映画のメトダ

【メトダ】とはポーランド語で【方法・方式】の事です。 世界有数の映画大学であるポーランド国立ウッチ映画大学に通う筆者が学校で学んだ事、自分で実践している事などなど、映画製作に関わる事を書いています。

2016年01月

さて、前回は対立、争い、論争によるドラマ形成を説明してきました。

実はもう一つ、ドラマ形成に欠かせない要素があります
それが【選択】です。
俗に日本人が思い浮かべる"頭を抱えて思い悩む様"の葛藤はこれを指します。
既に何度も説明した通り、登場人物がただ頭を抱えてる映像だけでは映画とは言えませんね。
しかし、映画の中には絵に書いた様に登場人物が"頭を抱えて思い悩む様"が出てくることが少なくありません。だからこそ、観客は"頭を抱えて思い悩む様"="思い悩む姿”というイメージを強く持っているのです。

いったい何故なのでしょう?

そこには大前提があります。それは観客が登場人物が何に悩んでいるか明確に知っていることです。

では、どのように観客に登場人物の悩みを伝えれば良いのでしょうか?
そのために使用されるのがこの【選択】なのです。

以下の図をご覧ください。
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この図で表されているのは【選択】の構図です。 
順に説明していきましょう。

みなさん、映画分析の際に説明した8シークエンスを覚えていますか?
そこで説明したアクトには、映画は主人公に問題が降りかかり、それを解消することで成長していく構図を説明しました。

覚えていない方はこちらから:映画分析【シナリオ編】講義 (11)

それでは例えながら【選択構図】を説明していきましょう。

⑴シーン1:シークエンスの冒頭で主人公は問題を提起される。

主人公には親友がいます。20年来の親友です。
長い間、苦楽を共にした親友から多額の借金を頼まれれました。
ものすごい額です。そもそも、友人は借金をする様な人間じゃありません。責任感も強く、自己管理もきちんとできた人物です。その親友が切羽詰った様子で必死に頭を下げます。

この場合、主人公A自体も誰か別の人から借金をしない限り親友を助けられない様な高額が良いでしょう。主人公の葛藤を大きくするために、なるべく簡単には助けられない状態に追い込みます。そうすることで、主人公は選択①助けると選択②の助けないとの間で悩み、揺れます。

主人公は親友から理由を聞き出そうと必死に親友を説き伏せます。
しかし、親友は何も言わずにただ「金を貸してくれ」と言い、最終的には2人はその場で結論が出ずに分かれていまします。

⑵シーン2:他者Bによる選択①を後押しする要素の提示


悩んでいる主人公の前に選択①を後押しする様な情報が入ってきます。

他者Bから借金の理由を聞かされます。その理由は急に難病に見舞われた友人の娘の治療費だった事が判明します。国内では治療ができないが、幸いにも治療に必要なドナーが見つかり、急げば娘の命が叶う可能性が出来たのある。そのために、友人は借金を頼んできたのである。
それを聞いて、主人公はなんとか親友を助けてやりたいと思います。

⑶シーン3:他者Cによる選択②を後押しする要素の提示
 
ここで、先ほどとは反対意見の提示が現れます。

友人を助けるために動き出した主人公Aに他者Cが新たな情報を提示します。
実は親友はこれまでの治療費を捻出するために、既に多額の借金をしており、ヤミ金きまで手を出しているとまで噂されていると。その状況から、どう考えても金を貸した場合、戻ってくる可能性がない事。

この様な提示で主人公Aは自身の生活と友人の苦境との間で更なる迷い=選択が生まれます。

シーン4:決断を決めるアクション

決断出来ない主人公の元に一報が届きます。
親友が倒れたというのです。聞くと、友人は手術費用を捻出するために、夜間の土方仕事も始め、ここ数ヶ月ロクに睡眠すら取ってない状態だったのである。さらに、久しぶりに会った親友の嫁も介護疲れではたから見てもやつれている。
目を覚ました友人は、無理して元気を装い、仕事に戻ろうとする。
そして、主人公は決断します。


 さて、この様に【対立】以外にも【選択】という形で【ストーリー】に【ドラマ】を取り入れる事ができます。また、主人公の悩みの原因と過程を他者との会話や交流によって観客に明確に伝えるます。

