映画のメトダ

【メトダ】とはポーランド語で【方法・方式】の事です。 世界有数の映画大学であるポーランド国立ウッチ映画大学に通う筆者が学校で学んだ事、自分で実践している事などなど、映画製作に関わる事を書いています。

2015年05月

【トランプ・ウォーミングアップ法②自分のステータスを当てる】

このウォーミングアップ法には様々な応用編があります。
これらを、組み合わせて効果的に指導していきましょう。

今回は前回やった反対バージョン。
今度は俳優に自分のステータスを当てさせます。

横1列に俳優を並ばせます。
1人、1枚、カードを配ります。
ここで大事なのが、本人に見えないように、カードを俳優のおでこにあてます。
俳優は片手でそのカードをキープします。
おでこには、それぞれのステータスが表示されている状態です。
ですので、本人以外にはステータスが分かる状況です。

その状態でみんなと「こんにちは」と言いながら挨拶していきます。
役者は相手の反応をみて自分の番号を当てていくのです。

例えば、キングの札を持っている人と挨拶を交わします。
あなたはキングが強い札であることを知っているので、うやうやしく振る舞います。
しかし、相手も何だか弱々しく接してきます。
すると、あなたの持っている札は強い可能性があります。
相手の持っているキングかそれ以上。
逆に、相手は強い札を持つあなたがうやうやしく振る舞って来るのです。同じように強い札である事を想像します。
すると、次に挨拶する人が6だった場合、あなたは強気に振る舞う事が出来ます。
これらを予想し、確認しながら繰り返していくと自然に自分のステータスが見えてきます。
ステータスが分かれば、例によって強い札を持っていると思った人順に左から並んでいきます。
答え合わせをする前に、必ず「自分が何の札を持っているか?」「そう思った理由」を役者本人達に聞いていきましょう。

これは、主に相手の反応から自身の行動を予測するコミュニケーション力強化の方法です。
この応用編も、合わせて試してみましょう。

【トランプ・ウォーミングアップ法 / 指導のコツ②】

さて、強弱によって、表現が出来るようになったら、つぎはどのようにステータスの表現の幅を増やしていくか?というのが大事になっていきます。

素人さん相手の演技指導の場合、一番重要なのが "羞恥心" や "不安" の解除です。
演技という、心の枷を外す作業に馴れる事です。

トランプを使った数字の強弱表現方法は、理論的で分かりやすく、未知の経験に対する不安が取り除ける良い方法に加えて、とっかかり安いのが特徴です。

さらに、ありがたい事にトランプには特徴的なキャラクターが存在します。

それはエース、キング、クイーン、ジャックと皆が共通したイメージを持っている属性があります。
エースは無敵で何でも自信ありげで笑顔で素敵。
キングは落ち着いて、安定感があって、威厳がある。
クイーンはエレガントで魅力たっぷり。
ジャックは紳士で礼儀正しい。
多少の誤差はあれども、皆さんこのイメージに賛成できるのではないでしょうか?

それ以外の10〜2は無個性だと思いがちですが、対比させる事で個性を追加していく事が可能です。

例えば最弱の2。
2はいつも怯えていて、人と目を合わす事も出来ない。握手するのにもためらってしまう。

3は、内気で恥ずかしがりや。ビクビクする事はないけど、決して自分からは動かない。

と、この様に少しずつ、それぞれのステータスにもキャラクター性を加えていきます。
これらの設定は全て監督本人が行いましょう。
そして、強弱の表現に付け加える形で指導していきます。

そうすることで、ステータスを演じる事に幅が出てきます。
この幅こそが、本格的な演技の第一歩です。

【トランプ・ウォーミングアップ法 / 指導のコツ①】

さて、前回紹介したウォーミングアップ法ですが、重要なのは監督がきちんと指導できるか。
このウォーミングアップ法は監督側の指導の練習としてもの側面がある事も覚えておいて下さい。

