪くも、 海外では映画に携わる人間は難関校を卒業した“エリート集団”という認識が大変強いのです。

日本における問題は俳優教育の基準が制定されていない事。
例えば欧米で監督や俳優がコンスタンチン・スタニスラフスキーを知らないと言えば
 “あ、 こいつは演技を知らないな” と思われます。スタニスラフスキー自身を知らなくても、彼の確立した俳優理論は全ての人が知っています。なぜなら、これが演技を勉強する上での基本中の基本。彼の著書はエイゼンシュタインの“モンタージュ理論”と並ぶ、映画監督ならば1度は読まないといけない本の1つです。

さて、欧米の様 にきちんと確立された俳優の基準が無いと言う事は、演出側には大変厄介です。前回説明した『読解』と『共通言語』が通用しないのです。これは【演技指導における会話が出来ない】と同義語です。日本では大きな役を得ている人でも、演技は素人レベル…などという状況は日常茶飯事です。

特に自主制作の現場では素人さんをメインとして使う事も多いでしょう。

しかし、いくら素人さんでも事前の準備によって十分に素晴らしい演技をする可能性を秘めています。もし、あなたが役者さんに『読解』の方法と『共通言語』を教える事が出来れば?それだけで、その俳優は良い演技へと一歩近づけるのです。

その為にはあなたが、きちんと “演技” を知る事が必要です。
これから徐々に解説していきますが、まずは以下の書籍を読む事をお勧めします。日本でも読める海外の良書です。

こちらは先ほども紹介した、全世界で使用されている俳優教育システムです。舞台に関する記述ですが、それらは映像においても採用されている重要な内容となっております。

俳優の仕事―俳優教育システム〈第一部〉
コンスタンチン スタニスラフスキー
未来社
2008-07-01


こちらは大変ハリウッド色の強い1冊です。この中には演技指導の基本 ”動詞による指示“ について詳しく書かれています。

演技のインターレッスン―映像ディレクターの俳優指導術
ジュディス ウェストン
フィルムアート社
2002-09


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