何度も言いますが、ここで説明した形はあくまで基礎です。
その為、通常の映画では多くの応用が見られます。例えば問題的から決断までの工程をたった1人の他者が担う事もあります。 そう、主人公ともう1人、たった2人の間でストーリーが繰り広げられたり、その逆に、さらに多くの選択の中から主人公が決断する事があります。ただし、選択が多いという事はその分、主人公に用意された救いが多くなるという事です。本来、選択を設定する場合は主人公の逃げ道を徹底的に排除して2択しか出来な究極な状態にします。
そうすることで、物語に真剣味と緊張感を生み、俳優の演技にも相乗効果を産むからです。
ですので、複数の選択肢を提示する場合はかなり特殊で巧妙なストーリー・テーリングが必要となってきます。

さて、以上がストーリーにドラマを組み込む2つ目の方法となります。
皆さんも【対立】と【選択】を上手く使いこなして、面白いストーリーを作ってください。 

さて、前回は【drama/ドラマ】という言葉について書いていきました。
今回はその【ドラマ】をどのようにシナリオに組み込んでいくかを解説していきます。

日本語で【ドラマ】という言葉が曖昧になってしまうのは【ドラマ=葛藤】と訳してしまうからです。日本語で【葛藤】と言ってしまうと多くの人が ”頭を抱えて何かに思い悩む様" を思い浮かべてしまいます。

では、なんという言葉が一番なのでしょう?
それは【conflict】。前回も少し書きましたが【conflict】の和訳は【争い、論争、対立】です。実はこの【conflict】という言葉には【葛藤】という訳が内包されています。大事なのは、どこからその【葛藤】が生じるか?ということなのです。

それは正に【争い、論争、対立】から生まれるのです。

そう、シナリオに【conflict=争い、論争、対立】を埋め込んでいけばいいのです

では、どのように埋め込んでいくのか?

答えは簡単です。【ストーリー】に【ドラマ/葛藤】を組み込めば良いのです。

もっと分かり易く書いてみましょう。

感情変化の過程に【争い、論争、対立】を組み込めば良いのです
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さて、すでにお馴染みのこちらの図で解説していきましょう。

最も簡単なのが登場人物AとBを対立させることです。
ただし、この対立構造は双方がなんらかの要求を相手に持っている事が条件です。
説得する、助けを引き出す、救う、恋人になりたい、喜ばす、目覚めさす、etc...
このようなポジティブな要求と、
痛めつける、拒絶する、社会的に抹殺する、関係を断ち切りたい、絶望感を味合わせる、etc...
といった、ネガティブな要求があります。

登場人物AとBは必ず相反する要求を持ちます

前回この図には3箇所のアクションポイントがあると言いましたね。
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まず、【アクション】前 の登場人物AとBの欲求を設定します
仮にA"説得する" B"拒絶する" という要求にしましょう。

当然ですが最初に【アクション】を起こすのは"説得する"という欲求をもつAになります。
これがアクション❶です。

このアクションに❶よってBの感情はcというものに変わります。
この感情cを仮に”怒り”とします。感情が変われば欲求も変わります。Bの欲求は"Aを完全に叩きのめす"というものに変わります。

そのためアクション❷を起こします。これは相当攻撃的なものである必要があります。

この攻撃を受けてAの感情はbに変化します。ここでは感情b"怒り"とします。
怒りは"説得する"という欲求から"相手を平伏させる"と変化します。
Aは相手をひれ伏せるためにアクション❸を試みます。この欲求はBのアクション❷よりも更に大きなモノである必要があります。

Aからのアクション❸を受けたBはここで大きな感情の変換点を迎えます。
それを"納得する"にします。

それを受けてAの欲求も変化します。A"和解する"としましょう。
これにより、このイベントでは2人の感情変化のみならず、関係性さえも変化します。

この対立による感情変化、状況変化を【ドラマ】というのです。

ここで、皆さん思い出すことがあるのではないでしょうか?
それは俳優への指示です。皆さん動詞とオブジェクト指示を覚えてらっしゃるでしょうか?
(覚えてない方は以下の記事をお読み下さい。)


 俳優演出の冒頭でも申したように、俳優指示とシナリオは密接な関係性があります。
そう、ここでやっていることは "俳優指示" に欠かせない動詞&オブジェクト指示そのものなのです。

実は優れた映画監督はシナリオを書き上げた状態で既に俳優への指示を全て把握しています。
シナリオ完成後の仕事はいわば映画製作上で出てくる誤差の修正のみです。
例えば、俳優に合わせて俳優への指示の仕方を変えたり、創り込んだり…
しかし、核のところでぶれる事はありません。