ギャップの自覚と改善法

何度も言うように、演じる側と見る側にはギャップが存在します。
Aの演技が必要で、役者本人もAを演じているはずなのに、観客にはJにしか見えない。
また逆に2の演技が必要なのに、6の演技にしか見えない。
演技で重要なのは観客にとってAの演技に見える事です。本人の心理状況や思考は関係ありません。

その為に必要なのが基準を設ける事です。
俳優同士、監督同士、観客との間に共通の基準が必要なのです。

このウォーミングアップ法の場合、A~2のまん中、7が平均の強さ=基準となります。
役者は7より強いか / 弱いかで自分のステータスを表現すれば良いのです。

ここで重要なのが【自分の中での7ではなく、共通の7を演じる事】
全ての俳優が7の演技をする時に同じように見えなければならないのです。

もしそれぞれの役者がステータスを当てる事が出来ず、上手くいかなかった場合は、共通の7を設定していきます。

まずは全員に7を演じさせます。

「今から1人ずつ順番に渡す札の演技をしてもらいます。」と他の人には分からないように演じる役者に7の札を渡していきます。
この時大事なのが、複数の札からたまたま7を選んだように思わせる事です。
他の人は観客になりステータスを考えます。そして、なぜそう思ったのかもメモさせます。
それを人数分繰り返します。

全員終われば答え合わせです。
1人ずつ順番に解答合わせをしていきましょう。
(この時点では全員が7を演じた事を知っているのはあなただけです。)
この時、必ず他の役者にも感想を聞いて分析します。
「この人のステータスは何番にみえたか?」から始まり、
「それはなぜ?」と理由を聞いてから、その人が演じたのが7である事を明かしましょう。
7に見えなければ「それは何故か?」と同じように観客に質問していきます。

そうして、答え合わせを進めるうちに役者達は全員が7を演じていた事に気がつくでしょう。
そして、全員が同じ数字のステータスを演じたにもかかわらず、見え方が違う事にも気がつきます。

このギャップの認識が大事なのです。

ギャップを認識した所で、修正をしていきます。

ある役者にとって普通の状態が10の強さだった場合は、その役者には普段より弱い状態が7を演じる為に必要だと認識させます。逆の場合の然り。

この時、役に立つのが強弱のパーセンテージ指示
「あと30%弱く」や「15%程強く」
というような言い方をします。
この指示を繰り返して、微調整していきます。そして、その人にとっての7をきちんと設定していきます。これを、人数分繰り返します。

7がきちんと設定されれば、あとはどのように強弱をつけて他のステータスを演じるか。
Aが100%、7が50%、2が1%なら、自ずとその間の数字のステータスが見えてきます。
その事もきちんと、説明してあげましょう。

基準の設定と、自分の中で基準を演じるのに必要な設定が分かれば成功です。

これを、終えた後、また最初っからトランプ・ウォーミングアップ法を試しましょう。
おそらく正解率がグンと上がります。


【トランプ・ウォーミングアップ法】

さて、共通認識を話し合った後は、実践です。

これから紹介するのは、とても有名な俳優のウォーミングアップ法です。
これを使って演技への認識を高めていきましょう。

準備するものはトランプ。

あなたを除いて2人以上の人間が必要です。
あなたは必ず指導者の立場になって下さい。
そして、このウォーミングアップの方法の説明から、進行までをこなして下さい。

まず、トランプからジョーカーを2枚とも抜いて下さい。
手札の中には①〜⑬のカードがありますね。
トランプの原則として一番強いのがA(エース)で弱いのがになります。

A(エース)、K(キング)、Q(クイーン)、J(ジャック)、10、9、8、7、6、5、4、3、2


と、左から順に強くなっていきます。

この力関係がステータスになります。
役者さんはこれらのステータスを演じます

それでは、俳優さんに1枚ずつ引いてもらいましょう。
カードは他の誰にも見えないようにして下さい。

俳優さんは13枚のうちどれかを持っています。
俳優は誰にもカードを見せずに「こんにちは」と言いながら、全員と挨拶をしていきます。
大事なのは自分のステータスを意識する事。
自分より、強いか弱いか?また、自分がそのステータスを表現できているか?
俳優は何度でも、挨拶をして確かめる事が出来ます。
しかし、挨拶以外の事はしてはいけません。
挨拶しながら相手がどの番号を持っているかを考えます。
そして、自分がどの位置かを考えていきます。
ある程度、相手の番号が予測できれば、左から強いと思った順に並んでいきます。
俳優は自分がどの位置(強さか)を当てるくのです。