良質なドラマをシナリオ上で完成させるという事は、良質な映画への第一歩です。
まずは皆さんのシナリオにドラマがきちんとあるか確認してみましょう。

【drama/ドラマ】

 この言葉ほど、日本で曖昧かつ多くの誤解を受けて広まった言葉はないと思います。

一般的に日本で【ドラマ】というとテレビドラマの事を指しますね。
もちろん映画にもジャンルとして【ドラマ】が存在します。
恋愛、ホラー、クライム、サスペンス、コメディ、歴史、アクション。様々なジャンルがありますが、それ以外を【ドラマ】と捉える傾向があるのは近所のレンタルショップのラインナップを見ていただいても明確だと思います。特に日本人にとって【ドラマ】とは確たる派手な特徴も出来事もなく、なんとなく地味な印象のジャンルとして浸透しております。

海外の制作現場ではシナリオを制作会社に持って行った時に、
まず一番に何を判断されるかご存知ですか?

それは『【ドラマ】があるか、ないか』です。 

【ドラマ】のない作品は一瞬でボツになります。
【ストーリー】があるのは当たり前。
その【ストーリー】に【ドラマ】があるか、ないか?
恋愛も、ホラーも、クライムも、サスペンスも、コメディも、歴史も、アクションも、
どのジャンルにおいてもドラマ】の無いシナリオは即刻ボツとなります。

では【ドラマ】とは一体なんなのでしょう?

ここからは少しつまらない語源の話になりますが、少しお付き合いしてください。

そもそも「Drama」とはギリシャ語で "行動" を意味する言葉が鈍ったものです。
ギリシャはギリシャ悲劇でおなじみのように古代演劇が大変発達しました。そもそもは日本の能のように神殿にて神への奉納の為に行われたのが始まりのようです。ステージの上で "行動" する事によりストーリーを表現した事で "ドラマ"という言葉がそのまま "演劇" という概念に結びつき "ドラマ=演劇" と認識されるようになります。

その為【drama/ドラマ】は英語において現在もそうですが、ジャンルの他に、演劇を意味します。ですので "I watched drama." と英語で言うと"テレビドラマを見たよ" ではなく "演劇見たよ" と思われてしまいます。(あとは映画のジャンルだと思われます。)

また悲劇(tragedy )が大変人気を博した影響で、そもそも演劇=ギリシャ悲劇と認識されて世界へ広まっていきます。その広がりに大きな役割を果たしたのがローマ帝国です。【Drama】は演劇=ギリシャ悲劇という意味を持ってラテン語に取り入れられます。

ギリシャ悲劇といえば話の細かい筋は置いておいて、主人公がこれでもかというくらい、
次々と難問に襲われ、その都度、悩み、争い、葛藤し、最終的には自滅しゆく…というのが基本です。

そう、これこそが【ドラマ】の真の意味となります。
大事なのはもちろん『最終的には自滅しゆく…』の部分ではなく
『登場人物が難問に襲われ、悩み、争い、葛藤し』の部分です。
これに、もう1つ付け足しましょう。
『…解決策を導き出す』と。

シナリオに置ける【ドラマ】とは通常【葛藤/conflict】と訳されます。
もしあなたのシナリオに「ドラマが無い」と言われれば、それはシナリオの中に
【葛藤/conflict】が無い事を意味します。

前回まで、延々と言葉の意味の説明を続けてきましたが、全ては【ドラマ】をきちんと把握していただくための物です。

ただし、いきなり【ドラマ=葛藤/conflict】と言われても戸惑うでしょう。
【conflict】を辞書で調べてみると【争い、論争、対立】と記されています。そして、もちろん【葛藤】も記されています。これらは英語においては全て同義語です。日本語で【葛藤】いうと途端に心理的な印象になります。しかし、皆さんはもう知っているはずです。【葛藤】は感情の一つです。感情は外的要因によって生じます。

あれ?
ここまで聞くと、ある言葉を思い出すと思います。
そう【ストーリー】です。

【ストーリー】と【ドラマ】は同義語ではありません。なぜなら、感情変化は【葛藤】なしに起こすことが可能ですから。では、【ドラマ】をシナリオに組み込む為にはどうすればいいのでしょう?