重要なのは答え合わせする前。
かならず、俳優達にこう聞いて下さい。

「この順番に賛成ですか?」
「なぜ、この人が自分より強い/弱いと思ったのか?」


かならず、自己分析させます。
その後、答え合わせをします。
合っていればOKです。
もし、合ってなかったら ”なぜ、そう見えなかったのか?“ を分析させます。

俳優の分析が行き詰まったら、監督が分析を伝えてあげましょう。

演技する上で必ずギャップが生じます。
それは演じている側も気づかない事です。

例えば、本人は最大限に強さ(A)を表現したつもりなのに、他の人には(J)程度にしか見えなかった…
これは感情表現にも当てはまります。
こんなに悲しさを表現したはずなのに、大して悲しそうにみえない…

実は演技に置いて、俳優がこのギャップを認識する事が大事なのです。
また、初めてこれをやった時に出たギャップがその俳優本人の本来の性格を表す場合が多いです。
このギャップの認識との修正が大切なのです。

俳優同士が考え、分析し、改善法を言い合う事で、俳優として必要な事が養われてきます。

そう、分析力、想像力、コミュニケーション能力です。

このトレーニングは相手の反応を見た上で自分の反応を返すトレーニングです。
これを、繰り返す事によって俳優に必要な3つの能力を養い、自分が他人にどう見られているかを認識する事ができます。
この意識こそ俳優への第一歩となります。

さて、前回は話し合うことをひたすら書いていきました。

共通認識として確立しておく事はこちら。

①役者、演技がどういう事なのか
②監督の求めている事
③監督と役者の関係性

監督側が注意しなければならないのが

①役者は思い通りに動かないもの/常に現実とのギャップがある
(だから、どうするのか考え続け、行動しつづける事)
②監督が役者と演技に何を求めているのか明確に自覚している事
③彼らの仕事に責任を持つ

映画監督の仕事は、人間関係です。
人間関係の難しさは、皆さん既に実生活で経験済みでしょう。
どんな仕事をするのにも大事なのは信頼関係
監督と役者の最初の仕事はお互いに信頼関係を作り出す事。

・性格に難ありだけど監督としての仕事が素晴らしい
・ちょっと頼りないけど、だからこそ助けてあげたくなる
・人なつこくって撮影現場が常に楽しい

本当に信頼の形は千差万別です。

信頼関係形成にはセオリーはありません。
ありませんが、

実は信頼関係はプロの役者さんと積み上げるのも大変です。
理由は様々です。

・十分な準備の時間がとれない。
・『監督』と『役者』関係性が元々破綻している
(ベテランや有名な人など相手の方が社会的に立場が上)

しかし、そんな中でも監督は試行錯誤して、1人ずつ信頼関係を作り、演技をさせなければなりません。

前回、言及したように、自主映画は金がない分、時間があります。
その時間を十分に活用して下さい。
お互いを十分知り合いましょう。信頼関係を作って下さい。
信頼関係を作るのにセオリーはありませんが、自分が部下になって働く事を想像して下さい。

・現実とのギャップを理解せずに無理難題を押し付ける人
・何をしたいのか分からない人
・自分の仕事に責任を持てない人

こんな人達と仕事したいですか?嫌でしょう。
監督としての準備とはこれらの事を磨いていく事です。
これは一朝一夕では中々難しい事です。
多くの失敗を繰り返して、身に付く事もたくさんあります。
かくいう私も、映画を撮り始めて10年目でようやく、これらを身につける事が出来始めました。
信頼を勝ち取る。
これは途方も無い事です。
しかし、映画への愛と作品への愛があればきっと出来るはずです。

と、精神論的な話しになってしまいましたが、次回からは具体的な指導の話しをしていきたいと思います。

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