次回はその方法を詳しく解説していきます。

さて、前回は【storytelling /ストリーテーリング】とは何かということを説明しました。

ここではそれに関連して注意しておきたいことを書いていこうと思います。
よく【ストーリーテーリング】について語られる時に、色々な事がごっちゃになって捉えている方がいます。それが以下の3つです。

①ストーリーの複雑さ
②事象の多さ
③ストーリーテーリングの巧みさ

もちろん高度な【ストーリーテーリング】には3点全てが備わっている事もあるのですが、ここで勘違いしないで欲しいのはストーリーテーリングの巧みさは決して①②とイコールではないという事です。

それでは、それぞれがどのように違うのを説明していきましょう。

①ストーリーの複雑さ

皆さんはシンプルなストーリーの構造を覚えていますか?
以前解説したこちらの図が最も単純なストーリー構造となります。
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ストーリーが複雑になるとはどういう事なのでしょう?ストーリーとはもちろん感情の変化を伴うイベントの事ですから、この感情変化が多くなればなるほどストーリーが複雑になるという事になります。

まずはこちらの図をご覧ください。
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 黄色の【イベント】に比べ、1つの【イベント】の中で感情変化が2人分、そしてそれぞれの行動によって2度の感情変化が起きています。

そう、1つの【イベント】の中で人物が多ければ多いほど、感情変化が多ければ多いほど複雑な【ストーリー】となります。ただし、現実的に考えて1つの【イベント】で変化が可能なのは最大2〜3人の登場人物の2回ほどの感情変化が限界です。登場人物が増えるとそれと比例して感情変化の回数は減ります。そうしないと、複雑すぎて観客の混乱を招く可能性があります。その為、良く出来た複雑なストーリーは偉大な成功として称えられる事になります。

②事象の多さ

よく混同されるのが ①の"ストーリーの複雑さ=事象の多さ"です。正確に言うと厳密に繋がってはいます。先ほどの図で説明していきましょう。
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ここには【複雑な感情変化=ストーリー】があります。
感情変化には外的要因が必要な事はすでにお話ししましたね。ここでは感情変化を起こす為に最低限3回の【事象】が必要となります。ここでの【事象】とは【アクション/行動】と捉えてもらっても結構です。【アクション/行動】には2つの意味があり、言葉通り登場人物自身の【アクション/行動】状況を動かす為の受動的なものがあります。後者は例えば事件、事故等にあたります。

感情変化を起こす【事象】を【アクション】と言います。逆に言うと【アクション】は必ず登場人物の感情変化を促す起爆剤である必要があります

そもそも【事象】とは "何かが起こる事" を言います。例えば "窓ガラスが割れる" "犬に吠えられる" もそうですし "友人に文句を言われる" "母親に泣かれる" など、全てが【事象】にあたります。ですので【イベント】の中で次々と【事象】が起こるとしましょう。しかし、感情変化が伴わない限り、それは単なる【事象】であり、ストーリーと関係ないものと言えます。ストーリーが複雑になればなるほど、多くの変化をもたらさねばなりません。その為に必然的に【アクション】としての【事象】が増えます。だからストーリーの複雑さ=事象の多さと勘違いされがちです。

作り手として必要なのは単なる【事象】ではなく【アクション】をきちんと描く事なのです。この差をきちんと頭に入れましょう。
ただし、単なる【事象】をうまく使ったジャンルがあります。それはコメディとホラーです。イベントの中で起こる様々な【事象】は本筋とは関係ないですが観客を笑わせる/怖がらせる為に乱発されます。それらの笑い/恐怖は基本的に【事象】の面白さによって作られます。ですので、基本的に登場人物に感情変化が起こる事はありません。(ただしその中に常に核となるアクションが1つ2つ入っています。)

このようにストーリーの複雑さ、事象、アクションの別をきちんと認識する事が
高度な【ストーリーテーリング】の第一歩となります。

そして、忘れて欲しくないのは3つ目であるこちらです。

③ストーリーテーリングの巧みさ

もうすでにお判りだとは思いますが【ストーリーテーリング】の巧みさは【ストーリー】の複雑さとも【事象】の多さとも関係ありません。
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巧みなストーリーテラーは黄色の図であろうと赤い図であろうと観客を楽しませる人の事を言います。
たしかに【事象】が多ければ多い程、脚本には変化が出ます。正確には変化が多いと錯覚するのです。しかし大事なのはストーリー=感情変化を物語る事なのです。目先の【事象】ばかりにとらわれてシナリオを書くと「【ストーリー】が無い」と一蹴されてしまいす。

【ストーリー】がなければ【ストーリーテーリング】など存在しなくなります。
あなたのシナリオがそうならないためにも、今一度【ストーリー】【事象】【アクション】をきちんと認識して【イベント】を構成しましょう。

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